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旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
悲しみの懐中時計編
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最終話「再会・運命」



 時澤邸での事件から数日後、俺と海翔はあの事件が起こる前となんら変わりのない生活を送っていた。俺は新一さんの助手を、海翔はフリーターをしている。

 俺はいま街のある一角で海翔を待っている。

 俺達は二人で会う約束をしていた。あの事件以後、初めてのことだ。

 何気に俺は海翔が元気にしているか気になっていた。


「よう、一輝!」


 海翔がやってきた。普段と変わりない様子で挨拶をしてくる。


「遅いぞ。十分も遅れやがって!」

「ああん? 十分くらいいいじゃねぇか。気にすんなよ」

「あのなぁ……はぁ、もういいよ。行こう。食いに行くんだろ? 俺も昼まだだから腹減ってるんだ」

「おう、そうだな!」


 俺達はそのまま、いつぞやのラーメン屋に入った。


「え……家業を、継ぐ?」


 ラーメンを食べている最中に突然、海翔がそんな話をしてきた。


「ああ。随分前から親からは言われたんだけどな。特にやりたいことがないなら家業を継げって」

「そ、そうなのか……」


 何か他に言うべきことがあるような気がいするが、あまりにも突然だったので、何も考えられなくなっていた。


「まあ、それも当然かなって思うようになったし、継ぐことにしたよ」


 その言葉に迷いはない。海翔は家業を継ぐと決断したのだ。


「でも……なんでそう思うようになったんだ?」

「ん? まあ、いろいろあったしな。そろそろ、自分の事は自分で決めた方がいいだろうと思って」

「……そっか」

「ああ。ま、家業を継ぐには色々勉強しなきゃなんねぇから、これからはあんまり遊べなくなるけどな」

「そっか……寂しくなるな」

「馬鹿ゆーな。ま、ちょっと忙しくなるだけだって。そんなんでお前と疎遠になることはねぇから心配すんな」


 意地悪そうに笑う海翔。それが何だか悔しくて、言い返した。


「ば、ばーか! 誰も心配なんてしてねぇよ!」

「けけ、無理すんなよ」


 そんな馬鹿な言い合いは、ラーメンを食い終わってもなお続いた。

 そんなことに飽きて、ラーメン屋から出てきたころには、日が傾き始めていた。

 ラーメン屋から出てくると、俺の目に以前見た光景と良く似たものが飛び込んできた。それは、柄の悪そうな三人の青年が制服を着ている女の子を取り囲んでいる光景だった。


「おい、海翔。あれ、この間の――って!」


 海翔に教えようとした時、海翔は既に走り出していた。


「おい、海翔!」


 海翔は青年たち後ろにやってくると、一人の青年の肩を掴む。


「ああん! なんだぁ!?」


 掴まれた青年は威勢よく振り向く。が、海翔の顔を見た瞬間、その青年の顔から血の気が引いていった。


「お……お前は……」


 青年は海翔を恐れるあまり震えていた。他の二人も海翔の事に気づくと女の子から離れていく。


「さっさと失せろ」


 海翔がドスのいった声でそう言うと、青年たちは大慌てでその場を去っていった。

 それを見て、俺は慌てて海翔の元に駆け寄る。


「けっ! マジで雑魚だな、あいつら……」

「はぁ……今回は喧嘩にならずに済んでよかったよ」


 安堵の息を吐く。もう、こういうのはこりごりだ。

 その後、女の子は俺達にお礼を言って、走っていった。


「なんか、思い出すな」


 俺はついそんな事を言ってしまった。


「あ、ごめん……」

「あん? なに謝ってんだよ?」

「え……」

「行くぞ」


 何事もなかったように海翔は歩き出した。俺は慌ててその後をついていく。

 歩いていると、不意に海翔が口を開いた。


「一輝」

「ん? なんだ?」

「俺はもう大丈夫だから心配いらねぇよ」

「……ああ、分かってる」

「そっか……なら、いいんだ」


 話はそこで終わった。その後、俺達はいつも通り笑い合って別れた。


       ◇


 間島探偵事務所、そこに私は間島新一に会うためにやってきていた。


「やあ、怜奈君。珍しいね? 君がここに来るなんて。てか、初めてじゃないかい?」

「ええ……そういえばそうよね」


 今までこの男と話す時は外で会うか、携帯で話すかだった。それは、私がこの男を警戒しているからなのだが。


「今日は……助手さんはいないの?」

「ん? ああ、彼なら友達と遊びに行ってるよ」

「……そう」

「それで? 今日は何の用だい?」

「この間の事件についてのお礼に来たのよ」

「ああ、そうなのかい? 別にいいのに」

「そうはいかないわ。私を謀ってくれたんだもん。きっちりお礼しないと、ね!」


 私は真正面から彼を睨みつける。


「あ、あれ? もしかして、一輝君の事、怒ってるのかい?」


 彼は顔を引きつらせながら、私から後ずさる。


「分かっているなら話が早いわ。どういうつもりで彼らをあんな所に!?」

「いやぁ……あれは、その……」


 私に問い詰められて、彼はあたふたとしている。だが、それもすぐにやめ、真面目な顔をして、こう言ってきた。


「それはだね、荒井恵を救うためだよ」

「彼女を?」

「あ、うん。結果としては残念な事になったけどね……彼らなら荒井恵を救い出せると思ったんだ。……もちろん、精神面での話だけど」

「それは……」

「結果として、彼女は彼らのお蔭で叢蓮の呪縛から解き放たれる事ができた。そうだろう?」

「え、ええ。まあ、ね」

「君に黙っていた事はすまないと思う。すまなかった」


 彼は素直に頭を下げる。


「はぁ……もう、いいわよ。そんな風に謝られた何も言えなくなるじゃない」

「あ、ああ、ごめんごめん。そうだよね」


 それで彼はいつも通りの飄々した態度に戻った。


「一つ聞かせてもらえるかしら?」

「なんだい?」

「私と一輝の事、いつから……?」

「……口止めされてたんだけどね。もう、いいかな。蔡蔵さんから聞いたんだよ」

「お父様から!?」

「うん。僕の役目は一輝君の監視。彼が君に出会う事がないようにすることだったんだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! それじゃあ、おかしいわ。それじゃあ、なに? 貴方はお父様の命に背いたってこと?」

「うん……そうなるね。でも、まあ、今やどこにいるか分からないような人との約束なんて、いつまでも守っていても仕方ないじゃないか」


 そう言って、彼は笑った。


「はあ!? なにそれ……本気で言ってるの!?」

「もちろん」

「あ、貴方って人は……」


 もう呆れるしかなかった。こんな適当な男が本当に一ノ宮の専属探偵なのかと思ってしまう。


「それにね。一輝君が僕の助手になったのは偶々なんだよ?」

「え?」

「一ノ宮専属の探偵である僕と偶々出会って、彼から助手になりたい言ってきたんだ。それって何か運命を感じてね。もしかしたら、彼は君との関係を断ち切ることができない運命じゃないか、そう思ってさ」

「運命って……」


 そんなものがあるはずがない。それに私はそんなものを信じていない。


「ま、運命はともかくとして……いい加減、彼に会ってあげたらどうだい?」

「な、何を言ってるの!? 貴方、一度ならず、二度までもお父様の命に逆らうつもり?」

「それは君だって同じだろう? 一ノ宮家の方針に従わない君も僕と変わらないと思うけど?」

「そ、それは……」

「同じことだよ。僕は君と彼は会った方が良いと思った。君だって一ノ宮家の方針が間違っていると思っているからこそ、家出してるんだろう? それと同じことだよ」

「………」

「会ってあげなよ。君だって会ってもいいと思ったから、ここに来たんだろう?」

「わ、私は……」


 私はどうすればいいのだろう。どうしたいのだろう。本当に一輝と共にいたいと思っているのだろうか。共にいれば、必ず彼を不幸にするというのに。

 けれど、それ以上に私は――。


        ◇


 海翔と別れた後、俺は間島探偵事務所に向かっていた。帰る前に新一さんの所に顔を出そうと思ったからだ。

 事務所のビルが見えてくると、俺は足を早めた。そうすると、事務所の入り口が見えてくるのもすぐだった。


「……あれ?」


 しかし、よく見ると、その入り口の前に誰かが立っている。その人はそこでじっとしている。


「お客さんかな? 新一さん、いないのかな?」


 俺は急いで、その人の元に駆け寄った。

 近くに寄っていくと、その人がある人物によく似ている事に気づいた。

 

「……怜奈」


 その人の距離がほんの数メートルになった時、自然と呟いていた。

 その声が聞こえたのか、その人は俺の方に振り向いた。


「……一輝」


 俺の目の前にいるのは間違いなく一ノ宮怜奈だった。


「やあ、また逢えたね」


 俺は微笑みながらごく自然に、それが当たり前のように話しかける。


「ええ、そうね」


 彼女もまた笑顔で答えてくれた。




次回、エピローグです。

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