38話 海賊の財宝
オレと自警団は、海賊の捕虜を引き連れ、島の中心に建つ領主の館へと戻っていた。
途中、道の両脇に集まった島民たちが「よくやったぞ!」と歓声を上げ、拍手を送ってくれる。
その声は、長い恐怖から解放された安堵と、新しい希望への期待に満ちていた。
そんな中、オレはふと胸の内に不安を覚えていた。
(……自警団をまとめる者がいないと、また暴走するかもしれない)
正義感に駆られた者たちの力が、時に無茶な行いへと変わることをオレは知った。
だからオレは、館に着くなり領主代行ジーノに提案した。
「自警団の団長を決めたい」
ジーノは、まるでそれを待っていたかのように、即座に答える。
「はい。どなたにしましょうか?」
なるほど。オレが選ぶのか。
だが、オレは団員のことをほとんど知らない。名も顔も一致しない者ばかりだ。
かと言って、判断をジーノに任せきりでは、前の領主代行キールと同じ道を辿ることになるかもしれない。
オレは一つの決断をする。
「選挙で団長を決めてくれ」
ジーノは、一瞬だけ困惑の表情を浮かべた。
「……すみません、“せんきょ⋯”とは、何のことでしょうか?」
やはり、この国には選挙という概念が存在しないのか。王制の国であれば、それも当然だろう。
オレは、丁寧に言葉を選びながら説明した。
「自警団員全員が、自分がふさわしいと思う人に一票を入れる。そして、最も票を集めた者が団長になる。公平に、みんなで選ぶんだ」
ジーノはしばらく考えた末、静かにうなずいた。
「……なるほど。理解しました。すぐに手配いたします」
「それと、自警団の拠点は、当面この領主の館を使ってくれ。今後の任務は、領主代行であるお前と、選ばれた団長の二人で相談して進めて欲しい」
ジーノは深く礼をし、すぐに準備に取りかかった。
これで、自警団が独断で動くことはないだろう。
「……次は、武器と防具の問題だな」
海賊の装備を流用できるとしても、数が不十分だ。
だが、オレは思い出す――演説で、装備の提供を約束したことを。
(よし、オレが何とかしよう)
以前、盗賊の遺した物は、オレが使ってよいと言われていた。海賊の金も、同様に扱って構わないだろう。
◆ ◆ ◆
翌朝、オレは仲間のシャムを連れて、ある場所へ向かっていた。
目的は――宝探し。
シャムのスキルは、ゲームシステムのメニューで確認できる。《狩猟》に加え、《スキャン》という探索系のスキルも持っている。敵や罠の探知に役立つはずだ。
「シャム、これから宝探しに行くぞ!」
オレがそう声をかけると、シャムはパッと目を輝かせて答えた。
「主、何処かに魚があるのかニャ!?」
(……シャムにとっての“宝”は魚なのか)
オレは思わず苦笑する。
◆ ◆ ◆
今、オレは海賊船の中にいた。
思い出したのだ――倉庫の奥にある、鍵の掛かった部屋の存在を。
以前の戦いで手に入れた鍵を握りしめ、オレは慎重に歩を進める。
「シャム、何かおかしいことがあったら教えてくれ」
「はいニャ!」
いつも通り元気に返事を返すシャムが、少し頼もしく思えた。
倉庫の奥、古びた鉄扉の前に辿り着く。
オレは鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。
――カチャリ。
(やった……!)
開いた扉の向こうには、小部屋が広がっていた。
その中央には、宝箱に入りきらないほどの金貨が山のように積まれていた。
周囲には、宝石や装飾品が無造作に置かれている。
「……これは、宝の山だ」
オレは震える手で金貨を一枚拾い上げた。光を反射して輝くそれは、紛れもない本物。
試しにアイテムボックスに入れてみると、きちんと数が増える。
金貨は、ざっと見積もって2000枚以上。
宝石も、一つひとつメニューで確認していく。
『ルビー』
『サファイア』
『真珠』
(……全部、本物だ!)
その時だった。背後から、シャムの緊迫した声が響いた。
「主、おかしいことがあるニャ!!」
「なんだ!? 何かいたのか!?」
シャムは、じっとオレの目を見つめ、静かに言った。
「主の目が、海賊と同じになっているニャ……」
その言葉に、ハッと我に返る。
金貨と宝石の光に、理性が溶かされていた――まるで、あの海賊たちのように。
(……いけない。これは、みんなのために使うんだ)
自分にそう言い聞かせながら、宝をアイテムボックスに収める。
王国通貨 金貨 2509枚
【宝石の入った袋】×10
シャムは、まだオレを睨んでいる。
その視線が胸に刺さった。
◆ ◆ ◆
そして、オレは意気揚々と領主の館に戻った。
長く続いた不安が晴れた今、足取りは自然と軽くなる。大理石の床を踏みしめる音すら、どこか心地よい。
執務室の扉を開けると、そこにはジーノが静かに待っていた。書類を整えていた手を止め、オレに微笑みかける。
「カズー様、ずいぶんとご機嫌ですね?」
……しまった。
オレは、宝を手に入れたことが顔に出ていたらしい。恥ずかしいが、ここは正直に話そう。
「海賊の宝を得たんだ。これで武器と防具が買えると思ってな……」
ジーノは、少し意外そうな顔をしてオレを見る。
「そうでしたか? てっきり島民から税を取ると思っておりました」
その一言に、オレは思わず言葉に詰まる。
そういえば、税制のことなんて全然考えていなかった。為政者として未熟すぎる。気になって、オレは尋ねる。
「ジーノ、今までの税はどうなってたんだ?」
ジーノの表情がわずかに曇る。静かに、そして重たく答える。
「収穫物の五割を納める制度になっておりました。前の領主代行が定めたもので、大変厳しいものでした……餓死者も出たほどです」
その言葉を聞いて、オレはしばし黙り込んだ。
五割──そんな重税が課せられていたのか。島民たちは、そんな中で耐え抜いてきたんだ。
(今は、資金はある。自警団の面々も、皆が自発的に動いてくれている。
それに、公爵様にはあの着服されていた金貨1000枚を返せば、しばらくは献上金も不要だろう……よし!)
「資金は今は必要ないだろうし、当面は無税にする!」
ジーノの目が驚きに見開かれる。
「よろしいのですか? 島民は喜ぶと思いますが……」
「──ああ!」
オレは力強く頷いた。そして、ふと思い出してジーノに尋ねる。
「ジーノ、他に何かあったんじゃないか?」
ジーノは一瞬我に返ったように瞬きをし、思い出したかのように答えた。
「はい、自警団の団長が決まりました。猟師のローティが引き受けてくれるとのことです。ローティはかつて冒険者だったこともあり、適任かと。お呼びしてもよろしいですか?」
「もちろんだ!」
ローティの名前を聞いた瞬間、オレの胸には信頼が広がった。
彼の弓の腕は確かだし、これまでの戦いでも活躍してくれた頼れる仲間だ。
呼ばれていたのか、すぐにローティが執務室に姿を現す。
日焼けした肌、引き締まった体。歩く一歩一歩に風格がある。
彼はオレの前に進み出ると、片膝をつき、静かに頭を垂れた。
その姿に、オレは少し戸惑ったが──ジーノが静かに言う。
「カズー様、団長の任命をお願いします……」
なるほど、任命はオレの役目か。
やり方はよく分からないが、どこかで見た儀式を思い出す。
オレはアイテムボックスから鉄の剣を取り出し、重みを感じながらローティの肩にそっと置く。
「ローティ、自警団の団長に任命する!」
するとローティは顔を上げ、真っ直ぐな眼差しでオレを見る。
その目には、揺るぎない決意と誇りが宿っていた。
「カズー様、私の全知全能を賭して、命ある限り、カズー様とこの島のために戦います!」
オレは、その言葉の重みに一瞬気圧されながらも、しっかりと応えた。
「……よろしく頼む」
そして、オレとジーノ、団長となったローティの三人で、自警団のこれからについて話し合った。
まず、オレはローティに尋ねる。
「ローティ、自警団はできたばかりで素人の集まりだと思うが、練度はどうやって高めていく?」
ローティは考えをまとめるように短く頷いてから、答えた。
「毎朝の軽い訓練と、週に一度の本格的な訓練を実施します。
今は海賊もいなくなりましたので、実戦経験として魔物の討伐を行おうと考えています」
魔物──その言葉にオレは眉をひそめる。
ここは島。魔物なんて、本当に出るのか?
「ローティ、ここは島だが魔物がいるのか?」
「はい、多くはありませんが、大陸から海を渡ってくるようです。
まずは、団員の実力を見極めるため、明日から魔物の生息地に向かうつもりです」
オレは、その提案に興味を惹かれた。そして、自然と口が開く。
「ローティ、オレも一緒に行っても良いか?」
ローティは嬉しそうに微笑み、即座に答えた。
「もちろんです!」
その返答に、オレも笑みを返す。
──明日は、新たな始まりの日になるだろう。
そしてオレは学ぶ。
〈大金は人を堕とすことがある〉
と言うことを。




