第14話「真実」
私はお爺様の家の前に来ていた。
着いた瞬間、驚いた。お爺様は家の前に立ち、私を待っていたのだ。
「そろそろ、来るんじゃないかと思っていたよ」
「ホント――なんでもお分かりなんですね?」
お爺様は私の問いに渋い顔をした。
「そうでもないよ。蔡蔵の行動は予想外だった。まさか、精鋭部隊だけでなく、一般市民である彼まで見捨てるとは――あってはならないことだ」
その言葉には怒気が含まれていた。息子への怒りと失望が伺えた。
「お爺様はお父様が今どこにいるのか知っておられるのですか?」
「大方の予想つく。だが――訊きたいのはそんなことではないだろう?」
「――はい、その通りです。あの殺人鬼と私、そしてお母様との関係、全部話して頂けますか?」
「わかった――とりあえず、外でする話はないから、中にお入りなさい」
お爺様から厳しい表情は消え、いつもの穏和な表情に戻る。そして、私に背を向け、家の中に入っていく。
その背中を見た瞬間、私は顔を強ばらせた。その背中は穏和な表情とは違い、一ノ宮の先代当主としての威厳と威圧に満ちていた。それは覚悟の証拠だった。これからする話に、それほどの覚悟が必要だということか――。
居間に通されると、お爺様が私にあるものを手渡してきた。
「――これは?」
それは一枚の写真だった。その写真には、一人の綺麗な女性と、その女性に抱えられた二人の赤子が映っていた。女性はその二人の赤子に優しい微笑みを浮かべている。
「双子――? それに、この女性――」
その女性の顔には見覚えがあった。私の記憶の片隅に。
「おかあ、さま――?」
私はお母様の顔を覚えていない。私が7歳の頃に病気で死んでしまった母の顔を。7歳ならば、本来物心がつき、覚えていてよさそうなものだが、私の場合は覚えていなかった。いや――思い出すことができなかっただけなのか――。
「そう――その女性は怜奈のお母さん、一ノ宮怜子だよ。そして――その女性に抱えられている赤子こそ、怜奈、お前と――双子の兄、貴志だ」
「え――」
私はお爺様の言葉に呆然とした。何を言っているのか意味が分からなかった。
ここ映っている女性がお母様で、抱えられている赤子が私と――私の兄?
そんな事を言われても信じられるわけがない。私に双子の兄がいたなんて聞いたこともないし、その貴志という名前すら聞き覚えがない。そして、なによりも、兄がいた記憶などないのだ。
いや――違う。記憶がないわけではない。あの頃――私が幼かった頃、よく一緒に遊んでいた男の子がいたはずだ。それを私はつい先日思い出したではないか。
あの男の子こそが私の兄――?
その男の子の存在を思い出したのいつのことか――?
あの時、殺人鬼の素顔を見た時ではなかったか――?
「――まさか――」
あの殺人鬼が――私のお兄様――?
「すまない、怜奈。今まで黙っていた事を許してほしい。お前には辛い現実だと思い、私も蔡蔵も堅く口を閉ざしていた。だが、こうなっては話さない訳にはいかない。だから、私が知っていることは洗いざらい話そう。お前たち兄妹の真実を――」
そして、お爺様はゆっくりと語り始めた。過去を一つ一つ思い出すように。今まで私には隠されていた真実を。
◇
17年前、一ノ宮邸にて。
一ノ宮怜子は出産に伴う陣痛を向かえていた。
怜子にとって、これは初めての出産だった。それによる不安と、まだ見ぬ我が子への期待を抱えながら、陣痛に堪えていた。
一ノ宮家には出産時おいて、幾つか『しきたり』がある。
一、出産は一ノ宮家でのみ行うこと。
二、出産際して、部外者を立ち会わせないこと。
三、出産には一ノ宮家当主及び前当主が必ず立ち会うこと。
この三つのしきたりは、固形無形のしきたりと言うわけではない。歴とした理由がある。それは母子と一ノ宮家の秘密を守るためだ。
一ノ宮家の家系には、第一子に必ず能力が引き継がれるという決まりがある。これも能力の一つ言っても過言ではない。なぜなら、能力が子に引き継がれること自体稀なことなのだ。
一般的に能力者の子供が必ず能力を持って生まれてくるようなことはなく、その子供の子供、もしくは、さらにその子供の子供といった、何代先かに能力者が生まれ出る。それもかなり低い確率であり、二度と能力者が生まれでない家系すら存在する。
そんな中、一ノ宮家には必ず能力者が一人生まれてくる。それがどれだけ稀少な存在かは言うまでもないだろう。
だが、それには普通の出産以上のリスクを伴う。必ず、能力者が生まれるという特異な遺伝子も、代償が存在した。
一ノ宮家の子供は生まれながらにして『風』の能力を持つ。だが、赤子の段階では、能力の使い道と制御の仕方など分かるはずもない。結果、生まれ出た赤子は、その直後に能力を解放し、能力の暴走を巻き起こす。
この能力の暴走は、出産時において母子ともに命の危険を伴う。妊婦にとっては、生まれ出た赤子の能力によって死の危険を伴い、赤子にとっては、暴走した能力によって自分自身を殺しかねない。
それを阻止するため、先に述べたように一ノ宮家には出産において、『しきたり』がある。
出産を一ノ宮家でのみ行うことと、部外者を立ち会わせないという『しきたり』は、ある同じ理由のために定められた。それは、一ノ宮家の秘密を外部に漏らさないためだけでなく、部外者を出産に立ち会わせた場合、その部外者にも生命の危機が訪れるためだ。
そして、出産時に一ノ宮家当主と前当主を必ず立ち会わせる『しきたり』こそが、母子を守るために定められたものである。
前当主が立ち会う理由は、現当主自信が女性で妊婦であることも考えてである。
現当主または前当主は、赤子が生まれ出た瞬間に発生する能力の暴走を抑えるために立ち会う。
『風』の能力は、同じ能力で同等の力により、打ち消すことが可能である。当主が同程度の力を赤子に対して施すことで、赤子の能力の暴走を抑えることができるのだ。それは、高度な技術が必要ではあるが、一ノ宮家の当主ともなれば、造作もないこであった。
だが――それにも関わらず、一ノ宮蔡蔵と、その父、一ノ宮弘蔵は、極度の緊張状態にあった。
蔡蔵に関して言えば、妻の初めての出産に対しての不安という理由もあり得る。だが、弘蔵からすれば、すでに経験済みことのはずである。にも関わらず、二人は出産の痛みに苦しむ怜子を励ますわけでもなく、深刻な表情を浮かべ、それを眺めている。
その理由――それは、これから生まれ出る赤子が双子であるという事実を知っているからだ。
第一子が双子というのは、一ノ宮家始まって以来の事だった。
能力は第一子に引き継がれる。だが、それが双子で会った場合、能力はどちらに引き継がれるのか? どちらかの子供か、それともその両方か。
蔡蔵も弘蔵も初めての事に不安を隠すことができなかった。もし、双子の両方が能力者として生まれてきた場合、蔡蔵と弘蔵の二人がかりで暴走を止める必要がある。
どちらかが能力を引き継いている場合、どちらかが能力者なのか早々に見極める必要がる。そうでなければ、能力者でない赤子に危険が及ぶ。
一瞬の気の迷いや、判断ミスが母子を危険に晒す。それを彼らは恐れていた。
運命の瞬間――先に生まれ出たの男児だった。
生まれ出た瞬間、泣き叫ぶ男児から風が発生した。その瞬間、蔡蔵も能力を解放し、風を相殺する。
これで、まだ生まれて出てきていない赤子と怜子の命も守られた。蔡蔵はそう思っていた。その気の緩みが油断を招いた。その後に生まれた出た女児もまた風を巻き起こしたのである。
蔡蔵は対応に遅れた。一人目の子供の能力の暴走を抑えたことにより、安心しきっていた彼は、二人目の子供も能力者である可能性を忘れていた。一瞬の気の緩みが対応を遅らせ、本来であれば怜子はそれにより危険な状態に陥るはずだった。だが――弘蔵は見逃すことなく対応した。そのお陰で怜子も女児も事なきを得た。
これで、前代未聞の出産を無事に終えることができた。蔡蔵と弘蔵はそう思っていた。だが――出産を終えた瞬間、誰もが予想しえない出来事が起こる。
「ころして――その子を――殺して!」
その声は、今し方出産を終えたばかりの怜子のものだった。
蔡蔵と弘蔵は唖然としていた。今自分たちの目の前で起きている出来事に驚き、それを信じることが出来ないでいた。
怜子は、自信が生んだ男児の赤子を指して、殺してと譫言のように叫んでいるのだ。
何度も、何度も。同じ言葉を叫び、そして怜子は気を失った。
この時、蔡蔵と弘蔵は、言いしれぬ不安に襲われた。だが、二人の能力者が生まれ出たことに彼らは複雑な胸中を抱えながらも、喜びあった。
その後、目を覚ました怜子は、何も覚えていなかった。出産までの記憶はあるが、その後、譫言のように叫んだ『あの言葉』の事を覚えていなかった。
医者からの見解は、出産に伴う極度の緊張状態からの解放により、一時、心身衰弱状態に陥ったのではないかと言うことだった。
怜子は自分が産んだ子供たちを愛おしそうに抱え、微笑んでいる。それは既に母親の顔だった。その顔を見て、蔡蔵も弘蔵も安堵した。医者の言う通り、一時的なものだったのだと。
生まれた双子は、男児は貴志、女児は怜奈と名付けられた。
月日は流れ、貴志と怜奈が生まれ、7年が過ぎた。その間、平穏な日々が流れた。
貴志も怜奈も健やかに育ち、自信の能力も使いこなすようになっていた。特に貴志関して言えば、特質するものがあった。それだけ、能力の素質に恵まれていたようだ。
そして、貴志と怜奈の関係も良好だった。貴志は能力者としては怜奈より上であることが明らかだったが、それを見せつけるようなことはしないし、怜奈も自信が能力者として貴志より劣っていていることを気にする様子もなかった。
その二人の良好な関係は、二人にとって妹の存在――三年前に生まれた女児、聖羅がいたことが大きな要因でもあった。
貴志、怜奈、聖羅はいつも一緒に遊んでいた。誰から見ても、本当に仲の良い兄妹であった。
一方で、貴志の力はあまりにも強力すぎた。蔡蔵はそれにいち早く気づき、彼を次期当主にすることを、この時点で決めていた。
そして、蔡蔵は自信の任務へ貴志を同行させるようになった。
それが――悲劇を招くとは知らず――。
その日も、蔡蔵は貴志を任務に同行させていた。
滞りなく、任務が終わり、二人は帰途に着いた。
怜子と怜奈、そして聖羅は二人を出迎え、一家の団らんが始まるはずだった。
だが――蔡蔵が書斎で仕事を片づけている間にその悲劇が起きた。
その時、怜子と怜奈の悲鳴が屋敷全体に響き渡った。
蔡蔵は悲鳴を聞きつけ、居間へと行くと、そこは惨劇の後だった。
血塗れで倒れている妻、怜子と、その傍らで泣き叫ぶ怜奈と聖羅。そして――それを笑いながら見下ろす貴志がそこにいた。その彼の周りには風渦巻いている。
「――貴志――お前――」
蔡蔵は愕然とした。この状況は、貴志の手によるものだということは明らかだった。だが、蔡蔵は自分の目の前で起きていることが信じられなかった。それだけ、蔡蔵が貴志に寄せる信頼は厚いものだった。
蔡蔵は怜子の側へと近寄る。近くに見ただけで分かる。既に事切れていた。
「貴志――なぜ?」
蔡蔵は悲しみに打ちひしがれながらも、貴志へ疑問を投げかける。
だが、貴志はそれに笑って答えた。
「何故――? お父様はおかしな事をお聞きになる。僕はお父様がやっている事と同じ事をしただけですよ?」
「――」
その言葉に蔡蔵は自分が息子に施した教育が、どれだけ愚かなものであったかを思い知らされる。息子を自信の母親を殺すような怪物へ育ててしまったのは自分なのだと。
『ころして――その子を――殺して!』
貴志と怜奈を産み落とした直後の怜子の言葉が蔡蔵の脳裏を過ぎる。
あれは――出産直後の心身衰弱による一時的な言動などではなかったということか――。
今、自分の目の前にいる子供は、能力を暴走させ、狂気へと走る能力者と何ら変わりない存在になってしまったのだと理解するのに時間は掛からなかった。
故に――蔡蔵は貴志を自分の手で処理することを即断した。。
貴志が能力者としてどれほど素質があろうと、まだ子供であることに違いはない。大人の蔡蔵からすれば赤子を捻るようなものだ。処理することは容易く、すぐに終わるはずだった。
だが――、蔡蔵が風の刃で息子の首をはねようとした時、彼の中の息子への愛情が躊躇わせた。
「――どうしたのですか? お父様。僕を殺すのではないのですか?」
「――自分の子供を何の躊躇いもなく、平気で殺せる親など――いるわけがないだろう――」
「散々、人を殺してきておいて、自分の息子は殺せない――か。勝手な人ですね?」
「お前――」
貴志の言葉に蔡蔵は何も言い返せなかった。
貴志の言うことは正しかった。どれほどの能力者を殺してきたか数え切れない。にも関わらず、息子だけは殺せないなど、一ノ宮家の当主としてはあってはならない事だった。
だが、息子だけは――どうしても自信の子供だけは手に掛けられなかった。
「バカな人だ。僕はお父様を殺せますよ? なんの気兼ねもなくね」
「ま、待て――貴志!」
貴志は風の刃を発生させ、蔡蔵へと放つ。
蔡蔵はそれを辛うじて躱すが、それでも躊躇いにより応戦することはできなかった。
「死んでください、お父様!」
再度、貴志が風の刃を放とうした瞬間、それは起きた。
「やめてえええええええ!」
怜奈が叫びながら、飛び出してきたのだ。
彼女の周りには風が渦巻いていた。それも、誰も見たことがないほどの強力な風が。
「「――」」
それは、貴志や蔡蔵にとっても予期せぬことであった。二人は怜奈の行動に反応することができなかった。
「やめて! お兄様!!」
怜奈は強力な風を纏ったまま、兄である貴志にしがみついた。
そして――悲劇は起きた。
「な――怜奈、お前――ぐああああああああ!!」
怜奈が纏ったいた風は、貴志をズタズタに引き裂いていく。
そして――すべてが終わったとき、貴志は動かなくなっていた。
貴志は血塗れの姿で倒れていた。怜奈はそれを呆然と眺めている。
「おにい――さま?」
怜奈は自分がしたことを理解できずにいた。だが、それが自分のしたことであることに気づくのに、そんなに時間は掛からなかった。
「う、そ。お兄様! お兄様!! 目を開けて下さい!!」
何度も何度も、貴志を呼び続ける怜奈。だが、貴志からは何の反応も返ってこない。
「そんな――いや――いやああああああああ!」
怜奈は絶叫し、そして気を失った。
後日、一ノ宮怜子の葬儀が執り行われた。
だが、そこに怜子の子供である貴志と怜奈の姿はなかった。
貴志は死んではいなかった。辛うじて息があり、すぐに一ノ宮家お抱えの総合病院へと運ばれ、一命を取り留めた。だが、彼の精神は人として、既に壊れていた。理にかなった言動はなく、人の常識から外れてしまっていた。結果、能力者専用の病棟へ移され、厳重に隔離された。
怜奈は、病院に運ばれた後に目を覚ました。だが、彼女もまた精神に変調をきたしていた。誰の言葉にも反応せず、何に対しても興味を示さない、廃人のようになってしまっていた。母の死と兄を傷つけた自責の念が、彼女の精神に負荷をかけ過ぎてしまったのだ。
蔡蔵は自信のしたことを悔やんだ。息子を任務に同行させ、人を殺す姿を見せてしまったことに。自信が成さなければいけない事を娘の怜奈にさせてしまったことに。
その自責の念が、蔡蔵を更なる過ちに走らせてしまった。
蔡蔵は貴志を処分する事ができず、病棟に隔離し続けた。定期的にカウンセリングを受けさせたが、効果の程は見られなかった。
怜奈に対しては、怜子と貴志の記憶消すことで、精神崩壊から復帰できるように施した。こちらに関しては、上手く作用し、怜奈は見る見るうちに元気な姿を取り戻した。
蔡蔵は貴志と怜奈に施した事に関して、どちらも正しいことではないと気づいていた。だが、彼にはその選択肢しか用意されていなかったのだ。
そして――月日は流れ――今に至る。
◇
深いため息と共に、お爺様の話は終わった。
私はお爺様の話が作り話ではないことを分かっていた。だが、それでもそれが事実であることに実感が持てなかった。それは、話を聞いても、何も思い出すことができなかったからかもしれない。
それでも――殺人鬼の素顔を見た時の、あの恐怖が何であったかは分かった。あれは、過去の出来事への恐怖だったのだ。
「あの日、私は屋敷には居なかったから、実際のところは蔡蔵にしか分からない。私は蔡蔵から伝え聞いただけなのでね。
だが、事実であると私は思うよ。あの時の蔡蔵は、まだ酷く錯乱していたからね。嘘をつくこともできなかっただろう。それに嘘を言う理由もない。
私が話せるのはここまでだ――すまなかったね、怜奈。お前にはいつも辛い想いばかりさせて。許しておくれ」
お爺様はそう言うと、正座したまま、頭を畳につける。私に対して、土下座をしていた。
「あ、頭を上げてください、お爺様! お爺様は何も悪くないし、私も責めるつもりはありません」
「――ありがとう、怜奈。だが――蔡蔵の事も、できれば分かってやってほしい。今回の事は許される事ではないが、アレもあの時は必死だったのだ。お前たち兄妹を救うために」
「そ、それは――」
お爺様の言葉に同意することはできなかった。それほど、私の中でお父様への不信感は膨れ上がっていた。
「アレは怜奈にあの時の記憶を思い出させたくなかったのだよ。
だからこそ、今回の事件に関わらせたくなかった。
そして、怜奈までもが、貴志のようになってしまうことを何よりも恐れているのだよ。だからこそ、その歳なるまで、怜奈に任務をさせてこなかったのだろう」
「――」
そう言うことだったのだか。何故、あれ程までに任務から私を遠ざけていたのか、今になって分かった。
お父様は、恐れていたのだ。私が任務に就き、人を殺してしまった時、私が貴志のように、狂ってしまうのではないか――と。故に、紅坂命の監視任務の時も、「何があっても殺すな」と言ったのだ。
私は立ち上がり、居間から出て行こうとする。
「貴志に会いに行くのかい?」
後ろからお爺様に声をかけられた。私は振り向かず応える。
「――はい。すべてを終わらせに。
私にとって、殺人鬼が兄だろうと、お母様の敵だろうと関係ないんです。今は――ただ、一輝を守りたい――それだけなんです。だから――」
「わかった――怜奈の好きにするがいい。止めはしないよ」
「ありがとうございます」
私はお爺様の家から出ると、駆けだした。殺人鬼、一ノ宮貴志を探し出すために。




