第28話「過去からの使者」
「想像より早かったね」
新一さんはそう言うとともに、深いため息を吐き、椅子に腰をおろした。
俺と栗栖女医は間島探偵事務所に来ていた。
「もう怜奈君の方はいいのかい?」
「ええ。また寝ていますけど、もう大丈夫です」
「そうか……それは、肉体的な面でかい?」
「――それは、どういう……?」
新一さんの質問の意図が分からず、俺は聞き返した。だが、新一さんがそれを説明する前に栗栖女医が口を開く。
「両方よ。精神的な面というなら、彼のおかげで持ち直したわ」
「……そうか……」
新一さんは栗栖女医の発言に複雑な表情を浮かべながらも、安堵の言葉を口にした。
「なぁに、その顔? あまり嬉しそうじゃないわね?」
「そ、そういうわけじゃ……」
新一さんは栗栖女医の問いかけに困惑した表情を浮かべながらも否定する。
「ふーん……ま、無理もないわね。あなたにとっても、信じられない事ばかりでだったでしょうから」
「そ、それは……」
「知りたいでしょう? 何故、私が栗栖蛍としてあなた達の前に現れたのか。そして、彼がどうしてあんな風になったのか」
「……ああ、知りたいよ。君達があれからどうしていたのか」
新一さんは真っ直ぐ栗栖女医の目を見ていた。その顔から困惑の表情は消えていた。今はただ、真実を受け止める覚悟をした目をしている。
「……いいわ。教えてあげる。あなたが私たちの前からいなくなったあの日から、一体何があったか」
栗栖女医はそう言うと、目を閉じ、深く息を吐く。それから、目を見開き、新一さんの目をじっと見ながら、真実を語り出そうと口を開く。だが――。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
栗栖女医が話し出そうとした時、俺は割って入った。
「なによ、キミィ? これからって時なのに……」
栗栖女医は不満そうに俺を睨む。
睨まれても困る。このまま話を続けられても、俺にとっては訳が分からないままだ。
「テレ……いや、栗栖先生、一輝君はまだ僕の過去について、ほとんど何も知らないんだ。無理もないよ」
「……無理して、その名前で呼ばなくていいわ。昔のまま、テレスでいいわよ」
「そうか……それじゃあ、テレス、まずは一輝君に僕と君、そしてマリオ――大神との関係について説明してあげた方がいい」
「えー、そこからの? そんなの後であなたから説明してあげなさいよ」
そう言って、栗栖女医はまたも俺に非難の目を向けてくる。
なんで俺が非難されなければならいのか分からないが、気分が良いのものではない。だが、それを文句言おうものなら、さらに話がこじれて、聞き出せるものも聞き出せなくなる。
ここはぐっと我慢して、後で新一さんから教えてもらう方が得策か――。
「私も聞きたいわ。奴とあなた達の関係、ぜひ教えてもらえないかしら?」
「え――」
突然後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。俺は驚き、後ろを振り向くと、そこには――。
「い、一ノ宮! な、なんでここに!?」
そこにいたのは一ノ宮だった。さっきまで病院で寝ていた彼女がどうして事務所に来ているのか――いや、その理由は分かる。だけど――。
「も、もう、起きても大丈夫なのか?」
「ええ。心配かけたわね。もう、大丈夫よ。それに――」
一ノ宮は視線を俺から栗栖女医の方へ向ける。
「いつまでも寝てるわけにいかないでしょ? 寝てたら、肝心なこと全部聞き逃しちゃいそうだからね」
「ふふ、なるほどね……いいわ。話しましょう」
一ノ宮の言葉を聞いた栗栖女医は微笑みながらそう言った。何を納得したのか分からないが、どうやらこちらの問いに答えてくれるようだ。
「フライシュ――間島君と私と大神は――」
「えっと、ちょっと待ってください」
「な、何かしら……真藤一輝君?」
栗栖女医は口元を引き吊らせながら、微笑んでいる。明らかに、怒っている。どうやら話の出鼻を挫かれたことに怒っているようだ。
「す、すみません……でも、昨日から気になっていた事なんですが、何ですか? そのフライシュとか、テレスとか?」
「ああ、それね」
栗栖女医はそれだけ口にすると、今度は新一さんに非難の目を向けた。それは「そんな事も話してないの?」と言いたげな目だった。
非難の目を向けられた新一さんは、目を逸らし、頬を掻きながら困った表情を浮かべている。
「ふぅ……まぁ。いいわ。もう、分かってると思うけど、フライシュというのは、この間島君の事よ。テレスは私、そして、マリオはあなた達に大神と名乗っていた男の事よ。どれも、組織から与えられたコードネームよ」
「組織から与えられたコードネームって……それじゃあ!」
「そう、私は魔術使い連合会――通称〝魔会〟に属する魔術使いよ。そして、間島君も大神も元はそうだったわ」
栗栖女医が魔術使いだという事は知っている。だが、まさか魔術使いを束ねる魔会の人間だったとは――。
「ちょ、ちょっと待ってください! それっておかしいですよね?」
「何かしら、今度は?」
「だって、あなたは能力者ですよね?」
「なん――ですって!?」
俺の言葉を聞いた一ノ宮は驚愕の声を上げる。
そうだった――一ノ宮は栗栖女医が能力者であることを知らなかったのだった。
「どういう事!? 栗栖先生が能力者? そんな事ありえないはずよ!」
一ノ宮は俺に迫りより、問いただすように声を荒げる。無理もない。彼女からすれば、この事実は到底信じられない事だ。
栗栖女医は魔会の魔術使いだ。そして、その魔会は能力者を討伐するために発足したものだ。魔会と能力者は水と油。一ノ宮家のように能力者を討伐するような能力者家系であったとしても、敵対関係ではないにしろ協力関係とも言い難い関係しか築けない。
そんな魔会に属する魔術使いの中に能力者がいる。それは本来ならばあり得ない事実だ。
「はぁ……やれやれね。ホント、あなたってこっちの段取りを崩してくれるわね?」
栗栖女医は溜め息を吐きながら、またも俺に非難の目の向けてくる。どうやら、さっきから俺は話の腰を折ってばかりらしい。
「す、すみません……」
「まぁ、いいわ。話す順序が逆になるけど、彼の言う通り、私は能力者よ。そして、あの大神もね」
「え――大神も能力者? じゃ、じゃあ、あの時バラバラにしても死ななかったのは――」
「いいえ、あれは違うわ。おそらくはあれは彼の魔術よ。どうやら、彼は生体錬成という禁断の術を身に付けたようだからね」
「生体錬成……?」
聞き慣れない言葉だ。聞いている限り、魔術使いの中では禁術になっているようだが……。
「生体錬成ってのは、権藤が使っていた錬金術の高難易度版だ。命あるものを錬成する。または、その命の器となる肉体を生み出す術の事だよ」
俺の疑問に新一さんが栗栖女医に代わって答えてくれた。
「じゃ、じゃあ、あの大神は魔術で生まれた存在ってことですか?」
「ああ。彼のあの肉体は本物じゃない。どちらかと言うと、権藤のマンションにいた人形に近い存在だ。僕は遭遇してないけど、君達は見分けがつかない程人間にそっくりな人形と出会ったと聞いているから、それも彼が用意したものだったんだろう。君達が学園で戦った巨大な犬の化け物もそうだろう。そして、おそらくは権藤も……」
「権藤が……」
それで納得できた。権藤が何故あの時あんな事を言ったのか。何故、あんな行動を取ったのか。奴は知らなかったのだ。自分が大神の人形であったという事を。
「それじゃあ、権藤が新一さん向けていた憎しみは全部大神が植え付けたものだったってことですか? 本当は権藤なんて人間はいなかった?」
「いいえ、それは違うわ。権藤は実在した人物よ。三年前まではね」
俺に疑問に今度は栗栖女医が間髪なく答える。
「え……三年前まで?」
「ええ。権藤ユウキは三年前、ある殺人鬼によって殺されているわ。全身をバラバラに切り刻まれた挙げ句、その殺害現場からその頭部だけを持ち去られてね」
「バラバラに……頭部だけ……ま、まさか!?」
「そうよ……権藤は三年前に現れた殺人鬼に殺されたの」
「そ、そんな……」
そんな事が――あの時点から、今現在までの事がすべて繋がっている? いや――大神は紅坂命も自分が差し向けたものだと言っていた。ということは、もっと前から奴は一ノ宮や新一さんを狙っていたことになる。
そもそも、大神とあの殺人鬼が繋がっていた事実も驚きだ。あの現場から頭部だけが持ち去られていたのは、このためだったということなのか?
何にせよ、あの三年前の事件は謎だらけな部分が多すぎる。
「栗栖先生が三年前の事件について知っていることはそれだけですか?」
俺が考え込んでいると一ノ宮が栗栖女医にそう問いかけていた。
そして、問いかけられた栗栖女医は、ちらりと俺に視線を向けた後、一ノ宮に視線を戻した。
「ええ……残念ながらね。大神と殺人鬼がどんな関係だったのか、私にも分からないわ。彼本人聞けば分かると思うけどね」
「そう……ですか……」
一ノ宮は複雑な表情を浮かべながら、溜め息をつく。
一ノ宮もあの殺人鬼について、色々と思うことがあるのだろう。あの殺人鬼は三年前に姿を消してから、消息が掴めていないのだから。
「話がまた横道に逸れちゃったわね。話を元に戻すわよ。どこまで話したかしら?」
「えっと……栗栖先生と大神が能力者だってとこです」
「ああ、そうだったわね! そう、私と彼は能力者。確かに私達は魔会の魔術使いだったけれど、私達の持つ能力の優位性が認められて、子供の頃に魔会に引き取れたの」
「能力の優位性?」
「ええ……私達が持つ能力は直接に人を殺せるような危険性を孕んだものではなかったの。けれど、その特異な能力に魔会は目をつけた。ある作戦に利用するために」
「ある作戦? それって権藤が言っていた……」
俺は新一さんに視線を向ける。新一さんはそんな俺に対して、首を立てに振った。
「ええ。能力者の血縁――能力者になりえる存在の一掃作戦。たとえ、能力の発現が認められていなくとも、能力者となりえる可能性があるならば、排除対象にする」
「やっぱり……そんな事……」
「ええ……最低よね。でも、当時の魔会の幹部はそれを良しとしたの。そして、その作戦ために結成された特別チームが私達だった」
「え! それじゃあ、新一さんも――」
「あー、彼は違うわ。彼は純然たる魔術使いよ」
「え……でも、特別チームって……それって、能力者を起用したって意味ですよね?」
「ええ。でも、彼だけは違うわ。それだけ、彼は優秀だったのよ」
そう言うと、栗栖女医は新一さんに視線を向ける。どうやら、この先は新一さん自身で話せと言いたいらしい。
それを察した新一さんは、栗栖女医から話を引き継いだ。
「僕には能力なんてなかった。けれど、魔術だけの素質は飛び抜けていてね。中級魔術までなら7,8歳頃にはマスターしてしまっていたんだ。けど、それ以上に僕には誰にも真似できないような、僕だけの固有魔術を身についていた。それが、権藤の時に見せたあの魔弾だ。そして、その力が、僕がその特別チームのメンバーに選ばれた理由だよ」
そうして、新一さんは権藤の家族や、多くの能力者家系の人間を暗殺してきたという事か――。
「それじゃあ、大神もそのチームの……」
「ああ、その通りだよ。彼は魔術の素質もあったけど、テレスと同じくその特殊な能力が故に選ばれた人材だった」
「そろそろ、教えてくれないかしら? その能力って一体何なの? さっきの話だと、そこまで危険性の強いものではなさそうだけど……」
一ノ宮は痺れを切らしたように、新一さんと栗栖女医にそう問いかけた。それは俺としても、もっとも聞きたい事の一つだ。
「ええ、そうね……それは、私から話しましょう」
そう言うと、栗栖女医は事務所のソファに腰掛けた。どうやら、ここからが本題らしい。
「私の能力、これはもう間島君と真藤君は知っていると思うけど、怜奈さんには、まだ話してないわよね?」
「ええ」
「私の能力、それはテレパシー。自信と他者、他者と他者との意識を繋げる力よ。自分や他人が見ているもの、考えていることを他の人間に見せたり、伝えたりできるの。それが私の能力よ」
そう――そのテレパシーの能力で俺は如月学園の時も、マンションでの時も助けられた。
確かに、殺傷性が一切なく、危険性がまったくない後方支援向きの能力だ。
「そして、大神の能力は……言ってしまえば、催眠に近いものよ」
「さ、催眠? それって、催眠術の事ですか? あの眠らせて人を操ってしまうようなやつですか?」
「うーん、それとは大分違うわね。どちらかと言うと、潜在意識に語りかけて、その意識を乗っ取ってしまうのよ」
「意識を乗っ取る……ですか……」
それは何というか、殺傷性は確かにないが、それ以上に怖いもののような気がする。
「あー、勘違いしないでね? 乗っ取ると言っても、本人の意思、意識と全く違った行動を取らせることはできないわ」
「え? どういう事ですか?」
「うーん、これは昔、彼本人から聞いたことなんだけど、誰でも願望ってものを持っているでしょう? こーしたい、あーしたいって。それが、たとえ、良いことでも悪いことでも。でも、悪いことなら尚更だけど、人間は理性でそれを押さえ込むことができる。彼曰く、願望そのものを大きくして、その理性のたがを外してしまうらしいわ」
「そ、それじゃあ、本人の潜在意識の中にまったくない事はさせられないってことですか?」
「ええ、その通りよ。まぁ、完全に意識そのものを自ら大神に預けてしまえば、話は別らしいけど。でも、それも本人の意思みたいなものじゃない? 誰かの命令だけに従っていたいっていうね」
それはつまり一ノ宮の精鋭達の事を言っているのだろうか。彼らは確かに自分たちで考え行動するような人間ではない。命令されて、その通りに動く存在だ。〝命令されたい〟という願望が彼らに一ノ宮家を裏切る行動を起こさせたという事か――。
「待って! そんな都合のいい能力、本当にあるの? それじゃあ、アイツのやりたい放題じゃない!」
栗栖女医の話を聞いた一ノ宮が誰が思う疑問を投げかけた。確かにその通りだ。そんな能力、殺傷性のある能力以上に危険だ。危険性がないなんて言い切れるわけがない。
「いいとこに気が付くわね? 流石は一ノ宮家の次期当主だわ。あなたの言う通りよ。そんな都合のいい能力なんてない。彼の能力には発動条件があるの」
「発動条件?」
「ええ。それは、対象となる人間の意志が弱っている時でないと効力ないの。つまり、精神的に健全な状態にある人間には全くと言っていいほど意味のない力よ」
つまりは、かなり限定的にしか効力を発揮しない能力ということになる。
だが、ここで疑問に浮かぶ。そんな限定的な能力なのに特別チームの一員となり、作戦に参加して何か意味があるのだろうか?
「真藤君、今はそんな能力に意味があるのかって思ったでしょ?」
「え!? え、ええ、ま、まぁ……」
どうやら、考えている事が顔に出てしまっていたらしい。
「大ありよ。私達の任務は人殺しですもの。狙う側も狙われる側もまともな精神状態なんかでいられないわ」
「あ……」
「気づいた? そうよ。彼が能力の発動の糧にしていたのは、〝恐怖〟よ」
命を狙われる側の恐怖心。それは計り知れないものがある。そこにつけ入っていたのか。
紅坂命は自身が能力者というだけで、一ノ宮家に監視され、精神的にも追いつめられていた。そこにさらに、自分で自分の能力が制御できなくなっている事に恐怖していた。
荒井恵は、自分の祖父にかけられた術で、無意識下で殺人を繰り返していた。自分の意識がなくなっている事に不安を覚え、恐怖していた。
大神は人間の恐怖心を利用して操っていたのか。そして、おそらくは聖羅ちゃんも同じように――。
「私は対象の内部調査を行い、それをテレパシーを使って仲間に伝える内偵、伝達役。大神は敵の恐怖心を煽り、混乱を起こして、相手の警備体制を崩す、作戦開始直後の切り込み役。そして、間島君が魔弾で対象を撃ち抜く、暗殺実行役。それが私達、それぞれの役割だったわ」
栗栖女医はそこまで言い終わると、一息をついた。その表情はその頃を懐かしんでいるように見えるが、どこか悲しそうにも見えた。それは、栗栖女医だけでなく、新一さんも同じだった。
「それじゃあ、作戦は新一さんと、栗栖先生と、大神。この三人だけで行われていたんですか?」
俺のその何気ない質問で、栗栖女医の表情は一変した。顔は苦渋に歪み、どこか辛そうだった。そして、問いかけたのに関わらず、今までと違い、答えが返ってこない。
「テレス……?」
新一さんも栗栖女医の異変に気づき、不思議そうにしながらも、声をかける。だが、それでも、栗栖女医は何も語らない。
「あ、あの新一さん……」
「あ、ああ。僕たち三人だけじゃないよ。もう一人いたんだ。僕たちが実行班なら、指揮官と言うべき四人目のメンバーがね。僕たちの中でもっとも優秀で、頼りになるやつだ」
そう言う新一さんの目は栗栖女医とは対象的で穏やかそのものだった。それは自分の忌まわしい過去を語る時の目ではない。それだけ、その四人目への思い入れ強いように思えた。
「彼のコードネームは――」
「エール……」
新一さんが四人目のコードネームを言おうとした時、その言葉を奪うようにして、栗栖女医がその名を口にした。そして――。
「あなたにとって、彼は今でも忘れられない存在でしょうね。それだけ、あの頃、彼は私達にとって大きな存在だったから」
「ああ、僕にとっては彼は救世主みたいな存在だったからね……」
「ふふ……救世主、ね……」
栗栖女医は新一さんの言葉をあざ笑うように、失笑した。先ほどから、栗栖女医の様子がどこかおかしい。四人目の話が出てから、雰囲気が変わっている。
「テレス?」
それは新一さんも気が付いているようだ。
「ええ、そうよね。あなたにとっては彼は救世主よね。何せ、あなたが組織から逃亡する手助けしたのは彼なんですから。でもね――でも、私にとっては、救世主でもなんでもないのよ! もう、忘れ去りたい存在なの!」
「な……何言って!?」
栗栖女医の悲痛にも似た言葉に、新一さんは驚愕した。
新一さんの表情を見ていれば分かる。「何故、そんな事言うんだ?」と、そう言いたげ表情だ。
「ふふ……あなたは知らないのよ、フライシュ。あの後、あなたが組織から抜けた後、一体何があったのか」
「なん……だって! 何が……一体何があったんだ! エールに何が……」
「知りたい? 知りたいわよね? なら、まずは思い出しなさい。あの頃を。彼の事を。彼らに話してあげなさいよ。自分の事、私達の事、エールの事……自分が何を代償に組織から抜け出したかを……そしたら、話してあげるわ。あの後の事をね」
そう言う栗栖女医の新一さんを見る目は、まるで敵でも見る目だった。
そんな栗栖女医に新一さんは戸惑いながらも、決意したような目を栗栖女医に返し、口を開いた。
「わかった……話そう。あの時の事を。僕が自分自身の身勝手な想いだけで、彼をどれだけ苦しめてしまったのかを……」
そうして、新一さんは語り出した。自分の過去について――。




