57話 決闘
オレとレオックは、無言で向かい合った。
オレの身体には、鉄と革を組み合わせた新しいハイブリッド鎧。機動性と防御力を兼ね備えた逸品だ。だが、今は魔法のマントは身につけていない。あれは動きの邪魔になる。
手には鉄の槍。もう一方には、重く頑丈な鉄の盾。
一方、レオックは全身に磨き抜かれた銀の鎧を纏っている。その姿はまるで騎士そのもの。右手に無造作に握られた剣が、ただそこにあるだけで威圧感を放っていた。
「カズー子爵、魔法使いが槍で私に勝てるとお思いか──」
オレは答えない。ただ、レオックの動きに意識を集中する。
彼は続けた。
「……わかりました。私が少し指南して差し上げよう」
その言葉と共に、レオックが静かに歩き出す。まるで獲物に近づく獣のように、ゆっくりと、しかし確実に。
オレの槍の間合いに踏み込んだ。
反射的に、オレは槍を構え、銀鎧の中央に向けて突きを放つ。
「やぁーッ!」
だが──
「遅い」
レオックは槍を難なく躱し、剣で横から叩きつけてくる。鋭い金属音が響いた。オレは必死に槍を離さぬよう堪え、すぐに距離を取る。
レオックが笑う。
「子爵、魔法で来なさい」
(……やはり、オレの槍じゃ当てられない)
そう、わかっていた。レオックは歴戦の騎士。オレは、たった一週間前に槍を握ったばかりの素人。槍での勝負は分が悪すぎる。
魔法しかない──。
「……」
オレは無言で槍を地面に置き、アイテムボックスから魔法の杖を取り出す。
レオックは口元をわずかに吊り上げて言う。
「やっと、やる気を出したか。しかし、それでも私は負けない!」
オレは杖を構え、レオックの胸部へ攻撃魔法を撃つ。
「ウィンドボール!」
轟音と共に、圧縮された風弾が一直線に飛んだ。
しかし──
「──甘い」
レオックは軽やかに身を翻し、風弾を躱した。
「子爵、凄まじい速さです。だが、それだけでは──」
レオックの剣が閃く。オレは盾で防ごうとするが、彼の狙いはそこではない。鋭く足元を薙ぐ──フェイントだ。
「……ぐっ!」
浅いが確かな痛みが足を襲う。それでもオレは歯を食いしばり、再び魔法を放つ。
「ウィンドボール!」
またも躱される。
そして、今度は肩に突きが入る。
「──がっ……!」
地面に倒れる。焼けるような痛みが肩を走る。
レオックが叫ぶ。
「子爵、もう止めますか!?」
だが、オレは言い返す。
「レオック、これからだ!!」
距離を取りながら、怒涛の連続魔法。
「ウィンドボール! ウィンドボール! ウィンドボール!」
だが──、一発も当たらない。
(どうしてだ!? この速度の風弾が……)
観察する。
レオックの視線が、常にオレの目を見ている。
(そうか……動きを読まれている!? オレの視線や体の動きで、魔法の撃つタイミングと軌道を予測してる……!?凄まじい技術だ!)
オレは叫ぶ。
「レオック、なんでそこまでして、オレを姫様から遠ざけるんだ!」
レオックの目が細くなる。
「それは、貴様が姫様を幸せにできぬと、わかっているからだ!」
「なら……お前が幸せにすればいいだろう!」
その言葉に、レオックは一瞬だけ言葉に詰まった。
「それが……できるなら苦労しない!!」
剣閃が舞う。右足、そして左手に斬撃。
オレは膝をつく。
だが、ここで終われない。
アイテムボックスから【妖精剣】を取り出す。
──装備した瞬間、世界が変わった。
身体が軽い。速い。
オレは、妖精剣を突き出す。鋭く、的確に──だが、
「無駄だ!」
レオックはそれさえも躱す。
すぐさま、魔法へ切り替える。
「ウィンドボール!」
レオックが風弾を躱す。
そこに、オレは全体魔法を発動。
「ウィンドレイン!」
無数の風の粒が辺りを包み、視界を遮る。レオックの動きが、一瞬だけ鈍る。
(今だ!)
「ウィンドボール!!」
風弾が直撃──する寸前、全体魔法の風の粒に当たり、威力が少し減衰する。
だが──
レオックが後ろに吹き飛ぶ!
その瞬間、オレは一気に背後へ回り込み──
「ぉおおおおッ!!」
押し倒した!!
レオックが地面に叩きつけられる。
「うぐっ……何をする、貴様!!」
オレは答えず、寝技で完全に抑え込む。
小さい頃にやっていた柔道が、今、活きた。
「レオック、何があっても、オレはお前を離さない!!」
レオックは剣で斬りつけてくる。腕も、足も切られ、血が流れる。痛い……だが、オレには《オート・リカバー》がある。回復はしている。
痛みはあるが、離さない。
「ぐぅ……くそっ! 離せ!!こんなのは決闘じゃない、戦士として立って戦え!!」
「…………!」
オレは無言で抑え込む。呼吸を整え、意識を一点に集中させる。
「ルイアナ!こいつをどけろ!!これは違反だ!!」
ルイアナは、動かない。黙って見ている。
1分──2分──5分──
レオックの抵抗は続いた。
だが、10分後。
──レオックの動きが止まった。
静寂の中、ルイアナの声が響く。
「そこまでだ!!」
オレはレオックを離すが、もう立ち上がれない。
レオックも地面に伏したまま、ぽつりと呟いた。
「……私の負けだ」
その言葉に、ルイアナが静かに告げる。
「この勝負──引き分けとする」
オレは地面を見ながら、血と汗にまみれた身体で考える。
そしてオレは学ぶ。
〈決闘で抑え込みは有効だ〉
と言うことを。




