61話 フロアマスター戦後
オレがフロアマスターを倒すと、ギィィィ……と重々しい音を立てて入口の扉が開いた。まるで、オレの勝利を認めるかのように。
同時に、前室の扉と下層へと続く鉄の扉も音を立てて解放された。
遅れて駆けつけてきた冒険者たちが、こちらへと駆け寄ってくる。皆、目を輝かせ、興奮を隠せない様子だった。
「やったじゃないか! 凄いぞ、お前たち!」
「こんなに苦労したフロアマスターを討伐できるなんて!」
仲間たちの歓声と称賛の声が、ダンジョンの壁に反響する。
バインがオレの前までやってきて、オレの肩をガシッと掴む。
「カズー、あんたは凄いよ!本当に、よくやってくれた!」
そう言って、彼はオレに【大魔石】を差し出した。
「これは……?」
「お前が倒したフロアマスターのドロップアイテム、【大魔石】だ。これは、お前のものだ」
その魔石は、以前ダンジョンマスターを倒したときに見たものと同じだった。
重く、そしてどこか怪しげな光。
オレはその【大魔石】を見つめ、静かにうなずく。
その夜、団長が冒険者全員に告げた。
「よくやってくれた! 今夜はここで休み、明日、街へ戻ろう!」
◆ ◆ ◆
―――二日後。
半数近くに減った仲間たちとともに、オレは何とか城塞都市までたどり着いた。
道中の魔物の襲撃は少なくなかったが、オレは新たに習得した防御魔法“ファイアシェル”や他の防御魔法を駆使し、誰一人として脱落させることなくギルドへと戻ってくることができた。
斥候がすでに報告を終えており、冒険者ギルドのホールにはたくさんの食事と飲み物がずらりと並べられていた。
ギルドの中はまるで祭りのような賑わい。
ダンジョンアタックに参加していない冒険者たちも、空いたテーブルに座って宴の雰囲気を楽しんでいる。
そんな中、ひときわ目立つ存在が現れた。グレイヘアーの、がっしりとした体格の中年男。彼はギルドの中心に立ち、朗々とした声で言った。
「私はこのギルドのギルドマスターだ! 今回、よくぞ第三階層のフロアマスターを討伐してくれた! 今夜は私の奢りだ! 好きなだけ食って、飲んでくれ!」
「オーー!! オーー!!」
歓声が天井を突き破らんばかりに響き渡る。
その隣で、団長が笑顔で声を上げた。
「クエスト、コンプリートだ! 乾杯ーッ!」
「乾杯ーッ!!」
冒険者たちが一斉にコップを掲げ、エールを流し込む。
オレも乾いた喉に冷たいエールを流し込む。口の中に広がる麦の香ばしさと、胃の中にしみ込む冷気。そして、胸の奥に満ちていく達成感。
笑い声と音楽。漂う肉の香ばしい匂い。夢に見た光景が、今ここにある。
バインとその仲間たちが、オレの席までやってきた。
「カズー、ありがとう。お前がいなかったら、俺たちはあそこで確実に全滅していた。命の恩人だ。本当に感謝してる」
そう言って、彼は一呼吸置き、真剣な表情で続けた。
「どうだ? 正式に俺たちのメンバーにならないか?」
その言葉に、オレの胸は少し熱くなった。
だが、オレは――この世界で果たすべき使命がある。仲間を得る必要はあるが、それはオレの仲間でないとゲームシステムに認められない。
「バインさん、ありがとうございます。でも……申し訳ない。メンバーの件はお断りします」
「そうか。わかった」
彼は寂しそうな顔を一瞬見せたが、すぐに笑ってうなずいてくれた。
そんな中、団長が壇上から声を張り上げる。
「皆、今回のフロアマスター討伐を成し遂げたアタックチームだ!」
冒険者たちから拍手と喝采が送られる。
「よくやったぞ、バイン! 念願達成だな!」
バインが少し照れながらうなずいた。
続いて団長が言う。
「今回のクエストにおける最優秀者は――カズー! そして、優秀者はバインのメンバー全員だ!」
「カズー、いいぞ! お前の魔法はこの街一番だ!」
また一段と大きな拍手と歓声が上がる。
オレは立ち上がり、皆に頭を下げる。
「ありがとうございます! 皆の助けがあってこその結果です。それと、私の魔法は、師匠から授かった魔法の杖とマントの力でもありますから……」
真実の一部を語りつつ、謙遜しておいた。
しばらくして、祝賀の熱気も少し落ち着き、オレはテーブルに戻って食事を楽しんでいた。
そのとき、隣に座っていたシャムが目を輝かせて言う。
「主、おめでとうニャ!」
「……シャム、お前、本当に『おめでとう』の意味わかってるのか?」
そう言って、オレは笑いながらシャムに魚料理を差し出した。
「魚が食べれておめでとうニャ!」
「…………」
いや、まあ、それはそれで幸せか。
少しすると団長がまた声を上げた。
「クエストに参加した冒険者! 処理が完了した! 順に受付で報酬を受け取ってくれ!」
冒険者たちはどっと受付に押し寄せる。混雑を避けるため、オレはテーブルでエールをちびちび飲みながらシャムと食事を続ける。
「シャム、美味しいなぁ?」
「美味しいニャ!」
ギルドは、賑やかで、冒険者たちの笑い声、酒の匂い、擦れた革鎧のきしむ音と匂いが、いつものようにこの空間を満たしている。
そんな中、俺のテーブルに三人の男がやってきた。
「カズーさん、あんた凄いね!尊敬するよ!」
勢いよく声をかけてきたのは、若い男たちだ。
三人とも二十代半ばといったところで、俺より年下だ。装備の感じからして、戦士が二人、もう一人は斥候か。いかにも冒険者という雰囲気がある。
俺は、いつもの決まり文句を口にした。
「そんなことないよ。一緒にいたメンバーが良かったんだ。」
すると、一人の戦士が食いついてくる。
「あぁ、バインさんたちですね?カズーさんも、バインさんのチームなんですか?」
俺は軽く首を横に振った。
「いや、オレはバインさんのメンバーじゃない。まだ、ソロなんだ……」
その瞬間、もう一人の戦士が、身を乗り出してきた。
「そうなんですか!? じゃあ、俺たちを……カズーさんのメンバーにして下さい!」
不意を突かれ、オレは一瞬、言葉を失った。
ちょうど、信頼できる仲間を探していたところに、三人も名乗りを上げてきたのだ。
だが、安易に受け入れるわけにはいかない。
オレの目指す道は、魔王討伐──命を懸ける戦いだ。
中途半端な覚悟では務まらない。
「……そんな、いきなり、どうしたんだ?」
俺がそう問うと、斥候の男が一歩前に出て、落ち着いた声で答えた。
「カズーさん、俺たちは、あんたみたいな本物の冒険者と一緒に戦って、自分の名前を残したいんです。……名声を掴みたい。でも、今の俺たちには魔法使いがいなくて、強敵には手が出せない。どうか、お願いします!」
こいつら──やれるかもしれない。
俺は、彼らに英雄願望があり、魔法使いを必要としていると理解した。
ならば、試す価値はある。
「……そうか。なら、少し一緒にクエストをこなしてみるか?」
即座に、戦士の二人が声を揃えて答える。
「はいっ!」「はいっ!」
そして、斥候の男が俺のすぐ近くに来て、小声で囁くように言った。
「カズーさん、内緒の話なんですが……俺たち、多分、初期のダンジョンを見つけたと思うんです。どうでしょうか?一緒に行ってみませんか?」
初期のダンジョン──
その言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴った。
レオックを貴族にするため、オレが探し続けている場所だ。
「……良いのか? オレに教えて?」
目を見て問いかけると、斥候は胸を張り、まっすぐに答えた。
「はい。もう俺たちは、カズーさんのチームですから。明日、案内します。」
願ってもない話だった。オレは力強く頷いた。
「よし、行こう!」
三人はそれぞれ準備があると言って、ギルドを後にした。
残されたテーブルに、一人座る。
ギルドの喧騒は変わらない。だがオレの胸の中には、新しい風が吹いていた。
そしてオレは学ぶ。
〈新しい出会いは突然に訪れる〉
と言うことを。




