表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/62

30話 会食

 オレは、街での買い物を終えたあと、師匠クルワンと共に公爵の城へと向かった。


 夕暮れの陽を受けて輝く白亜の城門をくぐり、石造りの廊下を抜けて、師匠の部屋でしばらく待っていると、小姓の一人が静かに扉をノックし、オレたちを迎えに来た。案内に従い大広間へと進むと、そこには長いテーブルが設えられており、白いクロスの上に銀食器が並べられている。


 師匠のクルワンは、右側の奥の席に座り、オレはその隣に腰を下ろす。少しして、公爵とその家族と思われる二人の男女が現れ、静かに席へとついた。


 クルワン師匠から事前に、今日は公爵の次男と長女が出席すると聞いていたので驚きはなかったが、姫が登場したとき、思わず息をのんだ。光沢のある淡いブルーのドレスを纏ったその姿は、まさに絵画から抜け出したような美しさだった。長い金髪が背に流れ、碧眼は湖のように澄んでいる。


 公爵がゆったりと紹介を始める。

「カズー、お前は今日が初めてだったな。こちらが息子のローランド、そして娘のアマンダだ」


 二人が軽く会釈する。オレは立ち上がり、深く礼をした。


「今日の食事は非公式の晩餐だから、礼儀作法は気にせず楽しんでくれ」


 その言葉に、オレは内心ほっと胸を撫で下ろす。


(助かった……貴族の作法なんて何も知らない)


 小姓たちが手際よく前菜を各自の前に置き、グラスに赤ワインが注がれていく。芳醇な香りが鼻をくすぐった。


 公爵がグラスを掲げる。

「では、皆、大いに食べてくれ。乾杯!」


 オレもそれに倣ってグラスを持ち上げ、一口飲む。口の中に広がる深い葡萄の香りとわずかな酸味が、食欲を刺激した。


(美味しい……)


 前菜には香草と魚介が使われており、フォークとナイフで丁寧に食べ進める。幸い、前の世界でもナイフとフォークは使っていたので戸惑いはなかった。


 すると向いの席のローランド卿が話しかけてきた。


「確か、あなたは記憶喪失と聞いていますが、フォークとナイフは使えるのですね?」


 オレは少し焦りながらも、平静を装って答える。

「はい、体が覚えているのでしょう……普段していたことは自然にできるようです」


 ローランドは納得したように頷いた。


「なるほど、確かに身体の記憶というのはありますからね」


 続いて、姫君・アマンダが興味深そうに口を開いた。


「あなたは外国から来たのよね?ちょっと面白い顔をしているわ」


 唐突な一言に驚いたが、悪気はなさそうだ。オレの顔立ちはこの国の人々と違って平坦で、前の国特有のものだ。アマンダたちは金髪碧眼の典型的な貴族の容姿で、美男美女だ。特に姫の整った顔立ちは、目を引く。


「ええ。服装や顔立ちから見ても、私はこちらの国の人間ではないと思います」


 アマンダは瞳を輝かせて続ける。


「何か、外国の品物を持っているの?見てみたいわ。何でもいいの」


 オレは思案する。


(今持っているのは……【エバキュエーションキット】と【ファストエイドキット】、でも今は人前で出せないな)


「申し訳ありません、今は持っていません。ですが、後ほどお見せします」


 すると姫は目を輝かせて身を乗り出した。


「まぁ!本当に?楽しみにしてるわ。明日の朝、来てくださる?」


(なんだか、ずいぶん積極的だな……でも、まぁ、年齢的にはそういう頃か)

 姫様は20才前後だろう。


 食事は和やかな雰囲気で進んでいく。


 今度はローランドが真剣な表情で尋ねる。


「あなたは、クルワンの弟子だそうだけど、魔法は使えるのか?」


「はい。火の魔法を使えます。昨日、冒険者として魔物の討伐に行ってきました」


「おお!それは素晴らしい!実はその討伐依頼、私が出したんだ。都市近郊に魔物が現れていてね。本当にご苦労だった」


(なんだ、依頼主はこの人だったのか)


 そして、公爵がそれに続けてオレに聞く。

「カズー、何か目的のある旅をしていたのだろう。その目的は思い出せないのか?」


 この唐突な質問にオレは答える。

「一つ覚えております。私の使命は魔王を討伐することです」


 すると、全員が驚いてオレを見る。


 会話はその後、他愛のない話へと移り、公爵家の子どもたちは予想よりも親しみやすく、気さくな人物だと分かった。


 食後、オレは城を後にした。


 ◆ ◆ ◆


 翌朝──

 アマンダ姫と交わした「異国の物を見せる」という約束を果たすため、俺は再び公爵の城を訪れることにした。


 その前に、オレは師匠のもとを訪れ、アマンダ姫の近況について尋ねた。


「姫は先月、隣りに位置する都市の男爵の息子とお見合いをしたが……どうも、うまく行かなかったようじゃ。気の強い姫には、今や貴族の相手は見つからぬだろうのう……」


 師匠の語るところによれば、一度お見合いを断った姫は、他の貴族たちからも敬遠されているらしい。どうやら断られることを恐れ、お見合いの声すら掛からない状況のようだ。


(あの若さで、もう相手がいないとはな……)


 少しばかり哀れにも思いながら、オレは公爵の城へ向かった。


 城門をくぐり、小姓に用件を告げると、すぐに中庭へ案内された。

 そこには、陽光の差し込む緑豊かな庭園と、白い布がかけられた丸テーブル。そして、その傍らにはアマンダ姫が、お茶の用意をしていた。


「カズーさん、よくおいでくださいました」


 姫は微笑みながら、まっすぐこちらに顔を向ける。

 白いドレスに身を包み、髪は淡く光を反射している。まるで春の花のようだった。


「こちらこそ、お招きありがとうございます」


 オレが頭を下げると、ふと姫の隣にもう一人、無言で佇む男がいることに気づく。鍛え上げられた体躯と、鋭い眼差しが印象的だ。


 アマンダ姫が俺の視線に気づき、紹介する。


「こちらは、私の騎士のレオックです」


「……よろしく」


 レオックは無口な様子で、軽く会釈をした。


 場に流れる緊張を和らげるように、俺は懐から一つの品を取り出した。


「こちらが、私の国の“魔導具”です。一瞬で周囲を照らすことができます」


 そう言って手渡したのは、俺の持ってきた懐中電灯だった。


 アマンダ姫は目を輝かせながらそれを受け取り、手のひらの上でじっと眺める。しかし、当然ながら使い方はわからないようだ。


「ここを、こう押すんです」


 俺がボタンの場所を指差すと、姫は指を伸ばしてそっと押し込んだ。


 ──カチッ。


 次の瞬間、懐中電灯の先からまばゆい光がほとばしる。


「おおっ……! これは……すごい! 魔力を使わずに、こんなに明るくなるなんて……!」


 姫は、まるで子供のように目を輝かせている。

 俺の想像以上に、純粋に驚き、そして喜んでくれた。


「カズー! これは本当にすごいわ! 私、昔クルワンに魔法を学んだことがあるんだけど、全然才能がなくてね。でも、これなら私にも使える!」


 その無邪気な笑顔を見て、つい俺は言ってしまった。


「良ければ、その懐中電灯を姫様に献上いたします」


 姫は、ぱっと顔を明るくして俺を見た。


「えっ、本当に? こんな貴重なものを?」


(まだ【エバキュエーションキット】にいくつも残ってるし、別に困らないか)


「ええ、もちろんです。どうぞお使いください」


 懐中電灯を両手で抱えるようにして、姫は深く頭を下げた。


「ありがとう、カズー! では、これから乗馬に行くところなの。一緒に来なさい」


 そう言って姫は、笑顔のまま馬場の方へ歩き出す。レオックもそれに続く。


 俺はというと、懐中電灯を献上したことよりも、これから待っている“社交の時間”の方が気がかりだった。


 そしてオレは学ぶ。


〈偉い人との会食は面倒だ〉


 と言うことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ