第31話「不協和音」
その日、穏やかな夜だった。
私もマリオも任務はなく、組織の施設での穏やかな夜を迎えていた。ただエールだけは上層部からの特別任務のために、その日はいなかった。
その日はフライシュの誕生日だったが、任務以外のでの接触は極力避けるように上官からの命令を受けていた。それでも私達はフライシュの誕生日を祝うために、フライシュの部屋にこっそりと忍び込もうとしていた。
部屋に突然入っていって彼を驚かそうと考えていた私達は、部屋に飛び込んで瞬間に、呆然としていた。
フライシュの部屋は――もぬけの殻だった。
「え――何これ? なんで彼いないの?」
予想外の事態に動揺した私は、マリオに尋ねていた。
「そ、そんなこと俺に聞かれても分かるわけねーだろー」
平静を装ってはいたが、マリオもまた動揺していた。フライシュがいないこと自体が予想外の出来事で、どうすればいいのか分からないでいるようだった。
「まったく! どこ行ったのかしら!」
フライシュのいないことに腹を立て、私はそう声を荒げていた。
「シー! 誰かに気づかれちゃうだろー!」
「あ……そうだったわね……ごめん」
マリオの指摘に私は素直に謝る。
任務以外でのフライシュとの接触を禁じられている私達が、フライシュの部屋にいることを他の誰かに知れでもすれば、大問題だ。
「仕方ない。アイツが戻ってくるまで待つとするか。むしろそっちの方が好都合じゃないか? 帰ってきたら驚かせてやろうぜ!」
「ええ、そうね。それがいいわね!」
マリオの提案はこの状況を逆手に取ったすばらしいものだった。私はその提案に乗った。
「へへ! そうこなくっちゃ! それじゃ、待つとしますか~」
へらへらと笑いながら、マリオは部屋の中を見渡した後、立ち上がり、部屋の中を彷徨きだした。
「ちょっと……何する気?」
「え?」
マリオの行動を不審に思った私はマリオに尋ねると、マリオは焦ったように立ち止まった。
「……部屋、荒らしたらフライシュ怒ると思うわよ?」
「いや~、荒らすなんて言葉が悪いぞ、テレス。俺はだな、フライシュがな~んか隠してたりしてないかなって」
「はぁ……同じよ……バレたら撃ち殺されるわよ?」
呆れたようにそう言うと、マリオは苦笑い浮かべた。
撃ち殺されるのは言い過ぎだが、怒るのは間違いない。マリオは誕生日に彼を怒らせてどうしようっていうのか……理解に苦しむ行動だ。
「まあまあ、いいじゃないかよ。最近アイツ、俺達と絡むことなくなったからさ、毎日どんなことして過ごしたりしてるのも気にならないか?」
「それは、まぁ、それはそうだけど……だからって……大体、そういう事は本人に聞けばいいじゃない?」
「バカだなぁ、テレスは。そんなのアイツのことだから、恥ずかしくて答えるわけないよ! 特にお前の前ではな」
「え……なんで、私の前では答えないのよ?」
「はぁ……これだから、お前は……いや、まぁ、その方が面白いからいいんだけどね~」
そう言うと、マリオはまたケラケラと陽気に笑い出す。何かとても失礼な事を言われている気がするが、今は気にしないでおこう。気にしたら負けなような気がする。
「むむ……無視ですか、あねさん……まぁ、いいんですけどねぇ」
私に無視されたマリオはつまらなさそうにして、今度はフライシュの机に近づいていく。
「こ、こら! やめさないよ! 戻ってきたらどうするつもり!?」
「まあまあ……大丈夫だって。もし戻ってきたら適当な言い訳を――ん? なんだこれ?」
途中まで陽気な声で喋っていたマリオが、フライシュの机の上を見た途端、訝しげな声になった。
「何よ? どうかしたの?」
気になって私も机をのぞき込む。そこには茶色い封筒が一つ置かれていた。
「封筒? 何これ?」
「……さぁ? なんだろうねぇ?」
そう言うと、マリオはその封筒を拾い上げ、裏面を見る。
「ちょ、ちょっと、勝手に――」
「おい、テレス!」
咎めようとした私に、マリオは突然大きな声で呼びかけた。
「な、何よ、いきなり……」
「こ、これ……」
マリオは顔を強ばらせ、封筒の裏面を見せてくれた。そこには――。
『エール
テレス
マリオ へ』
私達のコードネームが書き記されていた。
「――なによ……これ?」
「……俺達に宛てたものだ……」
「そんなの分かってるわよ! そうじゃなくて、何でフライシュが私達に封筒を宛てるのよ!」
私は知らずのうちに声を荒げていた。何故か私は不安に駆られていた。何故、ただ私達の名前が記された封筒に見つけただけで、こんなに不安になるのか、自分でも理解できないまま。
「落ち着けよ、テレス。この封筒じゃない。たぶん、この中の物だ」
「中の物って……」
開けなくとも分かっている。封筒には厚さはない。おそらくは紙のようなものが一枚入っているだけだ。それは便箋であると――私達に宛てられた手紙であると理解できた。
マリオはその封筒を開けて、中に入っているであろう手紙を取り出す。やはり入っていたのは便箋だった。
「手紙だ――フライシュからの……」
「……なんて……なんて書いてあるの?」
私はマリオに恐る恐る尋ねる。
でも、本当は尋ねなくとも何となく書かれている内容は分かっていた。最近のフライシュは――任務中だけではあったけれど、彼の様子がおかしかった事に気づいていたから。この誕生日会だって、そんな彼を元気づけようと計画したのものだから。だから、彼は――。
「よ、読むぞ……」
マリオもそれに気づいている。気づいているけど、その便箋を広げざるおえなかった。マリオは恐る恐る便箋を広げ、その手紙を読み始めた。
『エール、テレス、マリオ、こんな形で初めての手紙を出すことを許して欲しい。たぶん、これが君達に宛てる最初で最後の手紙になると思う。
ずっと考えてきた。あの任務の後、エールに言われてた事、ずっと考え続けてきた。
エール、その答えは意外と早く見つかったよ。テレスとマリオにとってはきっと何を言っているのか分からないと思う。ごめん。後でエールから説明を受けてくれ。
僕がここに書き記すのは、僕がこれからどうするかと、それに対して君達への謝罪だ。
僕はこの組織を、魔会を抜けることにした。
本当はもっと前から答え得ていたように思える。ちょうど一年前、僕達より幼い子供を射殺した時から。僕はあの瞬間から、人を殺すことに、暗殺に嫌悪するようになってしまっていた。
正直に言うよ。これ以上は人を殺すことに僕は堪えられない。だから、僕は組織から抜ける。誰も殺さずにすむ世界を目指して。
すごく勝手なこと言っているのは分かってる。本当にごめん。
けど、これは僕の決めた生き方なんだ。この生き方を僕は曲げることができない。たとえ、君達に嫌われようとも。
ちゃんと逃げ切れるかは分からない。けど、逃げ切れたとしても、君達と会うことはもう二度とないだろう。だから、ここに君達に最後の言葉を記しておくよ。
まずは、マリオへ。
お前はいつも僕達チームのムードメーカー的な存在だったな。いつだって明るくて、冗談ばっかり言っていた。そんなお前に腹が立つ時もあったたけど、それでも助けられていた。お前がいたから、辛い任務でも四人で一緒に笑っていられた。ありがとう。どうか、その明るさを忘れないで欲しい。そして、できることならエールとテレスの笑顔を絶やさないでやって欲しい。
次に、テレス。
君はいつだって僕達の世話を焼いてくれていたね。訓練生だったころから、誰にだって平等に優しくて、厳しくて。それが僕達にとっては憧れのような存在だった。君の優しさや厳しさは僕達の心の癒しになっていた。本当にありがとう。
僕は君の優しさが嬉しかった。任務だらけだったけど、君と過ごせた時間が幸せだった。どうか、その優しさを、厳しさを忘れないで。
そして、最後にエール。
君は責任感に溢れていて、いつだって僕達を守ってくれた。僕は君にいつだって守られてばかりで、あの任務の時も君に助けられた。君は僕達とって最高のリーダーだ。そして、僕達にとって、僕にとって太陽みたいな存在なんだ。君がいたから、僕もテレスもマリオもここまで頑張ってこれた。本当にありがとう。
エール、こんな事頼めた義理じゃないけど、お願いがある。あの二人をを、テレスとマリオをどうかこれからも守ってやって欲しい。たぶん、君じゃないとできない事、なんだろう? これは僕からの最後のお願いだ。
最後になるけど、どうか三人とも元気で。そして、生きて欲しい。生き抜いて欲しい。
今まで本当にありがとう。
そして、さようなら。
フライシュより』
マリオは手紙を読み終わると、深い溜め息をつき、手紙を封筒に戻した。
「何よ、それ……嘘……でしょ?」
信じられなかった。いや、信じたくなかった。フライシュが私達を裏切るなんて――。
「追いかけよう」
「え?」
マリオの言葉に私は呆然としているだけだった。けれど、マリオはもう一度その言葉をハッキリと口にする。
「追いかけるんだよ! アイツを連れ戻すんだ! きっと今ならまだ間に合う!!」
「で、でも……」
「このまま……このまま、さよならなんて認められないだろ! テレスだってそうだろう?」
そう言って、マリオは私に手を差し出す。
「私……私は!」
私は頷き、その手を取った。
私達は駆けだした。フライシュを追いかけるために。
私達は組織施設の外へと出るために、出入り口に向かっていた。
そして、その出入り口にさしかかった時、そこに彼が――エールが立っていた。
「エ、エール!? 戻ってきたのか!」
「よかった! 聞いて、フライシュが――」
「知ってるよ。脱走したんだろ?」
「え――」
そのエールの言葉に私もマリオも驚愕した。
何故、エールがその事を既に知っているのか、何故そんなに冷たい表情でその言葉を口にしているのか――。
「な、なんで……なんで、その事を……知ってるの?」
「なんでって……僕が彼を処理した、からだよ」
「え……処理って……何、それ?」
その冷徹とも言える言葉に、私は硬直した。
「僕がフライシュを殺したって事だよ、テレス」
「そ、そんな……」
エールがフライシュを殺した? なんで――なんでそうなるの?
「エール……お前、アイツが脱走するって知ってたのか?」
マリオはエールを睨みながら、そう尋ねた。
けれど、エールはその冷徹な表情を崩すことなく、平然と応える。
「うん。そして、もし脱走したフライシュと遭遇したなら、迷わず殺せと命令されていた。だから、殺したよ。彼を」
「う、嘘……」
エールのその言葉に私はその場に膝を突いて、崩れ落ちる。
「しょ、証拠は……証拠はあるのかよ!」
マリオはそんな私を気遣うように支えながら、エールにそう問いただした。
「証拠?」
「ああ! アイツを殺したって証拠だよ!」
「ああ――それか。それなら……これが証拠になるかな?」
そう言って、エールは私達に向けて銃を差し出した。
「そ、それは!? フライシュの大事にしてた!?」
私は愕然とした。それは間違いなく彼の――フライシュの銃だったからだ。
「ああ、彼がお守りのようにしていた銃だ。これで信じてもらえたかい?」
「お、お前……本当に……嘘だろ?」
マリオも信じたくないのだろう。頭を振り、その事実を受け入れようとしていない。
「これでも信じてくれないかい? まいったな……腕の一本でも持ってくれば良かったかな?」
「もうやめてぇええ!! そんな……そんな言葉聞きたくない!!」
私は叫んでいた。涙を流しながら、耳を塞ぎ、叫んでいた。エールからそんな言葉を聞きたくなかった。あのいつも太陽のような笑顔を向けてくれていたエールからそんな冷たい言葉を聞きたくなかった。
「ごめんね、テレス。でも命令だから」
あくまでも冷徹に彼はそう言った。
「命令だったら……お前は何でもするかのよ!」
そう叫んで、マリオは怒りを露わにしてエールに詰め寄った。けれど、エールは――。
「そうだよ、マリオ。当たり前じゃないか。僕達はいつだってそうしてきたじゃないか? 何を今更言ってるんだ?」
「そ、それは……」
「今のは聞かなかった事にしておくよ。話はそれだけかい? 悪いけど、上への報告がまだなんだ。通してくれ」
「くっ!」
マリオは悔しそうな顔していた。何も言い返せないのが辛そうだった。
そのままエールは私達の脇を通っていった。冷たい表情のまま、上層部への報告へと向かった。
それからと言うもの、私達の関係は微妙なものになっていった。特にエールとマリオの仲は目に見えて悪くなっていった。
エールは常に一歩引いた形で私達と接するようになった。それでもチームのリーダーとして、任務の時は私達に的確な指示を送ってきた。
そんな彼が――私にはフライシュの死を悲しんでいるように見えなかった。寧ろ、任務の時はこれまで以上に進んで前線にも赴くようになり、彼は活力に満ち溢れているようにも見えた。
対して、マリオはあの一件以来エールに冷たくあたり続けた。それほど、エールの事を許すことができなかったのだろう。マリオにとってフライシュの脱走と、彼の死は認めたくない事実だったに違いない。それまでふざけたり、冗談言って人を笑わせる事が大好きだった彼も、エールの前ではそんな事をする事はなくなった。
そんなマリオだ。エールの命令も大人しく聞くことはなかった。何かにつけて、エールの立案した作戦にケチをつけては、単独行動、命令無視を繰り返すようになった。
それでも私達はこれまで通り、任務を達成し続けてきた。もちろん、狙撃担当だったフライシュがいなくなって戦力はダウンしたが、それでも私達チームは任務を失敗することなく、組織の中では最強の暗殺班として、名高かった。
けれど、そのチームの中は冷え切っていた。ギスギスとした関係は息が詰まるほどだったと思う。
そんな関係のまま――私達はエールの真意を知らないまま、あの日を迎えた。
それはフライシュの一件から3ヶ月後の事だった。
その日、私達三人とも任務がなく、穏やかな夜を迎えていた。その日は新月で、月明かりがなく、外は闇夜がどこまで広がっていた。組織施設内部もその闇夜に呼応するように静まりかえっていた。
夜十一時ぐらいだったろうか、私はその時間までエールの事、マリオの事、そしてフライシュの事に思いを馳せていた。エールとマリオの間には、目に見えるといっても過言ではないほどの決定的な亀裂があった。その原因となったフライシュは既にいない。そんな状態でも、彼らを和解させる方法はないかと頭を悩ませていた。
けれど、考えたところで答えは出なかった。悩み疲れた私は寝ようと思い、寝袋の中へ入ろうとしていた。
その時だった。けたたましい音が施設内部に鳴り響いた。
「な、何!? こ、これは――警報音!?」
それは施設内部での異常を知らせる警報音だった。
何かが――施設内で何かが起きている。すぐにそう察した私は部屋を取びだした。
「え――」
部屋から廊下に飛び出した私は、その異常性に驚愕した。
廊下は――いや、施設内部は電灯が全て消え、暗闇に閉ざされていた。その暗闇の中、警報音だけが鳴り響いている。
「ま、まさか――」
その状況に私は最悪の事態を想像した。そう――施設が何者かの襲撃を受けたのではないか、と。
私はすぐに部屋に引き返し、武装を整える。そして、その準備をしながらも、自分の能力を発動した。
「エール、マリオ、聞こえる?」
私はテレパシーの能力で二人の意識に呼びかける。
『テレスか!? ああ、聞こえてるぞ!』
「マリオ! よかった! 無事みたいね」
すぐにマリオからの応答が返ってきて、私は安堵する。
どうやら、マリオは無事のようだ。だが、エールのからの返事は返ってこない。
「エール? どうしたの? 返事をして!」
だが、呼びかけても返事は返ってこない。
「どうしたの!? エール!」
『もうやめとけ! こんな非常事態に連絡つかないよーな奴ほっとけよ!』
「マ、マリオ、あなたまた!」
『アイツの事だ。心配しなくても、無事に決まってるよ!』
「そ、それはそうかもしれないけど……」
確かにマリオの言う通りだった。エールは私達の中でも、ずば抜けた戦闘能力がある。特にここ最近はそれにさらに磨きがかかっている。あの彼に何かあるとは思えなかった。
『それよりも、まずは合流して、上と連絡を取るぞ。現状が不明のままじゃ、どうしようもない』
「ええ、そうね! 作戦指令室に行きましょう! あそこに行けば、何か分かるでしょうから」
『分かった! じゃあ、司令室前のロビーで落ち合おう!』
「了解! 敵が何処に潜んでいるか分からないから、気を付けて!」
『テレスもな!』
そこでマリオとの通信を一端切り、私は自分の部屋を出て、作戦司令室を目指して、駆けた。
その途中、私は異常な光景に息を飲んだ。そこに広がっていた光景はあまりも残酷で、そして凄惨なものだった。
「そ、そんな……どうして……これじゃあ、まるで……」
そこに広がっていた光景、それは血の海としか表現しようのない光景だった。血を流し、倒れている幾数のもの人間――いや、もう死んでいるから、死体、屍と表現した方が正しい。そこにあったのは血の海と屍の山だった。その屍は、私達が知っている人間。この施設の関係者だ。
どの屍も喉元をかっ裂かれているか、銃で頭部を撃たれている。どれも暗殺の手口に似ていた。おそらくはほとんど即死だったろう。叫ぶ暇すらもなかったはずだ。私達が気づかなかっただけで、襲撃はされてから多少の時間が経っている。
「ま、まさか、エールも…‥」
嫌な事が脳裏を過ぎる。それを振り払うように、私は頭を振る。
「何考えているのよ、私は!」
エールに限ってそんな事はありえない。それには今は他人の心配をしている場合ではない。敵の数は分からないが、かなりの実力者であることは明白だ。警戒を怠れば、私もこの屍の山の仲間入りなる。
私は辺りをより一層に警戒しながら、司令室を目指した。
奇妙な事に、指令室を向かっている間、敵の襲撃を受けることはなかった。屍を幾度となく見るも、襲撃者の姿は確認できなかった。
そして、何事もなく私は司令室前のロビーに辿りついた。
「テレス! 無事だったか!」
「マリオ!? あなたも無事だったのね!」
既にロビーにはマリオがいた。私達は互いの無事を喜び合った。
「本当に良かった! ここに来る途中襲われたりしなかったか?」
「え、ええ。大丈夫よ。死体がごろごろしていた以外は静かなものだったわ」
「そっちもかよ……こっちもそうだった。あれだけの数を殺しまくってるんだ。敵が一人なわけがない。けど、その気配すらしないなんて……一体何がどうなってるのか……訳分かんねぇよ」
「ええ……あの状況から察するに警報音がなる前には相当数が被害にあってるわよね? どうして襲撃されたのに対応が遅れたのかしら?」
「ああ、それは俺も疑問に思ってた。襲撃と同時に警報音が鳴るならまだ分かる。けど、施設内部に進入され、あれだけの被害が出た後でってのはどう考えてもおかしいよな? 司令室は一体何をしてるんだか……」
「司令室に入ってみましょう。何か情報が手に入るかも」
私とマリオはお互いに頷き合い、司令室の扉へと近づいていく。
だが、私達が扉の前に立つ前に、その扉は開いた。そして、司令室からある人物が現れる。
「お、お前は――」
マリオのその人物の顔を見ると驚愕した。いや、マリオだけではない。私もあまりの衝撃に言葉にすらならかったが、その顔を見た瞬間に震撼した。
その人物の顔には見覚えがあった。会ったことはない。だが、資料で見たことがある。それは以前、フライシュが任務で暗殺に失敗した相手でもあったから、よく覚えていた。
そう――司令室から出てきた人物、それは〝魔術使い殺し〟の異名を持つ男だった。




