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旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
禍ツ闇夜編
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第6話「咆哮」



 夜遅く、私は庭出て、縁側に腰を下ろし、月を眺めていた。

 今日は月がはっきりと出ていて、月明かりがとても綺麗だ。


 結局、一度は寝床についたものの、眠ることができずにいた。お祖父様は、環境が変われば眠れるようになるかもしれないような事を言っていたが、やはりそう簡単なことではないようだ。

 そもそも、別に私は眠れないわけではない。眠ることが恐いのだ。


 眠れば―――あの悪夢をまた見てしまうかもしれないから―――。


 荒井恵の一件以降、私は、悪夢にうなされいた。それは、私が最も大切に想う人を自分で手で殺してしまう夢。そんなことは現実にはあってはならない事であり、私自身考えたこともない事だ。

 にもかかわらず、私は未だにあの夢を見続けている。今では週に三回は同じような夢を見る。その度に、私は夜中に飛び起きる。

 悪夢を見て、飛び起きた私は、言いしれぬ不安と動悸に苛まれる。夢を見ている間にかいたのであろう大量の寝汗も相まって、その時の不快感は、言葉では言い表すことができない程のものだ。

 そうして、悪夢を見て飛び起きたその日は、その後も眠れなくなる。いや、眠ることが恐くなってしまうのだ。

 今日に至っては、悪夢を見るかもしれないという恐怖が、私を眠りから遠ざけていた。


“まさか―――まだ、こんな人間らしい感情が残っていたなんてね―――”


 私は自分の至らなさを自嘲気味に鼻で笑う。

 こんなにも―――自分が弱い人間だとは思ってもいなかったから。


「眠れないのかい、怜奈?」


 後ろから突然声を掛けかられた。

 私は驚いて後ろを振り返ると、そこにはお祖父様が立っていた。


「お祖父様…」

「どうやら、何か悩み事があるようだねぇ」


 お祖父様はそう言いながら、私の横に腰を下ろす。


「別に悩み事なんて…」

「そんな風には見えないのだけどねぇ?」


 私の強がりはすぐにお祖父様に見破られしまう。この人には嘘や誤魔化しはなどは通じないようだ。


「お祖父様は誤魔化せませんね。実は―――」


 私はお祖父様に悪夢の事を、夜眠れなくなる理由を話した。勿論、その過程で、荒井恵の一件と彼の事を話した。


 話し終えた時、珍しくお祖父様は難しい顔をしていた。


「お祖父様?」

「まさか―――時澤とはねぇ…もう随分と昔の事だと思っていたのだが…」

「それは、私も驚きました…お父様の日記から、時澤家の事が出てくるまで、あんな魔術使いが一ノ宮家と関わりを持っていたこと自体知りませんでしたから。しかも、あんな―――」


 私はそれ以上先の事をお祖父様の前で口にすることを憚られた。

 魔術使いとは、術式や儀式、呪文詠唱により、超常現象を発生させる存在のことだ。私たち、能力者ほどではないが、その力は普通の人間を軽く凌駕している。

 元来、魔術は人間に危害を加える能力者を討伐するために編み出された秘術だ。だが、一ノ宮家のような能力者に対抗する能力者の勢力が現れてからは、衰退の一途を辿り、今では魔術を使える者は少なくなってしまった。

 時澤家はそんな残り少ない魔術使いの家系だった。

 だが―――あの日、13年前のあの日、時澤家は私の父、一ノ宮蔡蔵によって、滅ぼされた。人として、魔術使いとして、手を付けてはいけない魔術の研究を行っていたために。

 そして、その時の生き残りである荒井恵とその祖父により、二ヶ月半前、一ノ宮家へ復讐するための事件が起こったのである。

 しかし、これは二ヶ月半前の事件の経緯にしか過ぎない。お祖父様にとっては、息子がまき散らした怨差による結果ではあるが、それは一ノ宮家であれば、仕方のないことだ。

 問題はそこではない。13年前のあの日、一ノ宮家で一体何があったかが問題なのだ。


「そう気を使わなくていいよ。怜奈はもう知っているんだね?

 あの日、貴志が何を見て、あんな結果になったのかを」

「―――はい、お父様の日記にすべて書いてありました。お父様は、悔いていらした様です。息子を過大評価し、人間を殺す現場に連れていったことを」

「そう―――か」


 お祖父様は月を眺め、悲しそうな眼をしていた。あの事件は、それほど一ノ宮家に深い心の傷を残した。

 私の兄、貴志が13年前起こした事件、そして、3年前に起こした事件は、多くの人間に深い傷を残していた。


「話を戻そう。今は怜奈の身に起こっている事の方が重要だね」


 お祖父様は我に還ったかのように、そう言った。


「そんな大袈裟な…」

「そんな事はないよ。怜奈が見ている悪夢は、精神的な要因によるものだ。その処置を間違えれば、取り返しのつかないことになるかもしれない」

「取り返しのつかないって…貴志のようにですか?」

「いや―――そこまでは言わないがね…」


 珍しくお祖父様の歯切れが悪い。何かを言いづらそうにしている。


「何か、言いづらい事があるのですか?言ってください」

「いや、そうではないが―――要因があるとすれば、時澤でも、貴志でもない。あるとすれば、そう―――真藤君にあるのではないかと思ってね」

「か、彼に?どういうことですか?」

「いや――こればかりは、私の思い過ごしでだと思うから気にしなくていいよ」


 そう言って、お祖父様はその先を話そうとはしなかった。何かお祖父様には思い当たる節がありそうだが、それもお祖父様の中で漠然としたもののようだ。いつもなら、なんでも分かってしまうお祖父様なのに、珍しいことだった。


「彼には、話したのかい?」


 お祖父様は真剣な顔して、聞いてきた。

 私は首を左右に振る。


「いいえ、彼にはこの事を言っていません。あまり心配かけたくはないので」

「そうか―――だが、話しておいた方が―――」


 お祖父様が言いかけた時、私たちは異変に気づいた。


「何?これ―――」

「怜奈も気づいたかい?大気を震えているねぇ」


 風の能力者である私やお祖父様は、風だけでなく、大気や空気に敏感になる。それはどれだけ遠く離れていても変わらない。異常なものであればあるだけ、それを感じ取ることに長けている。


「こんな―――普通のことじゃないわ。まるで、どこかで大きな爆発であったような」

「いや、それにはしては、音もしないし、騒がしくならないね。そういった類のものではないようだよ?」

「そんな―――それじゃあ一体―――」


 私とお祖父様は事態の異常性に気づくと共に、困惑していた。大気の震えはあれど、音は聞こえて来ない上、風にも異常はない。こんな事が起こるのは初めてのことだった。



「どうやら、こちらの方角からのようだね。しかも、そんなに遠くはない」


 そう言って、お祖父様は大気の震えの原因であろう方角を指さす。

 その方角を見て、私はあることに気づく。


「この方角―――この距離、まさか、如月学園!?」


 私は大気を震わせている中心に、何があるかすぐに気づいた。それは、私が以前通っていた高校だった。


「どうやら、そうらしいねぇ」


 お祖父様は間延びした口調でそう言いながらも、難しい顔をしている。


「お祖父様、私―――」

「分かっているよ、怜奈。気になるのだろう?行っておいで。

 ただし、無理だけはしちゃダメだよ?」

「はい!ありがとうございます!」


 お祖父様の許しが出ると、すぐに外に出る仕度に掛かった。

 準備ができると、私は玄関から飛び出し、如月学園を目指して走り出した。

 

 

 如月学園は、お祖父様の家からそんなに離れているわけではない。急げば、十分程で着く場所にある。

 走り出して、丁度十分で、如月学園に着いた。

 ついて早々に、如月学園の異変に気づいた。


「こ、これは、魔術結果!?」


 私は驚愕した。まさか、魔術結界が学園全体に張られているとは思いもしなかった。

 魔術結界とは、その名の通り魔術によって造られた結界だ。本来、結界とは『封』をするためのものだが、それとは別に魔術を行使する上での、増幅効果を得るためのものもある。

 今回の魔術結界は前者だ。この結界はある『物』を結界の中に封じている。それは『音』だ。


「まさか、遮音結界なんてね―――それも完全防音」


 余程熟練した魔術使いでないとこうはいかない。

 大気が震えはあれど、それ以外の異変がないのはこの結界のためだったようだ。


「けど、変ね?この結界、それ以外にも何か異質なものを感じる」


 それが何なのかハッキリとは分からない。私の魔術の知識では、おそらく理解できないような高度なものなのだろう。


「どちらにしろ入ってみるしかないわね」


 何が目的でこんな結界を張っているのか分からない。それを知るためにも入ってみるしかない。

 私は意を決して、結界をくぐり、校内へと入っていく。もちろん、開いている場所などないので、風の力を借りて学園の塀を飛び越える。


 塀を飛び越え、着地した瞬間、校内に数十の存在を感じ取れた。どうやら、この結界を張った主は複数のしもべを従えているらしい。

 その僕は、侵入者が現れたことを察知したのか、私の所に集まってこようとしている。


「さっそくお出ましね!さて――鬼が出るか、蛇が出るか―――」


 私は臨戦態勢に入り、いつでも『風』を発生させられるようにする。


 そして―――標的が私の前に現れた―――。


「―――い、犬?」


 私の前に現れたのは、どこにでもいるような犬だった。数としては軽く十を超えているだろうか。大型犬から小型犬まで様々だが、やはりどこにでもいるような普通の犬にしか見えない。


「呆れた―――結界まで張っておいて、何をしてるのか思いきや、まさか犬の散歩なの?」


 私はあまりにも拍子抜けの現状に、悪態をついた。

 悪態もつきたくなる。如月学園に来て早々、怪しげな結界を発見して、中で何が行われているのかと、警戒していたにも関わらず、現れたのが、『只の犬』では笑い話にもならない。


 しらけている私を余所に、犬達は私に対して敵意を露わにし、身を低くして、低い唸り声を発している。


「はぁ…何を言っても無理のようね。もっとも、たとえ脅したとしても、無駄でしょうけどね」


 私は犬の眼を見たときから、彼らが普通の状態ではないことに気づいていた。動物とはいえ、犬はそれなりに知能の高い動物だ。それが、まるで理性のない獣の眼をしている。


「操られているわね―――何者かに。

 いいわ――少しだけ遊んであげる。丁度、虫の居所が悪いところだったしね!」


 その言葉に同調するの様に、犬は一斉に襲いかかってきた。


 私は能力を解放し、犬めがけて突風を巻き起こす。

 犬はその突風に巻き込まれ、簡単に吹き飛んでいく。まるで木の葉が飛ぶように。


「本当に只の犬ね。なんの歯ごたえもない」


 だが、それ故に疑問が過ぎる。あれだけの魔術結界を張っておきながら

、この程度の僕を解き放っているだけとは、腑に落ちない。この学園内で何か重大な事を起こそうとしているのならば、侵入者を確実に逃がさず、捕らえる、または殺すのがセオリーというものだろう。だが、この犬達では役不足だ。

 では、それほど重大な事を起こすつもりはないのか―――いや、それでは、あれほどの結界を張っている事実に矛盾する。

 あの遮音結界は、学園内で何かを起こそうとして、それを隠すために張られたものだと仮定するのが妥当だ。

 それに、あの大気を震わせる程の『何か』も気になる。


 思案している最中、突風で飛ばされた犬が起き上がり、再び私に向かってきていた。


「はぁ…操られているだけ、しぶといわね。普通なら、あれだけで逃げ出すはずだけど―――いいわ、動けなくしてあげる!」


 私は再び能力を解放し、風を発生させる。しかし、今度はただ単に突風を発生させるわけではない。今度は小さな竜巻を幾つも発生させる。

 竜巻は犬を次々と飲み込み、巻き上げていく。小さいとはいえ、軽く犬を上空に巻き上げる程の力はある。

 巻き上げられた犬は、回転しながら犬同士でぶつかり合うか、上空に投げ出され、地面に叩きつけられていく。どちらにしろ、命を奪うほどのものではない。動けなくなるか、気絶するかのどちらかだ。

 そして、竜巻を消した時、すべての犬が地面に叩きつけられた。無論、すべての僕がこれ以上の戦闘は続行不能だ。


「終わったわね―――本当に、これで終わりなのかしら?」


 これでは、あまりにも簡単すぎる。この程度で終わったとは到底思えないが、辺りから気配を感じ取ることはできない。それでも、結界はいまだに持続している。


“やはり―――他にも何かいる―――”


 この余りにも不自然で、異常な結界内にまだ何かの存在が潜んでいる事を確信した、その時だった―――。


「■■■■■■■■■――――――!」


 大気を震わせる程の、轟音が鳴り響いた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺はあまりの轟音に耳を塞ぎながらも、屋上にいる存在に釘付けになる。


「なんだよ―――あれ?うそ、だろ?あんな―――」


 怪物と言いかけて、言葉を呑み込んだ。それを言ってしまえば、この状況から立ち直ることができなくなりそうで。あの存在を認めてしまいそうで。

 今、俺は幻覚か夢を見ているのだ必死に思おうとしていた。

 だが、あの存在から発せられた轟音が、怪物である事を裏付けていた。

 だからこそ、俺の中の本能があの存在を視認した時点で“逃げろ”と訴えかけてきている。

 けれど、足が竦んで動くことができない。


 怪物はこちらを見据えたまま、動こうとはしない。じっとこちらを見ているだけだ。

 怪物の姿は、決して見たこともない生き物の姿をしているわけではない。寧ろ、その姿は良く見知ったものだ。


 ピンと伸びた耳。

 口から見える犬歯。

 体全体を覆う黒い毛。

 すらっと伸びた、しかしながら、がっちりとした四肢。

 その姿は、犬そのものだった。

 そう―――その大きさ以外は―――。


 その体躯は犬してはあまりに巨大だった。四つ足で立っているだけでも、その高さは3メートルはゆうに超えている。全長で言えば、おそらくは7、8メートルに達するのではないだろうか。


 俺は動けず、その場で棒立ちになっていた。


“何しているの!?早く逃げなさい!”


 再び、女性の声が聞こえてきた。だが、先程と同様にその姿はどこにもない。

 俺はその声に我に還り、逃げ出した。化け物に背中を見せ、ただ逃げることだけを優先する。

 後ろから、追ってくる気配はない。ただ、その巨大な存在が屋上にいて、俺を見ていることだけは、後ろを向かなくても感じることができる。


 俺は渡り廊下を渡りきり、別棟の校舎に逃げ込んだ。

 それからは無我夢中だった。ただこの学園から一秒でも早く脱出することだけを考えていた。

 幸い、声の主が言ったように、こちらの棟には野犬はいなかった。俺は一階までおり、窓から外の様子を伺う。

 外の様子は至って普通だった。先程までいた野犬が姿を消していた。あれほどの群をなしていたのに、今は一匹も見当たらない。


「一体―――どうなっているんだ?」


 俺は現状を掴めず、焦っていた。外にいたはずの野犬、そしてあの怪物。どちらも、本来ならばいるはずもないものだ。野犬はともかく、あの怪物は有り得ない。

 だが、今はあの怪物すらも姿が見えない。屋上にいたはずなのに一階から見上げた屋上には、その姿はなかった。

 それから、俺は外の様子を伺い続けた。どれくらい、そうしていただろうか。おそらくは十分程度のはずだ。たったそれだけの時間のはずなのに、俺にはやけに長く感じられた。

 そして俺は―――息も詰まるその時間から逃げ出すため、決断した。


「よし―――外に出よう!ここで、こうしてても何にもならない」


 俺は意を決して、窓から外に飛び出した。

 外は静けさに包まれている。


 俺はグラウンドの方へ走った。この学園の門は、中からなら鍵を開けられる仕様だったはずだ。グランドから校門まで行けば、校外へ出れる。

 けれど、走っている足がやけに重い。進んでいるはずなのに、校門まで道のりが遠く感じる。

 早く逃げたいという焦りが、そう感じさせているのだ。


「けど、後ちょっとで―――」


 だが、その囁かな願いは、一瞬にして打ち砕かれることになる。


「■■■■■■■■■――――――!」


 再びの轟音。その聞き覚えのある咆哮に、俺は不覚にも足を止めてしまい、咆哮の聞こえてきた方に振り向いてしまった。


 気にせず、逃げるべきだった。振り返ることなく、ただ校門を目指し走り続けるべきだった。


 そうすれば―――一秒でも長く生きていられたかもしない。


 上空から、巨体が舞い降り、俺の目の前に降りたった。


「ぁ―――」


 悲鳴にもならない声が出る。それは、死というものを直感してしまったが故のものだ。

 怪物は俺を見据え、ゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。

 金縛りにあったように俺は動けずいた。直感で分かっていたのだ。逃げたところで、意味がないことを。


 そして―――巨大な怪物は、その大きな口を開き、俺に食らいつこうとする―――。


「右に避けなさい!」


 突然の声。だが、その声には聞き覚えがあった。いや、その声の主は俺が良く知っている人物のものだ。その声に俺は我に還り、転がるようにして、右に避ける。

 そして、そのすぐ後を鋭利な物がもの凄いスピードで通り過ぎて行くの感じた。

 怪物は、人間の言葉分かるのか、それとも直感で理解したのか、俺とは逆方向へと移動し避けていた。


「怪我はない!?真藤君!!」


 声の主は、倒れた俺の側に来て、声をかける。


「あ、ああ―――大丈夫だよ、一ノ宮。た、助かったよ。

 それよりも、どうして君がここに?」


 俺は起きあがりながら、声の主に尋ねる。

 そう―――声の主は一ノ宮だった。どうやら、俺は間一髪のところで一ノ宮に救われたらしい。先程の鋭利な物は、一ノ宮が能力で起こした『風の刃』だったようだ。


「それはこっちの台詞よ!なんで、あなたがこんな所に―――」


 言い掛けて、一ノ宮は言葉を止めた。


「どうし―――」


 言葉を途中で切った一ノ宮に訪ねようした俺も、今が言葉を発していられる状況にないことに気づく。


「なんなの―――この怪物は―――」


 さすがの一ノ宮も、こんな犬の怪物を見るのは初めてだったようだ。


 怪物は先程の刃を躱すために俺達から距離を取っていた。けれど、その距離も怪物からすれば、無いに等しい。

 怪物は、一ノ宮が現状を確認し終わる前に襲いかかってきた。


「詮索している暇はないようね―――真藤君、私の後ろにいて!絶対に離れちゃダメよ!」

「わ、わかった!」


 俺は一ノ宮に言われた通り、一ノ宮の後方につく。

 一ノ宮は、俺達の周りに風を発生させ、風の刃を化け物に放った。だが―――


「■■■■■■■■■――――――!」


 再びの咆哮。だが、それは、これまでの咆哮とは明らかに違っていた。


「「な―――!」」


 一ノ宮と俺は驚愕の声を漏らす。

 それは当然のことだった。一ノ宮が放った風の刃は、怪物が咆哮を発した瞬間に消え去ってしまったのだ。


「そんな―――」


 一ノ宮は呆然とその有様を見ていた。自身の能力がかき消されたことが信じられないようだった。


 だが、怪物はそんな事を意に介さず、俺達の方に向かってくる―――。




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