表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
追憶編
33/172

プロローグ「荒井恵の場合」

・あらすじ

 一輝との再会を果たした怜奈。彼女はそれに運命を感じていた。

 彼女は思い出す。一輝と出会う切っ掛けとなった事件を。

 そして、何故彼の許から一度去らなければならかったのか、その真相が明らかとなる。



 私は暗い闇の中にいる。

 私には時々、意識が無くなる時がある。その間に私自身の活動が停止していればよいのだが、私の体は動いているようだ。そういう時、私はこの闇の中で佇んでいる。

 暗い暗い闇。どんなに眼をこらしても、闇しか入ってこない。そして何よりも、体を動かすことができない。指一本すら動かすことができない。声を発することさえできない。

 私はこの闇が嫌いだった。この闇が恐かった。いつか、私自身もこの闇に黒く塗りつぶされそうで。


「君の願いはなんだい?」


 不意にそんな声が聞こえてきた。

 私は驚いていた。突然聞こえてきた声にもそうだが、この闇の中に私以外の人間がいるかもしれないということに。そして、声も体の感覚さえもないこの世界で聴覚だけ生きていたことに。


――だ、誰?


 声は出ない。私は心の中でそう問いかけた。それを知ってか知らずか、声は再び聞こえてきた。


「君の願いを、想いを教えてくれないかい?」


 その声はとても優しかった。そして、この暗闇には似合わない、とても透き通った声だった。


 私の……願い……想い……?


 その声は不思議だった。聞いたこともない声なのに、その声にはとても安心できた。そして、その問いかけに純粋に答えようとする自分がいた。


――そんなの決まってるわ。この暗闇から出たいの!


 気づいた時、私は心の中でそう叫んでいた。


「その願い、その想い、叶えよう」


 声は私の想いに呼応した。声が応えた瞬間、私は光に包まれた。いや、それはまるで、この闇を討ち払うかの如く、光輝いた。そして声は最後にこう言った。


「但し、この闇を壊すことで。君はもう二度とこの暗闇には戻ってこられない」


 その声はそれまでと真逆で、暗く、淀んでいて、恐怖さえ感じさせる声だった。




 気づいた時、私は男性の前で佇んでいた。私は現実に戻ってきていた。意識を取り戻していたのだ。

 不意に男性が私にもたれかかってきた。私は避けることができず、男性に押し倒される形で倒れる。

 私は男性を抱き起こそうとした。その次の瞬間だった。赤い液体がベットリと私の衣服にも男性の衣服にも付いていた。

 男性の胸を見ると、鋭利なもので刺された跡があった。

 その瞬間、私は全てを悟った。


「いや……いや……イヤアァァァ!」


 気づいた時、私は叫んでいた。

 こんなの嘘だ。こんなの夢だ。こんなの現実じゃない。

 いやだ。いやだ。いやだ!

 これなら、あの暗闇の中の方がよっぽど良い。

 戻りたい。戻して。私をあの暗闇に戻して。

 いくらそう願っても、想っても、私はあの暗闇に戻れなかった。あの声が最後に言ったように。


 ――だったら……もう、心なんていらない!


 そうして私は自ら心を隔離し、言いなりの人形となった。



 私が聞いた声は、悪魔の声だったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ