プロローグ「凍った世界」
・あらすじ
あれから二年半、探偵の助手をしていた一輝は家出少女を捜索依頼を引き受ける。
その少女、荒井恵を見つけ出し、連れて帰ることに成功する一輝だったが、時を同じくして連続通り魔殺人事件が起こる。
そして、荒井恵の父親がその被害者となり、再び彼女は姿を消すのだった。
一輝は荒井恵を見つけ出すために行動を開始する。
それが反転した世界への入口とも知らずに―― 。
チッチッチッチッチッチッチッ。
針が動く。絶え間なく動き続ける秒針。止まることなく動き続ける。それは永遠に、絶え間なく。
時の流れなんてものは、ただひたすらに前に進んでいくものだ。どんなに楽しい時間も、どんなに悲しい時間も、どんなに苦しい時間も過ぎ去るしかない。どんなに願っても、その時間は止まることなどない。巻き戻ることなどない。人はただ過ぎ去る〝時〟に身を任せるしかない。
チッチッチッチッチッチッチッ。
針は動く。時間は流れる。止めどなく。絶え間なく。
チッチッチッチ――。
しかし、それは突如として止まる。なんの前触れもなく。
そして――世界は凍りついた。
比喩ではない。文字通り凍りついたのだ。目に見えるもの全てが静止した。
それはもう〝背景〟だった。すべてが背景と化した。動物も植物も。そして、人間も。生き物が背景と化していた。
ハサミで■■だったものを刺してみた。けれど、何の反応も示さない。なきもしない。血すら流さない。当たり前だ。これは生きていない。背景なのだから。
だから、刺した。何度も何度も。飽きるまで。
こんな偽物だらけの世界、大嫌いだ。吐き気がする。
「……こんなの、イヤだよ……」
この世界に生きているのは自分一人だった。
だから、心を閉ざし、この凍りついた世界から逃げ出した。それが何処にも逃げ場のない袋小路と知らずに――。




