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3.5話【ブライアンの心】

 ユリナ様の瞼が閉じられたと同時に涙が頬を伝ったのが見え、力の抜けてしまった彼女の身体を支えながら、その涙を拭う。

 らしくない事をしていると自分でも分かっているが、何故か咄嗟に手が動いてしまっていた。

 支えていた身体をゆっくりベッドに寝かせ、再び顔色を窺えば、メイクで隠してあったのであろう目の下の隈が視界に入る。


「……酷い隈だ」

「聖女様、元いた世界でもあんま寝れてなかったのかもな」

「!…リュード、居るならそう言え」

「ブライアンが俺に気付かないなんて、気が抜けてるんじゃねぇの?」


 冗談を言っている様に言われたが、事実かもしれないなと小さく零せば『ははーん?まさか聖女様のこと、気になってんのか?』などとニヤニヤしながらリュードが言った為、立ち上がりムギュリと片手でリュードの両頬を凹ませた。


おひゃえ(おまえ)しょれ(それ)みとみぇ(認め)てるようなモンだぞ」


「ユリナ様はあまり心の内を話されない性格のようだ。リュード、心のケアはしっかりした方がいい」


「分かってるよ、そんな感じはしてたしな。俺はこれから神殿に戻る」


「おまえが残るんじゃないのか?」


「ブライアンが残った方がいい。ユリナ様は、おまえに少し心を開いてるように見えたからな」


 リュードはそう言い残し、部屋を去って行く。

 そうして入れ替わるようにして部屋を訪れたのはメイドのリディアだった。


「何かあれば、お申し付けください。私は扉の前で待機しております」


「ありがとうリディア、承知した」


 リディアが部屋を出たのを確認したあと、再び視線をユリナ(彼女)へ戻す。

 リュードが言うには、元いた世界でもあまり寝れていなかったのかもしれない、との事だった。

 だが、劣悪な環境に居た雰囲気ではない。身体付きも細過ぎるわけでもなく、髪は艶があり風呂に入れていないという気配もないため、そう判断した。

 ため息をひとつ吐き、彼女の手を握る。温かな人の体温を感じ何故か安堵する。


「貴女は俺の命を救ってくれた人です。どうか、良い夢を見れている事を願います」


 幼い頃だっただろうか。熱で倒れた時に、母が良い夢を見れるよう願ってくれた事を思い出し、同じ様に願う。

 彼女には命を救ってもらい感謝は伝えられたが、それ以外はまだなにも返せていない。

 

 ふと、部屋に到着したばかりの時に顔色が悪いと指摘したが『そんなに顔に出てますか…?私がこちらに来る前に居た世界では、気付かれもしなかったのに』と彼女が言っていたのを思い出す。

 そんな事はないだろうと思った。俺を心配していた時の不安げな表情、緊張している表情、照れて頬を真っ赤にした表情、重くないですか?と聞いてきた時の困ったような表情、コロコロと表情の変わる彼女に思わず笑みが溢れてしまっていた事も思い出し、ため息を吐く。


「不思議な人だ。こちらに来る前の世界で、一体どれだけ気丈に振る舞っていたのだろうか」


 こんなに表情が豊かな人が、表情を変えられないぐらいの環境に居たのだろうか?

 だが、本人は本音を思わず言ってしまった様子だったので『私がこちらに来る前に居た世界では、気付かれもしなかったのに』という言葉が事実ではあるのだろう。


 彼女の様々な表情を見たいと思うこの気持ちは、少しおかしいな。

 なぜ、こうも気になってしまうのだろうか。このモヤモヤとしているが…擽ったい、温かな気持ちを落ち着かせる為に、もうひとつ息を吐き出した。

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