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異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第六章

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45話 帰路

 オレの船は、陽の光が穏やかに海面を照らす中、自由都市の港を静かに離れた。

 満載の武具を積み込んだ帰路。目的を果たした達成感と高揚感が、胸の奥に灯る。


 船長には、マーブル島までの一日航行を急がず安全第一で進むように命じてある。


 潮風が頬を撫で、オレのマントが風に踊る。

 甲板に立ち、遠ざかる自由都市を背に、マーブル島を目指すその時──。


 シャムが、猫らしく足元にすり寄りながら言った。


「主、魚釣りはやらないのかニャ?」


 その声に笑って返す。


「そうだな。今度やろう!」


「約束ニャ!主!」


 シャムが嬉しそうに尻尾を振るその時、異変に気づいた。


 左舷に目をやると、同型の船が並走している。

(まさか……)と右舷を振り向けば、そこにも同じ型の船が──。


「どういう事だ!」


 オレは即座に船長を呼ぶ。


「船長!この船と同じ型の船が、左右で伴走しているぞ!」


 船長の表情が険しくなり、声を低くして言った。


「カズー様、それは海賊船です。この船は、元は海賊船……。奴ら、挟み撃ちにするつもりです!」


「……なんだと!? 船長、逃げられないのか!」


「やってみましょう! 野郎ども、オールを持てぇ!!」


 船内に緊張が走る。船員たちが一斉に下層に駆け込み、巨大なオールを掴んで漕ぎ始める。


「野郎ども、死ぬ気でオールを回せ!!」

 船長の怒号が響き渡る。


 船は唸りを上げて加速する──が、海賊船もまた動き出していた。


「船長、奴らも加速している!」


 その時、シャムの目が金色に光る。《スキャン》スキルの発動だ。


「主! 奴らは敵だニャ!」


 迷いはない。オレはすぐさまバックパックにシャムを入れ、ジョブを[戦士]に変更する。


(海賊船が2隻。こちらはたった20人……乗り込まれたら危険だ!)


 海賊船はじりじりと距離を詰めてくる。


「船長、海賊船の方が速いぞ!」


「この船は荷が重いですからな……追いつかれます!」


「わかった。魔法で牽制する」


 左側の海賊船に向け、オレは詠唱する。


「ファイアレイン!」


 空から燃え盛る火の粉が降り注ぎ、甲板を駆け回る海賊たちを灼く。マストに炎が移り、煙が立ち上る。


 しかし、今度は右舷──。


 フックが飛来し、海賊たちが乗り込もうとしていた。


「野郎ども、甲板に上がって応戦しろ!」

 船長の怒声とともに、船員たちが武器を手に応戦へ向かう。


 オレは左舷の海賊船に対し、次の一手を繰り出す。

 アイテムボックスから【爆裂玉】を取り出し、甲板へと投擲。


 ――ドォォン!


 轟音とともに海賊が吹き飛ぶ。さらに側面に狙いを定め、炎の魔法を連射。


「ファイアボール!」


 火球が船体に直撃し、分厚い板を焼き裂く。


「ファイアボール!」 【爆裂玉】

「ファイアボール!」 【爆裂玉】

「ファイアボール!」 【爆裂玉】


 容赦ない魔法の連打。ついに左舷の海賊船は浸水を始め、速度を失って後方へと離れていく。


(……これで一隻は無力化できた)


 だが安堵も束の間。右舷の海賊たちは既に船内に侵入し、甲板では激しい戦闘が始まっていた。


「主、海賊が来るニャ!」


 シャムの叫びと同時に、一人の海賊が剣を振りかぶってオレに突っ込んでくる。


「ファイアボール!」


 火球が直撃し、海賊は火花と共に吹き飛び、海へと消えた。


 剣を抜き放ち、オレは叫ぶ。


「降伏しろ! お前たちの負けだ! 左舷の海賊船を見ろ!」


 振り返った海賊たちの視線の先には、燃え盛り、崩れながら沈んでいく海賊船の姿があった。


「オレは火の魔法使いだ! 貴様らの船も燃やしてやろうか!?」


 炎と威圧に心を折られた海賊たちは、次々と武器を捨て、ひざまずいた。


「船員たちよ、投降した海賊を縛れ!」


 船長が号令をかけ、縄で縛られた海賊たちは、順に敵船の倉庫へと押し込められた。


 倉庫は空だった。恐らく、この船の荷を奪う準備をしていたのだろう。


 船員の中には負傷者もいたが、重傷者には【ハイポーション】、軽傷者には【傷薬】を使って治療を施す。


(……《オート・リカバー》よりも、ハイポーションの方が回復が早いな)


 オレは満足し、船長に指示を出す。


「海賊を連れて、城塞都市へ向かおう。もう一隻の船は、他の船員で操縦させろ」


 翌日──


 城塞都市の石畳に馬車の車輪が響き渡る頃、オレはすぐさま公爵の居城へと向かっていた。


 城門をくぐり、衛兵に身分証を見せると、彼らは敬礼をしながら道を開ける。

 騎士団員に海賊を捕えた事とオレの船からの移送を依頼した後、オレは、一連の報告のために公爵への面会に行く。

 すでに伝令で連絡が入っていたのだろう。すぐにオレは、公爵との謁見を許され、大広間へと通された。


 広々とした大理石の床に、緋色の絨毯が伸びている。その中央に立つ人物──公爵だ。


「おお! カズー。無事で何よりだな!」


 公爵は満面の笑みを浮かべながら、力強くオレの手を握ってきた。

 その手には、遠征を終えた者への労りと、信頼の重みがあった。


「はい、途中までは順調だったのですが……帰路で海賊の襲撃に遭いまして」


 オレが慎重に言葉を選びながら答えると、公爵は驚いたように目を見開き、すぐに肩に手を置いてきた。


「しかし、お前はそれを退け、しかも海賊船を拿捕したと聞いている」


「はい。運が良かっただけです。味方の被害も出ましたが、何とか……」


 そう応えつつ、胸に抱えていた懸念を切り出す。


「実はもう一件、ご報告がございます。自由都市に滞在中、ユリウス伯爵から呼び出されました。そこで、城塞都市および関連貴族の情報を提供するよう提案がありました。私が断ると、彼は冗談だと笑ってはおりましたが……」


 言い終えると、公爵の表情が陰る。


「……やはり、か。あの男、ついにお前のような新参の貴族にまで手を伸ばし始めたとは……見境がない」


 重々しい声でそう呟き、公爵はしばし考え込むように顎を撫でた。


「ユリウス伯爵には、以前からよからぬ噂がある。どうやら他国と密かに通じているとも……本当かどうかは定かではないが、用心するに越したことはない。あまり関わらぬ方がよいだろう」


「畏まりました」


 オレは膝を折って頭を垂れた。

 あのとき、無用に深入りせず断ったのは正解だったのかもしれない──そう思う。


 気を取り直し、もう一つの確認をする。


「公爵様、拿捕した海賊船の扱いについてお伺いしたいのですが……」


「ふむ。もちろん、お前のものになる」


 即答だった。


 やはり、賊を討ち取った者がその所有物を得るという原則は、ここでも生きているらしい。


「何か他に欲しいものはないか? 報酬として、何か望みがあるなら遠慮なく言え」


 そう言われ、オレは少し考える。


 海賊との戦いのあと、新しいジョブを獲得した。

 戦士のジョブレベルが40に達し、新たに得たジョブ──それは[騎士]だった。


 騎士には馬が必要だ。


「もし可能であれば……馬を一頭、頂ければ幸いです」


「馬か!」

 公爵は声を上げ、目を細める。


「なるほど、確かに貴族には必要だな。……カズー、お前は馬に乗れるのか?」


 オレは正直に答える。


「いえ……素人です。アマンダ姫と一度、軽く乗ったことがある程度で……」


「そうか。それなら騎士団に行くといい。訓練に参加できるよう、私の名で通しておこう」


「ありがとうございます」


 思わず頭を下げてしまった。

 訓練が必要だと自覚している自分にとって、それは何よりの報酬だった。


 ──そう、貴族の社会は戦場と同じだ。

 剣の代わりに言葉が飛び交い、裏切りが陰で刃となる世界。

 その中で生き抜く術を、オレは学び始めていた。


 そしてオレは学ぶ。


〈貴族には裏切り者もいる〉


 と言うことを。

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