53話 マスター戦後
団長ルイアナの一撃が、ついにダンジョンマスターを打ち倒した。
その瞬間、ダンジョンマスターの部屋にいる全ての魔物が黒い霧となって霧散し、静寂がダンジョンマスターの部屋を包み込む。重々しく閉ざされていた入口の扉が、音を立てて開かれた。同時に、前室の扉も連動するように開く。
オレは歓喜を込めて、ルイアナに声をかけた。
「ルイアナ、やったな!」
ルイアナは満面の笑みを浮かべ、息を切らせながら俺の肩に手を置く。
「あぁ!カズー、お前のおかげだ!本当にありがとう!」
だがオレは首を振り、皆を見渡しながら応える。
「いや、オレたちチーム全員の勝利だ!」
アタックチームの6人が互いに肩を組み、達成感と連帯感を噛みしめた。
そこに、後続の騎士団や歩兵部隊が前室へと入って来た。彼らはオレたちの姿を見るなり歓声を上げ、団長ルイアナのもとに駆け寄る。
「団長、やりましたね!ダンジョン攻略、おめでとうございます!」
ルイアナは誇らしげに頷き、皆で彼女を称えた。
その時、魔法師団の一人が部屋の片隅から、まるで人の頭ほどもある巨大な魔石を拾い上げ、ルイアナに差し出す。
「団長、魔石を発見しました……!」
オレは興味に駆られ、その魔石に手を触れる。ゲームシステムのメニューを開くと、表示されたのは――
【大魔石】
「この魔石が……ダンジョンの核か?」
ルイアナが真剣な面持ちで説明する。
「そう、この魔石がダンジョンを創っている。この魔石を持ち出せば、いずれダンジョンは崩壊していくだろう」
再びメニューに目をやると、今度は見慣れないポップアップが表示された。
『槍兵のジョブを獲得しました』
(やった!新しいジョブだ!)
喜びが胸を躍らせるが、今は喜んでいる場合ではない。まだ出口までは危険が残っている。オレは風の魔法使いにジョブを切り替え、先頭に立った。
「ファイアボール! ウィンドボール!」
放たれた魔法が次々と魔物を焼き払い、吹き飛ばしていく。魔法師団の一人が目を見開いて言う。
「子爵様は、どれほどの魔力をお持ちなのですか……!?」
確かに、オレは《オート・リカバー》のスキルによってMPを回復し続けていた。だから、魔法を連続で使い続けられるのだ。
ついに出口が見えた。仲間たちは皆、疲労困憊の表情をしている。そこでオレは、風の全体攻撃魔法を使う。
「ウィンドレイン!」
風の粒のような魔法が空間を包み込み、周囲の魔物の動きを封じる。足止め程度ではあるが、仲間を守るには十分だった。
――
無事、全員が脱出を果たし、俺たちは野営地へと戻った。
魔法師団の一人が【大魔石】をプリーストのエルミナへと手渡す。オレは彼女に尋ねた。
「エルミナ、その魔石はどうするのですか?」
「カズー子爵様。この魔石は“聖印石”にします。これほどの大きさがあれば、都市全体を覆う結界にもなります」
(クルワン師匠が言っていた……聖印石は、魔物を寄せ付けない結界。なるほど、プリーストが魔石から作るものだったのか)
「エルミナ様も聖印石を作れるのですか?」
「いえ、私はまだ未熟で。師匠の補助に回るだけです」
頷くオレ。聖印石の製作には、相応の熟練が必要なようだ。
そこへ、ルイアナの声が響いた。
「皆、よくやってくれた!我々はダンジョンを攻略した!さあ、城塞都市へ帰還するぞ!」
◆ ◆ ◆
道のりは4日。疲労はあったが、皆の顔には誇りと安堵が溢れていた。城門をくぐる時、住民たちの温かい歓声が迎えてくれた。
ダンジョン攻略部隊は任を終え、解散。
だがオレは、ルイアナに呼び出されて騎士団宿舎の中庭へと向かった。そこには長テーブルが並び、山のような食事が用意されていた。騎士団の慰労会だ。
準備が整ったところで、ルイアナが立ち上がる。
「皆、よくやってくれた!ダンジョン攻略、おめでとうー!」
「「おおおー!!!」」
歓声が上がり、乾杯のエールが交わされた。
オレもルイアナとグラスを合わせ、満ち足りた気持ちで酒を飲む。
騎士団員たちは、団長から報酬として金貨2枚を順に受け取っていく。そして、ルイアナが声を上げる。
「ダンジョンマスターを討伐した者たち、前に!」
アタックチームの仲間4人が前に出る。
「お前たちは、見事に主目標を果たしてくれた。誇り高き騎士団の勇士だ!」
ルイアナはそれぞれに金貨10枚を手渡す。
そして、オレを一度見やってから、騎士団全体に問いかける。
「今回、ここまで犠牲が少なかったのは……カズー子爵のおかげだ!皆、カズー子爵は貴族か――!?」
「ウ―――!ウ―――!」
「カズー子爵は魔法師団か――!?」
「ウ―――!ウ―――!」
「では、カズー子爵は騎士団員か―――!?」
「そうだ――!うオ―――!!」
ルイアナはオレの手を取り、高らかに掲げた。
「今日からカズー子爵は、騎士団員となった!!」
歓声が天に届くかと思うほどに沸き上がる。オレのもとにルイアナが歩み寄り、金貨10枚を差し出す。
その金貨の重みは、単なるお金ではなかった。オレの心に温かく、誇り高く響いた。
「ありがとう、皆……ありがとう……!」
言葉にならない想いが、涙となって頬を伝う。誰も笑わない。アタックチームの仲間がオレの肩を抱き、声を上げて笑った。
「これからは、仲間だ。カズー!」
(なんて幸せな瞬間だろうか。オレはこの日を、一生忘れることはないだろう)
そしてオレは学ぶ。
〈報われた努力は涙になる〉
と言うことを。




