第4話 ダンジョンの深部探索
俺は、暫くオリバー兄貴の診療所で、ごろごろしていたが、退屈なので簡単な依頼はないかギルドに行ってみた。依頼の掲示板を見ると、ポーター募集があった。”黄昏のほこら”の最深部10層まで行くそうで、12日の日程でダンジョンにもぐるらしい。最深部にもぐった経験がないので、興味本位で応募して見ることにした。メンバーに顔合わせしてみると、ギルドランクBに上がったばかりの”冒険者の絆”というパーティーだった。前衛剣士のクラリス(30)、女性魔導士のアンナ(27)、女性回復術師のノバ(17)という一般的な組み合わせだ。リーダのクラリスと話して、”黄昏のほこら”に1年間通っていたというと、一発で採用になった。12日分の食料やテントはかなり嵩張ったが、アイテムボックスにすっぽり収まった。アイテムボックスの話は、隠すとめんどうなので、今回の荷物がぎりぎり持てるぐらいの収納力があるという事を言っておいた。ほんとは、未だ限界が見えてないぐらい収納力があるのだが、過少申告しておいた。
”冒険者の絆”のメンバーは、荷物を分担して持たないですむのが判って大喜びをしていた。翌日からダンジョンに潜るのをスタートした。5層目までは、”牛の悪魔”が中心で、危なげなく2日で踏破した。さすがBランクだけあって、前衛のクラリスは、どっしり盾を構えて、魔獣をよせつけない。クラリスが疲労すると、的確にノバが回復させている。若くて無口だが、仕事はできるタイプだ。アンナは、風魔法が得意らしく、空気を圧縮した刃で、魔獣を切り裂いていた。魔獣にかなり深い傷を与えるようで、急所にあたると致命傷になった。ちょっと自身過剰で、おばかのような気がするが、魔導士としては、優秀だ。俺はポータ分の金しかもらってないので、ポータに徹して手を出さなかった。
6層目から、魔獣が群れで現れるようになり、ペースが落ちて1日かかった。
その変わり、宝箱が出るようになり、オークションに出品するような貴重な武器・防具・宝石等が入っていた。”冒険者の絆”は、それが狙いだったようだ。収穫は、俺のアイテムボックスに入れた。
9層で、ミノタウロスロードが、出て状況が変わった。こいつは、クラリスが剣で叩いても、浅い傷で、アンナの風魔法もあまりきいていなかった。さすがに、俺も黙っていられず、すきを見ては、ミノタウロスロードに切りかかった。偶然、俺の突きが、ミノタウロスロードの喉にささり、絶命させる事に成功した。死闘2時間だった。絶命させた直後に、レベル50に上がった事と、上級剣術の加護取得のアナウンスが頭に響いた。しっかり宝箱の宝石”ペガサスの涙”も確保しておいた。
***ラスボス登場***
ミノタウロスロード撃破後、10階層への階段を見つけた。10階層では、避難所があったので、一息つく事ができた。さすがに、致命傷はないものの、傷だらけなので、1日休養して、今後の対応を考える事にした。女性陣は、10階層のラスボスは危険なので、このまま撤退を主張したが、クラリスはどうしてもラスボスを倒したいようだった。この10年間ラスボスを倒した人がいないようで、こだわりがあるようだ。結局、ちょっとボス部屋を覗いてみて、かなわないようなら撤退するという事で決着がついた。しかし、俺は、ボス部屋にはいったら倒すまでドアがあかないのではないかと危惧していた。まあ、ポータの言うことなんか誰も聞かないと思うが。次の日、ラスボスの部屋に入ると、光があふれて暫く目があけられなかった。部屋の中央にスポットライトを浴びて、ラスボスが佇んでいた。身の丈7mはある巨大ミノタウロスで、雄たけびを上げて、我々を威圧してきた。おれはもうちびりそうだ。アンナが、風魔法を使ったが、ちょっと首を曲げると、空気の刃が、横にそれていった。連続的に風魔法を使っても、ちっとも当たらない。こんどは、盾役のクラリスにラスボスが突進してきて、クラリスを後方に突き飛ばした。必然的に俺が1番前に出る格好になった。俺はやばいと感じて盾をかざしたら、後ろのドアが、がちゃんとしまった。あいつら、俺を残して、とんずらしやがった。巨大ミノタウロスが俺に突進して来たので、盾を構え、目をつむって、神に祈った。
「アイテムボックス、なんとかしてくれ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ラスボスが、盾に激突する寸前、ピコーンとなって光があふれた。そして、巨大ミノタウロスが振動して霞んでゆき、アイテムボックスに吸い込まれた。俺は暫く呆然として、何が起きたのか解らなかった。その場にへたり込んで、自分の幸運を噛みしめたが、これからどうすればいいんだ。ミノタウロスは、アイテムボックスの中で、まだ生きているはずだ。何かいい方法はないかな。そうだ、空気を抜けば、あいつは窒息するはずだ。俺は以前、アイテムボックスの中の物が腐らないような方法がないか考えていて、空気を抜く実験をしてみた。経験的に空気を遮断すると、保存時間が上がると知っていたからだ。空気も物体ととらえて、アイテムボックスから取り出すというイメージを思い描くと、空気を抜くことができる。同じ要領で、30分ほど空気を抜くというイメージを描いていると、レベルが60に上がりましたというアナウンスが頭に響いた。同時に剣豪の加護を取得しましたというアナウンスが流れた。窒息させたので剣で殺したわけでもないのに、なんで、剣豪の加護もらえるんだとつっこみたくなるが、もらえるものは、有難くもらっておこう。