2プロローグ(2)
「サークル調査委員会」というものがある。
僕らの大先輩に当たるお方が立ち上げた学生自治のための組織の一部である。
しかしその実態は調査委員とは名ばかりの飲んだくれ養成施設。
もちろんアルコールの誘いに負けず、真っ当に活動している人物も過去の活動史の中ではいただろう。だが現在では暇を持て余せば酒をかっ食らう人間しかいないのである。
学生自治会の下部組織として組織されたこの委員の活動内容としては以下のような音声記録が初代会長から残されていた。
『大学内の学生自治の観点から、各サークル、部活動、委員会、その他の集団が学生たる活動を行っているかの視察。また、サークルその他活動の公認か否かの決定。あ、すみませんビール一つ追加で。あとレモンサワーもお願いします。学生として相応の活動をしているかを学生の観点から観察すること』
あからさまに居酒屋で決めたであろう事は置いといて、所謂学生自治を促進するための委員会であることは間違いない。
そこに僕は籍を置いている。
置くことにした。
まともな思考ならこのクソみたいな酔っぱらい理念を聞いた時点で裸足で逃げ出すのかもしれないが僕には逃げ出すべきでない理由があった。
別段、大学生とは健全であるべき!正しさこそ学生の本分!勉学と清い青春に励め!といった無駄な正義感があるわけでは無い。
ただどうしても成し遂げたい圧倒的な大義があったのだ。
正直絶対にこの委員会でという制約はないのだが、ココが何より一番いいのではないのか?何かと目立つのではないかということでここに決めた。
しかしこれは後ほど大きな間違いであったことを痛感することはまだ入学したばかりの僕はしらなかった。
学生自治、なんて堅苦しい名前をしているがとどのつまり中学高校に存在した生徒会の延長線の延長線である。やる事なんてのは学園全体の催し物の際に指揮をとったりするだけであって、常時している活動は特にはない。
各々多種多様な活動ができるようにと様々な部署に分かれ職務を細分化し、各部署ごとにそれなりの人数でそれなりに自由を奪わないような活動形態をとっている。
しかしながらその中でもやたら過疎っている部署、そこが我が『サークル調査委員会』である。
委員は二名。
四月に引っ越してきた新入委員のぼく、そして
「後輩くんや、今日はやたらと天気が良い。こんな天気の良い日は美女と酒に限るだろう。春は曙なんとやらと語った人もいたようだが、その方もきっと毎夜毎夜のパーリーにうつつを抜かしまくっていたに違いない。そう思わないか。いや、思う。思うべき。慮れ。」
いつもの長いポニーテール、いつもの栗色の髪、いつもの細身、いつもの色のニット、いつものスキニー、いつもの口調。いつどう見てもメガネ越しの目付きの悪いこの人、訝先輩である。