第24話「謀略」
両手を撃ち抜かれた権藤はうずくまり、痛みに震えている。
銃弾が撃ち抜いたのは、権藤の両掌だった。左右の掌は風穴が空き、そこからは大量の血が吹き出している。
「もう終わりだ、権藤。もうやめにしよう。こんなことは……」
新一さんは言いながら、構えていた銃をおろした。既に決着がついた事を核心しているようだ。
「止まった……?」
権藤の両手が銃弾に撃ち抜かれて以降、人形は進軍を止め、本物のマネキンのように棒立ちになっている。
俺は人形が動かないことを確認すると、片膝をついたままの一ノ宮の側に駆け寄る。
「一ノ宮、大丈夫か!?」
「え、ええ……大丈夫よ。流石にちょっと疲れたけどね」
そう言って、一ノ宮は力なく微笑む。顔色も先程以上に悪くなっている。無理もない。疲労からつい先日倒れたばかりなのに、あんな無茶をしたんだ。限界が来ていてもおかしくない。
「止まった……わね」
一ノ宮は棒立ちになっている人形を睨みながら、そう呟いた。
「あ、ああ。でも、なんで……」
「おそらく、魔術礼装が破壊されたからよ」
「魔術礼装?」
またも一ノ宮から聞き慣れない言葉が出てきた。〝魔術礼装〟。言葉だけを聞けば、魔術と何か関係ありそうなのだが――。
「あれよ。権藤が手にはめていた変な刺繍が入った手袋よ。あれが魔術礼装よ」
「あれが? でも、そもそも魔術礼装って何なんだ?」
「魔術礼装は、自信の魔力――魔術の威力を増幅する作用のある武装の事よ。高度な魔術を行使する時には必須アイテムと言っていいわ。そもそも、錬金術は魔術使いの中でも限られた者にしか使えないと言われている超高難易度の魔術よ。それを、あれほどの数を一気に錬金したあげく、すべて操るなんて、魔術礼装がなければできないことだわ」
なるほど――それが、権藤の強さの秘密であり、常に余裕でいられた理由というわけか。だが、それは裏を返せば、あの魔術礼装を失えば、権藤は錬金術の全てを失うという事だ。
その権藤は、いまだにうずくまったまま震えている。
「な、なぜだ……」
それは権藤の口から出た疑問の声だった。〝何故〟と、誰に対して問いかけているのかも分からない疑問の投げかけだった。
「何故だ――何故だ、何故だ何故だ、なぜだなぜだなぜだ、なぜなんだぁ!!」
「権藤……?」
権藤は――発狂していた。権藤は両手から血を流しながらも起き上がり、同じ言葉を繰り返している。
俺は――いや、俺だけじゃない。一ノ宮も新一さんもそんな権藤に戸惑っていた。
「何故〝アイツ〟は、オレを――このオレおおおぉぉぉ!!」
それは奈落の底から聞こえてきた怨念のような声だった。叫んでいる権藤の顔は苦渋に歪んでいる。そこからは、嘆き、悲しみ、憎しみ、失望と様々な負の感情が伺える。
「アイツ? アイツって誰のことだ?」
先程の権藤の言葉には疑問に思わざるおえない部分がある。確かに権藤は〝アイツ〟と言った。彼の目の前にいる新一さんを指して、〝お前〟とは言わず、〝アイツ〟と言った。一体、誰のことなのか――?
「認めない! 認めないぞ!! こんな――こんな結果など認められるものかぁ!!」
そう叫ぶ権藤は風穴の空いた両掌を再び合わせる。合わせた瞬間、激痛が走ったのか、顔が歪む。それでも、その手からはぼんやりと青い光が輝きだす。
「くっ! あいつ、まだ!?」
一ノ宮は権藤が錬金術の構えを取るのを見ると、疲弊しきっているのにも関わらず、立ち上がり身構える。
「もうやめろ! その両手で魔術を行使すればどうなるか分からないぞ!! そもそも、さっきの弾丸でお前の魔術礼装は完全に破壊してる。まともに錬金できるわけないだろう!」
「だまれぇえ!! オレは――オレはぁぁぁぁああああ!!」
権藤は新一さんの忠告も聞かず、錬金術を行使しようとする。青い光がスパークするように噴き出している。だが、それはそれまでの錬金とはどこか様子が違う。
「なんだ? 穴から……光が漏れてる?」
新一さんの魔弾で空いた両掌の穴から青い光が噴き出している。何か――何かおかしい――。
「こんなところで終わってたまるかぁぁぁああああ!!」
権藤は叫ぶと同時に両掌を地面に叩きつけた。本来であれば、再び地面に紋様が現れ、そこから人形が現れ、現存している人形も権藤の制御下に戻るはず――だった。
だが――事態は誰も予期せぬ方向に向かった。
「な――に?」
それは権藤自信の疑問の声だった。権藤が両掌を地面に叩きつけた瞬間、紋様は現れることなく、両掌の穴から噴き出していた光が一層に勢いを増し、青い光は権藤の腕を包み込んだ。
そして――――光は閃光へ姿を変え、炸裂音と共に爆発した!
「う、うわ!」
「きゃっ!」
「くっ!」
爆音と爆風に目と耳を塞ぐ。あまりにも突然の出来事にそうするしかなかった。それは、一ノ宮も新一さんも同じだったはずだ。
目を開けるとあたりにうっすらと煙が立ちこめていた。俺は自分の体を手で触って確認する。そして、安堵のため息を吐いた。
どうやら、俺自身は爆発の影響を受けなかったらしい。爆発があったことは確かだが、どうやら小規模の爆発だったようだ。
「一体、何がどうなって……な――!!」
辺りを見渡した後、権藤がいた場所を見て、俺は絶句した。
権藤が手をついていた場所は、えぐれたようになっている。あそこが爆心地であることは間違いない。だが、俺が驚いているのはそんなことじゃない。俺が驚いているのは――。
「そ、そんな……」
「な、なんてこと……」
新一さんも一ノ宮もその様子を見て絶句している。無理もなかった。爆心地の先にあるものを見れば誰だって驚愕するしかない。
爆心地の先にあるもの――それは権藤だった。だが、その権藤には――――両腕がなかった。
「あ……あ……」
権藤はゆっくりと首を左右に回し、自分の腕があった場所を見る。その表情は自分に起こった事が理解できていないようだった。だが、自分の両腕がなくなった事に気づくと、その表情は一変する。血の気は引き、そして――。
「あぁ……そんな……そんな……うぎゃああああああああああああああ!!」
権藤は絶叫と共に、崩れ落ちる。
「なんで……こんなことに……」
「あんな状態で魔術礼装もなく錬金術を行使しようした代償よ。魔力の制御ができずに暴走して爆発を起こしたのね……バカな男……」
一ノ宮は権藤に目を向けたまま、俺の疑問に答えてくれた。その権藤を見る目に哀れみさえある。
権藤はうずくまったまま震え、低いうなり声を上げ続けている。それは自分の両腕を失った事へのショックからか、それとも想像絶する痛みからか。
だが、どちらにしろ権藤にはもう戦う力は残されていない事は誰の目から見ても明らかだった。既に決着はついている。
「……く……う……ち……しょ……」
だが――それでも、権藤の復讐の火は消えることはなかった――。
「権藤……」
新一さんが権藤に声をかけようと、一歩踏み出した。その時だった。突然権藤は頭を起こす。
「ぢぐじょう! ぢぐじょうぢぐじょう! ぢぐじょうぢくじょうぢぐじょうぢぐじょぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
その絶叫は常軌を逸していた。頭を振り乱し、半狂乱に陥っているせいか、言葉は聞き取りづらい。その姿はもう人間のそれとは思えなかった。
「マダダァ! まだ終わってたまるかぁ!!」
そう叫ぶと、権藤はゆっくりと震えながら立ち上がろうとする。その表情には諦めなどはなく、憎悪で恐ろしい顔になっている。憎しみがまだ彼を動かせ続けている。これ以上は戦うことができないと知りながらも、その憎しみに動かずにいられないのだ。
「そこまでして僕の事を……。だが、もう終わりにしよう。お前の復讐は……失敗したんだ」
そう言う新一さんの権藤を見る目にも哀れみがあった。ただ、その哀れみの中に後悔も入り交じっているように思えた。権藤の腕が消し飛んだのは、間接的ではあるものの新一さんが放った魔弾のためだからだろう。
「ふ、ふざ……けるな! 俺はまだ――」
そうして近藤が震えながら立ち上がり切った時、カランと地面に何かが落ちた音がした。
「なん――だ?」
権藤は不思議そうに音が聞こえてきた地面に視線を向ける。それは権藤の足下だった。そこに落ちていた物は――。
「あれは――歯車、か?」
権藤の足下に落ちていた物は良くぜんまい仕掛けの玩具や時計などで使用されている歯車のようだった。ただ、そういう物で使われているのと比べると大きいように思える。まるで、ぜんまい仕掛けの人形の部品のようだ――。
「なんだ――これは? なんでこんな物が――」
権藤は再び疑問の言葉を口にする。何故、こんな物がここに落ちているか――と不思議でたまらない表情をしている。
けれど、それはすぐに分かることになる。
権藤が不思議そうに地面に落ちている歯車を見ていた時、再びカランと地面に何か落ちるような音がした。しかも、それは一度ではない。何度も、数回にも渡って。
地面に落ちていく。歯車や何かの部品のような物が次々と。ボロボロとまるで崩れ落ちるように落ちていく。
「そ、そんな……」
「うそ……でしょ? ま、まさか……」
その様子を見ていた新一さんと一ノ宮は絶句していた。
「何なんだ、これは? それに――お前たち、何をそんなに驚いている?」
そんな俺たちの様子に権藤は不思議そうにする。無理もないことだ。権藤に注がれている視線は、まるで幽霊でも見ているかのようものだったのだから。
誰も口を開こうとしない張りつめた空気の中、俺は意を決して権藤に問いかけた。
「お前――人形、だった……のか?」
「な――に?」
俺の問いかけに、権藤は首を傾げ、不可解そうにした。まるで、俺の言っている意味が分かっていないようだ。
「お、お前……それ……」
俺は言葉にできず、権藤の左肩にあたる部分を指さした。権藤はそれを見ると、ゆっくりと首を回し、左肩に視線を――。
「――なんだ――これは!?」
権藤は自分の左肩を見て仰天していた。
そこには――人間の体としてあってはならいものがあった。そこには、小さな歯車や小さな部品の数々があった。
「そんな……そんな、そんなそんな……そんなバカな……」
権藤は俯き、小刻みに震え、同じ言葉を繰り返していた。「そんなバカな」と。何度も何度も。
「一体……どういうことなの?」
一ノ宮はあまりの出来事に訳が分からないのか、新一さんに問いかけていた。
「僕にも……分からない。何故、権藤が人形になんかに……。まさか、自分で自分を人形の体に変えたとも思えないし……」
「あ、当たり前でしょ! そんな事、できるわけないじゃない!!」
「じゃあ、どう説明すればいい? あれが魔術を使っていた以上、あれは間違いなく生命あるものだ。君も知っているだろう? 命無きものには魔術は使えない。あれが完全な人形なら魔術なんて使えないはずだ」
そう――魔術は生きとし生ける者にしか使えない。それは、俺も以前一ノ宮や弘蔵さんから聞いたことがある。だから、命の無いもの――たとえ、魔術使いが魔術で生み出した存在だったとしても、魔術は使えないのだ。
故に――間違いなく、今俺たちの目の前いる存在は人形なんかなどではなく、本物の権藤ということになる。
ならば、あの部品の数々はどう説明すればいいのか? 自分で自分の体を人形のボディに変えたとしか――。
「ふふ……ふふふふ……」
疑問が疑問を生む中、権藤は静かに笑い出していた。
「ご、権藤?」
答えを知っているのは権藤のみ。だが、その権藤の様子がどこかおかしい。
「ふふふふふふ……ははははは……あーはっはははははははは!!」
権藤の笑いは突然高笑いに変わった。それは狂ったように笑っていた。
「お、おい……一体、どうしたって言うんだ!?」
俺はその権藤の様子に言い知れぬ不安を感じ、問いつめた。だが、権藤は俺の言葉など聞いている様子もなく笑っている。
「はははは……そうか、そういうことだったのか! オレは、オレはなんてマヌケだ! こんな事にも気づかないでいたなんて!」
「なに? どういう意味だ!」
権藤の言葉は疑問だらけだった。意味も道理も通っていない。だが、権藤は何かに気づいたようだった。
「ふふふ……わかった。いいだろう。お前の望み通りにしてやろうじゃないか! だが、全てがお前の思い通りなると思うなよ!! オレはオレの目的の為に全てを成し遂げてみせる!!」
高らかに、それはまるで宣言するかのように、権藤はそう言った。俺にはそれが誰に向けての言葉なのか理解できなかった。
「おい! さっきから何をごちゃごちゃ言っているんだ!?」
新一さんは権藤のその様子を見て、問いただした。すると、それまでこちらを気にも止めていなかった権藤が、やっとこちらに視線を戻した。
「あ、ああ、悪い悪い。そうだった……そうだったな……」
「権藤――?」
それは一瞬。たった一瞬のことだった。新一さんもそれに気づいたようだった。権藤が新一さんを見る眼は、悲しみに染まっていた。それは憎しみの対象に向けられたものではない。それはまるで助けを請うような眼だった――。
だが、それも一瞬の事で、すぐに新一さんを見る目は憎しみの眼差しに戻った。
「フフ――利用してやろうと思っていたのだがな。逆にだったわけか。最初から歯車に組み込まれていたとは、笑いぐさだ」
「歯車に……組み込まれていた……だと?」
「ああ。こちらが本命のはずが、どうやらオレもこのマンションも単なる時間稼ぎでしかなかったらしい。そして、保険だったはずものが、どうやら本命だったようだ」
「時間稼ぎ……保険……? 一体どいうことだ?」
新一さんがそう尋ねると、権藤はその目を一ノ宮の方にむける。
「え……私?」
「いや……違う。お前ではない。だが……そうだな。強敵を前にして、確実に勝利するためには、その強敵の弱点をつくことがもっとも合理的だ。そう思うだろう? 一ノ宮の〝ムスメ〟」
「――まさか――」
一ノ宮は顔面を蒼白にさせ、愕然としていた。一ノ宮は何かに気づいたようだった。
「そうだ! どうやら、オレの仲間はお前の妹が最初から目的だったらし!」
「そ、そんな!?」
一ノ宮はその衝撃的な事実に愕然とし、呆然と立ち尽くしている。
「やはり――仲間がいたのか――それじゃあ……」
「ああ、その通りだ。お前の想像通りだ、間島新一。だが、今はそんなことはどうでもいい! オレはお前に復讐する。ただ……ただそれだけだ!!」
「ま、待て! 今さらそんな事に何の意味が――」
「黙れ! オレがオレがである限り、この復讐は終わらない! この復讐を止めることなどできない!!」
「ご、権藤……」
「死ね、間島新一!! これで終わりだぁぁぁぁあああ!!」
権藤が振り絞るようにそう叫ぶと、その体の内から青い光が溢れ出す。
新一さんと一ノ宮はそんな権藤に対して身構える。だが、権藤は何もしてこない。ただ、こちらを見据えて笑っているだけだ。
「何が……これは――」
俺はこの状況に既視感を感じていた。あの時に似ていると思った。権藤が両腕を失った時と。
「――まさか! 自爆する気か!?」
「な、なんですって!?」
俺の言葉に一ノ宮は驚き、すぐに権藤に視線を向ける。
「これは――さっきと同じ! しかも体中から魔力が溢れて……まずいわ! このままじゃ、大規模な爆発なる!」
「フフ――フハハハハハ! 今更気づいても、もう遅い!! オレと共に――ふきとべええええええ!!」
「やめろぉぉぉぉぉおおおおお!!」
権藤の叫びと新一さんの制止を求める叫びが重なり合う。
互いの叫び声が木霊する中、権藤の体は青い光に覆い尽くされ、そして――光は弾ける。
轟音と共に、目の前が真っ白になった――――。
*
白から黒へ。いつから自分が見ている景色が真っ暗な暗闇になったのか分からない。
あれから一体どうなったのか――。俺は爆発に巻き込まれて、死んだ――のか?
真っ暗闇の中、朧気な意識でそんな事を考えていた。
だが、ふと思う。死んでいる割には体の感覚もはっきりとしている。四肢もある事は分かるし、感覚もある。辺りから焼け焦げたような臭いもするし、音も段々と聞こえるようになってきた。
それが分かった時、自分が目を閉じていることに気づいた。
ゆっくりと目を開ける。辺りの様子が少しずつ見て取れるようになる。自分が立っている位置も把握できた。権藤の起こした爆発に巻き込まれる直前と同じ場所に自分は身を屈めていたようだ。
「生き……てる……」
自分が置かれている状況が確認できた時にやっと自分が生きている実感を得ることができた。
「そうだ! 一ノ宮と新一さんは――」
自信の無事が確認できた段階で、自分の周りの心配がやっとできるようになった。
俺の側には一ノ宮と新一さんがいたはずだ。俺が無事なら、あの二人もきっと――。
「一ノ宮! 新一さん!」
俺同様、二人とも爆発直前と同じ場所で、身を低く屈めていた。
「一輝君……怜奈君も……どうやら、みんな無事みたいだね……」
新一さんは俺と一ノ宮を見た後、安堵のため息を吐きながらそう言った。
「え、ええ。みんな怪我はない?」
「あ、ああ。大丈夫だよ、一ノ宮」
「僕も問題ない」
一ノ宮の問いかけに、俺、そして新一さんの順で答える。
「そう……ならよかった……でも、一体何がどうなって……」
一ノ宮の疑問は最もだった。確かに爆発はあった。しかも、この34階のフロア全体を吹き飛ばすほど爆発だったように思える。にも関わらず、俺たちは何故怪我一つなく無事なのか――。
俺は爆心地である権藤が立っていた場所を確認しようと前を向いた。そして、そこであり得ないものを見た――。
「な――なんだ、これは!?」
「え――あ!」
「――――こ、これは!?」
俺の驚きの声に、一ノ宮も新一さんも前を向き、その存在に気がつき驚愕した。
俺たちの目の前には――壁が立ち塞がっていた。それも、七色に輝く壁が――。
「こ、これは一体……あ!」
俺は立ち上がり、その壁に近づこうと一歩前に歩み出た瞬間、七色の壁はフっと消えてしまった。まるで、それは幻だったように――。
「な、なんだったの、あれは? まさか、魔術防壁?」
一ノ宮はそう呟くと、新一さんを見る。
「ち、違う違う。僕じゃないよ。僕はこんな魔術使えないし、それに魔術を使ってる暇はなかった」
「そう――よね……」
「そ、それじゃあ、一体誰が?」
俺の問いかけに二人とも首を左右に振る。この二人ですら分からないらしい。ならば、俺なんか考えても――いや、待て。一人いるではないか。もう一人、このマンションには魔術使いが。まさか、あの人が――。
「分からないものは考えても仕方ないわ。それよりも今は一刻も早く屋敷に戻らないと!」
「え――」
一ノ宮の言葉に我に返る。一ノ宮を見ると、その顔には焦りの色が見て取れた。
そうだった――権藤には仲間がいて、その仲間が一ノ宮の妹である聖羅ちゃんを狙っているんだった。
「急ごう!」
俺がそう言うと一ノ宮は頷き、駆けだした。俺もその後に続く。だが、新一さんはある一点を見つめたままで動けないでいた。その表情はどこか悲しげに見えた。
「新一さん?」
「あ、ああ、悪いね。急ごう!」
新一さんはまるで振り払うように頭を振り、走り出した。
既に爆発による煙は晴れ、前は見えるようになっていた。
爆心地の地面はえぐれたようになっており、その爆発の大きさをもの語っていた。勿論、そこに権藤の姿はなく、跡形もなく消えていた。
彼の復讐という望みは彼の命と共に露と消えた――――。




