6話 ファスト・ラーナー
すでに2、3時間ほど、同じ戦いを繰り返している。
不思議と、少し楽になってきた気がする。
敵の攻撃もある程度かわすことができるし、ダメージもそこまで大きくない。
メニューを開くと、オレのレベルは4になっていた。
(なるほど、レベルが上がったおかげか)
ステータスも軒並み上昇している。
すると、どこかで聞いたことのある効果音が鳴った。
スキル獲得の通知だ。
メニューを確認すると、《ファスト・ラーナー》という新しいスキルが追加されていた。
オレはメニューを開き、新しく習得したスキル《ファスト・ラーナー》を確認する。
『レベルアップ速度上昇』──そう表示されていた。
(これは……チートスキルじゃないか!?)
思わず顔がニヤける。これさえあれば、異世界でもラクにレベルアップできる!
だが、その間もジャイアントバットは容赦なく襲いかかってくる。オレは素早く魔法を放ち、次々と撃退していく。今まで通り敵を倒していると──
「ピロリン♪」
レベルアップの音が、明らかにいつもより早く鳴った。
(おおっ!? めっちゃ早くレベル上がったぞ!)
どうやら《ファスト・ラーナー》の効果は本物らしい。これは本当にすごい。
そのままジャイアントバットを狩り続けていると、なんと数分でレベルが上がる。今までの10倍のスピードだ。レベルが上がればステータスも上昇し、オレの強さもどんどん増していく。
「ファイアボール!」
この場所はレベル上げに理想的だ。《オート・リカバー》のスキルのおかげで魔力の心配もない。魔物を無限に狩り続けられる。
オレは喜びに震える。
《ファスト・ラーナー》といえば“天才”のことを指すのだろう。オレは今まで、どちらかといえば物覚えの悪いほうだった。けれどこのスキルは、まるでオレを“天才”にでもしているかのようだ。
(これが……天才の感覚か)
やればやるほどレベルが上がり、能力も上がっていく。自分の成長がハッキリと実感できる。「もっとやりたい」と心の底から思える。自由と開放感が湧き上がり、今まで何をやっても上手くいかなかったオレが、いまや“劣等感”ではなく“優越感”に満たされている。
他の誰も持っていないスキルを手に入れたオレは、このゲームシステムをもっと探究してみたいと心から思った。
(この“ゲームシステム”、最高だ!)
やがて、ジャイアントバットの数が目に見えて減ってきた。以前ほどの勢いで襲ってこない。それでもオレは油断せず、魔法を撃ち続ける。
「ファイアボール!」
……
それから約1時間。ひたすらジャイアントバットを狩り続けた。メニューを確認すると、レベルはすでに9に到達していた。周囲を見渡しても、もはや敵の姿はほとんど見えない。
オレは川原の少し開けた場所へと移動する。
すると──空中を旋回するジャイアントバットが一体。おそらく最後の一匹だろう。周囲には、もはや他の気配はない。
オレは迷わず、魔法を放つ。
「ファイアボール!」
火球は一直線に飛び、魔物へ命中。
ジャイアントバットは、跡形もなく消滅した。
直後──あの音が鳴る。
メニューを確認すると、オレのレベルはついに10に到達していた。
全てのジャイアントバットを倒し終えた。
見上げると、空は一面の青。雲一つない快晴だ。
1匹もジャイアントバットは見当たらない。
やった!
達成感と高揚感が一気に押し寄せる。
(いったい何匹倒したんだ……!)
5時間以上も魔法を使い続け、敵の攻撃を受け、かわし、そして倒してきた。本当に、心身ともに限界だった。
だが、《オート・リカバー》のおかげで、身体は元気なようだ。
アイテムボックスから【エバキュエーションキット】を取り出し、ペットボトルの水を飲む。
(水が、うまい!)
一気に飲み干すと、ようやく心も体も落ち着いてきた。
(今までこんな美味しいと思った水は無い)
オレはレベルアップ時の音を思い出して、ふと、ゲームシステムのメニューを開いてみる。魔法欄に新たな魔法が追加されているのを発見!
やったぞ!
おそらく、レベルアップによって魔法が増える仕組みらしい。よくあるパターンなのでそんなに驚かないが正直嬉しい。
追加された新しい魔法の名前は――“ファイアウォール”。どうやら防御系の魔法のようだ。
HPとMPは《オート・リカバー》のスキルのおかげで既に最大まで回復している。新しい魔法を試してみたいという衝動に、抗うことはできない。
目の前の空き地に向かってオレは叫ぶ。
「ファイアウォール!」
すると――巨大な炎の壁が出現した!
高さは2メートル程度、幅は5メートルはあるだろうか。
(これは……前に進もうとは思えないな)
ただ、ふと気になって横に回り込んでみる。
すると、あっさりと横から通り抜けられてしまった。
厚さは50cmぐらいだろうか。
(頑張れば通り抜けれるかもな⋯⋯⋯⋯)
……これでは、ただの“炎の衝立”だ。
期待していた分、少し拍子抜けしてしまう。
炎の壁を見つめながら考えていると、ふと気づいた。
(このファイアウォール、いつまでこのままなんだ?)
まったく消える気配がない。もしかして、《オート・リカバー》のおかげでMPが無限に供給されるため、永続で維持されているのか……?
だが、このまま放っておくのも問題だ。どうやって消せるかわからないが、取り敢えず、オレは叫ぶ。
「消えろ!」
そう叫んだ瞬間、ファイアウォールは嘘のように掻き消えた。
――ほっと、一息。
昨日も大変だったけれど、今日もまた色々なことがあった。今日はもう休もう。
焚き火の準備とテントの設営をしながら思う。
異世界には試練が多い。でも、その分、得るものも大きい。
(もしかしたら、この世界のほうが……オレには合ってるのかもしれない)
ただ、戦いは毎回ギリギリだ。
もっとゲームシステムを試して、うまく活用していこう。そうしないとゲームオーバーもあり得る。ここは現実世界だ。死んだら終わりだ。ゲームシステムを攻略するしかない!
(……取説とか、ないのかな)
そしてオレは学ぶ。
〈新たな世界はオレに合っている〉
と言うことを。