勇者枠が空いていたけど、マッサージ師になりました
連載物書いてる合間に短いの書きたくなって思いついたネタ。
「そういうわけで、あなたにはかの世界へ降りていただきたいのです。この通りお願いです」
俺の目の前で、とんでもなく神々しい美人が申し訳なさそうに頭を下げた。
完璧な土下座スタイルで。
俺は32歳のしがないIT土方の遠野邦俊。
何故自分がここにいるのかまだよくわかっていない、が。これはおそらく……。
「はぁ……」
何となく居心地悪く正座をしたまま周りを見回した。
星空のど真ん中のような場所だった。
何となくフワフワした感じなのは、空を飛んでいるから、か?
「ええと……俺はつまり……」
「はい、元の世界ではあなたは亡くなっています」
やっぱりかーーー!!
これ、よくアニメやラノベで見たお約束だ。
「……ちなみに俺、なんで死んだんですか?」
「過労で心臓発作です」
「……家で?」
「はい、家で」
なら、実家で一緒に暮らしていた両親はさぞ驚き悲しんだことだろう。
「少なくとも、死んだ後に死体放置って状況にはなっていないんでしょうか?」
「お待ちください」
女神?が手元にタブレットなようなものを出して何やら操作している。
「はい。もうお葬式も無事に終わっているようです」
「……そう、ですか」
父さん、母さん、ごめんな。先に死んで。
弟たちよ、両親のことは頼んだぞ。俺の遺した貯金も好きにしてくれ。大した額じゃないけど。
近いうち新しい車を一括で買うつもりだったので、それなりにまとまった額はあった。
俺の葬式代には足りたはずだし、部屋を片付けるくらいも残るはずだ。
……死んだらあの世まで金は持っていけないとはよく聞くがこういうことかと実感した。
いや、実感したくはなかったけど。
「それで?俺はこの先どうしたら?」
「はい。選択肢は二つあります」
「二つ……?」
「ええ。まずあなたが下りる予定の世界ですが、あなたの暮らしていた世界とよく似た世界になります。科学が発展してます」
「え!?」
こういうのって、中世の剣と魔法の世界的なのがお約束じゃないのか!?
令和の日本でいいの!?
「ただし魔法もあり、魔王と魔王軍もいます」
「……それ、だいぶ危険な世界では?」
「治安は安定していますよ?」
「魔王と魔王軍がいるのに?」
「魔王と魔王軍がいるのにです」
……ええと?
「俺はそこで何をすれば……?」
「はい、先ほど申し上げた通り選択肢は二つあります」
女神さまがタブレットを俺の目の前に出してくる。
「一つは、勇者となり、魔王と魔王軍と戦う道」
「いやいやいや。俺、そういうの向いてないです」
「もう一つは癒し手となる道です」
「癒し手?」
あれか、ゲームキャラで言うヒーラーみたいな?
「その癒し手って何ですか?」
「マッサージ師です」
は?
まっさーじ?
まっさーじってあのまっさーじ?
「そうです、マッサージ師となり、かの世界の癒し手となる道です」
「……勇者とマッサージ師って振れ幅ありすぎじゃないですか?」
「でも今はその二つしか残っていなくて……」
「どういう意味ですか?」
「……かの世界には今まで幾人もの転移者がいます。転移の際にスキルを選んでもらうのですが、つい先日そちらの元の世界で大きな事故があり、その際かなり多く転移させたので、選べるスキルはもうその二つだけなんです」
「勇者なんて取り合いになりそうなもんですが……」
「はい。勇者を選んだ方はいました」
「だったら……」
「亡くなったんです」
は?
「勇者を選んだ方はつい昨日亡くなりました。死因は毒殺です。なので、勇者が今空いているスキル枠になったんです」
なんじゃそりゃー!!
「それでどうしますか?」
「そんなの聞いたらマッサージ師しかないでしょう」
「ではマッサージ師としてかの世界へ降りていただきます。手を出してください」
言われるまま両手を差し出すと、女神様の手が乗せられる。
柔らかくてあったかい。
瞬間、頭の中に何かが弾けるような感覚があった。
「はい、これでスキルの譲渡は終わりました」
「スキルの譲渡、ですか?」
「はい。ちょっと強く念じてみてください。付与したスキルを確認できるはずです」
ほんとかよ……と思いながら目を閉じて念じる。
マッサージのスキル……マッサージのスキル……。
ふと頭の中に言葉が溢れた。
スキル【至高のマッサージ】
・【疲労完全回復】:揉まれた者は、肉体的・精神的疲労がゼロになる。
・【身体欠損回復】:身体欠損した者を揉むと、欠損した箇所がよみがえる。
・【バフ(能力向上)付与】:施術後、24時間全ステータスが3倍になる。
・【絶対降伏】:あまりの気持ちよさに、どんな敵でも戦意を喪失する。
え、これ、すごくね?
「それからこれを」
女神さまに手渡されたのは、肩掛けの少し大きめのバックだった。
「中に色々と役立つものを入れてあります。いわゆる初期装備、というものですね」
「……女神様、さては案外こういうの好きですね?」
「……」
「ありがたくいただきます。それで、俺は向こうの世界で何をすれば?」
魔王を倒せとか言わないでくれよ?
「普通に暮らしてくれればいいですよ?」
「え?何か使命とかは……?」
「いいえ、あえて言うなら、かの世界で好きに暮らして、前の世界で得られなかった幸せを得てください」
「……」
「ここだけの話ですが、あの世界では住人の幸福が世界を守る力になるのですよ。私にとってはそれが一番大切なんです」
「だったらほんとに好きにのんびり生きますよ?」
「ええ、そうしてください。あなたの住居は用意してあります。今から転移する町のどこかに……あっ、すみません。どこに用意されるかは、このガチャで決まります!」
「えっ、ガチャ!?」
女神様がいつの間にか手元に金色のガラガラを取り出していた。商店街のくじを引くところに設置してあるアレだ。
おい、急にファンタジーから昭和の歳末セールになってないか?
「さあ、回してください!」
「いや、せめて治安の良い場所を……」
「それはガチャが決めてくれます」
「俺、ガチャ運ないんですよね……」
ソシャゲのガチャは爆死しかしたことがない。
「では私が回しましょう」
「はい」
ガラガラガラ、ポロン。
出てきたのは、禍々しいほどに不気味な紫色に輝く玉だった。
「あっ」
「え、何その『あっ』って。不吉すぎるんだけど!」
「お、おめでとうございます! 魔王城から徒歩10分の特等席、超一等地のテナント付き一戸建てです!」
「最悪の立地だよ!!! 」
「大丈夫です、物件の防音性とセキュリティは神界保証付きですから! それでは、良い第二の人生をーー!」
「ちょっと待ておおい!」
叫ぶ間もなく、俺の足元が光の渦に包まれた。
……やっぱり、俺のガチャ運は最悪だ。
視界がホワイトアウトし、次に目を開けたとき、俺は小綺麗なフローリングの部屋に立っていた。
窓の外を見ると、空はなぜか常に薄暗く、すぐ近くにはファンタジー映画でしか見ないようなトゲトゲした巨大な城がそびえ立っている。
あれが魔王城……。
「……本当に魔王城の目の前じゃねぇか……」
絶望しながら自分の体をチェックする。
体はすこぶる軽い。
IT土方時代に慢性化していたバキバキの肩凝りも、重かった腰も、嘘のように消え去っていた。
手元には、女神に渡された大きめの肩掛けバッグ。
中を開けてみると、この世界の通貨らしき金貨が数枚、数日分の食料、そして……。
『リラクゼーション・サトウ』と書かれた、立派な木製の看板が入っていた。
「遠野邦俊だから『リラクゼーション・トオノ』だろ普通! なんで勝手にサトウにされてんだよ! 誰だよサトウ!」
どうやら神界のデータベースで名前の紐付けエラーでも起きたらしいと看板に残された作成時のバグが読み取れた。
サトウは俺の前世で多い名前だからこれでいいだろうってことみたいだったが、神界のIT土方もデスマしてんのかもしれないと思ったら同情心がわいてきた。
神のシステムのバグが初手で牙を剥いてきたことに深い悲しみを覚えたが、まあいい、異世界だしこの際「サトウ」で通そう。
異世界で別の名前なんて何かかっこいいじゃん。
腹をくくって、1階の店舗ドアに看板を掲げ、オープン初日を迎えることにした。
科学が発展しているというのは本当らしい。
ビルが建ち、道路は舗装され、車も走っている。
ただ、その車のデザインはどれもやけに刺々しい。どこのヤンキー改造車だよ、みたいなのばかりだ。
後で知ったことだが、車を動かしているのはガソリンなどの燃料ではなく、魔石と言われる石を溶かしたものらしい。
さて……ここは魔王軍のど真ん中の町。
ここは大通りを一歩入った商店街みたいな感じだな。
ということはこの店に来る客はもれなく魔王軍の魔族たちか一般市民の魔族ってことだよな……。
俺は道行く角だの尻尾だの翼だのある異形の生き物たちを見ながら、ふと、道の向こうにいる集団に目を止めた。
「お前ら、早くしろ! 遅れたら魔王様に首をはねられるぞ!」
大通りを歩く、全身フルプレートアーマーに身を包んだ角のある大男が部下らしきトカゲ男たちを怒鳴り散らしていた。
背中には大きな大剣。見るからにヤバい奴だ。
関わらんとこ……とコソコソ店に戻ろうとした動きがどうやら目立ってしまったらしい。
大男はわざわざ大通りからこちらの通りに入ってきて、入口に掲げた看板を凝視している。
俺はといえば、店に入り損ねて、店の前で立ち尽くしていた。
「おまえ、人間か……?」
「え、あ、はい。今日からここに、この店を構えることになりました……サトウです」
危ない危ない、遠野って言いそうになった。
今日から俺はサトウだ、サトウだ……。
「『リラクゼーション・サトウ』……? マッサージだと? フン、この俺、魔王軍・突撃隊長のドルンが、そのような貧弱な人間の愛撫など受けるか。我が肉体は戦場での鍛錬によって、すでに鋼鉄の領域にーー」
「あの、めちゃくちゃ右肩上がってますよ」
俺は気になってそう声をかけた。
「は?」
「それ、大剣の重みと無理なフォームのせいで、右の僧帽筋が限界超えて悲鳴上げてます。あと軽い腰椎ヘルニア気味ですね。そのまま戦うと、次に大剣振った瞬間、ギックリ腰で2週間は動けなくなりますよ」
「な、何だと……!? なぜそれを見ただけで……」
ふふん、伊達にスキル【至高のマッサージ】を付与されていない。
念じるまでもなく、相手の体の「凝り」や「不調」が、赤黒いモヤのようなエフェクトで視覚的に丸見えなのだ。
「まぁ、15分だけでも揉んでいきます? 初回は半額でいいですよ」
「……チッ、そこまで言うなら試してやる。ただし、生半可な施術ならこの店ごと叩き斬るからな!」
よし、最初の客ゲット!
ドルンはフンスと鼻息を荒くしながら、物々しい鎧をガチャガチャと外して施術用のベッドにうつ伏せになった。
「じゃあ、始めますね。……まずは【至高のマッサージ・筋肉弛緩】」
俺がドルンの盛り上がった右肩に触れ、親指でグッとツボを押し込んだ瞬間。
「ふぐぉおおおおおおおおっ!?」
魔王軍の突撃隊長から、潰されたカエルのような声が出た。
「な、なんだこれは……!? 痛い! 激痛だ! だが、痛みの後に、意識にドロドロの快感が押し寄せてくる……っ!貴様の指先から、なんか凄い魔力が直接流れ込んできて、俺の筋肉をトロトロに溶かしていくぞおおお!」
「かなり凝ってますからねー。あ、ここ、もっと深く行きますよ」
「待て、そこはダメだ! 俺は魔王軍の誇り高き戦士、こんな人間に与えられる快楽に屈するわけにはーーあんっ! ほぎゃぁぁぁぁぁ! 良い! そこ最高ぉぉぉおおお!!」
よし、落ちたな。
15分後。
ベッドの上には、すべての戦意を喪失し、目は完全にすわって口元からだらしなくヨダレを垂らす、1匹の「だらしない大型犬」と化した突撃隊長が転がっていた。
「あへー……。俺、なんであんなにカリカリして、人間滅ぼそうとしてたんだろ……。世界平和、マジ最高じゃん……」
スキル、絶対降伏の効果は抜群だ。
さらに、彼の手足からは、ステータス3倍のバフ効果による神々しい黄金のオーラがドバドバと溢れ出している。
「ドルンさん、お疲れ様でした。お会計はまだ決めてないんですよ。ここでの相場を教えてください。その半分でいいです」
「半分なんてとんでもないっ!全部持って行ってください!」
俺の掌にずっしりと金貨が積まれた。
いやいや、ちょっとこれはぼったくりすぎでは?
「さ、サトウ先生……。俺、明日から心を入れ替えて、毎朝の街のゴミ拾いから始めます……。また明日も揉んでくださいぃ……」
魂を抜かれた突撃隊長は、生まれたての小鹿のようにプルプルと震える足で、お礼を言いながらフラフラと帰っていった。
それから1週間。
ドルンの口コミは、魔王軍の中で瞬く間に爆発的な広がりを見せた。
「サトウ先生! 今日も私のガチガチの翼を揉んでください!」(魔王軍・飛行部隊長)
「先生の指先がないと、もう夜も眠れないの……!」(魔王軍・天才呪術師)
いつの間にか、俺の店には魔王軍の幹部たちが連日大行列を作るようになっていた。
店を襲うどころか、全員が「サトウ先生の仕事の邪魔をするな!」と、自発的に店の前の警備や行列の整理を始める始末。
今や我が家のセキュリティは、神の加護以上に魔王軍の精鋭たちによって完璧に守られている。
そして、オープンから2週間が経ったある日のこと。
カランコロン、と店のベルが鳴った。
「すまない、予約していた『マオ』だが……」
入ってきたのは、仕立ての良い高級スーツを着こなし、頭部に立派な2本の角を生やした、圧倒的な覇気を放つ超大男。
科学が発展したこの世界の、本物の魔王だった。
「あ、マオさんですね。お待ちしておりました。今日はどちらが?」
「うむ……。最近、DXの推進でな。慣れないデスクワークを深夜までやっていたら、完全に首と腰がいってしまった。我が魔力を持ってしても、この『ストレートネック』だけは治せぬのだ……」
世界を滅ぼさんとする魔王が、現代日本のデスクワーカーと全く同じ理由で首を痛めていた。
「俺に任せてください。じゃあ、ベッドへどうぞ。容赦なく行きますからね」
「フハハ、面白い。我が強固な肉体を満足させられるかーー」
俺が魔王の首の付け根に両親指を突き立てた瞬間、異世界最高峰の絶叫が治療院に響き渡った。
「ぬおおおおおおおおおおっ!?!?!?」
はい、落ちた。
「……サトウよ」
「はい?」
「余は今まで、これほどまでに首が軽くなったことがない」
「それはよかったです」
「ところで、次回の予約は取れるか?」
「来週なら空いてますよ」
「では、毎週同じ時間で頼む」
「かしこまりました。今後ともごひいきに」
「うむ」
その日以来、魔王も俺の指の虜になったのだった。
「おい、ここか?どんな疲れも消し飛ばすマッサージ師がいるっていうのは」
ある日、店のドアを乱暴に開けて入ってきたのは、人間だった。
何で魔族の町に人間が?
「あの、あなたは……?人間、ですよね?」
「ああ、私は隣国の騎士でエルザという」
「え、隣国の方ですか!?」
「そうだ。最近、魔族の国に人間が店を出していると聞いて、様子を見に来たんだが……おまえか?魔族の中にいる割にはひょろいな」
ひょろくて悪かったな!
マッサージはできるからいいんだよ!
IT土方の運動不足なめんな!
「それで……隣国の騎士の方がどんな御用で?」
「必要なら保護をと思ってきたんだが」
「いえ、結構です。私はここで結構安定してうまくやれてますので」
「だが、ここは魔族の国だぞ」
「魔族がみんな危険なわけではないですよ。実際、この店の常連の皆さんは私に良くしてくれています」
食事はそこの食堂のマユホさんが毎日気にかけてくれているし、掃除は隣のキッカさんがマッサージを料金代わりにしてくれているし、その向かい側の洗濯屋のポカさんは毎日清潔なタオルを届けてくれる。
ドルンさんたちは街の美化活動に熱心だし、魔王様は最近は、人間たちとの和解を望んでいるとの声も聞こえてくる。
平和が増えていていいことだ。
「……実際、この城下町に入るのもむしろ歓迎されたくらいで何が起こったのかと思った」
「でしょう!?魔族の皆さんは危険ではないことをむしろ帰って報告していただければ……!」
「そういうわけにはいかん、500年以上、人と魔族は争ってきたのだ。そう簡単に和解できるものならもっと昔にしている」
「さいですか……」
そんな長い間争ってるなんて聞いてないんですが、女神様!
「ところで。サトウ、か?そのマッサージを私にもお願いできるか?」
「あ、はい。初回限定15分で銀貨一枚です」
「ではまずそれで頼みたい」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ。あ、鎧は外してくださいね」
「うむ」
彼女は漆黒の鎧を身にまとい、眉間に深いシワを寄せていた。
見るからに限界ギリギリ、お疲れのようだ。
「改めて、店主のサトウです。まぁ、お気楽に横になってください」
ベッドにうつぶせになった彼女の背中はしっかり鍛えられていて固そうだ。
俺は両手に最近ちゃんと使えるようになった魔力を籠め、スキルの発動とともに彼女の肩甲骨のキワへと親指を滑らせる。
「では、失礼して――」
「ひゃぅあぁっ!?」
エルザの口から、可愛らしい悲鳴が上がった。
「な、なんだこれは……!? 指が、指が私の鎧のような筋肉をいとも簡単に捉えて……っ、熱い、奥まで熱いものが溶け出してくる……!」
「ここ、凝ってますね。少し強めに押しますよ」
「待て、待て離せ! 私は誇り高き騎士……こんな、こんな快楽に屈するわけには――あんっ! 最高の、そこ、最高ぉおおお……!!」
彼女の頑ななプライドは、俺の指先が放つ極上の快感によって一瞬で消し去られた。
ひともみごとに脱力していく。
目はトロンと虚ろになり、口元からはだらしなく涎が垂れていた。
15分後。
「ふはぁ……私、今まで何をカリカリしていたのだろう……。世界平和とか今日はもういいや。ずっとここにいたい……」
女騎士は、すっかり「骨抜き」にされ、ベッドの上で幸せそうにふにゃふにゃと身悶えしていた。
それからというもの、俺のリラクゼーション・サトウには口コミを聞きつけた世界の重鎮たちが押し寄せるようになった。
人間関係のストレスで胃を痛めていた魔導王、連日の書類仕事で腰が死んでいたエルフの女王、玉座の硬さにすっかり腰がやられていた隣国の国王。女神の教えを布教する宗教国の大神官。
俺は誰に対しても平等に、その極上の指先を振るった。
揉まれた者はみな、一様に蕩けた顔で「サトウ様ァ……」と信者のようになり、スキルのバフによって、翌日までの24時間のステータス三倍の恩恵で、神がかったスピードで仕事を片付けていく。
そのおかげで、最近では人間と魔族の戦争も終結に向かっているらしい。
どうやら、俺の後に来た勇者は、魔王を倒す必要がなくなってしまい、普通の市民として生きることにしたらしい。
「サトウ先生こそ人間と魔族の争いを止めた勇者だ!」
と言われてるが、俺、勇者じゃないんだけどなぁ……。
まあ勇者じゃなくても、世界平和はもたらせるってことで!
「サトウ先生、今日も私のコリを……その、溶かしてください!」
あれ以来毎日のように通い詰めるようになったエルザが、頬を赤らめておねだりしてくる。
「はい、ではそちらへ」
「よろしくお願いします……」
この世界は俺のいた世界とは少し違う科学が発展した世界だけど、あっちでIT土方をやっていた時より、人に必要とされている喜びがある。
これが幸せってものか、と毎日感じているので、きっと女神さまも満足していることだろう。
俺の指先ひとつで、今日もこの世界の平和は保たれている。
終




