24話 人の死
オレは死んだ盗賊たちの亡骸を見つめた。彼らは、ついさっきまで血気盛んにオレたちを襲ってきた者たちだ。その生命の輝きは失われ、ただの肉塊と化している。
オレは、師匠のクルワンに問いかける。
「なぜ、彼らはオレたちを襲ってきたのでしょうか?」
クルワンは、その問いに何の感情も乗せず淡々と答えた。
「奴らは盗賊だ。理由はただ一つ、奪うためじゃ」
その簡潔すぎる答えに、オレはやり場のない感情を覚えた。
「なぜ、彼らはそんなことをするのでしょうか?」
いても立ってもいられず、再び師匠に問いかける。
クルワンは、盗賊たちから視線を外し、遠くの空を仰ぎ見て悲しそうに答えた。
「生きるためじゃ……。元は奴らも善良な人だったじゃろう。だが、生きるために人から奪うことを覚えたのじゃ」
確かに、奴らはオレたちを殺すつもりだった。何の恨みもないのに、ただ奪うためだけに。しかし、だからといって人を殺していい理由になるのか。正当防衛とはいえ、他に道はなかったのだろうか……。
そうだ、オレは仲間を守ったんだ……。
そう自分に言い聞かせるように心に蓋をした。そして、近くにいるシャムを撫でる。
シャムは目を細めてオレを見て、愛らしい声で言った。
「主、うさぎが欲しいのかニャ?」
オレは思わず笑いながらシャムに言った。
「うさぎはいいから、そばにいてくれ……」
シャムはオレの手に頬ずりをしてきた。その温かさが、張り詰めていたオレの心を少しだけ和らげてくれる。
人間は、平気で同じ人間を殺す。そして、その行為に慣れ、何も感じなくなっていく。他の動物たちは、同族で殺しあうことなど滅多にないのに。
(なんて残酷な生物なんだ……)
そんなことをぼんやりと考えていると、チャンが険しい表情でオレたちに言った。
「ここは危険です。このままでは、また盗賊に襲われるかもしれません」
確かに、襲ってきた盗賊のうち何人かは逃げていった。このままでは、さらに仲間を連れて戻ってくる可能性が高い。
クルワンは、素早く指示を出した。
「よし、すぐに荷物をまとめて出発するぞ!」
死んだ盗賊たちを弔う余裕はない。これが戦いの現実なのだろう。
オレは、盗賊が持っていた鉄の剣と、使い込まれた木の盾をぼんやりと見ていた。チャンが、オレの視線に気づいて声をかける。
「もしそれが欲しいなら、持っていくといい。襲ってきた奴の持ち物はお前のものにしていいことになっている」
(これじゃ、まるで俺の方が盗賊じゃないか……)
そう思ったが、背に腹は代えられない。オレは魔法の杖をアイテムボックスにしまい、盗賊の剣と盾を装備した。すると、ゲームシステムにオレのステータスが表示され、物理攻撃と物理防御が少し上がり、魔法攻撃が下がった。どうやら、装備品によって能力が変動するようだ。
その後、オレたちは、城塞都市を目指して早足で進んだ。
シャムをバックパックにしまうと、シャムはご機嫌な声で言った。
「主、楽ちんニャ!」
楽しそうなシャムの声を聞きながら、オレたちは旅路を急いだ。
◆ ◆ ◆
それから丸二日、ひたすら歩き続けて、ようやく昼過ぎに城塞都市が見えてきた。
周囲を高い城壁に囲まれた、いかにも堅牢な印象の大きな都市だ。
クルワンが、安堵したように言った。
「あれが城塞都市じゃ。夕方には到着できるだろう」
(もう盗賊に襲われる心配もないな……)
そう思った、その瞬間だった。後方から、土煙が上がるのが見えた。
馬に乗った数人と、徒歩の男たちが、武器を手にこちらに向かってくる。
チャンがうんざりした顔で言った。
「追いつかれましたか。主人、迎え撃ちますか、それとも、このまま城塞都市へ向かいますか?」
もうこれ以上、人を殺めたくない。その一心で、オレはクルワンに懇願した。
「師匠、城塞都市に逃げましょう。これ以上の戦いは無意味です」
クルワンは、複雑な表情で答えた。
「しかし、向こうから攻めてくる。避けられるかどうか……」
オレは、一か八かの提案をする。
「では、ゴブリンに使った合体魔法で威嚇しましょう!」
クルワンはオレを見て、一瞬迷った後、決心したように言った。
「ゴブリンに使った爆発魔法か。……よし、やってみよう!」
オレはクルワンに頼んだ。
「師匠、盗賊とオレたちの間に大きな水の塊を作ってください!」
クルワンは魔力を集中させ、巨大な水の塊を出現させた。
オレは、その水の塊に向かって攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
火球は、水の塊に命中した。次の瞬間、凄まじい轟音と共に、水蒸気爆発が起こった。爆風がオレたちのいる場所まで吹き荒れる。
馬に乗った盗賊たちは、爆風に吹き飛ばされて落馬した。馬たちは驚いて森の中へ逃げていく。
(よし、成功だ!)
そう思ったのも束の間、徒歩の盗賊たちは怯むことなく、爆発をものともせずに追いかけてくる。
チャンが、間髪入れずに弓を放ち、先頭の盗賊を射抜いた。
一人倒れても、後続の盗賊は足を止めない。その数は、まだ二十人以上もいる。
オレは、防御魔法を発動した。
「ファイアウォール!」
燃え盛る炎の壁が盗賊たちの前に出現する。しかし、盗賊たちは火の壁を避けるように左右に散り、再びオレたちに殺到してきた。火の壁は、ほとんど時間を稼ぐことができなかった。
次に、オレは全体攻撃魔法を放つ。
「ファイアレイン!」
空から火の粉の雨が降り注ぎ、何人かの盗賊の服に火がついた。だが、他の盗賊たちは、構うことなく追ってくる。
オレは、先頭を走る盗賊に狙いを定めて、攻撃魔法を撃ち込んだ。
「ファイアボール!」
火球が直撃した盗賊は、後方に吹き飛ばされ、即死しただろう。
(なぜ、彼らはここまでして追いかけてくるんだ?死ぬのが怖くないのだろうか……)
オレは、シャムの入ったバックパックを前に持ち替え、逃げることに集中した。
盗賊たちは、もう失うものなど何も無いのかもしれない。そして、人を殺すことにも、人が死ぬことにも慣れてしまっているのだ。
オレたちは、必死で城塞都市に向かって走った。
もう息も絶え絶えになり、足が止まりそうになったその時、前方から完全武装の騎士団が現れた。
騎士団の団長らしき人物が、クルワンに声をかける。
「クルワン様、ご安心ください!盗賊どもは我々が蹴散らして参ります!」
言葉の通り、騎士たちは騎乗槍と剣で、盗賊たちを次々と屠っていく。
オレは、クルワンの元へ駆け寄る。クルワンは、安堵したように言った。
「どうやら、助かったようじゃな……」
こうして、騎士団という援軍によって、オレたちは城塞都市にたどり着いた。
そしてオレは学ぶ。
〈人は何にでも慣れる。殺人でさえも〉
と言うことを。




