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1話 神様現れる

 借金まみれのオレは、今日も人生をやり直したいと願いながらブラック企業に出勤する。


 ストレス解消から始めたギャンブルにハマり、気づけば借金まみれになっていた。そんな生活では結婚もできず、今は狭いアパートの一室で、孤独に暮らしている。頼れる家族もいない。


 ⋯⋯⋯⋯⋯


 会社から帰宅後、小さなアパートの部屋で、ひとり酒を煽る。


 “こんな人生じゃなかったはずだ…”


 子どもの頃、本気で「困っている人たちを救いたい」と願っていた。


 オレは、何も知らない。だから、ブラックな会社に入り、いじめに合い、借金で抜け出すことが出来ない。

 どうすればよかったのか⋯⋯。

 人生の中で“知らなければいけないこと”を何も知らずにオレは、この“どん底”に落ちてしまった⋯⋯


 涙が止まらない。何度も、どこかへ消えてしまいたいと願った。


 だが、今夜は不思議と静かに眠りに落ちた。


 ◆ ◆ ◆


 ──オレは目を覚ましたはずなのに、目の前には真っ白な世界が広がっていた。

 夢の中かと思ったが、意識はやけに鮮明で、すぐにこれが夢ではなく「現実」だとわかった。


 そのとき、不意に声が聞こえた。


「ようこそ、儂の意識の中へ。」


 オレは声のする方を振り向いた。そこには、仙人風の老人がひとり。

 思わず後ずさったが、不思議と悪い人には見えなかった。


「あの⋯あなたは誰ですか?ここはどこなんです?」


 オレの問いかけに、老人はまるで予想していたかのように、滑らかに答えた。


「ここは儂の意識の中じゃ。時間がないので手短に話すぞ」


 オレは黙って頷いた。


「儂はお前の知識で言うところの“神”という存在になる。お前に提案があって、こうして呼んだのじゃ」


 神様はまっすぐオレを見つめると、言った。


「異世界に行かんか?」


 その言葉に、オレは一瞬呆気にとられたが、ふと笑ってしまった。

 ──異世界召喚。まるでアニメやゲームでよく見る展開じゃないか。


 チート能力に特別なアイテム──そんな期待が頭の中をよぎる。

 少し心が躍ったオレを見て、神様がさらに続ける。


「もちろん、お前には《特別な能力》と《お前が望むものを一つ》授ける」


 キターー!と心の中で叫ぶ!

 今まで何一つ取り柄のなかったオレが、特別な力を手に入れる。しかも、もうひとつ望むものまで手に入るなんて、最高じゃないか!


 でも、やっぱり気になる。


 オレは浮かれた声で神様に尋ねた。


「と、と、特別な能力って……何ですか?」


「お前の国でよく遊ばれている《魔法と剣の世界》を題材にしたゲームの能力とほぼ同じじゃ。お前ならすぐに慣れて使いこなせるじゃろう。それより望むものを言え。金でも最強クラスの武器でも防具でも、鋼の肉体でも、何でも良いぞ」


 ゲームの世界の能力……。

 良いじゃないか!!


 気づけば話はどんどん進み、いつの間にかオレが「異世界に行く」ことが前提になって来た。でも──思った。

 今の最悪な人生より、新しい世界でやり直せるのなら、それも「あり」かもしれない。


 ──ただ、一つだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。


「私は、その異世界で……何か使命を果たさなければならないんですか?」


 少しの沈黙の後、神様はハッキリと答えた。


「──異世界の魔王を倒せ!」


 オレは驚き、もう一度神様に尋ねた。

「異世界の魔王を倒せ……ですか?」


 神様は頷きながら答える。

「そうじゃ。お前は儂の下僕で、魔王は儂の敵。だからお前の使命は、当然その魔王を倒すことになる。そのために、特別な力を授けるのじゃ!」


 オレは、考える。

(魔王といえば、恐らく異世界で最強の敵。オレは、この世界では軟弱な借金まみれの男だ。そんなオレに倒せるのだろうか?)

「神様、魔王は強いのでしょうか?どうやって倒せばいいのでしょうか?神様も一緒に闘ってくれますか?」


 オレは、魔王と聞いて怖気づき、神様に矢継ぎ早に質問する。すると、神様が怒気を持って答える。

「オレは、神だぞ!なぜ儂が其方のような人間と一緒に戦うのだ!」


 オレも、言い返す。

「魔王は、神様でも勝てないんじゃないですか?」


 神様がオレを睨む。今まで仙人のような風貌が、みるみるうちに変わってくる。

 白い肌は赤黒く変色し、身体はどんどん大きくなり2m以上の背丈に筋骨隆々だ。目は優しげな垂れ目から釣り上がった大きな目になっている!

「其方を魔王の前に倒そうか!!」



 オレは、変わり果てた神様を見て思った。

(まさか、あなたが魔王じゃないよね⋯⋯⋯)


 そんな驚きと共に、オレはこれまでの人生を振り返る。

 誰かのために働き、その誰かにこき使われ、いじめられ、搾取されてきた。

 だが、今回は相手が神様だ。しかも特別な能力まで授けてくれるという。こんなチャンス、二度とないかもしれない。

 神様もちょっとキレ気味だし、あまり深掘りするとマズいかも……。ここは早めに切り上げた方が良さそうだ。


 オレは決意を込めて答える。

「わかりました。微力ながら、全力を尽くして魔王を倒します!」


 神様は満足そうに頷くと、その姿形は元の仙人風に戻った。

「よろしい。では特別な力を授けよう……“ゲームシステム”じゃ!努力次第でさまざまな力が手に入るぞ!」


 え? オレは少しがっかりした。

 特別な力っていうから、チートスキル的なものを想像してたのに、努力が必要なのか……。

 まあでも、“特別な力”には違いない。きっとスゴいに決まってる。


 神様がさらに尋ねてくる。

「加えて、お前の望むものを一つだけ叶えてやろう。何が欲しい?」


 オレは考える。

 大金か? いや、金は使えば無くなる。ギャンブルでいくら失ったことか……。

 オレには、運がなかった。

 子供の頃はいじめられ、ギャンブルでは負け続け、ようやく入った会社はブラック企業、今の上司はパワハラ全開。

 もし、オレに運さえあれば——


 オレは決めた。


「神様、私に《幸運》をください。運が欲しいんです」


 神様は少し驚いたような顔をしていたが、やがて答える。

「ふむ……わかった。だが、運だけで全てが上手くいくわけではないぞ。

 この世界は、さまざまな要素が絡み合って動いておる。運は、その一つに過ぎん。

 ……とはいえ、お前の願いだ。良かろう。それを与えよう。《幸運》を受け取れ!」


 神様が不思議な動作をし、何かを施してくれたようだ。

 ——これで、オレの願いは叶った。胸を撫で下ろす。


 すると、神様がさらに言う。

「では、異世界での名前を決めろ」


 オレは即答する。いつもゲームで使っているお気に入りの名前だ。

「“カズー”でお願いします」


「うむ、カズーじゃな……それと特別に、もう一つスキルを授けよう。《エマージェンシー・リカバー》じゃ。

 異世界も死んだら終わりじゃ。ゲームのように生き返ることはできぬ。だが、このスキルはお前の命をほんの少しだけ引き延ばす事が出来る」


 オレは思う。

 ……現実は厳しい。

 だが、二つも特別なスキルをもらえた。これは《幸運》の力かもしれない。ラッキーが早くも来た。


 すると、神様があらたまって話し始める。

「ふむ……余分なスキルの授与で、かなり力を使ってしまった。もう少し話したかったが、時間切れじゃ。


 では、行け! 異世界で新たな人生を楽しむのじゃ!

 幸運を祈るぞ、カズー!」


 そしてオレは学ぶ。


〈人生はやり直せる〉


 と言うことを。

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