12話 絶望
決断は早かった。
オレは戦うことを選んだ。
(オレには、《エマージェンシー・リカバー》と《オート・リカバー》のスキルがある。やれるはずだ)
サバイバルナイフを取り出し、身構える。
その瞬間、四方から槍を持ったゴブリンが一斉に駆け寄ってきた。
オレは叫んだ。
「ファイアボール!」
正面のゴブリンが炎に包まれて霧散する。
だが左右から二体のゴブリンが槍を突き出し、突進してくる。
右手のゴブリンにはサバイバルナイフで必死に牽制しつつ、槍を避ける。
その隙に、左のゴブリンに向かって再び魔法を放った。
「ファイアボール!」
左のゴブリンは悲鳴を上げながら倒れ、炎と共に消えた。
だが背後から鋭い槍がオレの腹部を突き刺した。
革の鎧が防いでくれたおかげで傷は浅いが、激痛が走り、息を呑む。
さらに追い打ちが襲う。
右手のゴブリンが槍を振り上げ、オレの右肩を貫く。
サバイバルナイフで防ごうとしたが、ゴブリンからの再びの攻撃で手袋に槍が刺さり、痛みに耐えきれずサバイバルナイフを手放してしまった。
(なんだこれは……知性のある魔物はこんなにも厄介なのか……)
正面に次々とゴブリンの群れが現れ、視界が真っ黒になりそうだ。
(これは無理だ!絶対に死ぬ!!)
オレは叫んだ。
「シャム、逃げるぞ!」
シャムはすかさず答えた。
「分かったニャ!」
その声に励まされ、オレは必死に後退りながら、逃げる道を探すのだった。
何とか、左と背後からのゴブリンの攻撃を避けて距離を取り、右手に走り出す。
月明かりはあるが、暗闇に閉ざされた森は足元がおぼつかなく、少し進んだところで盛大に転んだ。
【エバキュエーションキット(使いかけ)】のバックパックから懐中電灯を掴み取り、後方を照らす。無数の目が暗闇に光り、ゴブリン達がすぐそこまで迫ってきているのが見えた。オレは即座に背後へ向かって防御魔法を放つ。
「ファイアウォール!」
燃え盛る炎の壁が闇を切り裂き、周囲の様子を鮮明に映し出す。ゴブリン達は炎の壁を避けるように左右に散開し、こちらへ回り込もうとしている。オレは間髪入れずに攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
放たれた火球が一直線に飛び、一体のゴブリンが消え去る。しかし、他のゴブリン達は怯むことなくオレ目掛けて突進してくる。オレは急いで防御魔法を再展開する。
「ファイアウォール消えろ!」
前の火の壁が霧散し、新たな炎の壁が形成される。
「ファイアウォール!」
その時、右手の茂みから一体のゴブリンが飛び出し、手にした粗末な槍でオレの右肩を容赦なく突き刺した。ズキンと焼けるような激痛が右肩に走り、思わず呻き声を上げる。だが、オレは痛みに耐え、ゴブリンに向かって攻撃魔法を放つ。
「ファイアボール!」
火球が命中し、右手のゴブリンが断末魔の叫びと共に消滅した。
その時、東の空が白み始め、やっと朝日が森の奥深くまで差し込んできた。視界が広がり、周囲の景色がはっきりとわかるようになる。
(これなら、走って逃げられる!)
そう確信したオレは、ゴブリンのいない方向へ走り出そうとした、その時だった。シャムが突然、オレの前に進み出て、魔法を使い始めた。
「テイム!」
シャムの言葉に呼応するように、一匹のネズミが魔法に操られ動き出す。そのネズミは迷うことなく草むらの中に飛び込み、隠れていた一体のゴブリンの足に噛み付いた。
(ゴブリンが待ち伏せしていたのか!そんなこともできるのか!!危なかった⋯⋯⋯)
シャムの機転に、安堵と感謝の念が込み上げてくる。
「ありがとう!シャム!」
オレの言葉に、シャムは振り返ってオレを見ようと後ろを向いた。
その瞬間、草むらに隠れていた別のゴブリンが素早く弓を構え、シャム目掛けて矢を放った。漆黒の矢は風を切り裂き、まっすぐシャムのお腹を貫いた!
オレの思考は一瞬にして停止した。
(何が起きたんだ⋯⋯⋯シャムが動かない⋯⋯⋯)
さっきまで、あんなに元気だったのに今は、目を閉じて、全く動かなくなった。
(オレはなんてことをしてしまったんだ!!)
絶望の感情がオレの中をかけ巡る⋯⋯⋯⋯
そしてオレは学ぶ。
〈仲間を失う喪失感〉
と言うことを。




