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異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第四章

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28話 報酬

 オレは、討伐を終えた仲間たちと共に、冒険者ギルドへと戻ってきた。


 ギルド内では、クエスト終了を祝って討伐隊のメンバーに食事が振る舞われており、オレもその輪に加わっていた。意外にもその食事は豪華で、テーブルには香ばしく焼かれた肉と、艶やかに焼き上がった魚が並び、飲み物にはエールまで用意されている。賑やかな雰囲気と、空腹を満たす香りに包まれて、オレは椅子に深く腰掛けながら一息ついていた。


 ふと、討伐隊のメンバーの一人がニッと笑いながらオレに声をかけてきた。


「今回の最優秀者はお前だな!」


 その言葉に、周囲の冒険者たちもエールのジョッキを掲げ、口々に賞賛の声を上げた。


「確かに!間違いないだろう!」 「あの魔法と剣技……まさか“魔剣士”なんじゃねえか!?伝説のジョブって噂の!」


 彼らの視線が一斉にオレに注がれる。


 オレは、エールのジョッキを軽く持ち上げ、少し照れ笑いを浮かべながら答えた。


「そんなんじゃありませんよ。この魔法の杖とマントのおかげですよ……」


 そう言って、肩をすくめながら誤魔化す。だが、どこか嬉しい気持ちが胸の奥にあった。


 そのとき、討伐隊のリーダーが場に現れ、皆の前に立つと、鋭い声で告げた。


「みんな、聞いてくれ!事後処理が終わった。受付で報酬を受け取ってくれ!……そして、今回の最優秀者は――カズーだ!」


 リーダーがオレを指差した瞬間、ギルド内に歓声が響いた。


「オーーー!! カズー! 良くやったぞー!」


 冒険者たちの祝福の声に応え、オレは立ち上がって一言だけ叫んだ。


「みんな、ありがとう!」


 次々にエールのジョッキがオレのもとに差し出され、仲間たちと乾杯の音が鳴り響く。オレもその一つを取り、少し口をつけた。苦味と共に、戦いの疲れがふっと溶けていくような感覚がした。


 やがて、冒険者たちが次々と受付に向かい始め、テーブルの周囲も静かになってきた。そんなとき、不意にテーブルの下から何かがひょこっと顔を出した。


「主、その魚食べないならくれニャ?」


 それは、猫の姿をした相棒――シャムだった。


「うわっ……お前、どこに隠れてたんだよ」


 苦笑しながらも、オレは皿に残っていた焼き魚を彼に差し出す。シャムは嬉しそうに目を細めると、早速もぐもぐと魚にかぶりついた。


 小さなその姿に癒やされながら、オレは立ち上がり、受付へと向かう。


「クエストを終えたのですが、報酬を頂けますか?」


 受付にいた女性職員は丁寧に頷いた。


「はい、オーブに冒険者証を置いてください」


 オレはアイテムボックスから冒険者証を取り出し、机の上に設置された淡く光るオーブの上にそっと置く。


 オーブが青く発光した。


「クエストお疲れ様でした。今回の報酬は銀貨6枚になります。内訳は、参加報酬が1枚、成功報酬が2枚、そして……最優秀報酬が3枚です。最優秀、おめでとうございます」


 差し出された銀貨を手に取ると、その冷たい金属の感触と共に、喜びがじわじわと胸に湧き上がってきた。


(頑張って良かった……! 通常なら3枚のところ、倍の6枚も貰えるなんて)


 オレは頭を下げながら尋ねた。


「ありがとうございます。……ところで、追加報酬って他にもあるんですか?」


 受付の女性が笑顔を浮かべながら答える。


「はい。他には“敢闘報酬”と“優秀報酬”があります。ただし、一番評価されるのは“最優秀報酬”ですね。最優秀報酬は、クエストの参加者からたった一人しか選ばれませんので」


 オレは驚いた。


(リーダーには仲間も、長く付き合いのある連中もいただろうに……その中で、初対面のオレを最優秀者に選んでくれたのか……)


 女性が続けた。


「ギルドとしては、すべての冒険者が平等に評価されることを重視しています。そうすることで、皆がやる気を持って活動してくれると信じているんです」


 なるほど……オレは静かに頷いた。


(ギルドは、報酬に差をつけることで、冒険者たちに努力の価値を示しているんだな。公平に評価されるという仕組みが、信頼を生み、やる気を引き出す)


 かつての世界では、努力しても報われないことが多かった。同じ仕事でも、派閥やコネが報酬を左右し、不満と腐敗が蔓延していた。あの世界では、正しく評価されることがどれほど難しかったか。


 この世界では、そうじゃない。


 オレは受付の女性に礼を言い、報酬をアイテムボックスにしまうとテーブルへと戻った。そこには、魚を食べ終え、満足そうに毛繕いをしているシャムの姿があった。


 夕暮れが差し込む街並みを歩き、やがて師匠・クルワンの家の前に着いたとき、シャムが足元で立ち止まった。


「主、僕は他人の家には行かないニャ」


 そう言い残すと、しなやかな体をひらりと翻して、路地裏へと姿を消していった。


 オレは軽く手を振って別れ、扉を開けて家の中へ。


 師匠のクルワンが、リビングで、肘掛け椅子にどっかりと腰を下ろしていた。その顔には、いつもの落ち着いた穏やかさがある。


「冒険者ギルドはどうだった?」

 ふいにそう尋ねられ、オレは椅子に座りながら一息ついた後、笑みを浮かべて答えた。


「はい、上手くいったと思います。初めてのクエストでしたが、ちゃんと成功して、報酬も受け取れました」


 クルワンの口元がにんまりとほころぶ。


「おー!それは良かったな」

 彼は手にしていたマグカップを軽く掲げ、からからと笑った。

「報酬も貰えたのか。それなら……オレのお古なんかじゃなくて、ちゃんとした服が買えるな?」


 その言葉に一瞬、きょとんとした顔になってしまった。服? クエストと何の関係が……。


 オレの反応に気づいたのか、クルワンが少しだけ眉を上げて言葉を続けた。


「忘れたのか? 公爵様から、明日の夕食に招待されただろう。無様な格好で行って、公爵邸の床掃除を頼まれても知らんぞ?」


 ああ、そうだった。言われてようやく思い出す。

 公爵——王の次に高い地位にある人物。その人物が直々に招いた食事の場に、冒険帰りの汚れた装備で行こうものなら、師匠の言う通りだ。礼儀がなっていないと、一喝されるに違いない。


 だが今のオレには、クエストで得た報酬がある。これまでのように師匠のお下がりを着る必要はない。


「師匠、そうでした。じゃあ明日、服を買いに行きます。ちゃんとしたやつを」


「そうじゃな。それが良い」

 クルワンは満足げに頷き、カップを口に運ぶ。その目には、どこか安堵の色が浮かんでいた。


 オレは今日あった当たり前の事を思いながら眠りにつく。

 そんな事が、胸にじんわりと染みゆく夜だった。


 そしてオレは学ぶ。


〈公平な報酬が人のやる気を引き出す〉


 と言うことを。

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