54話 勝利の宴
翌日―――。
クルワン師匠の家で朝の支度をしていると、扉を叩く音がした。開けると、城の紋章を掲げた使者が立っていた。
「クルワン侯爵様、カズー子爵様。明日、城にてダンジョン攻略の勝利を祝う宴が開かれます。公爵様よりの招待状です。どうかお越しください」
使者は丁寧に頭を下げた。
どうやら、公爵がダンジョン攻略の成功を正式に讃えてくれるらしい。
「良かったな、カズー!」
クルワンがにっこりと笑う。
「これで、子爵としての務めは立派に果たしたことになる。ところで、お前、ちゃんとした貴族の服は持っておるのか?」
オレはうろたえながら答える。
「……いえ、中古の普通の服しか持ってません」
「だろうな。まあ、貴族になったのだから、それらしい装いはしておかねば。明日の宴には都市中の貴族が集まる。下手な格好で行けば、公爵様に恥をかかせることになるぞ」
オレは小さくうなずいた。
「……わかりました。買ってきます」
◆ ◆ ◆
オレは、以前訪れたことのある服屋へと足を運んだ。扉を開けると、すぐに店員が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。ああ、以前のお客様ですね。今回はどのようなご用件で?」
「……貴族の服が欲しいのですが」
その言葉に店員の目がわずかに見開かれる。だが、すぐに奥へと引っ込み、何着かの衣装を抱えて戻ってきた。
「すぐにご用意できるものは、こちらになります」
金糸や銀糸を贅沢にあしらった、どれもこれも目の覚めるような華やかな服ばかり。
派手すぎて、正直オレの趣味ではないが――しかたない。
「……じゃあ、これで」
選んだ一着は、深い青に金の刺繍が施されたロングコートと、同色のベスト、白いシャツ、金ボタンのついたブーツ。
値段は金貨一枚。高すぎるとは思ったが、これも身分相応というやつだろう。
翌日―――。
オレは、クルワン師匠と共に勝利の宴へ参加するため、城へと向かっていた。クルワン師匠が馬車を手配してくれたので今は二人で馬車に乗っている。
身にまとっているのは、昨夜買った貴族の礼服。金糸で刺繍されたそれは、まるで他人の衣装のように感じられて、どうにも落ち着かない。
クルワン師匠が、オレの格好を見て目を細め、にやりと笑った。
「カズー、似合っているじゃないか。堂々としろ」
「いえ……オレにはこんな派手な服、柄じゃないです。クルワン師匠こそ、貴族の服は着てないですよね?」
「……あぁ。儂には、貴族の服は似合わん……」
クルワン師匠はそう言って、どこか懐かしそうに、そして少し恥ずかしそうに笑った。
◆ ◆ ◆
城につき、部屋でしばらく待っていると、小姓が現れて「準備が整いました」と告げる。オレたちは重厚な扉を抜けて、大広間へと足を運んだ。
大広間には、すでに100人を超える客人が集まっていた。煌びやかな装飾の下、貴族たちは思い思いに談笑し、騎士や聖職者たちは凛とした姿で着席している。
プリーストのエルミナは、彼女と同じく白い法衣を纏った師と思われるプリーストと共に席に着いていた。
そして、オレとクルワン師匠の席は――上座に程近い、騎士団長ルイアナの隣だった。
「ルイアナ、早いな」
「……あぁ。少し緊張してな」
彼女は苦笑いを浮かべながら、オレの服を見て言った。
「カズー、いい服だな。似合ってるじゃないか」
「ルイアナだって子爵なんだから、貴族のドレスでも良かったのに。騎士団の制服なんだな?」
ルイアナは、肩をすくめて笑った。
「私には、貴族の服なんて似合わないよ」
オレは、「そんなことない」とだけ言ったが、内心では思っていた。
(ルイアナは若くて、美しくて、背も高い。ドレス姿もきっと様になるだろう)
そしてオレは学ぶ。
〈貴族の服は意味が無い〉
と言うことを。




