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旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
禍ツ闇夜編
79/172

幕間「動き始めた闇」



 外套に身を包み、素顔を隠した人物は、遠くにそびえ立つ大きな屋敷――一ノ宮邸を見上げ、微笑んでいた。


「権藤……ご苦労だった。お前の役目は終わりだ。もとより、使い捨て同然の駒。良くやってくれたと感謝している」


 その言葉に嘘偽りはない。だが、それは人間が人間に贈る言葉ではなく、そこには感情と呼べるものもこもっていない。


「さあ、行こう。我が悲願を叶えるための第一歩だ――」


 その言葉と共に、地面から大型の体色が真っ黒な犬が数体飛び出してくる。


「フ――アレがいない以上、これで事足りるだろう」


 外套の人物は黒犬の目配りをさせた後、歩き出す。すると、黒犬は外套の人物を囲むように陣形を取り、外套の人物の歩調に合わせて歩く。

 少し歩いた先に、一ノ宮邸の門が見てきた。外套の人物と黒犬はその目前で立ち止まった。


「なんだ、お前は? 何用だ!?」


 声を上げたのは、外套の人物ではなく、門の右脇に立っていた黒服に身を包んだ男だった。その口調は荒っぽく、明らかに威圧的な態度だ。


「こんな時間に犬を連れて散歩……というわけではなそうですね?」


 そう外套の人物に尋ねてきたのは、門の左脇に立っていた男だった。右側の男同様、黒服に身を包んでいるが、その言葉には威圧的ものがない。だが、そこに警戒心というものがないわけではなく、むしろ敵意というものがはっきりと伝わってくる冷徹な目をしている。


「何の用だと聞いているんだ!」


 何も答えない外套の人物に対して、威圧的な男の方が声を荒げながら歩み寄る。


「やれ」


 外套の人物は短くそう口にした途端、一匹の黒犬が歩み寄ってきた男に飛びかかった。


「ぐあ! な、なんだこいつは!?」


 黒服の男は黒犬に飛びつかれ、そのまま地面に倒れる。犬を払いのけようと必死にもがいている。


「き、きさま、何をする!?」


 門の左側に立っていた黒服の男が突然の出来事に驚きながらも、すぐさま外套の人物に銃を向ける。


「やめておけ。私に銃を向けても無意味だ」

「な、何を!? 本当に撃つぞ!」

「撃っても構わないが、その際はその男の命はないと思え」

「な、なんだと!?」


 黒服の男は、外套の人物を警戒しながらも、黒犬に襲われている方の男に目を向ける。黒犬は男の上にまたがり、既に男の首に牙を立てようと口に多く広げている。


「引き金を引くと同時にその男の喉を噛み切らせる。それでもいいなら、撃つといい」

「ひ、卑怯なまねを!」

「私は君たちを殺すつもりない。ただ、そこを通してもらいたいだけだ。大人しく門を開けてくれれば、君たちの命は保証しよう」

「……そういうことか……だが、残念だったな。我々は一ノ宮家の従者だ。この命は一ノ宮家のためにある! 自らの命を引き換えに主を売ったりなどしない!」

「フ――そうか――昔よりは主従関係に重きをおく者を使うようなったか。まあいい、それなら自らでその門を開けるとしよう」


 外套の人物はそう言うと、一歩踏み出す。


「動くな! 本当に撃つぞ!」


 その声に聞く耳を持つことなく、もう一歩。その一歩と同時に乾いた発砲音が鳴り響いた。

 銃弾は放たれ、あっけなく外套の人物の胸を撃ち抜いた。それで、外套の人物は倒れるはずだった。だが――。


「な――!!」


 外套の人物は倒れるどころか、また一歩踏み出す。


「バカな……当たったはずだ!」


 黒服の男は、この異常な事態に同様を隠せず混乱している。

 確かに――確かに銃弾は外套の人物を撃ち抜いた。にも関わらず、何故のこの人物は何事もなかったように動いているか――。


「だから言っただろう? 私に銃を向けても無意味だと」

「そ、そんな……」


 黒服の男は愕然とした。それと同時に次にどのように対処すべきかが分からなくなってしまっていた。この人物に対しての認識が追いつかず、思考そのものが止まってしまっている。

 纏まらない思考の中、黒服の男はふっと仲間の存在を思い出し、そちらに目を向けた。


「あ……」


 その小さな悲鳴がすべてを物語っていた。もう一人の黒服の男は黒犬によって喉元を噛み切られ、絶命していた。


「やれやれ――だから言っただろう? 撃てば噛み切らせると」

「く、くそ!」

「どうやら、先程の銃声でこちらの存在が知られてしまったらしい」


 外套の人物の言うとおり、邸内からこちらに向かってきている人間の声と足音が聞こえてくる。その声や足音だけでも、それなりの人数が集まってきているのは確かだ。

 黒服の男は安堵した。目の前の人物もバカではないはずだ。あれだけの人数が集まれば、この場を去るだろうと考えていた。だが――。


「フ――気を抜いたな? 仲間が集まりだしたことで、私がこの場を去るとでも思ったか?」

「な――に?」


 自らの心の内を読みとられた黒服の男はさらなる動揺に誘われる。そして――。


「〝門を開けろ――これは命令だ〟」


 外套の人物の低い声が木霊する。命令だと、そう囁く。一ノ宮家に忠誠を誓った黒服の男がそんな言葉に耳を傾けるはずがない。門を開けるはずがない。だが――。


「――――了解しました」


 黒服の男は何の抵抗もなく、何の前触れもなく、その言葉に従った。男は堅く閉ざされた門の鍵を開け、開け放った。

 そして、男は外套の人物の前に跪く。それはまるで主人を前にした行動そのものだった。


「ありがとう。助かったよ」

「いえ……」

「ついでに君にはやってもらいたい事がある。頼まれてくれるか?」

「は……何なりと」


 外套の人物は、頭を垂れ言いなりとなる黒服の男を見下ろす。フードをから覗く口元は怪しく微笑んでいた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一ノ宮の執事、齋燈禮治さいとうれいじは違和感を覚えていた。

 異常事態の報せがあってから既に五分、その後の報告は一切入ってきていない。部下に対しては、何か動きがあればすぐに報告するように命じていたにも関わらず。


 齋燈禮治は今現在、この一ノ宮家の執事であると同時に、全権を一任されている人物でもある。

 そもそも、現在一ノ宮家には当主が長期不在という事実がある。当主が不在の場合、本来であれば次期当主がその全権を握るのだが、ある理由からその次期当主も不在という状況だった。

 そんな状況下での襲撃に、一ノ宮家の従者は浮き足だっていた。だが、それは諫めたのが、一ノ宮家の執事であり、そして一ノ宮家現当主の付き人として仕えてきた齋燈だった。

 齋燈は事態の把握をするべく、黒服の従者たちに的確な指示を送っていった。それに一切の迷いはなく、彼自身も正確なものだったと自負さえしていた。だが、それでもなお現状の把握には至っていない。むしろ、混乱が大きくなっているように思える。


 何故、このような事態になったのか。それは遡ることほんの五分前、ある一発の銃声からすべては始まった。

 正門付近で鳴り響いた一発の銃声は、異常事態を報せるものとして十分だった。邸内を警備していた従者はすぐに門へと駆けつけた。そこで発見されたのは、門の警備をしていた一人の男の死体だった。門も開け広げられ、明らかに外からの襲撃があったと思わせる状況であった。

 だが、そこには幾つか不審な点があった。それは、従者の死体には銃で撃たれた後はなく、喉を引き裂かれていたこと。そして、もう一人門の警備にあたっていた男の姿がどこにもなかった事だ。

 状況からすれば、何者かの襲撃にあったと考えるの普通だ。その状況報告を受けた齋燈もそう考えた。そして、襲撃者は門を開け邸内に進入し、どこかに身を隠しているのだろう、と考えた。

 齋燈はすぐに従者たちに指示を送り、邸内の警備を強化した。不審者を見つけた際は、問答無用での発砲の許可も出した。

 統率された集団による警備は完璧だった。それは蟻一匹すら見逃さないと言ってもいいだろう。たとえ、既に邸内へ進入していたとしても、不審な動きをしている者がいればすぐに分かってしまう状況だ。

 だが、それでも――事態は悪化の一途を辿った――。


 事態を動かしたのは、またもや突然の一発の銃声だった。その銃弾は一人の従者の側頭部に当たり、即死に至りしめた。

 突然とも言える出来事に、誰もが一瞬息を飲んだ。だが、すぐに警備体制を整え、辺りの警戒を行う。

 そして――銃弾が撃ち込まれた方角から、一人の人物が現れた。その姿に誰もが驚愕した。それは――門から姿を消していたの男だった

 警備に当たっていた誰もが状況を呑み込めず、停止していた。だが、その男はそんな事を意に返さず、銃を仲間に向け引き金を引いた。

 その銃声と同時に、邸内の木々の隙間から数匹の黒い大型犬が飛び出し、従者たちに襲いかかった――。



 事態は混乱の一途を辿っている。

 門の警備に当たっていた従者による裏切り。そして、その従者が使役していると思われる黒犬。既にこれは非常事態と呼んでも差し支えないものだ。

 齋燈にとってこの事態は信じがたいものだった。外からの襲撃ならば、想定としてあり得ることだった。だが、内側からの反逆は想定外の事だった。

 従者の人選と育成は齋燈自信も携わってきた。少なくとも従者には信用に足る者を選んできたつもりでいたし、反乱分子を見過ごすような事はしてこなかった。にも関わらず――。


 起きてしまった事はどうしようものない。従者の中に反乱するものがいたという事実は変えられない。

 齋燈はすぐに頭を切り替え、事態の終息を謀ることだけを考えた。そして――。


「その男の銃殺を許可する。犬も動揺だ」


 その言葉に迷いはなく、躊躇いはない。すぐに従者たちに伝達された。

 敵は一人と数匹の大型犬。従者たち全員でもってすれば、この事態を収めることも容易なことだった。


 そのはずだった――。


 だが、命令を下してから既に五分、何の報せもないというのはどういう事なのか。たとえ、事態の終息に至っていないとしても、何がしらの動きに対しての報告があっていいはずだが――。

 そんな事を考えていた齋燈の自室に、従者の一人が青ざめた顔で慌てて入ってきた。その様子にすぐ齋燈は悪い報せだと気づいた。


「た、大変です!」

「何事だ? 落ち着いて話せ」

「は、はい……実は反乱を起こした者と犬の掃討にあたっていた者たちが……」


 そこで従者は言葉を切った。その先を言うのをはばかっている。


「どうした? 何があった?」


 齋燈はその先を話すよう促した。従者は青ざめた顔のまま頷き、口を開いた。


「実は――掃討に当たっていたもの同士での同士討ちが発生しています!」

「なん――だと?」


 齋燈は耳を疑った。従者から聞いた言葉の中にあり得ない単語が含まれていたからだ。

 同士討ち――確かに、既に時刻は夜十時を回り、外は暗闇に包まれている。だからと言って、訓練されてきた従者たちで同士討ちが起こることなどありえない。


「どういうことだ? 一体何が――」

「わ、わかりません。ただ、掃討にあたっていた者の半分が突然銃を向けてきたという報告もあがっています」

「なに!?」


 従者の報告を聞いた齋燈は一気に険しい顔つきなった。

 従者の報告は正しくない。それはもう同士討ちではなく、集団のよる反逆だ。齋燈はその事実に気づき、すぐに従者に指示を送った。


「連絡がつく者には退くように伝えろ」

「し、しかし、まだ目標の掃討は……」

「構わん。今は人的被害を最小限に抑えることが最優先だ。退かせてもなお、こちらに攻め入ってくる場合は、射殺しても構わん」

「りょ、了解しました!」

「私もすぐに現場に行く。それまで持ちこたえろ」

「は! 失礼します!」


 従者を青ざめた顔のままだったが、一礼をして齋燈の部屋を出ていった。

 齋燈はすぐに支度を整える。銃を懐に入れることは勿論、両手には黒い鉄の手甲をはめて、自室を出た。


 齋燈はまっすぐ表を目指し、歩いていく。その途中――。


「あ! 齋燈!」

「せ、聖羅お嬢様……どうなされましたか?」


 一ノ宮聖羅が齋燈の後ろから声をかけてきた。齋燈は慌てて振り返り、手甲をはめている手を後ろに隠した。自室から出てはいけないように入っておいたにも関わらず何故こんな場所にいるかと齋燈は呆れるしかなかった。


「ねぇ? まだ外が騒がしいようだけど、まだ不審者捕まらないの?」


 聖羅は何の疑いもない眼差しで齋燈にそう訪ねた。聖羅には邸内に単なる不審者が進入したと伝えてある。外で銃撃戦が行われていることは知らない。


「え、ええ。どうやらその様です。ですので、どうか自室のお戻りください。私は屋敷内の見回りをしていますで……」

「そ。わかったわ。それじゃあ、片付いたら教えてね。自室に閉じこめられたままじゃ、窮屈でたまらないから」

「はい、承知いたしました」


 聖羅はそのまま自室へと戻っていく。それを見届けると、齋燈は玄関から表へと出る。


「なんだ……これは?」


 屋敷から出た途端、齋燈は辺りの様子の異常性に気がついた。

 先程まで騒がしかった外は静粛に包まれていた。それは音というものが世界から消えてしまったのかと錯覚するほどの静粛だった。そして、人の姿も見えず、気配すらもなかった。


「一体何が――」


 辺りの様子を見渡した後、前を見た。すると、その先にたった一つの人影がそこにはあった。


「――何者、だ?」


 齋燈はその人物に声をかける。だが、その人物は何も答えない。

 齋燈の目の前に現れた人物は、外套に身を包み、素顔を見て取ることはできない。だが、齋燈はその人物を見た瞬間に核心していた。この外套の人物こそが元凶であると――。


「貴様――一ノ宮家に何の用だ?」


 齋燈の再びの問いかけにも外套の人物は答えない。ただし、こちら向かって一歩づつ歩み寄ってくる。


「それ以上、近寄ることは許さん。立ち去れ」


 静かに――だが、その声に怒りを孕んでいる。


「フ――立ち去れ、か……この状況でその様なことを言って、何の意味がある?」


 やっと外套の人物が口を開いた。だが、そこから出た言葉は挑発的なものだった。

 その言葉だけで、齋燈はこの人物が敵であり、この場から退く気がないのだと確信した。そして――。


「左様か。ならば致し方ない。どこの馬の骨かは知らんが、この場で消えろ!」


 問答無用だった。齋燈の信念は敵と認識した相手に一切の情けをかけない事。敵であれば潰し、その命を奪う。それだけに全身全霊をかける。

 齋燈は真っ直ぐ外套の人物へと突き進む。それは風の如く速く、目にも止まらぬ速さだった。


 普通の人間である齋燈が、風の能力者である一ノ宮蔡蔵の付き人でいられた理由、それは彼のその瞬足と、すべてを薙ぎ倒す剛腕にある。その力で以て、彼はこれまで幾度となく能力者と戦ってきたのだ。


 齋燈は手甲をはめている右手に全力の力を注ぎ込む。そして――外套の人物にめがけ拳を繰り出した。

 繰り出した拳は、外套の人物の胸部を見事に捕らえた。

 齋燈のこの剛拳は無慈悲なまでに堅く、鋭く、全てを砕く一撃である。無論、外套に人物に放った一撃も例外ではない。間違いなく胸部を貫き、心臓を潰す一撃だった。だが――。


「な……に!?」


 齋燈は愕然とした。確かに自分の拳は相手の胸部を捕らえており、粉砕すると確信していた。だが、あまりにも手応えがなかった。当たったはずの拳からは、まるで空を切ったのかと錯覚させる感覚しか伝わってこない。

 その驚きに染まった齋燈の顔を見て、外套の人物は不敵な笑みを漏らした。


「なるほど、な。確かに能力者であろうともこの一撃を食らえば、即死しかねないだろう。流石は一ノ宮蔡蔵の右腕と呼ばれていただけの事はある」

「き、きさま……一体――」

「お前の質問に答える気はない。私が用があるのは、この先にいる人物だ。お前ではない」

「なに!? き、貴様、まさか!?」


 齋燈は外套の人物の言葉に我に返り、バックステップで後ろに下がり、外套の人物から距離をとる。だが、下がった先に思わぬ伏兵が隠れていた。


「な!!」


 気づいた時には遅かった。その伏兵は地面から突如として現れ、齋燈の四肢に噛みついた。


「ぐ! お、おのれ!!」


 その伏兵は黒犬だった。だが、それは明らかにただに犬ではない。

 本来であれば、齋燈の力を持ってすれば、犬程度振り払うことなど造作もないことだ。だが、今は身動きすらできない。黒犬の牙は筋肉と骨に深く刺さり、力の伝達そのものを阻害している。普通の犬にそんな芸当はできるわけがない。


「そこで大人しくしていろ。すぐに私の用は終わる。そうすれば、お前も、黒服の男たちも解放してやろう」

「お、おのれ……何故だ!? 何故、あの子を狙う!!」

「お前の質問に答える気はないと言ったはずだが?」

「くっ!」


 外套の人物は齋燈に近づき、その横を通り過ぎようとする。その先には、屋敷に通じる扉がある。

 だが、齋燈の横を通り過ぎようとした時、外套の人物から思わぬ言葉を齋燈は聞くことになる。


「ああ、だが、一応礼だけはしておこう、齋燈禮治。お前が正攻法で私に向かってこなければ、私は敵わなかったかもしれない。そして、これほど早く目的に者に出会うこともなかった」

「な……に?」


 その言葉に齋燈は首だけを回し、振り返った。その先に見えた屋敷の扉は開いていた――。


「さい……とう?」


 開いた扉から顔を覗かせた人物のその声は事態が呑み込めず、困惑していた。


「せ、聖羅お嬢様! な、何故外へ!?」

「さ、齋燈、一体何が――」


 聖羅は齋燈の姿に驚愕した。黒い犬に四肢を食いつかれた齋藤の様は彼女にとってはあまりに衝撃的で現実離れしていた。


「さ、齋燈……」

「お逃げください! 聖羅お嬢様ぁぁぁぁあああ!!」


 齋燈のその叫び声は聖羅に届いていた。だが、聖羅は動けずにいた。まるで金縛りのように。それは恐怖からか、それとも齋燈の横に立っている外套の人物のせいか――。


「あ……」


 聖羅は小さく、短い悲鳴をあげた。それは誰の耳にも届かない悲鳴だった。

 気づけば――外套の人物は聖羅の目の前に立っていた。


「何も知らぬ一ノ宮の娘よ。私はお前に真実を教えきた。お前の父、姉、執事すらがお前に隠している真実を――」

「え――」


 外套の人物の言葉に聖羅の瞳には動揺が宿る。

 その動揺を察した外套の人物は、不敵な笑みを漏らす――。




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