白雪姫の罪−王妃の悲しみと鏡の心境−
大人向けです。苦手な人もいると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
白雪姫の罪−王妃の悲しみと鏡の心境−
とある国のとある代の王妃は言いました。
「私の顔はそんなに怖い?そんなに恐ろしい?」
真実の鏡はその時2度目嘘をつきました。
「……いいえ、世界で一番お美しゅうございます」
とある国に、子供を身ごもっていた王妃がいた。
王妃は雪の見える暖炉の前で、一人刺繍をしていた。
「イッ……」
指に針が刺さり、真っ赤な血が流れ出る。
王妃は思った。生まれてくる子が女の子なら、
雪のように白い肌で、血のように赤い唇に、黒檀のような黒い髪の娘になればいいと。
それを見ていたのは、王妃の真実の鏡だけだった。真実の鏡はきっと生まれる子はとても美しい姫になると言った。
王妃は死んだ。産まれたばかりの姫を残し。
彼女は白雪姫と言われるようになった。白く雪のような肌に、血のような唇、黒檀のような黒髪になぞらえて。
姫は母がいなくとも、元気で優しい子に育った。
しかしそれでも『王妃』というものは必要だった。気の弱い王のため。
だから王は新たに王妃を迎えた。美しい女だった。
彼女は前の王妃の友人で、心優しい女だった。でもそれと共に、王の事を、強く……強く愛していた。
でも王は前王妃を愛していた。死んでもなお、王の心には彼女しかいなかった。
王妃はそれを分かっていた。自分は王の代わりに政治をする為にいると。
白雪姫と王妃は、白雪姫が5歳の時に初めて会った。
王妃は白雪姫を見た瞬間。泣き出した。
「こッズッ怖い……え~んッズ」
えんえんと泣き出した白雪姫に王妃は困惑した。目が合っただけなのに。
王妃は真実の鏡に聞いた。
「私の顔はそんなに怖い?そんなに恐ろしい?」
王妃は泣きながら、前王妃が残した私という鏡に聞く。
確かに彼女は美しい一方で少しきつい顔つきをしている。でも、
鏡に映るのは、まだ20年程度しか生きていない娘が、王妃として生きようとしている。愛する王に愛されなくとも、義理の娘に嫌われても。
前に向かってゆこうとする少女が映った。美しい少女が。
「……いいえ、世界で一番お美しゅうございます」
そう。真実の鏡は、私は2度目の嘘をついた。
そうすると、継母という立場にいきなり落とされた王妃が、少女の笑みを浮かべた。
それからしょっちゅう、私に聞いてくる。そして笑顔の練習をする。
王妃は言う。姫がまた泣いてしまった。王から話しかけてくれた。
何気ない話を、ただ言ってくる。私は鏡で、動けないけれど、王妃と話した。真実を知っているが、全知ではない。
王妃がある日泣きついて来た。
「陛下が、白雪姫に言っていたのです。愛しているのはお前の母だけだと。」
王妃が来てから3年目の事。彼女は言った。
彼女が続けた。
「知っていたわ!愛されないのも、あの子には敵わないのも!でも……でも……」
彼女は続けた。涙がポロポロ落ちて、言ってくる。
「白雪姫が……言ったの。あの人は……ッズ……怖いって。会いたくないって……」
王妃は白雪姫を、他人なりに愛していた。
好かれようと、毎日の様に私の前で笑う練習をして、毎日聴く。
『どう?怖くない?』
優しい王妃に、その時、影が落ちていた。彼女を不安に思うほど。
それから毎日の様に聞く。
「私は……綺麗か?あの子よりも……」
あの子……前王妃のことを言っているのか、少しずつでも確実に美しく、そして前王妃に似てくる白雪姫の事か。
私はただ、嘘をつく。
「ええ、貴方が一番美しいです。」
そう言うと安心したように笑う。でも段々、嘘が言えなくなっていった。
王妃が嫁いできて、6年目。
白雪姫は森に遊びに行った時。その時、王妃はまた聞いて来た。
「私は美しいか?誰よりも……?」
その時、私にヒビが入った。もう限界が近いようだった。
「……いいえ、誰よりも美しいのは……白雪姫です。」
そう言った時、王妃は眉間にしわを寄せ、「ああ」と嘆いた。
白雪姫とはもう何年も会っていないと聞く。ただ、彼女を貴族とは会わせなかったと。
醜い貴族のこころに染まって欲しくない。不器用ながらの、王妃の愛。それを皆は勘違いした。
「王妃は前妃の娘を社交界に出させない。」
前妃の娘など、普通は毛嫌いする。それを含めた勘違い。本人すらそう思っている。
だから壊れかける王妃に、従者はいった。
「白雪姫が狩人によって内臓が取られたそうです。」
従者が言っていた事は本当だった。でも狩人の言葉は嘘だった。
「……その……王妃派の貴族に頼まれました。白雪姫を殺し、その内臓を渡して証明しろと。」
その内臓は偽物だった。王妃は安心とともに、白雪姫の立場を再確認した。
王妃はすぐさま白雪姫を探しに、自ら出た。
王妃は白雪姫を見つけた時、彼女は小人に囲まれていた。
王妃は安心した。小人は人とは違うもの。狩人のようにはならないだろう。
だから少し白雪姫を放っておいた。
しかし、私によって写された白雪姫を見て、王妃は、帯を贈ろうと思った。
小人の小屋のなかで、「帯が欲しい」と白雪姫が口にしたから。
普通の人なら、きっと狩人のようになる。だけど王妃からだとバレてはいけない。
だから王妃は魔法で老婦に化けた。そして、帯を渡した。
その時、初めて白雪姫の笑顔を見た。
白雪姫は、「つけ方がわからない」といった。だから王妃がつけた。
王妃はコルセットに慣れていたが、白雪姫は違った。
王妃がいなくなったあと、白雪姫は呼吸困難になってしまった。
白雪姫の様子に気がついた小人が帯を切った。白雪姫は一命を取り留めた。
王妃は私によってそれを知った。王妃は強く後悔した。だからもう一度プレゼントを渡そうとした。
鉛でできた美しい櫛。
王妃はまた姿を変えた。次は自身と同じくらいの姿だけれど、その櫛売りは……
たれ目で美しくはないけれど、安心するような顔で。
白雪姫はそれを受け取った。
王妃は私の前に立ち、それを伝えた。そして、涙目で言った。
「この姿は怖くないの?本当の姿が怖いの?」
またあの櫛売りの姿をして、そう聞いてきた。
私は嘘をつけるほど、力は残っていない。
「親しみが持てるやもしれません。王妃はそのままが一番でございます。」
王妃はたしかに美しかった。
でも、きつい顔をしていた。でも私は、目の前には、その容姿を何よりも気にしている少女しか見えなかった。
だから質問の答えを濁した。
その日、また白雪姫が死にかけた。鉛の毒で。
最近出回っていた鉛と言う毒。それで出来た櫛には毒性があった。
王妃はもう何も分からなかった。
そして数日後、その事が、王に伝わった。
王は王妃を呼び寄せると、静かに言った。
「白雪姫には手を出すな。」
王妃の不器用な愛は、人を殺す。それを王妃は再確認した。それとともに王妃は感じた。
「やはり自分は何にもなれない。」
王妃は私の前で泣いた。私には彼女を抱きしめる腕がなかった。
慰めれる口がなかった。
だからただ、見て、聞いた。王妃と話を。
「陛下を愛してる。純粋に、でも……最近はそう思えなくなってしまったの。」
涙を流し、気を張るための恋化粧が落ちていた。
いつもは化粧を落としてから泣くのに。その時は化粧のままだった。
「あの子のこと、友として親愛していたの。でも最近は憎くて仕方ない。」
王妃は私に触れて言う。
「あの娘に褒められたこの美貌も、こんなに醜い!こんな私に価値などないわ!」
あと続けに言う。彼女は返事なんて求めていない。
「白雪姫、あのこの忘れ形見は、あの子よりずっと美しく育ってしまった。まだ12歳というのに、あんなにも縁談が上がっている。」
縁談の手紙はすでに数枚、数十枚ではない。
しかも、政略ではなく『一目惚れした』が一番多かった。
もちろん全て断った。だが、それは王妃派の貴族に、
『王妃は白雪姫を憎み、嫌っている。』
と思わすだけだった。現に彼女はどんどん白雪姫への感情が薄汚れていった。
「私は……私は……!!」
王妃は私が写した白雪姫を見た。小人達といる白雪姫を。
「あの子が、大嫌いじゃなかった。あの子が選ばれたから、私は身を引いた。なのに、なのにさ……」
現王の妃候補に最後まで残ったのは現王妃と前王妃の二人、そして前王妃が選ばれた。
そして、前王妃は亡くなった。
そしていきなり王妃が選ばれた。最後まで候補に残った彼女を。
哀れな王妃はその日から毎日私の前で泣いていた。
そんな時、前王妃の亡くなった日、白雪姫の誕生日がやってきた。
「……私は、あの子にりんごをあげたいの。あの子が好きだったから。」
この時の『あの子』は二人いる。一人目は白雪姫。二人目は前王妃だろう。彼女は好きだった。
王妃はそれを白雪姫に渡した。
王妃はその後、白雪姫の部屋を整えた。白雪姫を城に戻した時の部屋を。
白雪姫はその時、仮死状態であった。
王妃はそれを知らなかった。当然、私も知らなかった。
王妃はある日聞いてきた。
「この世で一番美しいのは、誰だ?」
王妃は当然白雪姫と帰ってくると思っているのだろう。
「隣国の、王子の花嫁でございます。」
「……は?」
王妃は驚き、すぐに調べ始めた。そして、王妃は王子からの招待状を見た。
「一目見てやるわ。その女を。」
王妃はそう言って、帰ってくることはなかった。
⛧☆⛧
王妃がどうなったか、後の国の支配者が聞いてきた。
あの時の王妃を、私はよく覚えている。ずっと時間が経ち、今は昔話になっているが。
「当時の王妃様は、お可哀想なことに、結婚式の場で、白雪姫が花嫁だとわかるのです。」
支配者はツバを飲み、喉仏に汗をたらす。
「王妃様は慌てます。義理でも娘です。王妃は白雪姫のもとに駆け寄ろうとした時、真っ赤になった鉄靴を履かされたのです。誰が履かせたかは、私でも分かりません。」
「っそして――王妃―は踊り――続け――ましった。」
最後についた嘘で、パリンと音がなった。
王妃を憐れんで言わなかった、真実を隠して。
憐れな事実を知るものはもういない。王も王妃も白雪姫ですらもうとっくに死んでいる。
でも最後についた嘘を、私は後悔しない。
『白雪姫が履かせたという事実を隠して。』
❀✿❀
昔々、それまた昔のお話。その時の話、お聞きいただこう。
とある少女は美しく、心優しく、そして正直者でした。
彼女は頭が良かったです。その国で一番頭が良く、憧れた一方嫉妬の的でした。
少女はその代の王妃に相談されました。
「王は、私を愛してくださるかしら?」
少女は王妃以上に美しい人を知りませんでした。
「それはもう!王妃様以上の方はいませんもの」
少女は正直に答えました。王妃はキツイ顔をしていたものの、とても美しく、優しいと知っています。
少女は王妃の話し相手として、城に住むことになりました。
王妃は聞きます。
「私は綺麗かしら?王に好いて頂けるかしら?」
少女は決まって答えます。
「もちろんです!美しい王妃様!」
しかし、王は少女を見初めてしまった。
少女は焦りました。そして王妃に頼みます。
「王妃様、お願いします。私を『真実の鏡』にして下さいませ。」
王妃は驚いた。そして聞いた。
「何故ですか?人でなくなるのですよ?どうして?」
少女は嘘をつきました。
「私は……全てを知りたいのです。真実の鏡に慣れれば、そうすれば聞かれたら全て答えられます。全て知れます。」
王妃はその願いを叶え、少女は真実の鏡に姿を変えました。
時日は過ぎ、私という真実の鏡は、代々王妃が受け継ぎました。
そしてどの代の王妃に真実を話します。
とある代の王妃は言いました。
「私の顔はそんなに怖い?そんなに恐ろしい?」
真実の鏡はその時2度目嘘をつきました。
最後に、あの王妃に言えたなら、聞かれなくとも、言えたなら、
『王妃様、貴方は私という世界のなかで、間違いなく一番美しい。』
白雪姫は、王や、周りに、王妃は母親の立場を奪った悪い人と言われて育てられました。
どうかどうか、嫌わないでくださいませ。




