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異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第三章

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20話 ゴブリン

 師匠のクルワンが険しい表情でチャンに命じた。


「チャン、扉と窓を塞げ!」


「了解っ!」

 チャンは短く返事をし、重い板を掴み、ギィギィと音を立てて扉に打ち付ける。木槌で叩き込みながら叫んだ。


「カズー! 何でもいい、扉の前に重いもんを置け!」


 オレはリビングへ走り、どっしりとしたダイニングテーブルの脚を掴んで引きずる。床に擦れる音とともに、それを扉の前に設置した。


「よし……!」


 今度は、チャンが窓に木の板を打ち付けている。その手早さと正確さは、まるで熟練の大工のようだった。板を固定し終えたチャンが、またオレに怒鳴る。


「カズー! こっちの窓にも何か置け!」


「わ、わかった!」


 オレはキッチン横の戸棚を見つけ、歯を食いしばってそれを引きずる。重い。だが背中に感じる緊張と焦燥が、いつも以上の力を引き出してくれた。何とかして窓の前に運び込むと、汗だくで息をついた。


 すると、師匠のクルワンがオレに向かって声を上げる。


「カズー、私と一緒に二階へ来い!」


「はい!」


 オレは、クルワンの後に続いて階段を駆け上がった。二階の突き当たり、バルコニーのある部屋にたどり着く。クルワンがカーテンをさっと払うと、広がる視界の先には、黒い波のように迫る森と、そこから這い出してくる異形の群れ――ゴブリンたち。


 ざっと数えても百、いや、それ以上。森の奥から次から次へと押し寄せてくる。中に、ひときわ異様に大きな影が混じっていた。全身を鎧のような皮膚で覆い、大きな棍棒を肩に担いでいる。


「あれは……!」


 息を呑む。漫画やゲームで見たことがある。その名は――ボブゴブリン。


 身長は2メートルを優に超え、チャンよりも一回り以上大きい。その堂々たる体格に、ただのゴブリンとは違う格を感じた。


 唖然としているオレに、クルワンが低く語りかけてくる。


「火の魔法と水の魔法は互いに干渉し、力を打ち消し合う。だから、まずはお前の火の魔法で数を減らせ。火は魔物に対して特に有効だ!」


「はい、師匠! 始めます!」


 オレはバルコニーに出て、敵が密集している場所に狙いを定める。両手を構え放つ。


「ファイアレイン!」


 空が赤く染まり、熱を帯びた火の粉が空中から降り注ぐ。着弾範囲は10メートルほどだが、その中にいるゴブリンたちは叫び声を上げてのたうち回る。衣服に火が燃え移り、火だるまとなって地面を転げ回る者もいる。


 火の雨は約1分間続いた。


(全体攻撃魔法には制限があるが、《オート・リカバー》のスキルで魔力を回復すれば、連続発動や同時詠唱も可能かもしれない!)


 そして、もう一度唱える。


「ファイアレイン!」


 再び、空から無数の火の粉が降り注ぐ。ゴブリンたちがパニックに陥る。火の粉は簡単には消えず、皮膚に焼き付き、悲鳴が響き渡る。


 だが、オレは止まらない。すでに決めていた攻撃魔法を撃つ。


「ファイアボール!」


 火球が轟音とともに一直線に飛び、一匹のゴブリンに命中。爆風とともに、その存在は跡形もなく霧散した。


「ファイアボール!」「ファイアボール!」


 続けざまに魔力を放出する。次々と敵が塵になって消えていく。オレの魔法は、他の魔術師と違い、詠唱や詠文の手間が一切ない――ゲームシステムのおかげでそのままの叫ぶだけで、無駄がない。


 クルワンが思わず呟く。


「なんて早さと威力だ……」


(やっぱり、オレの魔法はこの世界のものとは違う……ゲームシステムによる魔法だから、反応も速く、タイミングも自在だ)


 ファイアレインの効果が切れたのを見て、今度は戦場の中心に立つボブゴブリンを狙う。


「ファイアレイン!」


 火の粉がボブゴブリンにも降り注ぐ。だが――奴はまったく怯えた様子がない。無造作に火の粉を手で払い落とす。効果がないわけではない。肌は火傷で赤黒くなっている。だが、苦痛を感じていないようだ。


「ファイアボール!」


 巨大な火球が炸裂し、ボブゴブリンの胴に直撃。衝撃で奴の体が後方に吹き飛ぶ。しかし――


「嘘だろ……」


 ゆっくりと、ボブゴブリンは立ち上がってきた。皮膚は焼け焦げ、血が滲んでいるにもかかわらず、まるで平然とした顔つきで。


(体力と耐久力が桁違い……!)


 師匠のクルワンが一歩前へ出る。目を閉じ、杖を静かに構える。数秒の沈黙。そして、杖の先がボブゴブリンを指した。


「アクア・グラブ!」


 空間が歪み、ボブゴブリンの顔の周囲に水の塊が現れる。それはまるで意志を持っているかのように奴の口と鼻を覆い、呼吸を奪っていく。


「グッ……ゴボッ……ガ……!」


 ついに、奴は膝をつき、そのまま崩れ落ちて消滅した。


 クルワンがオレを振り返り、静かに微笑む。その顔は、誇らしげだった。


 だが、安堵の時間は一瞬で終わる。


 一階から、怒鳴り声が響いた。


「もうだめだ! 扉が破られる!!」


 チャンの叫びに、オレとクルワンは顔を見合わせた――戦いは、まだ終わっていない。


 そしてオレは学ぶ。


〈敵は容赦ない〉


 と言うことを。

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