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11話【魔導部隊の隊長】

 私が庭園の花を観察することを日課にするようになってから早数週間が経過し、この世界に召喚されて一ヶ月が過ぎた頃――ハーランド国王陛下から『休暇を取らせていた魔導部隊の者たちが戻ってくるのだ、ぜひ顔を見せてやって欲しい』と言われていたため、今日はブライアンと共に魔導部隊の人たちが仕事をしているという棟まで足を運ぶことになっている。


「ユリナ様、あの花たちを毎日観察されていますが何かあるのですか?」


 ブライアンの言葉に歩みが止まる。


 花のことは言いたくない、とはまた違っていて…言葉では表現しにくいと言った方が正しいだろうか、あの庭園に植えられている花たちには何処となく神聖な力が宿っている感じがしていて、けれど凄く強く感じられているわけではないので、気のせいかもと最初は思っていたのだが……観察をしていくうちに何か魔力が込められているのではないかと最近思い始めたのだ。


「たぶん、なのだけど……あの庭園に植えられた花たちには魔力が込められているのではないかと」


 

「魔力ですか?」


「はい。よく分からないですが、神聖な力も感じるんです」


「なるほど、ですからあの日から毎日観察を?」


 あの日というのは、ブライアンと二人で庭園を散策した時の事だろう。

 質問に素直に頷けば、彼も私と同じようにしゃがみ込み花を見つめ始めた。


「ユリナ様が気にされていたので、なにかあるのだろうとは思っていたのですが……納得しました」

 

「ごめんなさい、心配をかけました?」

「少しだけですが」


 近くなったブライアンとの距離にドキドキと心臓が高鳴っていく。


 なんでこんなに心配してくれるのだろうか?護衛の騎士だから?まぁ、普通に考えればこの理由なのだろう。


 けれど、リディアとの会話を思い出す――『好きだからでしょう!??』『誰が?誰を?』『ブライアン様が、ユリナ様をです!』このやり取りをしたのは、彼からピアスを贈られた日だ。


 でも、まだ出会って一ヶ月だよ?いや恋に期間はあまり関係ないのかな?

 恋愛とかしたことないから出会ってどれくらいで付き合うのか全然分かんない。


「ユリナ様」

「はっ、はい!」


「この花のことは魔導部隊に話されてみてはいかがですか?」


「魔導部隊の方にですか?」


「はい、魔法や魔力に関することは彼女たちに聞いた方が早いでしょう」


 彼女たち?魔導部隊って、もしかして女性の方が多いの?と少し驚いていれば、ブライアンが立ち上がり手を差し伸べてくれたので、その手を取って私もその場から立ち上がる。


「時刻が迫っています、行きましょう」

「はい、よろしくお願いします」




♢♢

 

 


 魔導部隊が常駐している棟は城内にあるらしいのだが…城が大きくて、かなり広い構造なのでまだ私が行った事のない場所は沢山あるらしい。

 図書室もあると聞いたので行ってみたいとは思っているのだが魔法の授業もあり、瘴気により強化されてしまった魔物討伐も少しずつだが増えていて、なかなか行く機会がないのだ。



「緊張されていますか?」

「そう、ですね。少しだけ人見知りもしちゃうから」


「少し変わり者も居ますが……(みな)、聖女召喚に貢献した者たちですから歓迎してくれるはずですよ」


 しばらくすると――廊下の柱や壁に緑の葉や蔦が生え、花を咲かせている空間が広がり始めた。

 小さな光の粒が奥に進むに連れて増えていく、柔らかく優しい光がこちらに近付いてきたので、驚いた私はブライアンにぶつかってしまう。


「ご、ごめんなさい、びっくりしちゃって」

「大丈夫ですよ、ユリナ様もう少しこちらに」


 右手を取られ、そのまま優しくブライアンが誘導してくれた。

 小さな光は変わらず柔らかな光を放ちながら、私たちの周りをふわふわと飛びながら付いて来ている。


 魔導部隊研究室と書かれた扉の前まで来ると光が少しだけ明るくなり点滅し始めると扉に吸い込まれたかと思えば、扉が音を立てて開く。


「おやぁ?珍しいね〜ブライアン。君がこの研究室まで来るなんて」


「ご無沙汰しております。本日は聖女ユリナ様を…!?」


「聖女様だって!?」


 ()()という言葉を聞いた途端、目の輝きが変わり、私より少し前に立ってエスコートしていたブライアンには目もくれず、目の前にその人?は現れた。

 小さな身長に尖った耳、赤毛の髪に丸い眼鏡。小説や漫画でしか表現されたことのない容姿の彼女に、私は驚きのあまり声も出ない。


「ユリナ様、どうされましたか?」


「あ…ご、ごめんなさい!こんなに可愛いらしい人?が存在するんだ!って驚いてました」


 すると目の前にいる少女らしき人物は、頬から耳までを赤色に染めあげて静止してしまう。

 私が『あの…?大丈夫ですか?』と声を掛けても、微動だにせず目を開けたままの姿勢で動く気配はない。


「彼女の名前はノエル、魔道部隊を率いている隊長です」


「そ、そう…初めましてノエルさん。大丈夫?」

 

「……ッハ!!?せ、聖女様!えっと、あの、ぜひ握手をしてください!!」

 

 勢いよく伸ばされた手を両手で包み込めば、ボンッと音を立てて煙が発生した。


「ノエル隊長、また良くわからないものの実験をしているわけじゃ…!?」


 ブライアンの言葉は途中で途切れてしまい、突然の出来事に目を瞑っていた私は再び目をあければ、そこには私を見下ろすノエルさんが居た。

 突然、私より背が高くなったノエルさんは目を丸くしながらもペタペタと自らの顔を触ったり脚や手の長さを確認したりしている。


「の、呪いが解除された?いやでも一時的なものかもしれない…」


「呪い?」


「何十年も前にノエル隊長は高難易度の迷宮(ダンジョン)で呪いを受け、先程の小さな姿で日常を過ごしておられます」


 私はブライアンの説明を聞いて納得するように頷いた。

 でも疑問が浮かぶ、なぜ私が触れた途端に呪いが解けてしまったのか。

 浄化の方法は両手で祈るポーズをしないと出来ないはず、呪いの解呪も確か魔法を教えて習得したものの常時発動しているわけでは無いため、呪いが解呪された理由は分からない。


「ん…?」


  ピコンッと鳴った音の方を見れば、近くに設置されていた水晶玉が光を放っており、空中には【新発見:魔女亡霊の呪い】と書かれたゲームのウィンドウの様なものが浮かび上がっており、その文言の下には説明文が書かれている。

 

 説明文を目で追いかけていけば【この呪いは魔女亡霊の個体によって掛けられてしまう呪いの種類は違うが、全て聖女の浄化によって解呪できる呪いであり、聖女にしか解呪できない呪いでもある。】


 【他の聖職者では呪いを解くことは不可能】とも表記されていた。


「私にしか解けない…?」

「ユリナ様、呪いについて何か分かったのですか?」

 

「あ、いいえ…その、ノエルさん、呪いは完全に解呪されたのですか?」


 ユリナがそう質問したと同時に、再び煙が上がりノエルの身長は元の小さな姿に戻ってしまった。


「いえ、見ての通り一時期だったみたいですね」


「…少し試したい事があるのですが、よろしいですか?」


 ユリナの言葉にブライアンとノエルは首を傾げながらも、その『試したいこと』について聞く姿勢を取り始める。

 まず、ユリナは呪いが解呪出来そうだという事実を伝えるとノエルは驚きのあまり固まってしまった。


「それは…本当ですか?」


「はい、呪いの情報も何故か頭に浮かび上がったというか…」


 さすがに水晶玉が光って説明文が空中に現れて、それがブライアンたちには見えていないようだったから、その文章を読んで呪いの情報を知ったとは言えず、それっぽい言い回しをしてみたら『聖女様にしか無い能力…!』とノエルは目をキラキラ輝かせていたので何とか上手く誤魔化せたようだ。


「もう一度、手を握ってもいいですか?」

「へ?は、はい、もちろんです!」


 試したい事というのは、人間に対しては両手で祈る姿勢を取らなくても浄化できるのではないかという可能性――それは、最初にブライアンの瘴気を取り除いた時は両手で祈る姿勢ではなかったのに浄化できた事をユリナは疑問に思っていた。

 

 ユリナがちゃんとした浄化の方法を聞いたのは、魔法を教えてくれている先生からで、何百年も前に召喚された聖女の日記だとされる文献から発見されている方法らしく、それが正しいのだとされているのだが――ユリナは、それは一つの方法にしか過ぎなくて、もうひとつあるのではないかと仮定している。


「以前、ブライアンの瘴気を取り除いた時の私は、浄化の方法なんて知らなくて、ただひたすらにブライアン()の手を握って祈っていました」

 

「そうだったのですか」

 

「はい、ですからノエルさんにも同じ事が出来るのか試してみたくて、いいですか?」

 

「ええ!もちろんです!聖女様の浄化を浴びれるなんて…長生きしてみるもんだわ…!!」


 興奮しているノエルに若干引きつつも、ユリナはノエルの左手を両手で握ったまま目を瞑って祈る。足元に魔法陣の放つ光を感じ、ノエルの体に魔法を流すようなイメージをしながら祈り続ける。


「ユリナ様」

「はっ…!はい」

「元に、戻った…!!」

「よ、よかった…」


 名前をブライアンに呼ばれて、ノエルがいる方を見れば身長が高くなっていて、ホッと胸を撫で下ろすとふらりと視界が揺れた。

 今度は二人が慌てた表情で抱きとめてくれた感覚と【魔女亡霊の呪い、解呪完了】という文面を見たのを最後に、私は意識を失ってしまった。

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