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4話【言葉にするのが苦手】

 私が体調を崩して寝込んでから数日。

 

 ――目が覚めて一番最初に見えたのはベッドの天蓋で、その次に見えたのは椅子に背を預け、腕を組み、目を閉じていたブライアン様だった。

 な、なんでブライアン様が…!?と驚きつつも、声を掛けるが反応が無かったので眠りを妨げてはいけないと思い、そっとベッドを抜け出してドアを開ければ、振り返ったリディアと目が合って…。

 そのあとはリディアが、私が目覚めた事を陛下に報告してくれて、城に常駐している女性のお医者さんにカウンセリングと診察をしてもらった。


 そして、体調が戻って来た今は、サイフィンス城を案内してもらっている。案内はもちろん、護衛騎士を務めてくれているブライアン様がしてくれている。

 体調を崩してから自室で過ごす事が多かった私は、最近はリディアとしか話していなかったので、ブライアン様と話すのは数日ぶりだ。


「ユリナ様?」

「えっ…?」

「まだ体調が優れませんか?」

「いえ!すみません、少し考え事を」


 いけない、いけない。ブライアン様のことを考えてましたなんて、口が裂けても言えない。

 まだ出会って数日しか経ってないのに――それにこの世界では聖女という、なんか凄い立場なのに惚れっぽい女なのだと思われたら何だか嫌だった。


「……貴女は表情がコロコロ変わって、様々なことを考えてらっしゃるのだと良く分かります」

「えぇっ!?そ、そんな事ないですよ」


 顔を隠そうにも長い髪は無いので、両手で隠す…が、両手首を優しく掴まれ、そのまま両手を優しく取られる。


「ユリナ様は、こちらの世界に来る前は、とても強く、気丈であられたのですね」

「私が強くて、気丈…ですか?」

「ええ、ユリナ様は、あまり気持ちを前面に出されないような印象を受けましたので…違いましたか?」

「…凄いですね、当たってます」


 隠す必要もないので、正直に当たってますと言った。

 別に表情を変えないことを意識してたわけじゃないけど、びっくりした〜って声に出してるのに、表情はそんなに驚いてないとか良くあった。

 日常生活ではそんな感じだったけど、アニメや漫画、ゲームなどではストーリーに感情移入し過ぎて大号泣するし、笑ったりもするのに、何で普通の生活ではこんな冷静で居られたんだろう?自分でも疑問だ。


「俺たちには、本当の気持ちを無理のない範囲で言ってください。必ず、耳を傾けます」


 あまりの驚きに目を見開いた。

 まずブライアン様の一人称が【俺】になってたことに驚いたし、私の気持ちに必ず耳を傾けると言ってくれた事にも驚きが隠せなかった。


「私は……」


 ギュッと、私の手を支えてくれているブライアン様の大きくて、温かな手を握って、ゆっくり深呼吸をしてから声を振り絞った。


 私は自分の気持ちを言葉にするのが、とても苦手です。好きな物は好きと言うのに、嫌いな物は好きじゃないとか、苦手だとか言ってました。

 両親には、言葉で伝える事が難しいと感じた時は手紙を書いたりなんかして。

 言葉が、声が、喉の奥でつっかえちゃうんです。変ですよね、まるで言うなって言われるみたいに、ギューって締め付けられるんです。


 全部、自分が体験した本当の事を語った。

 こんな状態になったことが無い人には『嘘だろ』と思われてもしょうがないと思う。


「我慢をされていたのですね」

「我慢ですか…?」

「はい。ユリナ様のお話しを聞く限り、誰かに心配を掛けないように本心を言わないようにしていたのでは?」


 すとん。とブライアン様の言葉が腑に落ちた。

 本心を口にしたら相手を不安にさせるのではないか、困らせるのではないか、怒られてしまうのではないか。

 そういえば、そんな事を考えていたかもしれない。


「…そう、かもしれないですね。たぶん、自分を守る為もあったと思うけど」

「自分自身を守って、何が悪いのですか?」


 顔を上げれば、思ったより近くにブライアン様が居て、少し見上げれば目が合う。

 すると、彼は跪いて私を見上げた。


「あ、の…ブライアン様?」

「私はユリナ様の護衛騎士ですが…もっと貴女を知りたいと思っています。騎士としても、一人の人間としても」


 面と向かって、こんな言葉を言われたのは初めてだったので、恥ずかしくて勢い良く手を少しだけ上げて離してしまっが、再び彼の手を包む様に握って引っ張った。


「ユリナ様?」

「その…た、立ち上がってください」

「なぜです?」

「私は!ブライアン様と対等で居たいんです!!」


 騎士と聖女という関係だけど、そんな事なんて気にしないで、私を知りたいと言ってくれた彼と対等に接したい。

 聖女としての私と、騎士としてのブライアン様、どちらの立場が重要かなんて聞かされてないけど【聖女】の護衛として【騎士団長】のブライアン様が付いたのだ、何となく、何となくだけど、どちらが重要なのかは知りたくなくても分かってしまう。

 けれど、私に聖女という職業がなかったら、ただの一般人だ。煌びやかな場に出る優雅な所作も、舞踏会などで踊るようなダンスだって習ったことなんて無いので【聖女】という肩書きがなければ、この城に留まれず、ブライアン様と出会う事もなかったはずだ。


「対等、ですか」


 ブライアン様は復唱してから立ち上がる。

 再び私が見上げれば、少しだけ笑みを浮かべているように見えた次の瞬間には、指先にキスをされていた。

 そのまま目が合って、目を逸らせずに息を呑む。

 とろりと溶けだした蜂蜜ような、熱のある視線が私を見ている。心臓が耳元で鳴っているかのような感覚に陥っていて、ただいま絶賛体温が上昇している最中だ。


「そう言って頂けて、嬉しいです」

「い、いえっ…!」


 ブライアン様が言葉を発したと同時に目を逸らす。

 綺麗な中庭が見えて、高鳴っていた心臓の音が少しずつだが落ち着きを取り戻していく。


「私も、ブライアン様のことを知りたいです。ひっ、一人の人間として…!」


 勇気を振り絞った結果『一人の人間として』の部分は、声がかなり上擦ってしまったが、言った事は後悔してない。

 だって――チラリと見たブライアン様の頬は、ほのかに赤く染まっていて、目を奪われたから。

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