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異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第四章

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29話 買い物

 翌朝。


 オレは、昨夜のボロボロの服をまといながら、街へと出かける準備をしていた。服が必要だ。今夜は貴族との食事が控えているのだから、みすぼらしい格好のままでは失礼にあたる。


 玄関を出て数歩も歩かないうちに、見慣れた影が近寄ってきた。


「主、どこ行くニャ?」


 シャムだ。オレを待っていてくれたらしい。こいつは、いつもどこか抜けてるが、妙に人懐っこくて、可愛いやつだ。


「オレの着る服を買いに行くんだ。服屋の場所、知ってるか?」


「知ってるニャ!案内するニャ!」


 胸を張ったシャムは、すぐに街の通りを軽快に歩き出す。しっぽをふりふりと揺らしながら、まるで自分が街の案内人であるかのように。


 オレは、少し意外だった。この街に来てまだ日も浅いのに、シャムは随分と道に詳しい。どこで覚えたんだか。


 人通りの多い石畳の通りを、しばらく歩く。


 それなりに時間も経った頃、シャムが突然立ち止まって、得意げに前足を掲げた。


「ここニャ!」


 オレが顔を上げると、そこにあったのは……食べ物の露店だった。


「おい、シャム。ここは服屋じゃないだろ!」


 思わずツッコミを入れる。案の定というか、やっぱりというか、シャムが行きたかったのは服屋じゃなくて――うまいものがある場所だったのだ。


 ため息をひとつ。しかし、確かにこの露店は美味そうな匂いを漂わせている。炭火で焼かれた鳥のローストや、香ばしく焼かれた魚の香りが胃袋を刺激してくる。


「まあ、ついでだ……」


 オレは店主に声をかけた。


「その鳥のローストと、焼き魚を一本ずつくれ!」


 陽気そうな店主が笑顔で答える。


「はい、ありがとうございます。大銅貨1枚になります!」


 オレは銀貨を1枚差し出すと、店主が慣れた手つきで大銅貨9枚を返してくれた。どうやら、この世界では銀貨1枚=大銅貨10枚らしい。これも覚えておかないと。


 そして、焼きたての鳥肉と魚を受け取る。湯気の立ち昇るそれらは、見た目にも香りにも食欲をそそられる。


「なあ、店主。服屋って、この辺にあるか?」


「はい、すぐ近くですよ。――この道を真っ直ぐ行って、二つ目の角を右に曲がってください」


 店主は親切にも道順まで丁寧に教えてくれた。


 感謝を述べた後、オレはシャムに焼き魚を手渡し、自分はロースト肉にかぶりつく。


 ……うまい。鳥の皮はパリッと香ばしく、肉汁が口の中に広がる。スパイスも程よく効いていて、思わず目を細める。


 ふと隣を見ると、シャムが焼き魚を頬張りながら、得意げにこちらを見ている。


「“どうだ”、って顔してるな……」


 まったく、お前はどこまでマイペースなんだか。


 それでも――オレたちは、その後、服屋へと向かった。


 ◆ ◆ ◆


 服屋の扉を開けると、すぐに店内から整った身なりの女性店員が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。どのようなご用でしょうか?」


 オレは少し照れくさそうに説明する。


「今夜、ある貴族と食事をする予定でして、ちゃんとした服が必要なんですが……あいにく、手持ちがこうでして」


 身を屈め、みすぼらしい服を見せる。女性店員はすぐに察して、「畏まりました」と軽く頭を下げ、奥の棚へと消えていった。


 その間、オレはシャムと一緒に店内の服を眺める。


 すると、シャムが前足でトン、とある服を指す。


「主、この服が僕は良いニャ!」


 見ると、それはひらひらとしたフリル付きの女性用ワンピース。しかもかなり華やかなやつだ。


「……シャム、それは女性用だ。しかも、お前は猫だから、そもそも着れないだろ……」


 シャムはしゅんと肩(?)を落として、尻尾をしおれて下げた。


「わ、わかったよ。どこかでお前にも何か買ってやるから、元気出せ」


 シャムは目を輝かせて、「はいニャ!」と声を上げた。


 そこへ、奥から女性店員が数着の服を抱えて戻ってくる。


「お待たせしました。今すぐご用意できるのは、中古品になってしまいますが……こちらはいかがでしょうか?」


 見せられた服は、質こそ上等とはいかないが、しっかりと手入れされていて、なかなか悪くない。


 試着室で袖を通してみると、サイズもぴったり。シャムも「良いニャ!」と太鼓判を押してくれた。


「これにします」


 そう言って、銀貨1枚を女性店員に渡す。


 その後、シャムのためにアクセサリーか何かを扱っている店がないか尋ねると――


「お隣にございますよ」と案内された。


 ◆ ◆ ◆


 オレたちは、石畳の通りに面した、木造の趣ある建物──隣のアイテム店に足を踏み入れた。扉のベルがカランと鳴ると、薄暗い店内からふわりと薬草と金属の匂いが漂ってくる。奥から姿を現したのは、黒髪を垂らし、ややかげを帯びた雰囲気の女性店主だった。深い色のローブに身を包み、その瞳にはどこか鋭い光が宿っている。


「どのようなご用でしょうか?」

 店主は、静かだがはっきりとした声で尋ねてきた。


 オレは軽く会釈しながら尋ねる。

「ここでは何を売っているのでしょうか?」


 店主は手元のカウンターに視線を落としつつ、落ち着いた口調で答えた。

「アクセサリー類と、ポーションです。冒険者には人気ですよ」


 その言葉に、オレの心は自然と躍った。

(流石、異世界だ! 本当にポーションがある。ゲームのように傷を即座に治せるし、危ないときにはHP回復ができるなんて!)


 オレはさらに興味を持って聞いた。

「店主、ポーションの効果と費用を教えてくれませんか?」


 店主はうなずき、商品の並ぶ棚の方へ手を伸ばしながら答える。

「はい。ポーションの効果は、傷口を塞ぎ、体力を回復することです。ただし、失った腕や脚などの欠損までは回復できません。価格は──1本で大銅貨二枚になります」


(やはり体の欠損は回復できないのか……戦うときは慎重にいかないとな)

 そうオレが心の中で考えていると、後ろにいたシャムがすっと前に出て、店主をじっと見上げた。


 その瞬間──


「なんて可愛い猫ちゃんなのーっ!」

 店主の顔が一変し、少女のような高い声を上げた。表情がふわっとほころび、目尻が下がる。店主は勢いよくシャムを抱き上げると、頬ずりを始めた。


「あなたのペットですか!?こんなに愛らしい子見たことないわぁ!」


 シャムはというと、目をまん丸に見開き、オレの方に必死で助けを求めてきた。

「主、助けてくれニャ!」


 もがいて逃げようとするが、店主の腕の中でしっかりホールドされている。オレは苦笑しながら言った。

「店主、その猫はオレの仲間です。ペットじゃない」


 すると、店主は目を輝かせながら、まるで商談を持ちかけるような口調で言った。

「……では、提案があります。ポーションの価格を半額にいたしますので、その猫ちゃんを一晩だけ、貸していただけませんか?」


(おぉ……半額か。大銅貨二枚が一枚に……10本なら大銅貨10枚ぶんの節約。これはデカい。……多分この店主、相当な猫好きだな)


 しばしの沈黙のあと、オレは決断した。

「わかりました。では、ポーションを10本お願いします」


 オレは銀貨1枚を差し出すと、店主は嬉しそうに頷いてポーションの瓶を包んでくれた。小瓶をアイテムボックスにしまい込むと、シャムが再び訴えてきた。

「主、裏切り者ニャ……!」


 その言葉に少し胸が痛んだが、オレは小さく笑って肩をすくめた。

「シャム、一晩の辛抱だ。頑張ってくれ……冒険のためだ」


 シャムが小さく「うう……」と呻く声を背に、オレはアイテム店を後にした。扉のベルが再び鳴り、外の光が視界に差し込む。


 そしてオレは学ぶ。


〈猫好きに悪い人はいない〉


 と言うことを。

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