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異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第六章

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39話 連行

 ◆ ◆ ◆


 オレは、すでに1ヶ月――自警団と共に訓練を重ねてきた。


 この島には、蟹型の魔物「シザークラブ」が出現する。巨大なハサミと硬質の甲羅を持ち、浜辺の特定のポイントにだけ現れる。


 倒すには、甲羅の隙間を狙うしかない。ハサミの攻撃は単調で、盾があれば防ぐのは容易だ。しかし、その一撃一撃は重く、油断すれば致命傷になりかねない。


 オレの火の魔法なら確実に倒せる。だが、強力すぎて敵がいなくなってしまう恐れがある。自警団の訓練のためにも、魔物は残しておかなければならない。だから、オレは風の魔法と剣で戦うことにしている。


 風の攻撃魔法は、命中すると爆風が発生するが、火の魔法に比べると威力は控えめだ。


 だが、それでも十分だ。


「ウィンドボール!」


 風の魔法がシザークラブに直撃し、魔物は甲羅ごと仰向けに倒れる。ダメージはわずかだが、ヤツらは一度ひっくり返ると、自力ではなかなか起き上がれない。


 チャンスだ。


 オレはすかさず駆け寄り、鉄の剣を構えて、柔らかい腹部に剣を突き立てる。


 シュウゥゥ……という音とともに、魔物の身体が霧のように崩れ、消えていく。


「ラッキーだな……!」


 地面にはドロップアイテム――【中魔石】が転がっていた。


 オレはそれを拾い上げ、アイテムボックスに収納する。これで10個目だ。貴重な資源がまた一つ、手に入った。


 風の魔法使いとしてのレベルも、いつの間にか10に到達していた。新たな魔法“ウィンドウォール”が使用可能になった。攻撃力こそ無いが、触れたものを吹き飛ばす力を持つ防御魔法だ。仲間を守るには申し分ない。


 オレが領主の館へ戻ると、そこには山積みの食料があった。


 現在、オレはこの島の税を無税にしている。その結果、島民たちは余剰分の収穫物を領主であるオレへと寄付してくれている。さらに、領主には直轄地があり、そこで収穫される作物もオレのものだ。島民たちが責任を持って管理してくれている。


 そのため、領主の館の倉庫は食料で溢れている。


 オレのアイテムボックスにも大量に保管している。

【野菜の袋】×99

【フルーツの袋】×99

【鶏肉】×99

【マーブル島の魚】×99

【小麦の袋50kg】×99


 アイテムボックス内では腐敗しないのが救いだ。しかし、上限は100枠。これ以上は空きが心配だ。


 そろそろ決断の時だと感じたオレは、領主代行のジーノに尋ねる。


「海賊船の改修はどうなってる?」


 ジーノは軽く頭を下げて答える。


「すでに完了しております。いつでも出港可能です」


 オレは、静かに頷く。


「よし。明日、出港しよう」


 目的地は、城塞都市。かつてこの島を荒らした前の領主代行と海賊たちを連行し、城塞都市で裁きを受けさせる。さらに、マーブル島で得た大量の食料を売却し、自警団のために武具を揃えるつもりだ。


 自警団の規模はすでに1000人を超えているが、その半数以上は武器も防具も持たない状態。オレが領主として、責任を持って準備しなければならない。


 ◆ ◆ ◆


 翌朝、オレと仲間のシャムは港へ向かった。


 海賊船だった船は、色を塗り替えられ、立派な輸送船へと生まれ変わっていた。船の倉庫には、領主の館から運ばれた食料がどんどん積み込まれている。


 船員は20名。皆、自警団の精鋭で、船長には元漁師の男が任命されていた。


 オレは、全員が配置に就いたのを確認して船長に問う。


「準備はできてるか?」


 船長は力強く頷く。


「はい!いつでも出港可能です!」


「よし――出港だ!」


 錨が上がり、帆が風を受ける。


 船は静かに、そして力強くマーブル島を後にし、大海原へと進み出した。


 オレは、甲板に立ち、遠ざかる島の影をじっと見つめる。


 この島に来た当初、オレは何も分からず、いきなり命を狙われた。だが、島民たちの助けを得て、海賊を討伐し、自警団を組織し、島に平穏をもたらした。


 ――オレは、本当に正しいことができたのだろうか。


 そんな問いが胸をよぎる。


 ふと、足元に温もりが触れた。


 シャムが、前足でオレの足をそっと押しながら言う。


「主、うさぎが欲しいのかニャ」


 オレは小さく笑う。


「いや……大丈夫だよ」


 そう言って、シャムの身体を優しく抱き上げる。


(かわいい奴だ……)


 マーブル島と城塞都市の距離は遠くない。船で3〜5時間程度の航程だ。


 内海のためか波も穏やかで、航海は順調そのものだった。


 城塞都市に到着すると、オレと自警団の数人は、縛り上げた前の領主代行と海賊たちを連れ、公爵の城へと向かった。石畳の通りを進む馬車の音が、夕暮れの静けさに響く。


 城門前に立っていた騎士団員が、こちらに気づいて近づいてくる。オレは腰から身分証を取り出し、堂々と差し出した。


「こいつらは罪人だ。牢屋に入れておいてくれ!」


 騎士団員は無言でそれを受け取り、目を通すと、鋭く敬礼して一言。


「はっ!子爵様」


 そして、部下に目配せし、前の領主代行と海賊たちを連れて行った。石の階段を引きずられる足音が遠ざかるのを聞きながら、オレは胸の奥の怒りと責任を、そっと息と共に吐き出す。


 空はすでに茜色に染まり始めていた。日が沈みきる前に、オレは使いの者に明日、公爵に謁見を願いたい旨を伝えさせた。


 そのまま、オレは足をクルワン師匠の家へと向ける。護衛を兼ねた船員たちは、今夜は船に泊まり、交代で見張りに就くとのこと。頼もしい仲間たちだ。


 やがて、見慣れた路地に差し掛かる。クルワンの家の前に立つと、横にいたシャムが微笑んだ。


「主、僕は他人の家には行かないニャ」


「ああ、シャムお疲れ」


 手を軽く振って別れ、玄関の扉を開ける。扉のきしむ音と共に、木の香りがほのかに鼻をくすぐる。久しぶりのこの家の空気。懐かしい。


 リビングではクルワン師匠が深くソファに身を預け、目を細めてくつろいでいた。奴隷のチャンがテーブルの上の食器を手早く片付けている。


「クルワン師匠、只今帰りました」


 その言葉が自然に口からこぼれたのは、オレの中にある安堵のせいだろう。クルワンの顔を見た瞬間、旅の疲れがすっと抜けていく。ここが、オレにとっての“帰る場所”なのだと、心のどこかで理解していた。


 クルワンは顔を上げて、穏やかな笑みを浮かべた。


「おおー。随分と長く行っていたな……おかえり」


 その声が、心に染み渡る。


 チャンもこちらを見て、優しく声をかけてくる。


「カズー、なんか食べるか?」


 オレは、二人の表情を見て、ようやく自分の顔から緊張が解けていくのを感じた。ああ、本当に……帰ってきたんだな。


「チャンさん、はい。お願いします」


 そう言ったとき、腹の底から空腹がこみ上げてくる。旅の間、どれほど気を張っていたのかが、今さらながらに分かる。


 そしてオレは学ぶ。


〈我が家があるという喜び〉


 と言うことを。

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