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旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
血の宿命編
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第4話「撒いた者」/4



 突然声を上げた怜奈にその場にいた誰もが驚いていた。


「ど、どうしたんだ、怜奈? 突然……。そりゃあ、確かに結構凶悪な事件だったけど、これまでの事と比べれば印象も薄い事件だし、一ノ宮家が関与するような事件じゃないだろ?」

「いいえ、そうじゃないのよ。そいつらを捕まえたの私なの。ほら、間島、二年前のクリスマスで……」


 怜奈が新一さんにそう話を振ると、新一さんもハッとした表情に変わった。


「あ、ああ! そう言えばそんなことあったね。君が男達に襲われている女の子を助けたやつだね! 確かあの後の処理を僕に頼んできたんだっけ。それで僕が気絶した彼等を警察に引き渡したんだ。うん、そうだそうだ!」


 どうやら二年前の起きた事件に怜奈と新一さんも絡んでいたらしい。偶然とは恐ろしいものだ。


「驚いたわね……まさか、あなた達が犯人グループを捕まえたなんてね……警察の資料には犯人逮捕に協力した一般市民がいるとしか書かれてなかったから知らなかったわ。あの当時は、私も管轄外だったし」


 かおりんは驚いた様子で二人を見ている。二人がそんな事件に関わっていたことが意外だったのだろう。俺だってびっくりだ。


「それで、かおりん? 何でその事件で、このクスリが下火になったんだよ?」

「え? ああ、そうだったわね。その犯人グループに殺されたのは女性だったんだけど、どうもこれでクスリ漬にされたみたいなのよ。犯人グループの主犯格は、取り調べで、その女性が最後まで気持ちよさそうに惚けていたって得意そうに言っていたらしいわ。ムカつく話よ、まったく。

 ま、そのおかげで警察は重い腰をあげて、そのクスリの一斉摘発に乗り出すことになんたんだけどね」


 それで下火になったってわけか。流石に警察が本腰を上げれば、クスリの使おうなんて思うバカは中々いないだろうしな。


「それじゃあ、その元締めも逮捕された?」


 そう尋ねると、かおりんは顔を左右に振った。


「残念だけど、そうはならなかったわ。厳重な捜査をしたんだけど、結局元締めを捕まえるどころか、その正体すらも分からなかったの」

「な、なんでさ? クスリをやっている奴から口を割らせれば簡単なことだろ?」

「それがそうもいかなかったのよ。確かにクスリを買った奴は何人も捕まえたけど、そいつも元締めを知らなかったの。どうもそいつらに売ってたのは仲介屋みたいでね、そいつも元締めから買ってたわけじゃなかった。元を辿ろうとしたけど、ダメだったみたい。どういう手段を使ったかは分からないけど、途中で完全に糸は切れていたわ」

「そんな……それじゃあ……」


 元締めはいまもこの街の何処かに潜んでいるってことになる。


「一輝はその元締めに命を狙われているってことになるわけね……」


 怜奈がそうポツリと呟いた。


「ええ、そうなるわね。私が来る前にあなた達がしていた話の通りとするならね。ちなみに言っておくけど、今回も同じよ。元締めの後は追えてないわ」

「だったら……だったら、やっぱり危険すぎるわ。一輝は警察に保護されるべきよ!」


 怜奈はこちらを見て、そう必死に訴えてきた。俺がこれ以上関わるべきじゃないと。

 怜奈の言いたいことは分かっているつもりだ。けれど、それだけは出来ない。


「ごめん、怜奈。危険なことは分かっている。けど……それでも俺は奴を追わないといけない」

「ど、どうしてよ!? 何でそこまで貴志にこだわるのよ! 貴方には関係のないことのはずよ。これは一ノ宮が解決しなければいけないことなの!」

「……そうかもしれない。けど、もうそれだけじゃない。三年前、俺はあいつに殺されずに生き残った。そして、またあいつは人を殺し始めたんだ。しかも殺されているのが、俺の命を狙ってきた奴と同じクスリを使用している人間だ。おまけに俺を殺そうとしているのがそのクスリの元締め。これは単なる偶然なんかじゃない。何か関係があるんだよ。俺と貴志とその元締めに。だから、このままじゃいられない。俺にはそれを突きとめる責任がある!」

「一輝……」


 怜奈は俺の決意の固さを悟ったのか、それ以上反対してこない。

 怜奈はしばらく黙って俯いた後、ふっと顔を上げた。その顔には迷いがなく、何か決意したような表情だ。


「怜奈……?」

「分かったわ、一輝。何を言われようと一度決めたことを曲げないのが貴方だって良く分かっている。これ以上反対しても意味ないってこともね。でも、だからって貴方を一人にしておくことはできないわ。命を狙われているのは紛れもない事実んなんだから。だから、ここから先、外に出るときは私も一緒よ。いいわよね?」

「え!? そ、そりゃあ、そうしてくれた方が助かるけど……いいのか? 家の方は?」

「問題ないわ。この一カ月で齋燈の怪我もほぼ治ったし、一ノ宮家の一切は彼に任せておいても支障はないわ」

「そ、そうか……」

「そうよ。だから、一人で何でもしようとしないで。私がいるってことちゃんと……」

「怜奈……。うん、分かったよ。ありがとう」


 俺が感謝の言葉を口にすると、怜奈は顔を振り、「気にしないで」と言って優しく微笑んだ。


「さて、お二人さんの話が決まったところで、今後のあんた達の方針を聞かせてくれない? これからどうするの?」


 俺と怜奈の間で話が纏まると、かおりんが何故か呆れた声で尋ねて来た。


「え……? そ、そりゃあ、まずはそのクスリの線から当たってみようと思ってるんだけど?」

「だから、どうやって?」

「昨日、俺を襲ってきた奴だよ。まだ捕まってないけど、奴を捕まえれば、何か手掛かりあるはずだ」

「ふーん、なるほどね。ちなみに訊いておくけど、その襲ってきた奴ってどんな奴だったの?」

「え? もしかして探してくれるの?」

「そりゃあ、まあ、ね。あんたの命もかかってるわけだし」

「助かるよ! えーっと、そいつはまだ高校生くらいの少年で、昨日は黄色いパーカーを身につけていたよ」

「黄色いパーカー、ですって……?」


 かおりんは復唱すると同時に、険しい顔つきになった。


「そ、そうだけど……どうかした?」

「一輝……残念だけど、そいつ、今朝皐月町の路地でバラバラの遺体になって発見されたわ」

「な、なんだって……!?」


 突然の訃報に俺は耳を疑った。

 昨日の少年が死んだ? あの能力者が貴志に殺されたってことか?


「どうやら先を越されてしまったようだね……さて、どうする? 一輝君」

「え、ええ、そうですね……」


 新一さんに問われて、俺は考え込む。

 昨日俺を襲ってきた奴がもう殺されている。あまりにもタイミングが良すぎるように思える。これは偶然なのか? いや――偶然なんかじゃない。昨日襲われたのも、あの少年が殺されたのも、何か関係があるはずだ。それこそ、もっと大きな、何か計り知れない策略というべきものがあるように感じてならない。

 となると――やはりここで鍵を握っているのは、クスリの元締めの方だろう。


「少年の方の線はなくなりましたけど、俺はやっぱり元締めを探そうと思います」

「そうか……うん、それが最も謎に近づける道だと僕も思うよ。いいだろう、君はその線で調査してみるといい。僕は僕の方で色々と探ってみるよ」

「ありがとうございます、新一さん。でも、いいんですか? その……蔡蔵さんの方は……」

「あ、ああ、それは問題ないよ。そっちも抜かりないから。きっと近日中にいい知らせができるはずだよ」


 新一さんはそう言って、怜奈の方に視線を移す。だが、怜奈は不機嫌そうにプイッと顔を逸らしてしまった。


「ま、まあ、蔡蔵さんの件は気にせず、君は納得いくまで調査をするといい」


 怜奈の反応に困り顔しながらも、新一さんは俺を激励してくれた。


「一輝、分かってると思うけど、元締めを探すとなると、クスリの売人に探りを入れる必要が出てくるわよ?」

「あ、ああ、そうなるだろうね」


 かおりんの意見に俺は頷く。けれど、それにかおりんは妙に不安そうな表情を浮かべた。


「気を付けなさい。奴らは結構あぶないから。なるべくクスリや元締めの事を調べてるってばれないようにやりなさい。客だと思われていれば、危険はないはずだから。私からできる忠告はそれだけよ」

「分かった。忠告感謝するよ、かおりん」


 俺はかおりんに礼を言うと、事務所の隅に掛けてあったコートを羽織る。

 準備万端。これでいつでも冬の街に繰り出せる――と、その前に確認すべきことがあった。


「そう言えば、新一さん?」

「ん? 何だい?」

「真希さんはどうしたんですか? 姿が見えませんけど……」

「え? 彼女かい? 彼女なら朝からいないよ。僕が事務所に来る前に外出したみたいだね」

「そうですか……」


 例の連続火災事件について話しておこうと思ったのだが……。

 彼女はあの火災にずいぶん興味を持っていた。もしかしたら、今度は一人で一昨日のように調べているかもしれない。けど、犯人が死んだ上、ヤバイ連中が動いているとなると、それは危険な行為だ。

 できれば忠告しておきたかったのだが――――と、いけない。真希さんの事を考えている場合じゃないな、これは。怜奈が真希さんの名前を出してからさらに不機嫌気味にこちらを睨んでいる。やっぱり真希さんの事は禁句だったか……。


「そ、それじゃあ、俺達はさっそく調査に行ってきます」

「うん、気を付けてね」

「無理すんじゃないわよ」


 新一さんとかおりんに挨拶を済ませると、俺は怜奈に向き直る。


「さ、それじゃあ行こうか、怜奈」

「ええ、行きましょう」


 俺と怜奈は二人一緒に事務所を出た。

 思い返してみれば、二人で何かの調査に出るなど、これが初めてのことだった。




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