第一章1
「アリスと魔法使い~I am The Cheshire Cat~」の本編のつもりです。
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挿話候補はこちらにありますので、暇があれば是非読んで下さい。
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少年は森の中を駆けていた。
無作為に伸びた枝を避け、手で払い、時に根に足を取られ、それでも走ることを止めない。
少年は走ることに一心で、さっきまで楽しんでいた情緒はどこえやら、森の存在を感じる余裕などない。
見えるのは後ろに流れていく緑と行く手を遮る障害物。
聞こえるのは風を切る音。
いくら避けているとはいえ、少年の体は枝に引っ掛けた傷がいくつもあるが、その痛みすらない。
ただただ少年は見据える先の黒い影を追っていた。
影。
便宜上そう呼んでいるが、はたしてそれが比喩的な表現なのかどうかはわからない。
影は木々の間を縫うようにして少年の先を走っていて、木や枝に合わせるように変幻自在に大きさや形を変えている。
まるで決まった形がない、あたかも本当の影のようだが、確かに実体がある。ときどきだが黒い物体から金属のような光沢や、ガラスのような透明な部分が見てとれる。
追いかける少年を撒こうと影右に左に舵を取って木に隠れようとする。しかし、必死に追いかける少年の方が速度が勝っているため、だんだんと距離は縮んでいっていた。
少年が手を伸ばせば影に指先が届きそうなほど迫ったとき、木々の開けた場所に出た。
それまで周りに合わせて形を変えていた影は、障害となるものがなくなったことで、急にその大きさが膨張した。
現れたのは真っ黒な車だった。
少年はその姿を確認するとほぼ同時に跳び上がった。
ダンッと音をたてて車の上に飛び乗ると、車が振り落とそうとする前に少年は車体に掌を叩きつけた。
バン……っ‼︎‼︎
ただ金属を叩いたとは思えない、まるで落雷のような渇いた音が森の中に響き渡る。
大きな音に驚いた森中の鳥が慌ただしく飛び立っていく。
鳥達のはばたく音や鳴き声に紛れて、車の中から蛙が踏み潰されたような悲鳴が聞こえると、車はまるで制御を失ったかのように車体をふらふらと揺らし、そのまま一本の木にぶつかった。少年は車体に走る衝撃に振り落とされるが、難なく受身をとって着地した。
さっきまでのように障害物を避けためではなく、物理的にフロントを凹ませた車は、そのまま動かなくなった。