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5話 アイテムボックス

 疲れていたせいか、それともストレスから解放されたからなのか──理由はよくわからないが、とにかくぐっすりと眠ることができた。今朝は驚くほど爽やかだ。


 軽く朝食をとり、【エバキュエーションキット】の中身をバックパックに詰め直してから、それをアイテムボックスに戻す。メニューを確認すると、【エバキュエーションキット(使いかけ)】×1として表示され、アイテムボックスの1枠を使用している。


(アイテムボックスは本当に便利だが、やはり制限もあるようだ)


 どうやら、同じアイテムは99個まで1枠にまとめられるが、少しでも違いがあると別枠として扱われるらしい。【エバキュエーションキット(使いかけ)】のように、未使用のものとは別に1枠を消費してしまう。アイテムボックス全体の容量は100枠。今はまだ余裕がある。手に持っているものは、そのままアイテムボックスに収納できるようだ。


 試しに、川の水に手を入れ、(水10リットル)とイメージして収納してみる。【水10リットル】×99としてアイテムボックスに表示された。続けて(水1000リットル)をイメージしてみたが、収納はできなかった。


(どうやら、自分が実際に持てる量しか収納できないらしい)


 次に、【エバキュエーションキット(使いかけ)】からサバイバルナイフを取り出し、近くの草を切ってアイテムボックスに入れてみる。表示は【野草】×1。さらに周囲を探索してみると、どこか禍々しい雰囲気をまとったキノコを発見。手に取ってアイテムボックスに入れると、【毒キノコ】×1と表示された。


(これは便利だ……図鑑のように、アイテムの正体が判別できるのか)


 ──これでオレは、キノコ博士ってわけだ!


 さらに食料を探して探索を続ける。【エバキュエーションキット】にも食糧はあるが、非常時用のものなので味気がない。しかも全部同じ味だ。野生の木の実がないかと木を見上げていると、不意にその枝に猫がいるのに気づいた。


 猫はこちらをじっと見ている。


 異世界で初めて見る動物だったが、見たところ元の世界の猫とほとんど変わらない。シャム猫によく似た姿だ。異世界も元の世界と変わらずに動物もいるようだ。魔物ばかりだったら疲れる⋯⋯⋯。

(人も当然いるよな!?)


 ところでオレは「犬派か猫派か」と聞かれたら、迷わず「猫派」だ。

(猫は癒やしだ!)


 見つめていると、猫はゆっくりと木から降りてきて、オレに擦り寄ってきた。


(なんて可愛いんだ……!)


 思わず猫を撫でながら、ふとアイテムボックスに入れられないか試してみた。しかし、無理だった。どうやら生き物は収納できないようだ。


(ごめん……猫ちゃん)


 オレはアイテムボックスでの食料収集をやめて、野営地へと戻った。

 静かで落ち着ける場所だ。川のせせらぎが聞こえる。

 もし魚が採れたら最高だなと思いながら、滝壺の周囲を歩き回る。滝からの水飛沫が気持ち良い。恐らくマイナスイオンというものだろう。手を広げて身体全身でマイナスイオンを浴びる。


 ふと、滝の裏側に何かがあるのに気づいた。

 よく見ると、洞窟のような入口がある。


 ゆっくりと近づいてみる。入口はそれほど大きくないが、中はかなり奥行きのある洞窟のようだ。


(洞窟か……魔物が潜んでいるかもしれない。でも、さっき《オート・リカバー》のスキルを手に入れたし、いざとなったら回復できる。行ってみるか!)

 少し迷ったが、探索することに決めた。

 マイナスイオンのお陰だろうか気分が前向きになっている。


 洞窟の中は真っ暗だった。

 オレは【エバキュエーションキット】から懐中電灯を取り出し、足元を照らしながら中へ進む。

 今のところ、何かが潜んでいる様子はない。


 さらに奥へと進んでいくと、数十人は入れそうな広い空間に出た。

 足元に注意しながら歩を進める。

 天井がかなり高いと感じたオレは、懐中電灯を上に向けた。


 ――そのときだった。


 無数の巨大なコウモリが天井にぶら下がっているのが目に入った。

 その数は数えきれない。しかも、一匹一匹が普通のコウモリの10倍はありそうだ。

 懐中電灯の光に反応して、彼らの目が妖しく光る。全てのコウモリがオレを見ている。


 メニューを開いて確認すると、名前は『ジャイアントバット』と表示されていた。魔物の一種だ。しかも数が尋常ではない。これは逃げるしかないと思った。

 その時⋯⋯⋯


 突如、前触れもなくジャイアントバットの群れが襲いかかってきた。しかも一匹ではなく10匹以上が同時に攻撃してくる。

「嘘だろ……!?」

 オレを完全に敵か獲物と認識しているらしい。


 急いで洞窟の出口へと走る。ジャイアントバットの牙が後ろから襲いかかる。

 なんとか外へ出ることには成功したが、奴らは追撃の手を緩めない。洞窟からジャイアントバットがどんどん出てくる。

(何匹いるんだ!100匹どころではない。数千匹いるだろう)

  ジャイアントバットが攻撃してくる。空中からオレに向かって牙で噛み付く。それが10匹以上同時にくる。


 ――どうやら、オレを本気で“餌”として見ているようだ。


「くそっ、数が多すぎる……!」

  このままでは本当に奴らの餌になりそうだ。こっちも攻撃して敵を怯ませる必要がある。オレの攻撃手段は魔法だ!これなら空を飛んでいる敵にも攻撃できる。

 オレは立ち止まり、振り向きざまにファイアボールを放つ。


「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」


 オレは後ろを振り向いて驚愕した⋯⋯⋯。なんて数なんだ⋯⋯⋯。空一面を埋め尽くすようなジャイアントバットの群れがいる。


 まずい、このままじゃ――


「死ぬかもしれない!」


 ファイアボールを三度叫んだが、発射されたのは一発だけだった。

 その一発がジャイアントバットに命中し、やつを吹き飛ばす。


 もう一度、叫ぶ。


「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」


 だが、やはり一発だけしか出ない。

 複数発同時には撃てないらしい。


 敵がこちらに飛びかかってくる。

 オレはサバイバルナイフで近づいてきたジャイアントバットを牽制しつつ、再び魔法を放つ。


「ファイアボール!」


 今度も一発。だが、確実に仕留めた。


 やはりこの魔法は、連発はできないようだ。

 一度放ったら、効果が切れるまで待つ必要がある。

 面倒だが、仕方ない。


 敵は数が多いが、やるしかない。


 オレは近くのジャイアントバットに狙いを定めて詠唱する。


「ファイアボール!」


 足や腕に奴らが噛みついてくる。

 激痛が走る。だが、構わずナイフを突き刺して引き剥がす。

 同時に、再び魔法を放つ。


「ファイアボール!」


 痛みは鋭く、強烈だ。だが、少しするとスッと引いていく。

 メニューを確認すると、HPが上下しているのが見えた。

 おそらく、《オートリカバー》のスキルのおかげだろう。


 MPも回復してきてはいるが、かなり減っている。

 どうやら《オートリカバー》は、HPとMPを1秒ごとに1ずつ回復してくれるらしい。


 ファイアボールにはMPが10必要だ。

 つまり、10秒待てばまた撃てる。


 だが、MPがゼロになると《エマージェンシー・リカバー》が発動しなくなる。

 非常時のために、MPはある程度残しておいた方がいいだろう。


 オレは考える。

 敵は多勢だ。多方面から攻撃してくる。

 なら、できるだけ敵が攻撃しづらい場所に移動した方がいい。


 オレは近くの壁の凹地を見つけ、そこに向かう。

 ここなら、ほぼ前方からしか敵は攻撃できない。


 狭いが、逆にそれがいい。


 オレはファイアボールを放ちながら、前方から迫る敵の攻撃をサバイバルナイフでいなす。


(いいぞ……ここなら戦える)


 ──「ファイアボール」


 ──「ファイアボール」


 ──「ファイアボール」


(……なんか、ここってゲームでいう“レベル上げのハマり場所”みたいだな)


 そしてオレは学ぶ。


〈やれば出来る〉


 と言うことを。


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