表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旋風と衝撃の狭間で  作者: みどー
血の宿命編
117/172

プロローグ「血に堕ちる者」/3



禍ツ闇夜/



 揺らめく青い炎の中、僕は歩みを進める。


「やっぱりこうなったね、大神」


 青い炎に焼かれ、灰になっていく脳髄の破片に僕は語り掛ける。もちろん、返ってくる声などないと知りながら。


「何がお前の出る幕はない、だよ。アンタの計画はいつも穴だらけだ。そんなんで神になろうなんて、とんだ茶番だ。そもそも、アンタのようなただの人間(・・)が神になれるわけがないだろう」


 そう、人間だ。人の意志を操る音の能力。それが彼の力だった。だが、操れるのも所詮は同じ人間の意志までだ。それ以上の存在を操ることなど、できはしない。彼は終ぞその事実に気づくことはなかった。


「アンタは最初から最後まで間違いだらけだ。その理念からしてね」


 大神が犯した間違い。それは自分自身の能力を過信したことだ。自分は他者(・・)の意志をそれと気づかせることなく、完全に操ることができるという自負が彼にはあったのだろう。だが、それが人間やそれに与する生物にしか効かないことを彼は知らなかった。僕等・・のような存在には意味がないことを彼は最後まで理解できていなかった。もっとも、それに気づいていれば、神になるなど言うこともなかっただろうが。


「さようなら、大神。君の願いはここで潰えたけど、悔やむことはない。僕がちゃんとアンタの間違いを正してあげるよ」


 僕は最後にその言葉を大神に捧げ、天空の摩天楼から月明かりに照らされた静寂の街に飛び込んだ。



/禍つ闇夜・了





Prologue/



 暗い路地を僕は歩いていた。時刻は午前2時半。表通りですら人通りは皆無だ。にもかかわらず、僕は路地を歩いている。目的は――言わずと知れよう。


 僕は路地を歩く。すると、僕の行く先に一つの人影が現れる。

 人影はゆっくりと僕に近づいてくる。その姿がはっきりと視認できるようになった時、ソレは口を開いた。


「ミツ……ケタ……」


 片言だが、日本語だ。だが、息遣いは荒いうえ、その眼は狂ったように見開いていて、いまにも目玉が飛び出そうだ。


「やれやれ……またか……」


 溜息しか出てこない。もう何度目かなんて覚えておくのも億劫だから忘れてしまったが、またもの被害者(・・・)に僕は嫌気が差した。


「まったく……間違いを正すとは言ったが、尻拭いをするとは言ってないんだけどね」


 あんな事を言うのではなかったと、今更ながら後悔する。もし可能ならば、二ヶ月程前の自分を殺してやりたいところだ。


「ま、もっとも……君達にはそんなことは関係ないんだろうけどさ。それで? これからどうするんだい?」


 尋ねてみたものも、返答が返ってくることはないことは分かっている。もとより、そんな真っ当な意識があるとも思えない。


「ちっ! 出来損ないが!」


 嫌気が差す。ソレに対して嫌悪しか湧いてこない。こんなものが、僕と同じ所を闊歩しているなど、赦せるはずもない。


「デキ……ソコ……ナイ?」


 ソレは片言ながら、僕の言葉に反応した。


「驚いたな……少しは意識が残っているのかい?」

「デキソコナイ……チ……ガ……ウ……チガウ!」


 突然ソレは敵意を剥き出しにして、僕に向かってくる。


「一時的に感情が戻ったか……けど、やることは結局これまで通りなわけか」


 ソレは僕の目の前までやってくると、右手で僕の頭を掴む。


「クラッテ……ヤル!」


 ソレは大きく口を開き、歯を剥き出しにすると、僕の喉元に近づけてくる。


「喰らう……ね。いいね、今度はそういうタイプか。だけど――目障りだよ、雑種にんげん


 瞬間、頭を掴んでいたソレの腕を、僕は切り落とした。


「ウ……ガ……」


 ソレは腕を切り落とされたことに怯み、一歩後退する。


「ふぅん、恐れがあるのかい? そんなお前達にも」


 それは命あるものなら、必ず持っている感情だ。命があるが故に、その危機を感じることが不可欠となった。それが恐れだ。


「でも、分かってるかな? それは間違いだよ。君達が感じていいのは、恐れじゃない。畏れ・・だ」

「ウウ……ウガアアアア!」


 当たり前のことだが、ソレには意味のない言葉だったのだろう。ソレは雄叫びを上げ、残った左手で再び僕の頭を掴もうとしてくる。


 まったく……僕を前にしても、その畏れを理解できず、襲いかかってこようなど、愚行にも程がある。そんな奴にはキツイお灸をすえる必要があるだろう。


 僕は伸ばしてきた手を躱す。そして――。


「愚か者が。血に堕ちた哀れな人間如きが、我に触れようなど、万死に値する!」


 その瞬間、僕の周りに風が吹き出し、僕の前に立っていたソレは一瞬にしてバラバラになり、肉片へと変貌した。


「脆いな、人間。地獄の底で呪うがいい。我に刃向ったことにな」


 僕は眼下の肉片にそう告げると、進む先に散らばった血や肉片を風で吹き飛ばし、通り道を作る。


「お前達では我の足元を汚すことも叶わぬと知れ」


 そして、僕は暗い路地を歩く。今宵も楽しみのない虚しい夜だった。


 僕は渇いている。欲している。あの時・・・のような、命を燃やすような一時を僕は望んでいる。


「ああ……僕はこんなにも君を欲している。早く……早く来い。僕は三年前から君を待っているんだ」


 だから、今度こそ――。


「コロシテヤロウ」



/Prologue




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ