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6話【瞳の色とカウンセリング】

 ブライアン様と瞳の色で認識の違いが起きた翌日の午後、私は瞳の色の事でリュードに何か知っていることがないか聞いてみることにした。


「儀式の時から、スゲェ〜綺麗だと思ってたよ。でも、俺にも朝焼けみたいな色に見えるな…なんていうか、どう言ったらいいんだ?」

「グラデーション、じゃないか?」

「そう、それだ!ユリナ様の瞳の色はグラデーションみたいになってるぜ」


 今日も身支度する時に確認したが、私から見たら普通の黒い瞳だった。

 でも、ブライアン様とリュードには朝焼けのようなグラデーションみたいになった瞳の色として認識されているらしい。


「うーん…今までに色んな文献を読み漁ったけど、瞳の色について書かれてたモノはなかったな」

「そっか…」

「落ち込む事ないさ。書かれてないだけで、今までの聖女様も似たような瞳を持ってたかもだしな」


 パッと明るく笑って言ってくれるリュードに、気持ちが凄く楽になる。

 二人共、綺麗だと言ってくれたので『私も見てみたかった…』と小さく零してしまえば、二人は顔を一瞬だけ見合わせたあと、真剣な表情で悩み始めた。


「ご、ごめんなさい、二人を困らせるつもりは無くて…!」

「いーよ、分かってるから。でも、ユリナ様自身が見られるようになったらいいよな」

「そうだな、何か良い方法が見つかるといいのだが…」


 神官を務めるリュードが知らないのであれば、今は何処を探しても手掛かりは掴めないだろう。

 そう結論を出した私たちは、瞳の色についての話は一旦終了となった。


「あっ、そうだ。五日後のお披露目の日は俺も居るから、安心してくれていいぜ」

「本当!?凄く心強いよ!」

「………」

「ブライアン様?」

「リュードには、敬語ではないのですね」


 ブライアン様の言葉を咀嚼する為に瞬きを数回。

 リュードはというと、笑いを堪えようとしていたが堪えきれずに、笑いの原因となった人物に頬を掴まれていた。

 そんな光景に思わず笑ってしまい、二人の視線が再びこちらに向いた。


「ふふっ…!ごめんなさい、お二人は仲良しなんですね」

「ユリナ様」

「はっ、はい!」

「ブライアンとお呼びください」


 いやいやいや、待って!?と声には出さず、突然の言葉に驚きを隠せず、椅子から立ち上がってしまった。

 そしてブライアン様の先程の言葉は、全く予想していなかった所からストレートパンチを食らった気分だった。

 私の中で、ブライアン様はブライアン様と呼ぶのが相応しいと思っていたので、急に呼び捨てはハードルが高い…ので、ひとつ深呼吸。


「ユリナ様、無理すんな」

「ブ、ブライ、アン…」


 リュードの心配してくれた言葉を振り切って、彼の名前を呼んでみた『様』を付けずに。

 か細すぎて聞き取れているか定かではなかったが、名前を呼んだ彼が返事をしてくれたので、聞き取れていたようだ。


「で、でも…敬語が外れるのは、少し時間が掛かると思う…」

「!ええ、少しずつで大丈夫です」

「ぷっ、くくッ…!あーいいもん見られたわ」


 再び笑みを零したリュードは、かなり頬が緩んでいる。

 リュードは簡単に呼び捨てに出来たのに、ブライアン様の名前は何だか特別な気がして緊張したが、今は徐々に慣れていくことを願うばかりだ。

 

「あ!それと、五日後の聖女お披露目の日まで、城に留まることになったので、よろしくっす」

「そっ、そうなのね」

「ユリナ様の心のケアもお願いされてるんで」

「心…」

「不安になる必要ないぜ、なんたって、ブライアンも一緒だしな!」


 ブライアン様を見上げれば、頷いてくれた。

 心のケアと言っていたが、どんな話をするのか、どんな診察になるのかは分からないが、リュードが話を聞いてくれるのなら、緊張せずに会話出来そうだ。

 


♢♢



 心のケアをする為に、自室から別の部屋へ移動した。

 ベッドに横になるように言われ、言われるがままベッドに横になる。

 そしていつ間にかリュードの手には、紙とペンが収まっていて…これからカウンセリングが始まるのだろう、と少し緊張してしまう。


「緊張しなくていーよ。俺が今から質問するのは、ユリナ様の好きな食べ物なに?とか好きな色なに?とかだから」


 質問の内容が分かって、緊張が解ける。

 閉められたカーテンの向こう側にブライアン様が居ることがシルエットで分かって安心出来た。


「でも、なんでベッドに横になるの?」

「その方がリラックスできるだろ?」

「そう…かも?」


 なんかリュードの言葉に、うまく丸め込まれた気がしないでもないが、肩の力が抜けているのは確かだ。


「それじゃ、ユリナ様の好きな食べ物は?」

「ビーフシチューが一番好き」

「いいな!あー食いたくなってきたな」

「こっちにもビーフシチューという料理があるの?」

「あるぜ!料理名が少し違くて、暴れ牛の黒シチューって名前だけどな」


 暴れ牛の黒シチューという、ファンタジーならではの料理名に思わず笑ってしまった。

 どうやら国によって、料理に使われる牛の種類が違うらしい。サイフィンス王国は中央に位置する国で、年中温暖な気候なため作物が豊富で、サイフィンス王国の牛は野生で育ち、森で果物や穀物を食べて育つ。

 しかも、気性が荒くナワバリ争いも激しく、その為か身が引き締まっていて美味しいとのこと。

 討伐依頼が出れば、冒険者たちは嬉々とした様子で暴れ牛討伐の依頼を受けるのだと言う。


「美味しそうだね!」

「近い内に食べに行こうぜ、三人で」

「ふふっ!賛成です」


 三人で、その中にブライアン様も含まれていると分かって、笑みが溢れた。

 そのあとも『好きな色は?』『黄色が好き』など様々な質問に答えていく。


「じゃあ、嫌いな食べ物は?」

「…トマト、ピーマン、スイカ、メロン……かな」

「トマトって、今までの食事の何処かで出なかったか?」

「ええ…出てました」

「食べたのか?」

「かなり頑張って、食べてました」

「っ…はは!ユリナ様、嫌いって言ったら食事に出なくなるから、ちゃんと言った方がいいぜ」


 苦い顔をしながら、私はリュードのアドバイスの言葉にしっかり頷いた。

 しかも、この会話をカーテン越しにブライアン様に聞かれていると思うと恥ずかしくなる。

 嫌いなものが多くて、子供っぽいとは思われていないだろうか?そんな心配が過ぎるが、次々に来る『誕生日は?』『十一月七日だよ』などと質問に答えなければならないので、ネガティブな思考は直ぐに頭の隅に追いやられていく。


「でも…食べ物とかは私が居た世界と変わらないのね」

「名前もほぼ一緒だしな。そこも含めて、ユリナ様が選ばれたのかもね」

「…関係あるの?」

「あると思うな。住む環境が変わるのに、食べる物まで変わったらメンタルやられるだろ?」


 召喚陣に関しては俺もよく分からんけど、文献を読んだ感じでは以前喚ばれた聖女様も、環境に慣れるまでは時間が掛かったらしいけど、食事はしっかり取れてたみたいだったからな。

 そう言って、リュードが説明してくれた。


「そういうものなの…?」

「気になるなら王様にお願いして、魔導部隊に会いたいって言ってみればいいんじゃね?」

「その人たちが、私を召喚したの?」

「そう。巨大な魔法陣を何年も掛けて描き続けて、聖女召喚陣にした功労者たちだな」


 騎士団の他にも、部隊が存在する事にまず驚いた。

 しかも魔導部隊の人たちが私を召喚したらしく、聖女を召喚出来るまでの壮絶な過程を、召喚された日に聞いたので顔すらも見た事のない魔導部隊の方々にお疲れ様でした。と心の中で呟く。


「まじで死にそうな顔してたもんな…」

「……本当に苦労したんだね」

「召喚陣が完成したんだけど、そっからがまた長かったんだよな」


 聖女を召喚する為には、ある条件が必要とのこと。

 だが、その条件が書かれた文献は何百年も経ったせいか文字が掠れて読めなくなっており、様々な方法を試す他なかったのだと言う。

 そして【満月の日、雨の夜】に召喚の儀式を行ったら、遂に聖女が召喚出来たらしい。


「じゃあ、満月、雨、夜、っていうのが条件だったって事?」

「そうみたいだな、こうしてユリナ様が此処に居るわけだし」


 元の世界で大事な日にこそ雨が降ってしまう雨女だった事は、何か聞かれるまで黙っておこうと思った。

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