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3話【聖なる儀式】

 神官が到着したとの連絡を受け、神聖な儀式を行う為の聖堂へと案内された。

 ブライアン様とリディアも聖堂の入口までは付いて来れたのだが、どうやら中までは入れないらしい。


 大きな扉が開かれ、聖堂の中が徐々に見えてくる。

 左右には様々な人たちが綺麗に並んでいて、一斉に私の方を見たので思わず足が竦んだ。


「ユリナ様」

「はっ、はい!」


 いきなり後ろから名を呼ばれて、返事をした声は上擦ってしまい凄く恥ずかしい気持ちになる。

 だが、後ろを振り向けば彼の瞳と目が合う。


「貴女なら大丈夫です」


 両手を取られて思わず俯きそうになるが、しっかり真っ直ぐ前を見据えるために、グッと堪える。彼の体温を感じて緊張でドキドキしていた心音が、ほんの少しだけ落ち着いた気がする。

 ひとつ深呼吸をして、ブライアン様に感謝を伝えたあと、そっと手を離して神官の待つ聖堂へ足を踏み入れた。



 拍手と共に迎え入れられ、大きく綺麗な聖堂の身廊を歩いて行く。

 出来るだけ左右に並んでいる人たちの顔を見ないようにして、真っ直ぐ前だけを見る。

 凄く神聖な空気が流れている事も何となくだが感じる。聖堂に一歩踏み入った瞬間から空気が違っていた。


「聖女様、どうぞこちらへ」


 奥まで進めば神官らしき人物が、祭壇のようなものがある場所まで案内してくれる。


「大丈夫か?顔色、あまり良くないみたいだけど」


 神官が少し顔を近付けて小声で体調を心配してくれた。そんな風に心配されると思っていなかったので、少し驚いた。


「ええ…大丈夫です。人がいっぱい居る場所が少し苦手なだけですので」

「そうか、今すげぇ無理させてるな」


 困った様に眉を下げて心配してくれる神官の彼に、思わず笑みが零れる。

 私が思い描いていた神官のイメージと全く違っていて、重かった気持ちが楽になった。


 祭壇に着くと神官は足早にその場を離れていく。

 一人だけ残された私は、両手を握りながらこれから行われる事を待つ。


「聖女様!王様に許可貰ったから、コレに座ってくれ」


 足早に戻って来たと思ったら椅子を持って来て、座るように言ってくれた。

 私はお言葉に甘えて用意してくれた椅子に座る。どうやら、このままの状態で儀式が始まるらしい。

 何やら、聞いたこともない言葉で詠唱?をしているっぽいが、意味は全く分からないので詠唱している神官を見ながら、大人しく儀式が終わるのを待つ。


「聖女様、こちらに両手を置いて下さい」

「はい」


 長方形の鏡のようなモノを目の前に差し出され、ゆっくりソレに両手を置く。

 すると鏡のようなモノは眩い光を放ち、しっかりと文字を浮かび上がらせた。

 その文字が浮かび上がった鏡の上に、神官は真剣な面持ちで重厚そうな本のまだ何も書かれていないページを開いて乗せている。


 暫くして本を持ち上げれば、先程まで真っ白だったページに文字が書かれている。

 驚きの出来事に目を見開いていれば、神官の空色の目と目が合う。


「これで終わりです。聖女様は魔力量が多く、聖なる力も強い。治癒、防衛、光属性の魔法などに適性があるようです。この俺が、貴女は正真正銘の聖女様だと保証します」


 そう笑顔で言ってくれた。

 そのあとにも、どうやら儀式があったらしいのだが神官の彼が『聖女様は慣れない環境で、体調が優れないご様子ですので、聖女様を正式に迎え入れる儀式はこれにて終了と致します』と聖堂に集まった偉い人たちに、キッパリと言い切って私と一緒に聖堂から退出してくれた。



♢♢



「ありがとう、あのまま聖堂に居たら倒れてたかも」

「まじすか?!ゆっくり横になってください」

「貴方ってなんだか、神官ぽくないよね」

「あ〜、なんていうか、俺は堅苦しいの嫌いなんですよ」


 そんな会話をしながら水を用意してくれて、水の入ったグラスを受け取って飲む。

 あんなに緊張したのは久々だ。ただでさえ人前に立ったりするのが苦手なのに、聖堂に大勢の煌びやかな服装をした人たちが並んでいるなんて聞いてなかったし、予想もしていなかった。

 水を飲んでから高級そうなソファーに横になれば、いくらか気分が楽になる。


「名前を聞いてもいい?神官様」

「俺はリュードって言います!改めて、よろしくお願いします!聖女様」


 私の想像していた神官像と全く異なる、赤色の髪の毛に空色の瞳。物凄く気難しそうな人をイメージしていたので、そのイメージは聖堂で会った瞬間に瓦解してしまった。


「うん。よろしくね、リュード神官」

「リュードでいいっすよ、たぶん王様も気にしないと思うし」


 数度瞬きをしてから『ええ、よろしくねリュード』と改めて名を呼べば、眩しい笑顔を浮かべて返事をしてくれた。

 リュードと会話を繰り広げていたら、ノックがされリュードが返事をしながらドアを開けると入室して来たのはハーランド国王とブライアン様だった。


「ユリナよ、無理をさせてしまったな」

「いいえ、陛下のせいではありませんよ。私は、ああいう場が苦手なだけなので」

「ユリナ様、体調の具合はいかがでしょうか?」

「横になって少しは楽になりました。お二人ともご心配ありがとうございます」


 私が笑って言葉を返せば、三人は顔を見合せた。

 あれ?なんか変な事を言ってしまった?何だか、空気が少しだけ重たくなった気がする。

 いや、気のせいだと思いたかったが、幾分か本当に空気が重い。


「あ、あの、本当に少し休めば大丈夫ですので…!」

「そんな顔色で言われても説得力ないぜ、ユリナ様」

「ブライアン、ユリナを部屋まで頼む」

「承知しました」


 国王様の言葉に頷いたブライアン様が『失礼します』と言って、ソファーに近付いたかと思ったらブライアン様の腕が脚と背中に回って、次の瞬間には身体が浮遊感を感じた。

 あまりの出来事に理解が追い付いていないが、目の前には立派な雄っぱい。

 いやいやいやいや!?まず、お…じゃない胸筋に驚くとはいかがなものか。ちなみに、私は産まれて初めてお姫様抱っこを経験しています。


「揺れは最小限にしますので、部屋に着くまで辛抱ください」

「は、はい、よろしくお願いします…」


 恥ずかしくてブライアン様を見れないので、両手で表情を隠すために顔を覆う。これ顔隠してても、耳まで赤くなってたら丸見えだから、あんまり意味無いよね…?と思いつつ、赤くなった顔は見られたくないので隠したまま、揺られる。


「ブライアン様」

「どうされました?」

「私、重くないですか?大丈夫?」

「…ふっ、ええ、大丈夫ですよ」


 控えめな笑った声と共に、指の隙間から見える目を細めて浮かべた笑顔が凄く素敵で、更に体温が上がった気がした。



♢♢



 ブライアン様の体温を感じながら、私は部屋まで運んでもらった。

 聖女として正式に迎え入れられたので、聖女の為にと用意された部屋に着く。すると真っ直ぐベッドへ向かい、下ろされる。


「やはり顔色が優れないご様子ですね」

「そんなに顔に出てますか…?私がこちらに来る前に居た世界では、気付かれもしなかったのに」


 気付いた時には、ポロリと言葉が零れてしまった。

 体調が悪いと言っても顔色や表情が変わらないお陰で『え、ホントに?』とか『元気そうに見えるけど』など学生の時や、社会人になってから何度疑われたことか。

 おまけに熱にも強くて三十八度の熱が出ても、少し身体がダルいかな?で済んでいたぐらいだ。


「ユリナ様、大丈夫です。このまま横になりましょう」


 まるで子供を安心させるかの様に、温かなブライアン様の大きな手が頭を撫でてくれると、思わず泣きそうになってしまう。

 頭を撫でられたのなんて、大人になってから一度もなかった事なので、安心からか瞼が閉じそうになる。


「安心してお眠りください、俺が付いてます」

「ブライアン様、わたし…」


 視界がボヤけて、涙が頬を流れると同時に意識が落ちていった。

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