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旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
禍ツ闇夜編
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第16話「人に、非ず」



 一ノ宮が合流したものも、結局マンション内に怪しい場所は見つからなかった。もちろん、噂にあった〝住人が人形〟などという事実もなかった。ここの住人とも会話したが、やはり普通の人だった。


「本当にこのマンションなんでしょうか?」


 当たり前の疑問が口について出る。

 そもそも、あの噂のマンションが今俺たちいるマンションと同一だと言い切れる根拠などどこにもない。もしかすると、空振りの可能性だって大いに有り得るわけだ。


「さて、どうだろうねぇ?」


 俺の疑問に困った表情を浮かべる新一さん。どうやら、新一さんも確かな確証を持っているわけではないようだ。


「何よ、二人とも……確証もなく動いてたわけ?」

「ぅ……」「ぅ……」


 一ノ宮の指摘に、俺と新一さんは同時に言葉にならない声を漏らす。それを言われると非常にイタイわけで……。


「あっきれたぁ……」


 一ノ宮は言葉に違わず、心底呆れた表情をしている。


「し、仕方ないじゃないか。分かってるのは噂だけなんだから……ちょっとでも怪しい所から調べるしかないでしょ?」


 新一さんは取り繕うように、言い訳していた。

 だが、新一さんが言う事ももっともな言い分だ。たったあれだけの噂で、場所を特定しようなんて、土台無理な話だ。そんな状況で、今回の件に関係ありそうな情報が飛び込んできたのだ。調べないわけにはいかない。


「はぁ……まあ、いいわ。それで? これからどうするの?」


 呆れ顔のまま、一ノ宮は新一さんに尋ねている。


「ん? それはさっき一輝君とも話してたんだけどね。今日はこのままここに泊まってみようとか思うんだ」

「泊まるの? ここに?」


 一ノ宮は新一さんの返事を聞いて、戸惑った表情を浮かべている。そんな一ノ宮の様子に新一さんは不思議そうにしている。


「何だい? 何か問題でもあるかい?」

「べ、別にそうじゃないけど……」


 そう言いながら、一ノ宮は俺の方をちらりと見てくる。

 なんだろうか? 俺に何か問題があるのだろうか?


「何だよ、一ノ宮? 俺に何かあるのか?」

「そうじゃないけど……真藤君? あなた帰った方が良くないかしら?」

「え! なんでさ!?」

「なんでって……」


 一ノ宮は何やら言いづらそうにしている。それを見た新一さんはクスクスと笑っている。


「一輝君、怜奈君は君の事を心配してるんだよ」

「心配?」

「ちょ、ちょっと間島!?」


 一ノ宮は慌てて新一さんに制止を求めようとした。だが、新一さんの口は止まることはない。


「だからさ、このマンションにいると君がまた危ない目にあうんじゃないかって心配してるんだよ」

「あ――――」


 言われて、一ノ宮の真意に気づいた。一ノ宮の方に視線を移すと、顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。


「べ、別に心配なんてしてないわよ! 勘違いしないで!!」


 なんでそんな反応!? それでは、「心配してます」って言っているようなものじゃないか。というか、いつから一ノ宮にこんなツンデレ属性がが付いたんだ!?


「あ、いや、うん……わ、わかったよ」


 俺は戸惑いながらも、曖昧な返事を返す。あんな反応返されては、逆に気まずい……。


「ク――ククク! いやぁ、君たちはホント面白いねぇ!」


 一体何が楽しいのか、愉快そうに新一さんは笑いながらそう言った。


「あ、あなたねぇ!!」

「ひ、冷やかさないでくださいよ、新一さん!」


 二人して新一さんを睨むが、新一さんは気にすることなく、ニヤニヤと笑っている。

 まったく――――この人は、なんでいつもこうなんだ。真面目な一面があるかと思いきや、こうやって人を小馬鹿にしたかのような言動をする。それに振り回されるこっちの身にもなって欲しいものなのだが……。


 そんな事を考えながら、ふと腕時計を見ると、既に時間は午後八時を回っていた。


「おやおや、もうこんな時間か。そろそろ、ご飯にしたいねー」


 新一さんは呑気にもそんな事を言い出している。


「そ、そうですね……」


 正直、この状況でそんな呑気なことを考えられるのが信じられない。今正に俺たちは敵の懐にいるはずなのに、まったくと言っていいほど、緊張感がない。


「一輝君、悪いけど、コンビニかどこかでご飯買ってきてくれないかな?」

「え……今からですか? 別に構いませんけど……」

「それじゃあ、よろしく頼むよ」


 新一さんは「よろしく~」なんて言いながら、手を振っている。


「ちょっと待って! 途中まで一緒にいくから」


 部屋に出ようとした時、一ノ宮がそう言いながら付いてきた。


「え? 別にいいよ。買い出しなら俺一人でも……」

「バカね! マンションを出るまでよ! な、何かあったら困るでしょ?」

「あ……う、うん、わかった……」


 なんだ? 今日の一ノ宮は……。なんだか、いつも以上に心配されているような気がする……。


「それじゃあ、二人とも、仲良くね~。なんだったら、今夜はもどってこなくてもいいよー」

「黙っててください!」「黙ってなさい!」


 痛烈なダブルの突っ込みが新一さんを襲う。

 うん、これでは単なる変態おやじだ。俺が憧れたあの名探偵は一体どこにいってしまったのか――――。

 俺は呆れつつ、部屋を出た。




「新一さんって……どうして、いつもああなんだろ? 何に対したっていい加減というか、緊張感がないっていうか……」


 マンションの出口までの途中、俺は一ノ宮に新一さんについて話していた。すると、一ノ宮は深刻な顔をして、俺の方を見た。

 なんだろう? 別にそんな深刻な話をしているわけではないと思うが――――。


「それは……仕方ないことよ。彼にとっては、こんな状況は日常だったでしょうから……」

「え? 日常? どういう意味だ?」

「……」


 俺の問いかけに一ノ宮は答えようとはしなかった。その眼は「自分で聞いてみなさい」と語っていた。どうやら、他人がおいそれと話すことができる内容ではないらしい。


 新一さんの過去に何があったのか、それはきっと今の新一さんが作り出される上で欠かせない過去で、そして決して忘れるこなどできない出来事だということなのだろう。だが、それを知るのはもうちょっと先の話だ。今の俺は深刻な話だという認識でしかなかった。


 マンションを出るまで、結局何も起こらなかった。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「ええ、気をつけて」

「心配いらないよ。ちょっとそこのコンビニまで行くだけなんだから。一ノ宮は部屋に戻って待ってていいよ」

「そう……ね。わかったわ」


 それでも、一ノ宮は不安そうな表情をしていた。だから、俺は一ノ宮が部屋に帰っていくのを笑って見送った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 一輝と怜奈が部屋から出ていくと、新一は深いため息をつくと共に口元には笑みが浮かんでいた。


「フフ……まったく、あの二人はいつまで経っても変わらないな――――さてと……」


 新一は床から立ち上がり、バッグから何かを取り出すと、それを懐に忍ばせた。


「二人が戻ってくる前にそろそろ行こうかな……あちらさんもそろそろ痺れを切らしているころだろうしね」


 新一は口元をつり上げながら笑っている。だが、その眼は決して笑っておらず、寧ろ冷徹なものに変わっていた。


 新一はこのマンションに入った時から、〝視られている〟と感じていた。どこの誰かは知らないが、間違いなく監視されている。

 だが、それは怜奈の方も気づいて良さそうなもののはずだが、彼女は気づいている様子はなかった。それはおそらく、その〝視線〟が新一だけに注がれていたものだからだ。

 視線――――言葉にすればそれだけだ。だが、そこには明らかな悪意と――――殺意にも似たものがあった。


〝あの噂〟を知った時から、そうではないかと新一は考えていた。今回の事件を引き起こした魔術使いは、自分を狙っているのではないかと――――。


「さぁ、二人が戻ってこないうちに行くとしますか……」


 どこへという疑問もあるが、それを意に返さず玄関のドアに手をかける。どちらにしろ、自分に用があるのはあちら方なのだから、適当に歩いていれば、あちらから接触してくるだろうと新一は考えた。


 ドアを開け、廊下に出る。そこで彼はあり得ないものを見た――――。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 俺はコンビニで食料を調達すると、急ぐこともなくマンションに戻ってきていた。マンションを離れていた時間は20分程度だった。


 エントランスに入ると、変わらずそこは噴水が流れている憩いの場だった。何の変化も見られない。


「はは……ちょっと恐がりすぎかな……」


 自分が知らず知らずのうちに警戒をしている事に気づく。まったく、小心者過ぎる。一人でマンションを内をうろつくだけのなのに、何をそんなに怖がっているのか。

 俺は早足でエントランス内を進む。すると、エレベータの手前に女性が立っているのが目に入った。どうやら、ここの住人のようだ。買い物袋をさげている。

 エレベータの扉がチンという音と共に開く。女性はエレベータの中へと入っていく。


「待ってください! 乗りまーす!」


 俺は慌てて声をかけ、走り寄っていく。

 どうやら、女性には俺の声が届いていたらしく、エレベータの扉を開けたままにして待っていてくれた。

 俺は女性の脇を通り抜け、エレベータに乗り、女性の後ろに立った。


「何階までですか?」


 女性は俺の方を見ることなく、そう尋ねてきた。綺麗で透き通った声だった。顔は見てないが、きっと若い女性で綺麗な人なんだろうと想像できた。


「あ、すみません。25階に――――」


 言いかけて、点灯しているボタンを見ると、25階だった。どうやら、この女性も25階の住人らしい。


「あら? 同じ階の方? 見ない顔ね?」


 再び女性はこちらを振り返ることなく、そう尋ねてくる。

 なんと答えたらいいものか……実はこのマンションを調べている者です、なんて言えるわけもない。ここは適当に受け流すべきだろう。


「え、ええ……最近越してきたんですよ」

「そうなの? ずいぶんお若そうなのに、こんな高いマンションにお住まいなられるなんて、スゴイのね?」

「い、いえ、そんなことは……」


 随分と馴れ馴れしく話しかけてくる女性だという印象を受ける。話好きな女性なのだろうか。それとも、同じ階の住人ということで興味を持たれているのか。だが、それにしては――――。


「お仕事は何をしているのかしら?」

「え?」


 突然、職業の話におよび、俺は驚いて思考を打ち切った。これも何と答えた方がいいのだろう? 探偵の助手なんて答えられない。それに、このマンションに住めるだけの職業というわけでもない。


「えっと……」

「もしかして、探偵かしら?」

「え!?」


 女性はこちらを見ることなく「探偵」という言葉を口にした。それに俺は驚きを隠すことができなかった。


「な、なんで……」


 疑問――――大きな疑問だ。この女性、何故その事を知っている? 俺はこの女性とは初対面のはず――――。

 考えながら、思い返していた。そうして気がついた。俺はこの女性がどんな顔しているのか思い出せないことに。いや、正確には、はっきりと顔を見ていないと言った方が正しい。この女性は、俺に後ろ姿しか見せていないのだから――――。


「ふふ……なんでだと思う? 不思議よね?」


 女性は突然くぐもった声で笑い、そう言った。

 俺は急に怖ろしくなっていた。この目の前いる女性が。見るからに普通の女性だ。普通の人間だ。にも関わらず、この女性からはそれ以外の何かを感じざるおえない。一体、この女性は――――。


「そんなに怖がらないで……そんな顔されると、お姉さん傷つくわ」


 女性はいかにも寂しそうな声でそう言った。


「あ……う……」


 声が出ない。恐怖で声が出ない。

 この女性はなんで俺の方も見ずに〝表情が分かる〟のか。俺はさっきから、この女性の〝後ろ姿〟しか見ていないというのに――――。


「せっかく、同じ階の住人なんだからもっと仲良くしましょう? あら、やだわ。私ったら、ちゃんと顔も突き合わせずにこんな事。ちょっと待ってね? 今、ちゃんと〝顔を見せて〟あげるから」

「な、なに……を」


 ――ガチッ――


 女性の頭がゆっくりと回る。


 ――ガチッ――


 奇怪な音を鳴らしながら、回る。


 ――ガチッ――


 首が回る。こちらを見ようと首が回る。嫌な音を鳴らしながら。


 ――バキッ――


 こちらに顔を向けようと、首は回り続ける。


「ひ……」


 小さな悲鳴をあげることが精一杯だった。恐怖は最高潮に達し、既に思考することはできず、息をすることも忘れていた。見たくないもののはずなのに、目は〝それ〟に釘付けになり、閉じることすらできない。


 ――ゴキッ――


 そして、それまでにない鈍い音がして――――女性の首は〝180度〟回転していた。

 首が捻れている――――こんな、こんな、こんな――――こんな事、アリエナイ!!


「アラ? ヨグミダラ、ガワイイガオしてるジャナイ?」


 女性の声が上手く聞き取れない。俺の意識が混濁しているせいなのか、それとも女性の首が回りきってしまっているのせいのか――――。


「ドウジダノ? ナギゾウナガオをして?」


 恐い。怖い。こわい!

 首から上へ視線を移すことができない。そこにあるはずもない顔を見ることが、怖ろしい。


「ぅ……」


 ゆっくりと視線を上へ――――。


「ぁ……」


 上へ――――そして――――。


「ひ!」


 俺は小さく短い悲鳴しかあげられなかった。


 そこにあったのは、女性の顔と呼ぶにはあまりにもおぞましいものだった。

 口元はニタリの笑い、乱杭歯のように不揃いな歯が見えている。

 そして、さらに視線を上に移す。そこには目があるはずだった。だが――――目はなかった。目はくり貫かれたようになく、真っ黒に窪んでいた。そして、そこから血の涙がこぼれている。


「ドウ? ワダジ、ギレイ?」

「あ……あ……」


 俺はあまりにも衝撃的な映像に、腰を抜かし、その場にへたり込むしかなかった。


「ガワイゾウニ……ジャベレナイノネ……」


 女性だったのものは、後ろ向きのまま近づいてくる。その手には鈍く光るナイフが握られていた。


 逃げなくては――――。

 だが、どこに? ここはエレベータという密室だ。逃げ場などない。体も恐怖で動かすことができない。


 俺は――俺は――ここで――――死ぬ?


「ァ――――」


 死が過ぎった瞬間、女性だったのものが俺に覆い被さった。

 その瞬間、チンという音と共に、エレベータの扉が開いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 私は風の刃を放ち、対象を切り刻む。

 だが、その後ろから次々と〝ソレ〟はわいて出て、襲いかかってくる。


「まったく――――しつこいわね!」


 舌打ちしながら、再び風の刃を放つ。〝ソレ〟はバラバラに切り刻まれながら、崩れ落ちていく。切り刻まれたものから夥しい量の、まるで人間の血ようなものが流れる。だが、これは人間なのではない。


 これは――――〝人形〟なのだから――――。




 私は一輝と別れた後、自分なりにこのマンションについて調べようと思い、すぐには部屋に戻らなかった。

 20階で降りて、そのフロアを探索していた。この階を選んだのは特に理由などない。とりあえず、どこでもよかった。自分たちがいた階以外の構造を知っておきたかっただけだった。

 だが、その途中で突然フロア全ての電灯が消えた。


「――――何?」


 突然の暗闇に驚きながらも、私は意識を集中させていく。〝風読み〟には明かりなど必要ない。今此処で何が起こっているのかを知るには、空気の流れを知れば、それで十分だった。

 空気は生暖かく、重苦しい。普通の人間なら吐き気さえ催してしまいそうなほど、気味の悪いものに変わっていた。


「……来るわね」


 そう口に出した瞬間、フロア内のドアが一斉に開く。部屋の中から、〝ソレ〟はぞろぞろと現れた。

 見た目は人間とたいして変わらない。だが、〝ソレ〟からは人間らしい生気と呼べるものは一切感じられない。


「〝住人は人形〟ね……確かに噂通りだったわね……」


 そう――――これは人形だ。人間に似せて造った人形なのだ。確かめることなどなくとも、それが私には分かった。何故なら、彼らからは魔術の気配がしたからだ。

 彼らは魔術によって生み出され、魔術によって操られている。


「けど――――」


 大きな疑問がある。昼間いたここの住人は一体どこに行ってしまったのか。

 昼間は確かに人間だった。マンションで何人かとすれ違ったから、それは間違いないことだ。にも関わらず、夜になった今、それが人外のものに入れ代わっているというのは腑に落ちない事実だ。


「――――と、今はそんな事を考えている暇はないわね」


 既に人形の軍勢は目前に迫っていた。人形は手に刃物や鉄パイプ、果ては斧のようなものまで持っている。

 私は風を発生させると、刃を放った。一番の前のいたソレの右腕と左足を切り落とす。夥しい量の血を吹き出しながら、倒れた。まるで、人間のようだ。

 だが――――人形は片腕と片足を失ったというのに、意に介することなく這いずりながら私に向かってくる。


「そうよね……この程度じゃあ止まらないわよね――――なら!」


 私は幾数の刃を放ち、そいつを切り刻んだ。既に原型はない。これからな、動き出すことはないだろう。


「ふん……犬よりはまともになったわね。けど、前以上に悪趣味よ。消えなさい!!」


 暴風に近い風を巻き起こしながら、風の刃を放っていく。次々となぎ倒されていく人形の脇をすり抜けながら、私は非常階段を目指した。

 だが、切り刻み倒れた先からドンドンと別の人形が現れる。


「ほんっとしつこいわね!」


 既に非常階段も人形で蔓延していた。

 私は、最大級の風と刃と共に人形をなぎ倒していく。

 だが、人形は人形を盾にして、切り刻まれた人形の後ろから襲いかかってくる。凶器を振り下ろし、私の脚を止めようとしてきた。だが、私はそれをスルリと躱し、すれ違いざまにその人形も切り刻んだ。


「どきなさい!!」


 今は上へ――――25階へ行くことが先決だ。間島と合流しなければ。

 私は次々と現れるソンビのような人形をなぎ倒しながら、全速力で〝螺旋状〟の非常階段を駆け上がる。


 そして、やっと25階まで駆け上がり、フロアの中に入った。


「――――」


 フロアの中に入った瞬間、私は驚愕した。

 確かに非常階段までにいた人形の軍勢が、そこにもいた。だが、その全てが地に伏して動かなくなっていた。


「なんなの……これは……」


 気味が悪いと思えるほど、フロアは静まりかえっていた。


 私は廊下を駆け抜け、十字路のところまで来ると、私は足を止めた。

 左を向けば、私たちが借りている部屋のドアが見える。そのドアは開いたままになっていた。

 そして――――右を見ればエレベータがある。エレベータは動いていた。それも、下から上へ。こちらに向かって昇ってくる。

 私は身構えた。このエレベータがこの階で止まるようなら、また人形がそこからわいて出てくるかもしれない。もしそうなら、エレベータから人形が出てきた瞬間に切り刻むつもりでいた。


 そして、エレベータは25階で止まり、到来の音と共にゆっくりと扉が開いた。




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