直立二足歩行をしている生物は人間だけ
生物の長い歴史の中で、直立二足歩行をするようになったのは人間だけらしい。
他の生物は四足歩行、あるいは直立ではない二足歩行が多い。
差が存在する理由は、進化の違い。
進化は必ずしも良い方向に変化するとは限らないが、それでも、良い変化をして環境や生存競争に適応したものが生き残り、変化を継続して進化となる。
ではなぜ、人間だけが直立二足歩行を獲得したのか。
まず、直立二足歩行の利点を上げみよう。
主な利点は4つあり、頭部の冷却、体を大きく見せられる、武器を握れる、物体の移動能力が上がる、が該当する。
頭部の冷却は、脳が熱でダメージを受けてしまわないために必要なことである。脳と熱によるダメージの話は割愛する。
そして、頭が地面から離れることにより、地面から発せられる熱から少しばかりでも遠ざかるのを目的としている。熱の主な発生源は太陽で直射日光だが、直射日光そのものよりも、温められた地面や岩などの放熱も合わさる地表に近い部分のほうが、熱はより高くなる。そのため、地表からは遠いほうが熱の影響を受けにくいとされている。
体を大きく見せられるは、威嚇をする際に有益となる。
立ち上がるだけでも、正面からの見た目の面積を増やせる。両手を広げるとさらに増やせる。
普段は四足歩行の動物でも、威嚇をする際は立ち上がるという種族は少なくない。それほど、立ち上がっての威嚇は効果があるとされている。
それを人間は常に行っている状態と言える。自然界では基本的に大きい動物が強いため、強く見せることで外敵から身を守っていたのかもしれない。
武器を握れるは、狩りをする際に大きな利点となる。
生身の人間の武器は、他の生物に比べると劣っている部分が多い。特に、殺傷能力が低い。ライオンやオオカミなどは強靭なアゴとキバで獲物の肉を噛み千切って絶命させたりするが、人間には到底不可能だ。
その能力不足を補うため、手で岩を握ってぶつけるなどを狩りの手段とし、手を自由に使うために歩行を二足でできるようにとなったのかもしれない。
物体の移動能力が上がるは、生活の水準向上に役立つ。
四足歩行の動物が物を運ぶ際は、基本的に口に咥えての移動となる。そのためあまり大きなものは咥えられず、運ぶのを諦めるか、獲物であればその場での捕食が求められる。
しかし手を使えるとなると、物を抱えて運べるようになる。これまでより大きなものを運べるようになる。いきなり物を抱えて運べるほどに進化できたかはわからないが、それでも、手で物を掴めるようにはなったため、口だけで運ぶよりも多くの物を一度に移動できるようにはなった。
そのため、生活拠点作りや木の実の貯蓄などが行いやすくなったはずである。
これほどの利点があるのにも関わらず、どうして他の生物は直立二足歩行をできるようにと進化しなかったのだろうか。
ここまで利点を挙げてきたが、もちろん欠点も存在する。
そしてその欠点が、他の生物が直立二足歩行を選ばなかった大きな要因となる。
生物が立ち上がるとどうなるのかというと、走行速度が遅くなるのである。二足歩行よりも四足歩行のほうが、最高スピードを上げやすい。人間が四足の姿勢になれば速いのかと言うのは別な話。直立二足歩行をするように進化した時点で、四足歩行のほうが走りやすいといった利点も無くなってしまっている。
そして多くの生物達は、この利点を捨てなかった。
走るのが早いというのは、外敵から逃げやすく、獲物を捉えやすいということ。生存競争を勝ち抜くための大きな武器。
他の生物から見れば、足が遅くなるのを選んだ人間は異端に映るだろう。競争を諦めて自ら弱くなったように思えるだろう。
加えて、子を産むのにも適していない。
お腹の中の子の体重を支える際、これまでは負担を四本の足に分散させられていたが、二足の場合は負担が単純に考えても二倍になる。また、お腹がかなり膨らんで体重のバランスも悪くなるため、これまで以上に腰への負担が大きくなる。
この辺りの進化は、良い方向にまだ変化されきっていないという見方もある。事実、現代でも大きな負担はそのまま残っている。
他にも、頭部が地面と離れているため転んで際の衝撃が大きくなってしまっているなど、大小様々な欠点が生まれている。
そして多くの動物は、上記の利点を獲得するよりも、多くの欠点を生み出さない進化を選んでいる。
しかし、人間だけは上記の利点を選んだ。
多くの欠点を上回るだけの価値があるとして、直立二足歩行への進化を選んだ。
直立二足歩行になる最大の利点は、物質の移動能力が上がることだと言われている。
物質。特に、食料である。
食料なんてその場で食べて必要なら狩りをすればいいのではとも思えるが、その利点のために人類に起きた変化から説明しよう。
人間、つまりは類人猿は、古くは一夫多妻か多夫多妻制であった。集団で生活するため、自分の伴侶が他のオスと交尾をするのも珍しくない。そのため、自分の伴侶の子が本当に自分の子であるというのは、全然わからない状態だった。だがそれは拘るところではなく、とにかく多くの個体が生き残れるように生活をしてきた。
しかしある時、類人猿に変化が起きた。これまでは一夫多妻か多夫多妻制を採用していたが、とある時から一夫一妻制が採用され始めるようになった。その変化の理由は未だ不明。
これにより、自分の伴侶の子はほぼ確実に自分の子だとわかるようになる。
その際、捕ってきた食料を我が子へと優先的に与えるようになった。
これまでは自分の子かもわからない相手に食料を与えていたため、最悪自分の遺伝子が受け継がれない可能性があった。しかしそれでも、種族が多く生き残るのであれば良しとしていた。
ところが直立二足歩行へと進化しようとしている個体は、その遺伝子が確実に我が子へと遺伝してもらわなければならなかった。四足歩行で留まっている仲間より、我が子の成長が最優される。
そのため、これまでの多夫多妻では自分の子かもわからない子に餌を与えていたのが、確実に我が子だとわかる状態で与えられるようになった。
そうしてその子も成長し、直立二足歩行の遺伝子をさらに受け継ぎ、集団内に直立二足歩行を行う個体が増えていった。
走行速度が遅くなったため、生存競争は不利になったとされている。
しかし、大きな利点を獲得したため、繁殖は有利になったとされている。
生物が進化をする際に重要視されるのは、その時を生き残る力ではなく、優秀な個体が運良く生まれたりそれが遺伝する確率が上がるための繁殖能力である。
人間は、どの種族よりも未来を見据えて生きているのかもしれない。