34話 反撃
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物置小屋でジーノと別れてから、すでにどれほどの時間が経っただろうか。
重く湿った空気に、微かに潮の匂いが混じり、息苦しさを覚える。
物置小屋の古びた扉を睨みつけながら、オレは静かにジーノを待っていた。
今は、ジーノが仲間を連れてきて、海賊に占拠されたこの島を奪還することを目指す。
不意に、物置小屋の扉がわずかに開く。
光の隙間からジーノが顔を出し、静かに声をかけてきた。
「領主様、仲間が来てくれます。待ち合わせは港の海賊船です。移動しましょう」
ジーノとオレは、海賊船へと向かうため、物置小屋を出る。
海賊の目につかないように、ジーノは慣れた様子で裏道や路地裏を使い、慎重に進んでいく。
島の路地裏は入り組んでおり、薄暗い。
そこかしこから、生臭い潮風と酒の匂いが混じり合った、不快な空気が漂ってくる。
ジーノの背中を追いながら、オレは静かに息を潜める。
やがて、視界が開け、港へと出た。
そこには、巨大な帆船が停泊している。
両側に櫂が装備できる造りになっており、帆と櫂の両方で進むことができるようだ。
海賊船の入り口には、見張りが一人、ただぼんやりと立っている。
ジーノはオレに手で合図を送り、見張りに気づかれない場所で身を隠すように促す。
オレたちは身を潜め、10分以上待っただろうか。
ジーノの仲間らしき人影が、物陰から次々と現れる。
10人ほどの集団だ。
ほとんどが農夫や漁師と思しき、質素な身なりの者たちだ。
しかし、その中に一人、獲物を狙うかのように弓を構えている40才前後の男がいる。
おそらく猟師だろう。
オレは、集まった彼らに静かに語りかけた。
「オレは、新たにこのマーブル島の領主になった子爵のカズーだ。海賊からこの島を奪還すると決めた。みんな、協力してくれ!」
オレの言葉に、ジーノが応える。
「カズー様、もちろんです。みんな、この時を待っておりました!」
彼らの言葉を聞き、オレは胸が熱くなった。
(この島に住む人々は、これまでどれほどの苦しみに耐えてきたのだろう)
オレは、心の中で誓った。
必ず、この島を彼らの手に取り戻してみせる。
「よし、まずはあの海賊船を奪取する。弓を持っているお前、あの見張りを倒せるか?」
オレの問いかけに、猟師は静かに頷くと、迷うことなく弓に矢をつがえた。
その手つきは淀みなく、訓練された兵士のようだ。
張り詰めた静寂の中、矢が放たれる。
「ヒューーーーッ!」
風を切り裂くような音が響く。
放たれた矢は、見張りの胸に見事に突き刺さり、見張りは悲鳴をあげる間もなく海へと落ちていった。
静寂を破ったのは、水しぶきの音だけだった。
オレは、見張りが海に落ちた音が他の海賊に気づかれることを恐れ、仲間を急かして海賊船へと向かう。
海賊船の中は、外の光が遮られ薄暗い。
船内に入ると、櫂を漕ぐための広い空間が広がっており、そこで目を疑う光景が俺の目に飛び込んできた。
そこには、鎖に繋がれた男女や子供が20人以上、憔悴しきった様子で座り込んでいる。
後ろからついてきた島民の仲間が、声を絞り出すように言う。
「行方不明になった者たちです。やはり、海賊に連れ去られていたようです」
海賊は、島民を攫い、奴隷として売買していたのだ。
怒りが、俺の心に燃え上がる。
仲間たちは、すぐに鎖に繋がれた人々の解放を始めた。
その間に、俺はさらに下の階へと続く階段を進む。
階段を降りると、食堂と船員室があった。
食堂のテーブルには、食べ散らかされた料理がそのままになっており、数人の海賊が談笑していた。
オレの存在に気づいた海賊の一人が、顔色を変えて叫ぶ。
「お前は、何者だ!」
そして、そのうちの一人がナイフをかざしてオレに向かって突進してきた。
オレは、迷うことなく攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
オレの放った火球は、海賊の体を直撃し、海賊は吹き飛んだ。
即死だろう。
そして、オレはさらに魔法を放つ。
「ファイアボール!」
再び、火球が放たれ、別の海賊が吹き飛ぶ。
食堂の空気が一瞬にして凍りつき、海賊たちは恐怖に顔を歪ませる。
その中に、斧を構えた大柄な海賊が、オレに向かって突進してきた。
オレは、持っていた木の盾で斧を受け止める。
乾いた音とともに、木の盾は真っ二つに割れた。
海賊は、嘲るような笑みを浮かべる。
オレは、その隙を見逃さず、攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
火球が海賊に当たり、二人の海賊が吹き飛ぶ。
その音を聞きつけ、島民の仲間が食堂に入ってきた。
彼らが武器を構え、海賊と交戦し始めると、オレへの攻撃は少なくなり、攻撃魔法を放ちやすくなった。
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
オレは次々と火球を放ち、食堂にいた海賊をほぼ全て倒した。
オレはさらに奥へと進む。
廊下には、両側に船員室が並んでいる。
突然、左側の船員室の扉が開き、一人の海賊がナイフを片手に飛び出してきた。
船内は狭く、オレは鉄の剣を持っていたが、上手く打ち返すことができず、左腕を斬られた。
傷口から熱い血が流れ出す。
鋭い痛みが、神経を駆け抜けた。
その時、後ろから来たジーノが、素早く槍でその海賊を突き刺した。
「カズー様、大丈夫ですか!?」
ジーノの言葉に、オレは「助かった」とだけ言い、海賊が出てきた船員室に入った。
部屋の中には、5人の海賊が武器を構え、待ち構えている。
(さすがに5人を一度に相手するのはきついか……)
そう思い、オレは海賊たちの前に防御魔法を使った。
「ファイアウォール!」
オレの魔法で、目の前に炎の壁が出現する。
狭い船員室は火の壁で塞がれ、海賊たちは逃げ場を失った。
熱さに耐えられなくなった海賊の一人が、火の壁に突っ込むと、服に火が燃え移る。
オレは、火の壁から出てきた海賊に攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
必死に火を消そうとしていた海賊は、オレの魔法で吹き飛んだ。
島民の仲間が駆けつけてきたので、この場は彼らに任せることにした。
ジーノは、火の壁から出てきた海賊を、次々と槍で突き刺していく。
オレはさらに奥へと進み、階段を降りた。
下の階は、巨大な倉庫になっていた。
そこには、穀物の大袋や干し肉、乾燥した野菜など、大量の食料が積み上げられている。
酒樽も多数あり、そして武器も豊富に揃っていた。
盾、剣、槍、斧、弓、そして大量の矢。
オレは、壊れた木の盾の代わりに、鉄の盾を手に取った。
さらに進むと、鍵のかかった部屋があり、行き止まりになっていた。
オレは、バックパックにいるシャムに尋ねる。
「この中に誰かいるか?」
「誰もいないニャ」
シャムの答えに、俺は首を傾げた。
おそらく、何か大切なものが保管されているのだろう。
しかし、今は海賊の殲滅が優先だ。
この部屋は無視し、オレは再び上の階に戻った。
上の階に戻ると、島民の仲間たちが、海賊を全て倒していた。
その時、鎖に繋がれていた島民の一人が、切羽詰まった声で叫ぶ。
「海賊が100人以上、こっちに向かって来るぞ!」
そしてオレは学ぶ。
〈悪者による悪の所業は際限ない〉
と言うことを。




