エピローグ「幕引き」
どんな事象にも終わりはやってくる。永遠なんてものはない。だからこそ、如月町と皐月町で起こった連続通り魔殺人にも必ず終わりの時がくる。その通り魔の犯人もそれを百も承知だった。いつかは幕を引く時が来る――と。
だが、その幕引きが彼にとっては思いもよらぬ形になった。
「やれやれ……だね」
彼は薄暗い路地裏に佇んでいた。コートに付いているフードを被って顔を隠し、背を路地の壁に預け、立っている。
「まさか……こんな事になるなんて、ね」
彼の声は晴れやかだった。だが、そのフードから覗く口元は苦しげだった。いや、感情としては〝悔しげ〟が正しいのかもしれない。
「はは……これじゃあ、今回は退くしかないじゃないか」
彼は自分の右腕を見つつ、せせら笑っている。
「だがまあ、いいさ。もう〝十年〟も待ったんだ。いまさら数年待とうが、大した違いはない」
彼は何ら問題ないと笑う。自分の目的がいまだに達成できていないことに不満はあれど、ここで幕を引くことに後悔はない様子だ。
「だけど――あの人はこれからどうするのかな?」
不意に思い出したように彼はその疑問を口にした。
「まあ、あの人のことだから続けるんだろうね。また別の人で」
呆れた声でそう漏らすと、彼は預けていた背中を壁から離す。
「せいぜい頑張ればいいさ。ま、無駄だろうけどね」
それは侮蔑にも似た言葉だった。誰に対しての言葉かは本人にしか分からない。彼は嘲笑いながら、歩き出す。だが――。
「それにしても――」
突然、笑みが消える。陽気な彼は消え失せる。
「真藤、一輝……か。彼にまた会えるかな? 会えたらいいな。会えたなら、今度こそ――」
フードから鋭い眼光が覗く。それは復讐に燃える眼だった。
「――コロシテアゲルヨ」
人ならざる言葉を残し、殺人鬼は闇へと消えていった。
見えない殺人鬼編 完
『見えない殺人鬼編』を最後まで読んで下さった読者の皆様、大変ありがとうございます。
処女作ということで、大変読みづらかったかと思います。この場を借りてお詫び致します。大変申し訳ございませんでした。
読んで下さった方、もし気が乗れば、どんな些細なことでもよいので、感想など聞かせて頂ければ、大変うれしく思います。
さて、本編では色々なことが謎のまま終わってしまいました。
何故、殺人鬼は被害者の頭部を持ち去ったのか?
何故、真藤一輝と一ノ宮怜奈を殺さなかったのか?
細かい所では、何故途中で殺人鬼は豹変してしまったのか?
そして何よりも『殺人鬼』の正体です。
これらの謎は次章以降で少しずつ明らかになっていきます。
これはあくまで導入部。
次章以降から主人公・真藤一輝の世界は本格的に反転していきます。
どうぞ、お楽しみに。
読者の皆様、これからも『旋風と衝撃の狭間で』を宜しくお願い致します。




