21話 襲撃
オレは、チャンの叫び声を聞くなり、慌てて1階の扉へと駆け下りた。
そこには、崩れかけた扉の前で必死にテーブルを押さえているチャンの姿があった。扉はすでに壊され、今はテーブルを盾にして辛うじてゴブリンの侵入を食い止めている。
チャンはオレに気づくと、顔を歪めながら叫んだ。
「カズー、こっちに来て押さえてくれ!」
テーブルの向こうでは、外から何体ものゴブリンが押し寄せているようだ。ギシギシと木が軋む音、獣のような唸り声が混じって、外の混乱がこちらにも伝わってくる。
そして、その瞬間だった。
「ドーン! ……グガゴーーン!!」
雷鳴のような衝撃音と共に、テーブルが内側に吹き飛ばされた!
凄まじい力により、テーブルは無残にも室内に転がり込み、それと同時にチャンの身体も宙を舞って床に叩きつけられた。
遮蔽物が消えたことで、外の様子がはっきりと見える。
入り口のすぐ先には、棍棒を振り下ろした直後の巨大なボブゴブリンが立っていた。周囲には、血に飢えたような表情を浮かべた大量のゴブリンたちが、今まさに突破口を突こうとしている。
(このまま家に侵入されれば、数の差で確実に押し負ける……!)
オレは迷わなかった。手を前に突き出し、攻撃魔力を放つ。
「ファイアボール!!」
炎の球が音を立てて飛び、突撃してきた先頭のゴブリンを爆炎の中に消し去る。しかし、後ろにいたゴブリンたちは怯むことなく突入してくる。
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
距離が近いため連続で魔法を撃てる。爆炎が次々に敵を焼き払い、室内を赤く照らす。しかし、それでも数は減らない。
オレは叫ぶように詠唱した。
「ファイアレイン!」
天井から降るように火の粉が降り注ぎ、群がるゴブリンたちを広範囲で焼き払う。
だが——
(くっ……入口が範囲外だった!)
入口の隅から数匹のゴブリンが突破してくる!
「——ぐっ!」
そのうちの1匹が、手にした槍をこちらに突き出した。鋭い痛みが太ももを貫き、思わず片膝をつく。
血が噴き出す。激痛で意識がかすむが、オレは歯を食いしばった。
「ファイアボール!!」
怒りのこもった火球が、槍を持ったゴブリンを霧散する。
そのとき——
「カズー!!」
チャンが再び立ち上がり、ククリナイフを手に突進してきた。彼は軽快な動きで、侵入してきたゴブリンを次々と切り倒していく。
続いて、2階からクルワン師匠が駆け下りてくる。彼もまた魔法で応戦し、ゴブリンたちを次々に撃破する。
オレは息を荒げながら、防御魔法を使う。
「ファイアウォール!」
詠唱と共に、入口に巨大な炎の壁が立ち上がった。ゴブリンたちは思わず足を止め、進行が止まる。
(今だ!)
オレは室内に残ったゴブリンに向かって魔法を放つ。
「ファイアボール!」
爆発音と共に、最後の1体が灰となって崩れ落ちる。
そのとき、オレは気づいた。
(3つの魔法が同時に使えている……属性が違えば、同時使用が可能らしい。だが、MPが……ほとんど残ってない)
息が荒く、視界が揺れる。MPの消耗が激しい。だが、立ち止まるわけにはいかない。
クルワン師匠が驚いたような目でこちらを見る。
「入口の炎……それに、その連発……カズー、一体どれほどの魔力を秘めておるのだ!」
その声を背に、オレはある記憶を思い出していた。
(もっと威力のある攻撃は……あれを、試してみよう)
「クルワン師匠、お願いがあります」
「なんじゃ?」
「できるだけ大きな水の塊を、敵の密集地帯に作っていただけませんか?」
一瞬、クルワンの眉がピクリと動く。そして、挑戦を前にした者のように口角を上げた。
「もちろんじゃとも!儂は水の魔術師じゃぞ!」
そう言うと、クルワンは外に向かって両手を広げ、魔力を練り始めた。
空気が震えるような気配と共に、水の塊が宙に浮かび、徐々に大きくなっていく。数秒後には、大人の人間を包み込めるほどの巨大な水球が空中に浮かんでいた。
額に脂汗を滲ませながら、クルワンが言う。
「どうじゃ! この大きさ!」
「はい、十分です!」
オレは頷くと、力を振り絞って手を掲げる。
「ファイアボール!!」
炎の球が一直線に水塊へと突き進む。そして、激突——
「ドッッッガーーーーーン!!!」
爆音と共に、水が一気に蒸発し、恐るべき水蒸気爆発が起こった。爆風が地を這うように広がり、周囲のゴブリンを一掃する。
家が揺れ、窓ガラスが震える。だが、オレはそれを見て確信した。
(やった……成功だ!!)
生き残った数体のゴブリンは、爆風の威力に戦意を失い、尻尾を巻いて逃げていった。
——勝ったのだ。
なんとか、この家を守りきったのだ。
痛む足を押さえながら、オレは心の中で静かに呟く。
そしてオレは学ぶ。
〈あらゆる経験が糧になる〉
と言うことを。




