表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から学ぶライフスタイル 〜第一部 始まりの地〜  作者: カズー
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/62

17話 家

 オレは、シャムと人間の家の前で別れた後、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 心にぽっかりと穴が開いたような感覚――それは、不思議な別れだった。


 追いかけようかとも思ったが、シャムは最後にこう言った。


()()()()()()()()()


 その言葉を胸に刻み、オレは静かに前を向いた。


 夕陽が地平線に沈もうとしている。空は赤く染まり、風に混じって土と草の匂いが流れてくる。

 オレは深く息を吸い込み、少し躊躇いながら、目の前の大きなログハウスのような家の扉をノックした。


「トントン……」


 しばらく待ったが、返事はない。もう一度、少し強めにノックする。


「トン、トン……」


 今度は、中から低く、野太い声が返ってきた。


「……誰だ……」


 オレは、用意していた言葉を口にする。少しだけ声が震えていた。


「すみません、旅の者です。魔物に襲われて……一晩、寝床と食べ物を恵んでもらえませんか?」


 ……沈黙。

(考えているのだろうか……)

 だが、言葉が通じたことに安堵する。ゲームシステムが翻訳してくれているのだろう。


 やがて、内側から重たい鍵の外れる音がした。


「入れ……!」


 ギィィ……という軋む音とともに扉が開く。現れたのは、ほぼ2メートル近い大男だった。

 黒髪に浅黒い肌、鋭い眼差し。年の頃は三十代後半だろう。威圧感はあるが、敵意は感じない。


 大男に促され、オレは家の中へ入る。床板はしっかりしており、木の温もりが感じられる。

 通されたのは、広々としたリビングのような部屋。暖炉には薪の炎が揺れ、部屋をほんのりと温めている。


 そこには、一人の老人がいた。

 深く彫りのある顔立ちに白髪と髭。ローブをまとい、パイプタバコを燻らせながら静かに座っている。


 その老人が、鋭いが穏やかな目でオレを見つめ、口を開いた。


「どうしたんじゃ? こんなところで」


 オレは慎重に言葉を選ぶ。


「中に入れて頂きありがとうございます。私は旅をしていたところ、魔物に襲われて崖から落ち……記憶を失ってしまいました。その後、ゴブリンに襲われ、命からがらここまで逃げてきました……」


 老人は少し疑うように眉をひそめたが、オレのボロボロの革の防具を見ると、納得したように頷いた。


「お前は珍しい顔をしておるな。……自分の国と名前は覚えておるか?」


 この世界の住人に比べて、オレの平たい顔はやはり目立つようだ。


「すみません。国の名前は思い出せませんが……名前は、カズーです」


 すると、老人は立ち上がり、部屋の隅に置かれた台座を指差した。

 そこには、直径20センチほどの水晶玉が静かに置かれている。


「では、このオーブに触れてみよ」


 オレは言われたとおりに、水晶の上にそっと手を置いた。

 水晶はひんやりとしており、手を当てた瞬間、奥の方から微かに振動のようなものが伝わってくる。


 オレが顔を上げると、老人は水晶を凝視していた。そして、やがて安心したような表情を浮かべ、言った。


「……もうよい。嘘は言っておらんようじゃな。ところでお前……火の魔法使いか?」


 やはり、あのオーブはジョブや嘘を見抜く仕組みのようだ。


「はい。火の魔法使いです。ところで、あなたを何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


 老人は少し目を見開き、微笑む。


「わしはクルワンと呼ばれておる。そちらの大男はチャンじゃ。ちょうど食事の時間じゃ。一緒に食べながら話そうか」


 クルワンがチャンに食事の支度を指示すると、チャンは無言で頷き、奥のキッチンへと向かっていった。


 クルワンは、テーブルの向かいにある椅子を手で示しながら言った。


「それにしても、随分とゴブリンにやられたようじゃが……大丈夫か?」


 オレは椅子に腰を下ろし、背もたれに体を預けながら答える。


「はい。大丈夫です。傷はもう塞がっています」


 クルワンはオレのボロボロの防具を見て、少し目を細めると、棚を開けてしっかりとした生地の服を取り出した。


「よかったら、わしの昔の服をやろう」


 手渡されたのは、年代は感じるものの、丁寧に織られた質のいい服だった。


「ありがとうございます。でも……私、お金が無くてお支払いができません」


 アイテムボックスの金貨欄が「0」であるのを思い出して、少し俯く。


「気にするな。わしの若い頃の物でな、今のわしじゃ腹がつかえて着られんのじゃ」


 そう言って、クルワンは自分の丸いお腹をポンと叩いて笑った。


「ありがとうございます」


 オレは感謝しながら服に着替えると、ポケットから小魔石を数個取り出し、テーブルに並べた。


 それを見たクルワンの目が驚きで見開かれる。


「おおっ……! 魔石ではないか!」


 オレは静かに頷きながら言った。


「よかったら……寝床と食事のお礼に差し上げます」


(アイテムボックスには、まだ【小魔石】×99個あるから問題ない)


「これは……ありがたい!」


 クルワンは顔をほころばせながら魔石を大事そうに手に取った。


 その時、チャンが食事を運び終えて席につき、クルワンの合図を待っている。


「では、食べようか」


 クルワンの合図とともに、オレは手を合わせ、温かな食事に手を伸ばした。


 パンとスープ、そして焼いた肉。パンは少し固いが香ばしく、小麦の甘い香りが鼻をくすぐる。

 スープには野菜がたっぷり入っており、ほんのりとした塩味が身体に沁み渡る。

 肉はしっかりと焼かれ、何の肉かはわからないが、噛むごとに旨味が広がる。


 久しぶりに、人のぬくもりを感じる食事。

 オレは一口ごとに、心が満たされていくのを感じた。


 そしてオレは学ぶ。


〈美味しい食事は、人を幸せにする〉


 と言うことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ