37話 演説後
オレは、島民の前での演説を終えたあと、領主の館の執務室で椅子に身を沈めていた。
(……疲れた。だが、これでようやく自警団の設立には目処が立った)
ふと、机の端に前足をちょこんと乗せてくる感触がある。シャムだ。
「主、お疲れ様ニャ」
相変わらずの癒し要員である。
オレはその頭を優しく撫でながら、自然と笑みをこぼす。
その時、執務室の扉が勢いよく開かれた。新しい領主代行のジーノが、興奮気味に飛び込んでくる。
「カズー様、すごいことになっています!自警団への入団希望者が……500人を超えています!しかも、まだまだ増えそうです!」
「……ジーノさん、それは良かった。あとは、武器と防具の調達、そして訓練ですね」
オレがそう返した瞬間、また別の男が慌てた様子で執務室に飛び込んできた。おそらく、出来たばかりの自警団員だろう。
「カズー様!海賊の船長の住処を発見しました!ですが……一部の団員が、興奮して武器を持って討伐に向かってしまいました!」
(まずい……! まだ訓練もしていない今の段階で海賊と衝突すれば、こちらに死傷者が出る。そんなことになれば、せっかく高まった士気が一気に落ちる……!)
オレは立ち上がり、ジーノに執務室を任せて、報告に来た団員とともに現場へ向かった。
◆ ◆ ◆
海賊の住処は、島にある山の中腹。岩壁に沿って建てられた、複数の木造の小屋が連なっている。荒々しいが、そこそこ防御力の高そうな作りだ。
険しい山道を登りきったオレたちが現場に着くと、すでに戦闘が始まっていた。自警団員たちが拠点に向かって攻撃を仕掛けているが、海賊側からの矢が容赦なく飛んできて、前に進めていない。
オレは、以前共に戦った猟師のローティに声をかける。
「なぜ、こんな無茶な戦いをしているんだ!?」
ローティは、苦い顔で頭を下げた。
「すみません……カズー様の演説に感化されて、皆、勢いで動いてしまって……止められませんでした……」
見渡すと、こちらには100人以上の団員が集まっている。だが、すでに何人かが矢で負傷している。今のところ海賊たちが外に出てこないのが唯一の救いだが、このままでは犠牲者が出るのも時間の問題だ。
オレはアイテムボックスから【ポーション】5本と、【救急箱】から取り出した傷薬をローティに手渡す。
「重傷者にはポーションを使え!軽傷者にはこの薬を塗って手当てを!怪我人は後方へ!」
指示を出しながら、オレは盾を構えて前線へと進み出る。
「全員、盾を構えろ!」
だがローティが、申し訳なさそうに声を上げた。
「カズー様……その、全員、盾を置いてきてしまいました……登山には邪魔だと……」
(……そういうことか)
オレは即座に判断し、自ら先頭に立つことを決める。
「オレが前に出る!お前たちは矢で援護しながらついてこい!」
前方に向かって詠唱する。
「ファイアウォール!」
空間に赤い光が走ると、オレと敵陣の間に高く立ち上がる炎の壁が出現した。炎の熱気が顔をなでる。
だが、それでも矢は飛んでくる。炎の壁の外側、斜めの角度から放たれている。
オレは鉄の盾を構え、体を低くして前へと突き進む。盾に何本も矢が叩きつけられ、衝撃が腕を襲う。
次の瞬間、鋭い痛みが肩を貫いた。
「くっ……!」
矢が肩に刺さった。だが、止まるわけにはいかない。オレはそのまま炎の壁の最前線に到達する。
(……まずは左側から仕掛ける!)
「ウィンドボール!」
圧縮された空気の塊が音を立てて飛び、木造の家に直撃。爆発的な風圧とともに壁を吹き飛ばす。
(この空気の球は、“風弾”か……!)
続けて、右の射撃ポイントに狙いを定める。
「ウィンドボール!」「ファイアボール!」
風と火の魔法、風弾と火球を狙った場所に向かって放つ。立て続けに炸裂し、建物の一部が崩れるように壊れる。木の破片が宙を舞い、敵の視界を奪った。
(やはり属性が異なる魔法なら、連続発動できるな)
そして――中央を狙おうと構えたその時。
拠点の中央の建物から、海賊たちが両手を挙げて現れた。
「降参する!もうやめてくれ!」
次々に海賊が出てくる。ざっと20人はいる。
自警団員たちが一斉に駆け寄り、縄を使って海賊たちを拘束していく。
その場にいたローティが、心配そうにこちらに近づいてきた。
「カズー様……肩に矢、刺さってますが……!」
(そうだ、すっかり忘れていた……!)
興奮していて気づかなかったが、肩の激痛が蘇る。
オレはローティに矢を抜くよう指示する。
「頼む……!」
「失礼します……!」
矢が引き抜かれる瞬間、鋭い痛みが体を駆け抜けたが、《オート・リカバー》のスキルが発動し、数十秒後には傷がみるみるうちにふさがっていく。
拠点内へと踏み込んだ自警団員の一人が、叫ぶ。
「カズー様!船長が……死んでいます!」
オレはその場に向かうと、そこには斬り殺された海賊の男が倒れていた。拳を強く握ったままこと切れている。
「……内部抗争か。討伐直前に仲間割れしたか……」
その拳を開くと、男はひとつの鍵を握っていた。オレはその鍵を手に取る。
と、別の団員が奥から叫ぶ。
「カズー様!宝があります!」
中に入ると、そこには金貨の山――おそらく500枚はある。加えて、質の良い武器と防具も大量に保管されていた。
思わず笑みがこぼれる。
そしてオレは学ぶ。
〈悪の組織は金を隠し持っている〉
と言うことを。




