3話 火の魔法使い
オレは考える。なぜ、あんな最弱のスライムに負けたのかと。
そもそも、オレは剣の使い方なんて知らない。そんなド素人が魔物を倒せるはずがない。戦士のジョブがオレには合わない。
原因は⋯⋯⋯⋯ジョブだ。
メニューを開き、ジョブの欄をタップする。
[戦士]の他に、もう一つ選べるジョブが表示されている。
[火の魔法使い]――これだ!
異世界といえば魔法。魔法ならただ放つだけ。剣よりずっとシンプルだ。
オレは迷わずジョブを[火の魔法使い]に変更する。
魔法の一覧には一つだけ『ファイアボール』とある。ゲームでよく見る初級の火魔法だ。説明文を見るとやはり思ったとおりだった。
単体魔法攻撃、MP消費10。
オレのMPは100だから、十分に撃てる。
少し恥ずかしいが、オレは両手を前に突き出し、叫ぶ。
「ファイアボール!」
次の瞬間、手の先から巨大な火球が放たれ、ものすごい勢いで飛んでいった。
進行方向にあった木に命中し、木を吹き飛ばしながら燃やし尽くす。
…すごい威力だ。
メニューを見ると、MPは90/100に減っていた。あと9発撃てる計算だ。
オレはスライムを倒しに行きたい衝動をなんとか抑え、少し休憩を取る。
傷薬のおかげか、HPは80/100まで戻っていたが、MPは回復しない。
まあ、ゲームなら一晩寝れば全回復するし、仕方ないと割り切る。
そのとき――
草むらの奥から、ガサッ…と音がした。
目を向けると、スライムがゆっくりと近づいてくる。
倒れた木の音に反応したのか、それとも焦げた匂いにつられたのか。
いずれにせよ、向こうもこちらを認識している。明らかに戦闘態勢だ。
オレは再び手を前に突き出し、叫ぶ。
「ファイアボール!」
火球が一直線にスライムへ向かって飛んでいく。
直撃した。スライムはしぼみながら、霧のように消えていった。
何も残っていない。
(スライムを倒した――!やった!)
オレは歓喜に打ち震えた。
たとえ最弱のモンスターでも、倒せたことがうれしい。
何より、魔法で勝てたという事実が、自信につながった。
まずは一匹。
オレの中に、次なる戦いへの闘志が燃え上がっていた。
まだMPは80残っている。ファイアボールはあと8発撃てる。スライムは動きが遅いから、危なくなったら逃げることも可能だ。
スライムを倒したが、オレのレベルは1のままだ。やはり、レベルを上げない限りオレは強くなれない。
(もっとモンスターを探して、倒さなければ——)
オレは森の中を歩き出した。
幸運だったのか、少し進むと目の前にスライムが3匹現れた。まだこちらには気付いていない。
オレはそっと距離を詰め、手をかざして魔法を放つ。
「ファイヤボール!」
火球がスライムに命中し、爆発と共に消滅する。ファイアボールは次の一発を撃つまでに少し間が必要だが、スライムは遅い。距離を保ちながら、さらに魔法を重ねる。
「ファイヤボール!」
——やがて、3匹とも倒した。
初期魔法とは思えない威力。一発で仕留められた。MPは50/100、まだ余裕がある。
(ファイヤボール、実は最強かも)
メニュー画面を開き、オレは手応えを噛みしめていた——そのときだった。
「ガルルルルーー!」
突然、獣の唸り声が森に響いた。
振り返ると、そこには2メートルを超える黒いクマのような魔物が立っていた。
その目はオレをまっすぐ睨みつけている。
メニューには『ジャイアントベアー』の名前が表示されていた。
オレは恐怖で一瞬固まったが、素早く震える手をジャイアントベアーに向け、ファイアボールを放つ。
「ファイヤボール!」
だが、火球はジャイアントベアーの鋭い爪であっさりと叩き落とされた。
ダメージがあるのか、ないのか、わからない。
(おい!どうした⋯⋯⋯最強のファイアボールだと思ったのに⋯)
ジャイアントベアーが地響きを立てながら突進してくる!
オレは横に飛んで間一髪で避けるが、すぐに鋭い爪が襲いかかる。
「ぐっ……!」
爪が背中を抉り、激痛が走る。オレは地面にうつ伏せに倒れた。
まずい。相手が強すぎる。勝てる相手じゃない——逃げるしかない!
咄嗟にアイアンソードを投げつけ、時間を稼いで全力でその場を離れる。
ジャイアントベアーは怒りにまかせて追ってくる。重く、速い足音が迫る。それでもオレは全力で走る。追いつかれたら確実に死ぬ。傷が痛いが構ってられない。走って走って走りまくる。
どれだけ走っただろうか——
これ以上は走ることは出来ないと思えるぐらい走った。息が切れ、「ゼイゼイ」と息をする。オレは周りを確認する。
少し先の視界は、崖だ。
その下は滝壺になっていて、水しぶきが音を立てている。高さはかなりある。
オレは後ろを確認する。ジャイアントベアーがオレに向かって一直線に迫ってくる。
(……背後にはあの魔物。もう、迷っている暇はない)
オレは迷わず、崖から身を投げた——。
そしてオレは学ぶ。
〈全てに敵うものはない〉
と言うことを。




