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4調査委員会(3)

「では次の質問だ。学び、遊びを信条とする君はなぜこの委員に入ろうと思ったのだ」


はい!委員として学生達の中心となり活動しモテたいからです!なんてことは口が多少裂けようと言うことはない。

いかにも、僕の目的は目立つことである。

そしてモテることである。

この世に生まれ落ちて幾千日、幼少の頃より真面目一辺倒でむしろ多方面への軸がまるでないクソ真面目の二次方程式だった僕である。

幼稚園では算盤に傾倒し他には一切の興味を示さず、ただただその両円錐台をこねくり回し、小学生に上がれば背筋を正した木偶の坊、算盤への興味は何処へといったか「はい」と返事をするだけの学級委員長である。中学時代の遅れに遅れた心の成長期、気になる人の一人や二人はいたものの見事に「誰?」の一言で玉砕、もう恋なんてと心に誓い進学するは男子校。パーリーピーポーにもオタク系にも水と油以上に全く混じれず過ごした三年間の成果は学年中層部の成績と卒業制作として貰った盛り上がる流行りの漫画風に描かれたクラスメイトと机に突っ伏した僕が鎮座しているマグカップのみであった。

友人関係も恋人も何かの中心になることもまるで無かった僕の人生に彩りをもたらす為のこの選択肢である。

ではなぜ他のサークルや部活や委員への選択肢は無かったのか?

簡単な単語で述べるなら以下である。

運動音痴、音痴、特技なし。

以上である。

ボールを蹴ればゴールどころか日本海溝へ吸い込まれ、歌をうたえば鳥は枝ごと落ち、絵を描けばペンが弾け飛ぶ、唯一できることと言えばかろうじで話すための口がついているくらいだ。その口も用途とすれば飯を含むことが多い。

頭脳に関しても明晰とは程遠く、難しく言葉を発していれば頭が良く感じるのではという馬鹿丸出しな思想以外に存在するのはエロスに対する追求心のみで他にはない。

こうして僕は学生自治という場にたどり着いたのである。

ここならば玉を追いかける必要も歌う必要もペンを爆散させる必要もない。イベントという決まり切った事柄をただただ実行するために邁進し、さらに言えば中心に立って目立つことができるのである。

ここまでダメダメ出来ない続きの僕であるが、承認欲求だけは人一倍、いや人五十八倍はある事がたちが悪い。

自覚しているだけましだろうと自分に言い聞かせているのもたちが悪い。

そうなのだ。僕は目立ちたいのである。そしてモテたいのである。異性との関わりなんぞ親と近所の駄菓子屋のおばあさんくらいしか無い僕には些かどころか相当難易度が高いと思うのは承知の上だがこれだけは譲れないのだ。


話を戻そう。

ポニーテールさんの質問は「なぜこの委員に入ろうと思ったのか」である。


答えは嘘偽りを叩き込めるならこうである。


「同じ学び舎の者たちの役に立ちたいからです」


「そうか」


ポニーテールさんは足を組み直しながら眼鏡をかけなおし、顔をそらした。奥の瞳は先程までのニヤリとした薄ら笑いを潜め、どこか遠くを見つめるようであった。

それは今まで目の前にあったものに興味が無くなったようで、残念がっているようにも感じた。

僕は何かミスを犯しただろうか。背を伝う汗の量が増えたのは陽気のせいではない。

暫くしてポニーテールさんは視線を逸らしたままこう言った。



「君は中学時代、いや高校時代に」



何を成し遂げたか?などと聞かれるのだろうか。

その質問は非常に困る。

成し遂げたものなどなにもないからだ。

あったとて堂々と口に出して言えるものでは到底ない。

近所の駄菓子屋でアイスの当たりを三連続で引きましたなどと言えば良くて打ち首獄門。最悪おろし金にかけられてにんじんしりしりに混ぜられる。それに当たったからと言ってそれが努力に認められてたまるか。

ここはまた一人嘘つき大会の開催が無難であろう。

突飛でなく、それでいて無難でもないそんな中央値たる答えは。



「君は中学時代、いや高校時代、電車に乗っているとき妄想の中で外の景色に忍者を走らせたことはあるか?」


「僕の忍者は俊敏性と跳躍においては右に出るものがいないと思っていますが」


なに?

何といったこのポニーテールは。

いや僕は何と言った?

「僕の忍者は俊敏性と跳躍においては右に出るものがいないと思っていますが」と生まれてこの方口にしたことがある人がこの世に何人いるであろうか?部下に忍者がいる富豪ならあり得るかもしれないが、そんな部下をもった覚えはない。

まず富豪だろうと部下に忍者はいない。多分。

陽気がどうとか言っているレベルではなく背中に滝が流れている。

黒部ダムの放流映像が一瞬脳裏によぎった。

そして様々な光景が目の前をぐるぐると巡る。

花畑の蝶。

流氷の擦れる海。

砂漠の雨。

芽吹く木々。

瓦礫。

ペンギンの雛。

馬の嘶き。

割れる大地。

昼下がりの廊下。

ペンギンの雛。

今思い浮かべるべきでない映像を走馬灯の如く脳内に転写しながら混乱を極めた僕だったが、質問者はそうではなくいつの間にか僕の方へ向き直り、ふんぞり返った姿勢はそのままにせよ、その両の目でこちらの眼をじっとを見つめていた。



「私の忍者は水中でも速いし火耐性も付加済だ」



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