35話 海賊
オレは、左腕を見る。先程受けた左腕の傷は、《オート・リカバー》のスキルで完治している。
そして、オレは、甲板からこちらに向かって来る海賊たちを観察する。
目の前の光景に、思わず息をのんだ。
甲板からこちらに向かってくる海賊たちの数は100人以上。奪われた船を取り戻そうと、焦燥に駆られた表情でこちらへ殺到してくる。全員が手にした武器をぎらつかせ、今にも血の匂いが漂ってきそうだ。
「ジーノ、船倉の武器と防具を島民の仲間に。武装させろ!」
前領主代行のジーノに指示を出しながら、オレは冷静に状況を分析する。
こちらの戦力は、囚われていた者を含めても20人程度。相手は5倍以上。この圧倒的な戦力差を覆すには、オレの魔法にかかっている。
先頭の海賊が、オレの魔法の射程圏内に入ってきた。
オレは、先頭の海賊に向け、呪文を唱える。
「ファイアボール!」
掌から放たれた灼熱の火球が、先頭の海賊の胸を貫き、弾ける。轟音と共に海賊の身体が後方に吹き飛ばされ、後続の海賊たちが驚きに足を止める。
すかさず、オレはさらに全体攻撃魔法を放つ。
「ファイアレイン!」
空に舞い上がった無数の火の粉が、雨のように海賊たちに降り注ぐ。火の粉は海賊の衣服を焦がし、肌を焼く。悲鳴を上げながら逃げ惑う海賊たちの前進は止まり、彼らは一旦警戒態勢に入る。
その隙を狙ってか、盾を持った海賊たちが前線に広がり、その後ろから弓を持った海賊たちが一斉に矢を放ってきた。矢の雨が、カツンカツンと乾いた音を立てて甲板に降り注ぐ。
オレはとっさに鉄の盾を顔の前に構え、防御する。しかし、飛んできた矢の一部が盾をすり抜け、オレの両足に深く突き刺さった。
「ぐっ……!」
激しい痛みが脳を揺らし、オレは立っていることができず、膝から崩れ落ちる。
二の矢が来る前に、ジーノがオレを抱え、船内へと引きずり込んでくれた。
ゲームシステムのメニューを開くと、HPゲージがみるみるうちに減っていく。オレは、痛みに顔を歪めながらジーノに指示する。
「足に刺さった矢を、抜いてくれ!」
自分で抜こうとするが、激痛で力が震えてしまう。アイテムボックスから【救急箱】を取り出し、痛み止めを口に放り込む。それでも、激痛は治まらない。ジーノがオレの指示に従い、一本ずつ矢を抜いていく。矢が抜かれるたびに、悲鳴にも似た唸り声が漏れる。矢を取り除くと、HPゲージが再び減少しはじめる。
なんとかすべての矢を抜き終わると、オレはジーノに告げる。
「仲間たちに、盾を持ってこいと伝えてくれ!」
再び、盾を持った仲間と甲板に出ると、海賊が艦橋を登ってくるのが見えた。オレは、迷わず攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
放たれた火球は、海賊の身体を直撃し、灼熱の炎に包まれた海賊は悲鳴を上げる間もなく海へ落ちていく。
後続の海賊が盾を構えて登ってきた。オレは、その姿を目がけて再び魔法を放つ。
「ファイアボール!」
火球は、海賊の盾に直撃し、その衝撃で海賊は吹き飛ばされ、後方の海賊たちを巻き込みながら海に落ちていく。
しかし、海賊の後方から、再び矢が飛んでくる。
「しゃがんで盾を構えろ!」
オレの指示に、仲間たちは素早く身をかがめ、盾を構えた。ほとんどの矢は盾に弾かれたが、一本の矢が仲間の肩に突き刺さる。
「一度、交代しろ!」
オレは素早く防御魔法を使い、反撃の隙を作る。
「ファイアウォール!」
艦橋の先に、燃え盛る巨大な炎の壁が出現する。これで海賊たちは容易に近づくことはできないだろう。
オレは、間髪入れずに全体攻撃魔法を放つ。
「ファイアレイン!」
降り注ぐ火の粉から逃れるため、海賊たちは後退していく。しかし、彼らの矢による攻撃は止まらない。オレの魔法よりも、矢の射程のほうが長いようだ。
島民の仲間たちが、オレを矢から守るために盾を構える。だが、練度が低いのか、いくつかの矢が盾の隙間を抜け、仲間の身体に突き刺さった。致命傷を負った者はいないものの、オレは彼らを休ませるため交代を指示する。
(このままでは、仲間たちが疲弊してしまう。そして、海賊たちが再び迫ってくるだろう。こうなったら、オレが突っ込むしかないのか……)
そう考えていると、また、仲間が一人倒れる。
(オレがここから離れれば、海賊たちが一斉に船になだれ込んでくるだろう。どうするべきだ……)
その時、海賊たちの後方から、轟くような雄叫びが聞こえてきた。
「うぉーー!うぉー!うぉーーーー!」
声のする方を見ると、武装した島民たちが、海賊たちに向かって突撃していく。その数は、ゆうに200人を超えていただろう。
前領主代行のジーノがオレの隣に駆け寄ってくる。
「間に合いました。ここで戦わなければ、一生海賊の言いなりだぞと、他の島民たちにも戦うように命令しました」
オレはこの状況を好機と捉え、海賊の殲滅を目指す。
船上の仲間たちに、オレは叫んだ。
「今だ!海賊を挟み撃ちにするぞ!突撃!!」
オレは、炎の壁を消し、先頭に立って海賊に向かって走り出す。
「ファイアウォール消えろ!」
矢が飛んでくるが、走るオレには当たらない。走りながら、オレは攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
盾を構えた海賊が火球を受けて吹き飛び、その衝撃で弓を持った海賊も巻き込まれる。
オレは鉄の剣を抜き、海賊を斬り捨てる。手に伝わる感触に、一瞬戸惑いを覚えるも、戦場の興奮がオレの理性を麻痺させる。
「ファイアボール!」
弓を持った海賊が火球に焼かれる。
立て続けに、全体攻撃魔法を放つ。
「ファイアレイン!」
灼熱の火の粉が、海賊たちに降り注ぐ。海賊たちは、戦意を失い、散り散りに逃げ惑い始めた。後ろから突撃してきた島民たちが、逃げる海賊たちを槍で突く。海賊たちは、もはや反撃することもできず、次々と倒されていく。島民たちのこの機会への期待が、彼らの目から見てとれた。
前領主代行のジーノが、オレの隣にやってきて話しかけてきた。
「カズー様、勝ちましたな……」
オレはジーノに静かに答える。
「いや、まだだ。領主の館に行くぞ!」
◆ ◆ ◆
オレたちは、仲間を引き連れて領主の館へ向かう。もはや海賊たちは抵抗する者もなく、オレたちは難なく領主の館にたどり着いた。
館の扉は固く閉ざされている。オレは扉に向け、攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
轟音と共に、扉が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
仲間たちが、吹き飛んだ扉を乗り越え、中へと向かう。オレも彼らに続いて中に入ると、領主代行のキールが、護衛の大きな男に命令する声が聞こえた。
「おい、奴を殺せ!褒美は好きなだけやる!」
護衛の男が、大剣を抜き、オレに迫ってくる。オレは、その男に攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
火球を受けて、護衛の男は吹き飛ぶ。オレの仲間たちが、その隙に領主代行を捕らえた。
オレは、領主代行キールを見て、静かに考える。
(この者たちは、何を求めていたのだろうか……)
そしてオレは学ぶ。
〈迫害されたものの怒り〉
と言うことを。




