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異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第三章

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24話 人の死

 オレは死んだ盗賊たちの亡骸を見つめた。彼らは、ついさっきまで血気盛んにオレたちを襲ってきた者たちだ。その生命の輝きは失われ、ただの肉塊と化している。


 オレは、師匠のクルワンに問いかける。

「なぜ、彼らはオレたちを襲ってきたのでしょうか?」


 クルワンは、その問いに何の感情も乗せず淡々と答えた。

「奴らは盗賊だ。理由はただ一つ、奪うためじゃ」

 その簡潔すぎる答えに、オレはやり場のない感情を覚えた。

「なぜ、彼らはそんなことをするのでしょうか?」

 いても立ってもいられず、再び師匠に問いかける。


 クルワンは、盗賊たちから視線を外し、遠くの空を仰ぎ見て悲しそうに答えた。

「生きるためじゃ……。元は奴らも善良な人だったじゃろう。だが、生きるために人から奪うことを覚えたのじゃ」


 確かに、奴らはオレたちを殺すつもりだった。何の恨みもないのに、ただ奪うためだけに。しかし、だからといって人を殺していい理由になるのか。正当防衛とはいえ、他に道はなかったのだろうか……。


 そうだ、オレは仲間を守ったんだ……。


 そう自分に言い聞かせるように心に蓋をした。そして、近くにいるシャムを撫でる。


 シャムは目を細めてオレを見て、愛らしい声で言った。

「主、うさぎが欲しいのかニャ?」


 オレは思わず笑いながらシャムに言った。

「うさぎはいいから、そばにいてくれ……」


 シャムはオレの手に頬ずりをしてきた。その温かさが、張り詰めていたオレの心を少しだけ和らげてくれる。


 人間は、平気で同じ人間を殺す。そして、その行為に慣れ、何も感じなくなっていく。他の動物たちは、同族で殺しあうことなど滅多にないのに。

(なんて残酷な生物なんだ……)


 そんなことをぼんやりと考えていると、チャンが険しい表情でオレたちに言った。

「ここは危険です。このままでは、また盗賊に襲われるかもしれません」


 確かに、襲ってきた盗賊のうち何人かは逃げていった。このままでは、さらに仲間を連れて戻ってくる可能性が高い。

 クルワンは、素早く指示を出した。

「よし、すぐに荷物をまとめて出発するぞ!」


 死んだ盗賊たちを弔う余裕はない。これが戦いの現実なのだろう。

 オレは、盗賊が持っていた鉄の剣と、使い込まれた木の盾をぼんやりと見ていた。チャンが、オレの視線に気づいて声をかける。

「もしそれが欲しいなら、持っていくといい。襲ってきた奴の持ち物はお前のものにしていいことになっている」


(これじゃ、まるで俺の方が盗賊じゃないか……)


 そう思ったが、背に腹は代えられない。オレは魔法の杖をアイテムボックスにしまい、盗賊の剣と盾を装備した。すると、ゲームシステムにオレのステータスが表示され、物理攻撃と物理防御が少し上がり、魔法攻撃が下がった。どうやら、装備品によって能力が変動するようだ。


 その後、オレたちは、城塞都市を目指して早足で進んだ。

 シャムをバックパックにしまうと、シャムはご機嫌な声で言った。

「主、楽ちんニャ!」

 楽しそうなシャムの声を聞きながら、オレたちは旅路を急いだ。


 ◆ ◆ ◆


 それから丸二日、ひたすら歩き続けて、ようやく昼過ぎに城塞都市が見えてきた。

 周囲を高い城壁に囲まれた、いかにも堅牢な印象の大きな都市だ。

 クルワンが、安堵したように言った。

「あれが城塞都市じゃ。夕方には到着できるだろう」


(もう盗賊に襲われる心配もないな……)

 そう思った、その瞬間だった。後方から、土煙が上がるのが見えた。

 馬に乗った数人と、徒歩の男たちが、武器を手にこちらに向かってくる。

 チャンがうんざりした顔で言った。

「追いつかれましたか。主人、迎え撃ちますか、それとも、このまま城塞都市へ向かいますか?」

 もうこれ以上、人を殺めたくない。その一心で、オレはクルワンに懇願した。

「師匠、城塞都市に逃げましょう。これ以上の戦いは無意味です」

 クルワンは、複雑な表情で答えた。

「しかし、向こうから攻めてくる。避けられるかどうか……」

 オレは、一か八かの提案をする。

「では、ゴブリンに使った合体魔法で威嚇しましょう!」


 クルワンはオレを見て、一瞬迷った後、決心したように言った。

「ゴブリンに使った爆発魔法か。……よし、やってみよう!」

 オレはクルワンに頼んだ。

「師匠、盗賊とオレたちの間に大きな水の塊を作ってください!」

 クルワンは魔力を集中させ、巨大な水の塊を出現させた。


 オレは、その水の塊に向かって攻撃魔法を放つ。

「ファイアボール!」


 火球は、水の塊に命中した。次の瞬間、凄まじい轟音と共に、水蒸気爆発が起こった。爆風がオレたちのいる場所まで吹き荒れる。


 馬に乗った盗賊たちは、爆風に吹き飛ばされて落馬した。馬たちは驚いて森の中へ逃げていく。

(よし、成功だ!)


 そう思ったのも束の間、徒歩の盗賊たちは怯むことなく、爆発をものともせずに追いかけてくる。

 チャンが、間髪入れずに弓を放ち、先頭の盗賊を射抜いた。


 一人倒れても、後続の盗賊は足を止めない。その数は、まだ二十人以上もいる。


 オレは、防御魔法を発動した。

「ファイアウォール!」


 燃え盛る炎の壁が盗賊たちの前に出現する。しかし、盗賊たちは火の壁を避けるように左右に散り、再びオレたちに殺到してきた。火の壁は、ほとんど時間を稼ぐことができなかった。

 次に、オレは全体攻撃魔法を放つ。

「ファイアレイン!」


 空から火の粉の雨が降り注ぎ、何人かの盗賊の服に火がついた。だが、他の盗賊たちは、構うことなく追ってくる。


 オレは、先頭を走る盗賊に狙いを定めて、攻撃魔法を撃ち込んだ。

「ファイアボール!」


 火球が直撃した盗賊は、後方に吹き飛ばされ、即死しただろう。

(なぜ、彼らはここまでして追いかけてくるんだ?死ぬのが怖くないのだろうか……)


 オレは、シャムの入ったバックパックを前に持ち替え、逃げることに集中した。


 盗賊たちは、もう失うものなど何も無いのかもしれない。そして、人を殺すことにも、人が死ぬことにも慣れてしまっているのだ。


 オレたちは、必死で城塞都市に向かって走った。

 もう息も絶え絶えになり、足が止まりそうになったその時、前方から完全武装の騎士団が現れた。


 騎士団の団長らしき人物が、クルワンに声をかける。

「クルワン様、ご安心ください!盗賊どもは我々が蹴散らして参ります!」


 言葉の通り、騎士たちは騎乗槍と剣で、盗賊たちを次々と屠っていく。


 オレは、クルワンの元へ駆け寄る。クルワンは、安堵したように言った。

「どうやら、助かったようじゃな……」

 こうして、騎士団という援軍によって、オレたちは城塞都市にたどり着いた。


 そしてオレは学ぶ。


〈人は何にでも慣れる。殺人でさえも〉


 と言うことを。


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