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「魔法が消えた日」

 私はそのとき初めて、敵を前に杖を手放した。


 眼前に広がるのは、燃え盛る灼炎。

 両耳を抉るように響くのは、仲間たちの上げる断末魔。



「なん、で……っ」



 炎や敵の魔術に倒れた仲間たちの死体が折り重なり、見渡す限りの大地がまさに死屍累々の様相を呈している。そんな中で私は、残った魔法隊のメンバーに守られながら「彼女」と対峙していた。



「ユースティア様、ここは我々にお任せを!!」

 

「あなた様という希望は、こんなところで(つい)えてはなりません!!」



 ボロボロになった部下たちが率先して前に出る。

 でも、ダメだ。今のおまえたちが何をしようが、無駄なんだ。




 ――魔法が、消えたのだから。




「――ッハハ!! 実に無様だね、人間というのは!」



 私たちの前に立ちはだかる彼女は、高らかに笑った。

 白髪に赤い目の、黒いマントを羽織った少女のような魔族。


 かつての私の相棒にして、今の宿敵だ。



「っ、何をした……アストレア!」


「何を? ハハ……ユスティ、冗談はよしてくれ。君にわからないわけがないだろう? 何よりも魔法を愛していた、君に」



 彼女は愉快そうに笑いながら、暗い目で私を見下ろす。

 私だって、彼女の言うように()()()()()()


 わかっていたからこそ、私は。



「――魔法は消えた。ボクが消したんだよ、ユスティ」



 言い聞かせるような口調で、彼女は言った。

 それは、思わず耳を塞ぎたくなるような現実の話だった。

 


「嘘だ……そんなの……っ」



 震える手で、杖を掴みなおす。

 

 けど、ダメだった。私の魔力に、杖が応じない。


 何より私自身、イメージが湧かない。

 この杖を介して魔法を発動して、彼女を打ち倒すイメージが。


 それはまるで、さっきまで頭にあった魔法に関する記憶が徐々に薄れていくようだった。本当に私が魔法を使えていたのかどうかすら、次第にわからなくなってくる。



「もう諦めなよ。君たち魔法隊だけじゃ、ボクたちには対処できないだろう?」



 彼女の放つ黒い魔術が、私の部下を一人吹き飛ばした。

 防御魔法もない。治癒魔法もない。


 魔法の使えない魔法使い(わたしたち)は、もう――



「ボクたち魔族の方が、一枚上手だったんだよ」



 捨て身で特攻した部下を、彼女は無表情のまま斬り捨てた。

 一歩一歩と、肉壁を薙ぎ払うように近づいてくる。


 ここままじゃ、死ぬ。


 数十年ぶりに死の危機を感じて、反射的に杖を構えた。

 ただの棍棒同然のそれを、私は宿敵に向ける。



「無駄だよ、ユスティ。もう魔法は――」

 

「うるさい! 私は、私は……ッ!」



 詠唱をしようと口を開いて、やめた。

 

 気づいた時には、周りにいた部下たちが全員、肉片となって地面に転がっていた。焼き尽くされた荒野、残っている「人間」は私一人だけだった。



「往生際が悪いな。いい加減認めなよ」



 彼女は手にした杖を、私の心臓に向けた。

 二本の杖が向かい合い、私と彼女は真正面から対峙する。


 勝敗なんてものは、明白だったけれど。




「――君の負けだ。ユースティア・エトワール」

 



 彼女の杖が、黒い光の束を放つ。

 私の杖から魔法が放たれることは、(つい)ぞなかった。



 

 ――そこで、夢は途切れた。


 



 

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