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旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
見えない殺人鬼編
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第1話「殺人鬼現る」



 2012年 12月24日。月曜日。この聖夜にそれは起きた。路地裏での通り魔殺人。被害者は二十歳前後の若い男性。身元は不明だ。衣類品から身元をわり出せる物がなかったそうだ。そして、何よりも被害者の殺され方に問題があった。死体はバラバラにされたあげく、頭部がなかったのだ。目撃者はおらず、捜索願さえもなく、被害者のことも、その殺人鬼のこともわからずじまいで、警察はお手上げ状態だった。



 2013年 元日。新年早々、俺はかおりんからそんな話を聞かされた。なんでも隣町の皐月町で起きた事件らしい。普通の人なら正月からそんな話聞きたくないだろうが、俺は違った。その話を聞いた途端、現場に行ってみたくなった。もちろん、既に警察によって何もかも片付けられた後だろうが……。



 俺の名前は真藤一輝しんどうかずき。如月町にある如月学園に通う高校二年生である。こういった事件などがちょっと好きな普通の高校生だ。

 かおりんというのは、俺のいとこにあたる人で、真藤香里しんどうかおりのことである。この人は警視庁に勤める刑事で、要はキャリア組だ。この人はこうやって時々俺に事件のことを話してくれる。その度に、俺は推理して、かおりんに助言するのだが、「子供が考えたことなんて役に立たないわよ」などと言われ、無視されている。しかし、いざ蓋を開けてみると、俺の言った通りだったりすることが良くある。



「んで、警察はこれからどうするの? その通り魔殺人」


 そう聞くと、あまり聞かれたくなかったことなのだろうか、目を細めた。


「どうもこうもないわ。全力をもって、その殺人鬼を探し出し、捕まえるだけよ」


 かおりんは当然のようにそう答えたが、それとは裏腹にきまりの悪そうにしていた。

 要するに、警察は今回の事件について何一つ分かってないのだ。

 その時、なぜこれが通り魔殺人なのか、ふっと思ったが、それを口に出す前にかおりんはこの話を切り上げてしまった。


       ・

       ・

       ・


 1月7日。月曜日。今日は始業式だ。

 今回の冬休みはちょっと刺激的な話が聞けたが、ただそれだけで去年と変わらず退屈な休みだった。

 登校中、歩きながら俺はかおりんから聞いた事件について物思いにふけっていた。


「……。……ぃ。か……き。おい! 一輝ってば!」

「うわぁ! な、なんだぁ!?」


 突然でかい声で呼ばれ、びっくりして後ろを振り向くと、そこには俺と同じ制服を着た、がたいの良い男子生徒が立っていた。

 男子生徒は短髪茶髪な上、その髪を逆立ており、おまけに厳つい顔しているという、見るからに不良だった。

 俺にそんな不良っぽい知り合いは一人しかいない。


「なんだぁ。海翔かぁ……」

「なんだとはなんだよ! 新年の挨拶しようかと思って声かけたのに、お前全然気づかないしよぉ」

「あ、ああ、わるいわるい。ちょっと考えごとしててね」

「なんだぁ? また推理ごっこか? まったく推理オタクはこれだから……。オレはお前の将来が心配だよ」


 男子生徒は手を俺の肩に乗せ、まるで哀れむかのように左右に首を振る。正直、かなりウザったい。


「俺はオタクじゃない! 何度言ったら分かるんだ。ただ、推理するのが好きなだけだよ」

「それを世間一般ではオ・タ・ク、と言うのだよ。一輝君」

「うぅ~」


 新年早々だが、俺とこいつとの間ではいつもこんな感じである。

 この見た目は完全に不良な男子生徒は石塚海翔いしづかかいとという名だ。

 実は見た目とは裏腹に結構気の良い奴で、俺とは中学の頃からの付き合いだ。親友、もとい悪友と言ってもいいだろう。


 朝っぱらからバカなやり取りをしている間に俺たちは学園の校門にさしかかっていた。そこで俺たちは、クラスメイトの女生徒を見つけた。


「やあ、一ノ宮さん。明けましておめでとう」


 俺がそう女生徒に声をかけると、彼女はピタリと動きを止め、さっとこちらに振り向いた。それと同時に女性らしい艶やかなロングストレートの髪がなびく。


「おはよう。真藤君」


 無表情でそれだけ言うと、彼女はすぐにまた歩き出してしまった。


「あぁ……いいね~。怜奈様はいつ見ても凛々しい♡」


 などと言って、彼女を危ない目で見ているバカはほっといて、俺は彼女の後を追うように教室へと急いだ。

 彼女の名前は一ノ宮怜奈(いちのみやれいな)。彼女は一ノ宮財閥の令嬢である。

 俺は毎日のようにあんな感じで彼女に挨拶するのだが、返ってくる反応もいつもあんな感じだ。彼女はどことなく、近寄りがたい雰囲気があり、クラスでも孤立している。しかし、容姿は端麗で、男子からの人気は高く、海翔のような隠れファンがいたりする。

 そんな彼女に俺は――。



 教室に入ると、かおりんが教えてくれた通り魔殺人の噂で持ちきりだった。

 その後、警察は何一つ手掛かりがないので、公開捜査にした。学校から隣町は近いし、隣町から来る生徒もいるので、話題になるのは当たり前だ。


「なあ、一輝。通り魔事件の事、知ってたか?」


 クラスメイト達の事件の話題に耳を傾けていると、海翔からそう聞かれた。


「知ってたよ。なんだ? お前知らなかったのか?」

「うっ……まぁな」

「はぁ……相変わらずだなぁ。たまにはニュースとか新聞みろよ」

「うっせぇな。あんなの見て何がおもしろいんだか……」


 そう言って、海翔はぶつぶつと文句を垂れだす。


「わかったわかった。んで、それがどうかしたのか?」

「いんや、ただお前ならもっと詳しい事知ってるだろうと思ってさ」

「まぁ、知ってるけど……知りたいのか?」


 うんうん、と海翔はせがんでくる。

 さて、どうしたものか。かおりんから聞いた事を勝手に漏らすのは、本当のところ良くないのだが……。


「仕方ないなぁ……まあ、かおりんからは口止めされてないし、話してやるよ」


 やったーっと、喜ぶ海翔。何がそんなに嬉しいんだか……。

 俺はかおりんから聞いた話を手短に海翔に話してやった。


「ふ~ん。なるほどね~♪」


 俺の話を聞くと海翔はにやけながらそう呟いた。何か企んでいるような顔だ。


「なんだ? また良からぬ事でも考えてるんじゃないだろうな?」

「はっはっは。大丈夫だって。心配すんな!」


 そう言って、上機嫌なまま海翔は自分の席に戻っていった。

 そうは言うが、奴がああいう顔する時は絶対に良からぬことを考えている。


「何も起きなければいいが……」


 いつもの事だが、不安だけが募っていく一方だ。



 次の日、学校から帰ってくると、かおりんがいた。


「あれ? どうしたの、かおりん? こんな時間に」


 そう尋ねると、かおりんはふぅっと溜息をついて呆れた表情をした。


「どうもこうもないわよ。実は今日未明にまた隣町で通り魔殺人の新たな被害者が出てね……」

「え! マジで!?」

「ええ。犯行現場は違えど、現場の状況は前と同じ。被害者の身元も不明。それで、事件の聞き込みをしてたんだけどねぇ……」


 そこまで言って、かおりんは深刻そうな表情をする。


「し、してたんだけど?」


 そのあまりにも深刻な顔に俺は固唾を吞んでその先を促した。


「……なんの情報も入らないからサボってきちゃった。てへ♡」

「ズルゥゥ……! な、なんだよ、かおりん。刑事がそんなことでいいの?」


 緊張して損したよ。それに、てへってなんだよ……歳考えろよな。などと言ってしまったら、鉄拳が飛んでくるので言わないでおくが……。


「そうねー。でも、仕方ないじゃない? なんにも分からないんだから。犯人のことも、被害者の身元もね」


 かおりんはあっけらかんとそう言い切った。


「本当に警察は何もわかってないんだ?」

「ええ、本当にさっぱりよー」


 そう言って居間でテレビを見ながらくつろぐトド一匹であった。ちゃんと働けっての!




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