42話 自由都市
島民がオレのために農産物や海産物、畜産物を持って来てくれるようになった。
税を当面廃止したため、彼らが持って来る義理はまったくないのだが、それでも自然と集まってくる。
領主代行のジーノが気を利かせ、館の使用人に命じて、自警団や物資を届けに来た島民たちに食事を振る舞うようにした結果、今では領主の館が島の食堂のような役割を果たしていた。
島民たちは、自分たちの畑や海、牧場で取れたものを持ち寄り、飯を食い、談笑し、時には情報交換をしている。館の前庭では子供たちが走り回り、大人たちは笑いながら食卓を囲む。かつての重苦しい空気は、もうどこにもない。
そこには活気があった。
確かな、人の温もりがあった。
大きな果物を抱えた島の女性が、オレに声をかけてくる。
「領主様、あんたは良くやっているよ。ずっとここに居てくれ!」
オレは、照れ隠しに苦笑いを返す。
まるで、ここがずっと前から自分の居場所だったかのような感覚が胸をくすぐった。
そこへ、船長が足早にやって来て報告する。
「カズー様、船の倉庫が島のものでいっぱいになりました」
そう、オレは島民たちが届けてくれた物資を、少しずつ船の倉庫に蓄えていた。もう十分に溜まった。売って資金にする時だ。
オレは、空を見上げてひとつ頷き、船長に言う。
「よし、出港しよう!」
◆ ◆ ◆
オレは、島から一日ほどの距離にある「自由都市」へと向かっていた。
輸送船の甲板に立ち、近づいてくる大都市の景観を目に焼きつける。巨大な港湾施設には多数の帆船が停泊しており、活気と喧騒に満ちている。城塞都市とはまた違う、商業の中心地としての風格があった。
船長が甲板で号令をかける。
「お前ら、カズー子爵様の軍団として恥ずかしくないように行くぞ!」
……軍団? いつの間にそんなことに。
自由都市の港に入ると、すぐに役人が近づいてきた。
身なりの整った若い男が、丁寧な口調で話しかけてくる。
「自由都市にお越し頂きありがとうございます。身分証をご提示ください」
オレは、子爵の身分証と商人ギルドの会員証を提示した。
すると役人は少し表情を引き締め、告げる。
「子爵様、入港料は1日につき金貨2枚となります」
た、高い……。だが払うしかない。
「わかった。ところで、商人ギルドはどこにある?」
場所を教わり、オレは街の中心部に向かう。
自由都市の商人ギルドは、かつて訪れた城塞都市のものよりも大きく、より豪奢な造りになっていた。とはいえ、基本的な構造は似ている。大理石の床に高い天井、そして堂々とした扉。格式を感じる場所だ。
その扉を開けて中に入ると、受付にいた女性が柔らかい笑みを浮かべて挨拶してくる。
「おはようございます。お客様、どのようなご用件でしょうか?」
オレは商人ギルドの会員証を見せ、端的に要件を伝える。
「おはようございます。ここで農産物などを売りたいのですが、可能でしょうか?」
女性は軽く頷き、笑顔で答える。
「はい、問題ございません。買取の商人を紹介いたしましょうか?」
オレが「お願いします」と言うと、しばらくして商談室に若い商人が現れた。まだ20代と見えるが、鋭い目つきをしており、商売人としての自信が感じられる。
「農産物の売却をしたいのは、あんたか?俺はマリオと言う」
「ああ、そうだ」
オレが船に積んだ農産物、海産物、畜産物のリストを差し出すと、マリオはそれに目を通しながら尋ねる。
「で、いくらで売りたい?」
今回の物資は、城塞都市で売った量の倍。あの時は金貨100枚だったので、少なくともそれ以上は欲しい。少し多めから始める。
「金貨300枚を希望する。ここで武具を買いたいんだ」
すると、マリオの目がきらりと光る。
「武具も売らせてくれるなら、金貨260枚で買い取ろう」
渡りに船だ。オレはすぐさま聞き返す。
「剣と盾と革の鎧を1000用意できるか?」
マリオは即答する。
「革の鎧なら可能だ。それに、剣500、槍500、弓500、盾500でどうだ?」
悪くない。むしろ十分すぎる内容だ。
「いいだろう。それでいくらになる?」
マリオは一瞬天井を見つめ、素早く暗算してから答える。
「通常なら金貨1000枚だが、今後も取引してくれるなら700でどうだ?」
安い。明らかに、オレの《幸運》スキルか、商人ジョブの力が働いている。
「承諾しよう」
オレは、しっかりと頷いた。
若い商人のマリオとともに、オレは自分の船へと向かう。積荷の確認も兼ねて、船長に商人を紹介した。荷の積み下ろしが始まる頃には、陽も高くなり始めていた。
そしてオレは学ぶ。
〈商売では交渉が大事だ〉
と言うことを。




